とある科学の距離操作(オールレンジ):改訂版   作:スズメバチ(2代目)

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常盤台の『超電磁砲』-4

対峙する美琴と七惟、可視距離移動砲が今のところ最大で時速何km出るか分からないが知覚出来る範囲内であることは間違いないと美琴は考える。

 

今のところ七惟は種類の異なる距離操作を同時にはやってこない、『二点間距離』『時間距離』を同時に操れば自分を倒すことなど簡単なのだ。

 

おそらく唯でさえ難しい演算を別枠でもう一つ組上げなければならないのだろう、距離操作の頂点に立つ男でも難しいのか。

 

となると、まだ七惟を撃ち倒す策は自分の中にある。

 

七惟の攻撃が止み、超電磁砲を撃つ余裕が生まれた。

 

立ち止まりコインをポケットから取り出し、指先を七惟に向ける。

 

七惟は自分の攻撃の正体を見破ったわけではないが、電気使いがこのような動作に入った場合『電磁砲』だということくらい分かるはずだ。

 

「電磁砲……?やるだけ無駄だな」

 

その慢心が、アンタの敗北の原因!

 

「それは見てから……判断することね!」

 

美琴の全身から電気が迸り、指先に意識と力を集約し、次の瞬間それらを全て一気に放出する。

 

放たれたコインは空気を振動させ熱を撒き散らし、可視距離移動砲などとは比較にならないほどのスピードと威力で七惟に向かっていく。

 

やはりコインは七惟に当たること無く、彼の左の足元の地面に着弾する。

 

しかしこれは美琴の狙い通り。

 

超電磁砲はあくまで囮、本命はこれから――――!

 

着弾したコインは爆発しコンクリートの地面を破壊する、その際に舞い上がった粉塵が二人の視界を奪う。

 

白い煙の中で美琴は広範囲に及ぶ放電攻撃を七惟に向かって行う、この瞬間ならば七惟はまだこちらの位置を的確に掴んでいるかもしれないし、対処する方法を思い浮かべるだろう。

 

美琴は放電した後電磁加速した身体をフル回転させ一気に七惟の居る場所へと走る、頭の中が電磁レーダーとなっている彼女は視界を奪われても敵の位置を何となくだが把握することは出来るが、七惟はそうもいかない。

 

そしてこの『視界』というのが距離操作能力者の絶対的な弱点。

 

黒子のような空間転移能力者は見えなくても、触れるだけで対象を転移させることが出来るが、距離操作能力者はモノの位置、つまり座標を汲み取り頭で演算を開始するため視力が奪われると、それ即ち能力の無力化を意味するのだ。

 

また人は相手の策を見破った後ほど油断するものである、足元に着弾した時点でおそらく七惟は超電磁砲が囮であるということに気付いているだろう、その後の高出力の放電が視界を奪った後の奇襲であるということも。

 

実際はそれすらも囮で、七惟の身体に直接電流を流しこむというのが美琴の作戦なのだがまさか電気使いが単身で煙の中に乗りこんでくるとは思うまい。

 

「……貰った!」

 

案の定七惟は警戒心こそは張って身構えてはいるものの、こちらに気付いていない。

 

美琴は右手を思い切り突き出し、七位の二の腕を握ろうとする。

 

しかし美琴の接近に気付いた七惟が間一髪で身体を後ろに逸らして美琴の突進を避ける。

 

負けるものかと美琴も右足で地面を思い切り踏みつけ踏ん張り、切り返し再び七惟を狙う。

 

態勢を崩した七惟は今度はもう避けられまい。

 

この勝負、私の勝ちだ!

