ルークの英雄譚(TOA×聖剣伝説LOM) 作:ニコっとテイルズ
キムラスカ王国の首都バチカル。
この街の巨大な屋敷の中庭で、真紅の長髪の少年、ルーク・フォン・ファブレは、ヴァン・グランツ師匠(せんせい)を相手に剣の稽古をしていた。
「双牙斬!」
「いいぞ、ルーク」
ルークは、以前に屋敷に来た時に習った技をヴァンの剣に叩きつけた。
もしも、使い捨ての駒でなかったら、とヴァンは惜しむ。
えくぼがヴァンの頬にできるほどの、剣の打ち下ろしと、返す刃とともに跳躍する澱みのなさ。
実際の戦闘で使うことはないが、ルークの剣の上達ぶりはオリジナルよりも目を見張るものがある。
はっきりと認めてしまうと、7歳の頃のアッシュと比べても呑み込みが早い。
「へへ、やりぃ!」
ルークは、着地し、その誤魔化しのない称賛に破顔する。
可能ならば、ずっとヴァン師匠がこの屋敷にいてほしい……とルークは思う。
愛情を注いでくれない父、過保護すぎる母、ガイ以外無駄に畏まる使用人たち。
いつも、本気で自分と相対してくれないものかと願っているが、生憎と叶う見込みはなさそうだ。
でも、たまに屋敷に来るヴァン師匠は、常に自分に厳しくも優しく、何より真剣に向き合ってくれる。
すっかりとルークは、剣術稽古の気晴らしとは別に、屋敷の大多数とは違うヴァンの虜になっていた。
「その技はもうお前のものだ。屋敷の外に出たときに、戦うことができるな。
……もっとも、お前が屋敷の外に出ることなど、まずないであろうが」
「ちぇっ! 叔父上の命令がなければ、退屈しのぎももっと増えるのにな」
王族であるルーク・フォン・ファブレは、7年前にマルクト帝国からの誘拐から解放されて以来、今いる巨大な屋敷に軟禁されていた。
発見された当時、歩き方すら忘却してしまっているほどの重篤な記憶喪失であり、その二の舞がなきように国王から外出禁止を厳命されていたのである。
しかし、軟禁生活は、当人の言葉を借りると、メシ食って、ガイと駄弁って、たまに訪問してくるヴァン師匠からの剣技指導以外面白くないとのこと。
ルークは、7年間ずっと続いてきた変わり映えのしない日常に、すっかり飽き飽きしているのであった。
「そうむくれるな、ルーク。お前は17歳。あと、3年で成人になる。そうすれば、お前も晴れて自由になり、屋敷の外に出られるようになるのだ」
ヴァンが苦笑して、むくれるルークに慰めの言葉をかける。
これが精一杯の励ましの言葉であった。
もっとも、その言葉とは裏腹に、ヴァンには、近々ルークが連れ出されることになるという企みがあるが、ここは口を噤むべきところだ。
―――しかし、3年も待つ必要はなかった上に、ヴァンの計画よりも早い段階でルークは旅立つことになった。
―――しかも、屋敷の外に出るという次元の話でもなかった。
そして、その運命を決定づける歌声が響いてくる。
「うっ! 急に眠気が……」
静謐な調べが頭に響き、ルークは、わけもわからず瞼が重くなり、膝をついた。
「この声、譜歌!? まさか、ティアか!」
ヴァンも、睡魔と格闘しながらなんとか歌い手の方に目を向けようとする。
「ようやく見つけたわ。裏切り者ヴァンデスデルカ。覚悟!」
屋根から少女が飛び降りてくる。そして、小型のナイフを指に挟み、ヴァンに一目散に突進してきた。
「ティア、やめろ!」
ヴァンは、睡魔に打ち克ち、稽古用の剣を振るう。
そして、距離を詰めてくるティアと呼ばれた少女のナイフのみを正確に弾き飛ばした。
払われる剣に、ティアもネコのような俊敏さで跳躍し、距離をとる。
「なんなんだよ、お前は!」
着地先は、ちょうどルークとヴァンの間であった。
今度は、錫杖を取り出してヴァンと相対するティアに、師匠を庇おうとルークは背後から木刀を叩きつける。
しかし、ティアも、不穏な気配に素早く反応し、錫杖で木刀を防いだ。
ところが、鍔迫り合い状態の2人から膨大なエネルギーが発せられる。
「まさか、これは、第七音素(セブンスフォニム)!?」
莫大なエネルギーの発生に驚愕の表情のティア。
その時、ルークの頭の中に声が響く。
『ルーク、私の元へと来てください』
(なんだ!? いつもの頭痛の時とは違う声だ……)
ルークは声の違和感に気づいたが、だからと言ってどうすることもできず、
強力な力が2人を輪のように包み込み、
そして―――
「うああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「きゃああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」
二人の悲鳴を残し、屋敷の中庭からルークとティアが、光に包まれて瞬く間に消失した。
・気づきましたか?
答えは、
プロローグの本文を縦読みしてみて下さい。これが、ルークに対する作者の思いです(不健全)。
初めは、次話のあとがきに答えを記していました。
けれど、話数も増えてきたことですし、一括表示から戻る手間を新規様に掛けさせるのは申し訳ないので、ここに記します。