とある科学の距離操作(オールレンジ):改訂版   作:スズメバチ(2代目)

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少女が見た幻想-ⅱ

 

 

 

 

「おい絹旗、メリーを撃ち殺そうとした男が実は血の繋がった兄ということまでは分かった。だけどなんで未成年のメリーにめちゃくちゃ高額な生命保険がかかってて、それで借金を返す発想になったんだ」

 

「七惟、それだけじゃありませんよ。気が付いたら何の前振りもなくメリーが突如現れた兄に対してブラコンを超全開です。殺されそうなのに」

 

「何処から突っ込んでいいんだ?」

 

「きっと製作監督が自分の妹がブラコンだったら超よかったっていう願望ですねこれは。映画の中にリアルの妄想を持ち込んじゃって……全く持って超残念作品でした」

 

 

 

浜面は全身の力が抜けるような脱力感に襲われながらも会話をする二人に耳を傾ける。

 

七惟と絹旗は今回見た映画について自分たちの論評を述べているが、彼ら以外の3人はあまりのインパクトに感想が出てこない。

 

インパクトというのは勿論良い方向のものではなく、今まで見てきたどのつまらない映画に比べてもこの映画の『超』微妙なインパクトのことである。

 

七惟が言っていた映画の内容に期待はするな、とはこういうことかと理解すると同時に七惟本人が思いのほか……というか予想外に終始映画を楽しんでいたのが驚きだった。

 

浜面の常識では映画を観終わった後は皆でワイワイガヤガヤとそれぞれの感想を述べるものだと思っていたのだが、アイテムではそうやらその常識は通用しないらしい。

 

きっと滝壺だって映画を観終わった後はそれぞれ感想を言い合って親睦を深める未来を想像していたはずであろうに、その計画は完全に破綻してしまったと思われる。

 

しかし……。

 

 

 

「きぬはた、逆に考えてみて。結局お兄さんはメリーを殺さなかった、元々お兄さんがメリーを好きできっと一線を越えない前に手を打ったと」

 

「な、なるほど!」

 

 

 

どうやら彼女は浜面のこの感情を共有してくれそうにはない、あっち側の人間らしい。

 

七惟が言っていた『映画の内容に期待するな』ということはこういうことだったのかと痛感させられる。

 

 

 

「結局絹旗が観る映画の内容は変わってない訳よ、相変わらずこの地球上に存在していいのか分からないくらいシナリオ構成がぶっとんでて理解出来ない訳……。期待して損したわよ……」

 

 

 

一人ぼっちだと思っていた浜面に救いの手が此処で現れる。

 

フレンダ・セイヴェルンは滝壺たちのようにずれた感覚の持ち主ではなく、このメンバーの中では唯一自分と理解しあえるようだ。

 

 

 

「ふ、フレンダ。お前もそう思うよな!?」

 

「腹が立つけど今回ばかりはアンタに同意せざるを得ない訳……」

 

 

 

肩を落とす二人を余所に、絹旗達はワイワイ喋りながら映画館を出ていく、映画が二連続でなくて本当に良かったとほっと溜息をつく浜面の目に駆けていくメンバーの少女の姿が映った。

 

そういえば彼女は映画の内容をどう思ったのだろう?終始無言であったが……。

 

 

 

「浜面」

 

「あ、なんだよ?」

 

 

 

そんな疑問符を浮かべる浜面の考えを遮るようにフレンダが声をかける。

 

 

 

「アイツ、どう思う?」

 

 

 

先ほどまでとは違う、声を冷たくし目を細めたフレンダが耳打ちする。

 

その変わりっぷりに驚きつつ何故そんなことを聞くのかと疑問に思いながらも浜面は自分が抱いた素直な感想を述べた。

 

 

 

「無言で愛想がないなーって感じはしたけど……そんくらいか?」

 

「はあぁ、結局アンタは鈍感な訳」

 

「な、なんだよ。あの子がどうかしたのか?」

 

「……たぶんアイテムを探ってる。七惟は激甘だから気付いてないけどね」

 

「そ、それってどういう……」

 

「気を抜くと丸裸にされる訳よ」

 

 

 

それだけ言い残してフレンダを踵を返して七惟達の後を追いかけていった。

 

アイテムを探っている……?

 

浜面からすればとてもじゃないがそんな風には見えないし、そんなことをする必要があるかも分からなかった。

 

逆にむしろ……。

 

 

 

「……七惟の気を引きたそうにしてたように見えたんだがなぁ」

 

 

 

浜面は自分が暗部に関しては素人だということは自覚しているから、きっとこの場合熟練のフレンダが言ったことが正しいのだろうと思うが、どうしても彼女が自分たちにそんな敵意を向けているとは思えなかった。

 

そんな思いを胸に彼は七惟達の後を追いかける、そういえばこの後は何処かのショッピングセンターで昼食をとることになっていたっけ……。

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

映画を観終わった滝壺達一向はセブンスミストにやってきた。

 

本来このセブンスミストはファッションのショップであり、そんなことに無頓着であろう滝壺がそれ目的で此処にやってくることは有りえない。

 

何時もジャージが標準装備の彼女にとって、こういうお店は最も縁がないと言ってもいいだろう、フレンダや麦野は此処にはよく来ていると聞いているが……。

 

まぁぶっちゃげてみれば、彼女がこのセブンスミストに行くプランを立てたのは映画館から最も近い『飲食店』だったからである。

 

こういった商業施設はフードコートだけでなく、最上階にはレストラン等もしっかり完備しているものだ。

 

昼時ということもあり込みあってはいるものの、問題なく最上階のファミリーレストランで席を取ることが出来た。

 

 

 

「えー……っと、なーないはこっちに座って。はまづらはこっち」

 

 

 

六人掛けのテーブルに着き、席順は窓側からフレンダ、七惟、七惟の部下の女の子、反対側の席は同じく窓側から絹旗、浜面、滝壺の順番。

 

滝壺としては練りに練った座席のつもりだったが、どう頑張っても万人が納得する結果を獲るのは難しいものである。

 

 

 

「……どうして私が浜面の隣なんですかね……浜面菌が超移るんですけれど。しかも壁際、逃げ場がないです」

 

「ごめんきぬはた、でも、ふれんだがはまづらの隣だとはまづらが酷使されそうで」

 

「おい、浜面菌ってなんだよ!」

 

 

 

正直なところ最初は七惟の隣に絹旗に座って貰うことも考えたが、メンバーの女の子は七惟とセットだし、フレンダは絹旗以上に浜面の隣を嫌がるだろうということは容易に想像出来たため、最終的にはこういう座席になったのだ。

 

……ほんの少し、絹旗を七惟の隣に座らせたくない気持ちもある。

 

ほんの、ちょっとだけだけど。

 

 

 

「結局浜面はウィルスみたいに気持ち悪い訳」

 

 

 

このようにフレンダや絹旗は相変わらず浜面に対して辛辣に当たっている、まぁ絹旗はともかくフレンダは若干度が過ぎているのでこれを機会に何とか仲良くなって貰いたいものだが……。

 

 

 

「とにかく、お昼を取ろ?はまづら、何食べる?」

 

「え、えっと……そうだな、俺はこれで」

 

「とんかつ定食とは超無難です、此処は七惟のおごりなんですから私は米沢牛のすきやき定食を超注文します」

 

「お前俺が借金あるって知ってて振ってんだろ。おい、お前は?」

 

「オールレンジ、私はカルボナーラでお願いします」

 

「浜面以上に無難な奴がいるんだけど……。私は鯖の味噌煮定食。結局鯖を食べないアンタ達は人生の半分を損している訳よ」

 

「じゃあ私は海鮮定食にするね、なーないも決まった?」

 

「あぁ、店員呼ぶぞ」

 

 

 

全員の注文が決まり店員を呼ぶベルを押す。

 

皆それぞれ個性的な注文からノーマルな注文まで様々な形となった。

 

 

 

「滝壺さんって魚介類が好きなんですか?今まで一緒に居てそんなこと感じたことはなかったんですが」

 

「確かにね、でも鯖の缶詰は結局渡さない訳よ」

 

「違うよ、せっかくこういうところに来たんだから普段と違うものがいいかなって。絹旗は何で米沢牛?」

 

「私は食べたいものを食べたい時に食べる主義なんですよ、今回はこの米沢牛が私の琴線に超触れてきたんで迷わずです。それに比べて浜面は何もこう個性が感じられない安価一直線なとんかつ……浜面が超浜面たる所以を感じます」

 

「お前ら俺の報酬じゃ仕方ねぇだろ!」」

 

「気にすんじゃねぇ浜面、俺もお前と対して変わらないからな」

 

「うっそ!?」

 

「大丈夫浜面、私はそんな金欠な浜面を応援してる」

 

 

 

今回は浜面と七惟の歓迎会であり二人の食費は滝壺が負担しようと思っていたのでお金のことは気にして欲しくなかったのだが、まぁ今のままのほうが皆馴染みやすそうなので何も言わずこのまま注文してしまおう。

 

 

 

「お客様大変お待たせいたしました、ご注文は如何致しましょうか」

 

「それじゃあ……海鮮定食にとんかつ定食、サバの味噌煮定食にカルボナーラ、米沢牛のすきやき定食に……なーないは?」

 

「俺はハンバーグプレー……」

 

「米沢牛のすきやき定食をもう一つで超お願いします!」

 

「かしこまりました、ご注文は以上でよろしいですか?」

 

「おいまてコラ」

 

「はい、超大丈夫です!」

 

「あ、ドリンクバー人数分も」

 

 

 

半ばごり押しのような形で七惟の注文も決定し、無事全員分を注文することが出来た。

 

因みに七惟が注文しようとしていたハンバーグプレートは浜面のとんかつ定食と同じ金額であったが、当初の予定より彼は金額が4倍以上膨れ上がり、その金額を確かめた七惟の目が一瞬点になっていたのを滝壺は見逃さなかった。

 

 

「はぁ……絹旗」

 

 

流石に絹旗の度が過ぎたのか、七惟も頭に来て……?

 

疲れを思い切り吐き出すような溜息をついて七惟が口を開こうとするも、先に話し始めたのは絹旗だった。

 

 

 

「七惟、七惟の分は私がちゃんと払いますよ?」

 

「は……?」

 

「一応今回は七惟と浜面の歓迎会です、きっと滝壺さんも初めから二人の分持つつもりだったんじゃないですか?」

 

「そうだけど」

 

「なら何時も押しかけた時にご飯を作ってくれるお礼もかねて、今日は気にせず超食べちゃってください」

 

「明日を待たず今日の夜から空から槍が降ってきそうだな」

 

「まぁまぁ超七惟、今日は私の超おごりですから」

 

 

 

ふふふ、と満足そうな笑みを浮かべて頬杖をつき彼女らしくなく笑う絹旗。

 

それを見て呆れながらもまんざらではない表情の七惟。

 

……何だか面白くない、それに七惟が絹旗にご飯を作ってあげているっていうことも初耳ですっきり自分の中で消化しきれない。

 

滝壺は何処ぞの超電磁砲がツンツン頭のサボテン少年に向ける気持ちに気付いていないのとは違い、明確に自身の気持ちが七惟に対してどのように向いているのか理解している。

 

だけれども此処で出してしまったら今日の歓迎会が台無しである、とにかく今は七惟と浜面がアイテムの皆と仲良くなって貰うのが最優先。

 

七惟はフレンダと、浜面は絹旗と仲良くなって貰いたい、滝壺はその心を忘れぬよう気持を落ち着かせるため水を一杯飲み、皆のドリンクバーを取りに向かった。

 

 

 

 

 


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