 

今度は左手をがっしりと掴んだ、七惟は目を丸くしているが何かを言う前に美琴は決着をつける。

 

「油断したわね、私の勝ちよ!」

 

身体を流れている電気をそのまま七惟に直接流しこむ。

 

「ッ!?」

 

「……あ、あれ?」

 

しかし、流れ込んだのはほんの少し、しかも1秒足らずで放電は収まってしまった。

 

そして身体を襲う脱力感、膝に力が入らなくなりそのまま美琴は崩れ落ちる。

 

これって、これって―――――。

 

勝利を目前にして、電池切れを起こしてしまった。

 

「……電池切れかてめぇ」

 

美琴の異変に気付いた七惟が呆れたように問う。

 

「……うるさいわね、さっさと止め刺しちゃいなさいよ!」

 

「はン……」

 

七惟は美琴の手を振りほどく。

 

「ったく、自分のエネルギーの残量くらい自分で管理しやがれ」

 

「し、仕方がないでしょ!アンタに勝つのに必死だったんだから」

 

「そうかぃ」

 

普通ならば電池切れのこともちゃんと頭に入れてそれまでに勝負をつける、今まではそうだったのだ。

 

だから今回もそのことを念頭に入れて動いているつもりだった、そして勝てる筈だったのに……。

 

負けた―――――ぎりぎりのところで、しかも絶対に勝てたのに。

 

美琴は目に見えて落ち込むが、そんな彼女の心境など露知らず七惟は言葉を漏らした。

 

「俺の負けだな、ったくあんな電磁砲撃つ奴が居たとは驚きだ」

 

「え……?」

 

「最後の最後でお前はバッテリー切れ起こしたがあのままいけば俺は負けてたぞ」

 

「じゃあ……私の勝ち?」

 

「納得いかねぇのかお前は」

 

「……やっぱり、ちゃんとした形で勝ってないし」

 

「そうかよ、まぁ俺としてはお前の勝ちでいい。じゃあな」

 

七惟は用事は済んだ、とばかりに踵を返して入口のほうに美琴を置いてとっとと歩いて出て行ってしまう。

 

こ、こいつは……こんな簡単に自分の負けを認めてしまっていいのか?仮にもレベル5で第8位、距離操作能力系統の頂点に立つ男だというのに。

 

置いてけぼりを食らい頭の中が混乱している美琴は声を大にして叫ぶ。

 

「ちょ、ちょっと!アンタ負けたのにそんなんでいいの!?」

 

「るせぇな、俺はこれで満足してんだ」

 

美琴の主観的な判断ではあるが、七惟は間違いなく全力だったし美琴も全力だった。

 

ならば負けたら悔しくて、次の再戦を望んだりするというのが普通だと思っていた。

 

しかし七惟はそんなことはどうでもいいと言わんばかりに足早に去って行ってしまう。

 

「アンタそれでいいの!?次は勝つとか思わないの!?」

 

「思わねぇよ、一発勝負だから互いの実力が出るんだろ。対策をしちまったら意味がねぇ、実力を測れねぇしな」

 

「それは……そうだけど!私はもう1回くらいやりたい!」

 

それでも美琴は食い下がる、お前の勝ちだとは言われたがそれでも彼女の中では消化しきれないものが山ほどあるのだ。

 

次はもう少し、ちゃんとした形ですっきりしたい。

 

「そうかよ、俺はもう気が済んだし遠慮しとく」

 

七惟に戦う意思はない、レベル5なんて自分みたいに絶対に負けず嫌いだと思っていたのに、この男は……。

 

「御坂美琴!」

 

気がつけば美琴は叫んでいた。

 

「あン?」

 

「私の名前よ!アンタに勝った私の名前!覚えときなさい!」

 

大声で叫ぶ美琴だったが、その言葉は七惟の耳にちゃんと届いていたようで。

 

「そうかい、じゃあな御坂美琴」

 

振り返らずに、しかし手だけはふらふらと振りながら防災センターから出て行った。

 

出会った時から闘いが終わるまで美琴を適当にしかあしらっていなかった七惟。

 

美琴もそれ相応の男だと思っていたし、強い奴ではあるけども人間として七惟を認めたことは無かった。

 

しかしこの瞬間、二人は互いを認め合っていたのかもしれない。

 

 

 

「やばッ。た、立てない!帰れないじゃないのよー!」

 

 

 

 

防災センターには一人残された美琴の悲しい絶叫が響いていた。

 

 

 

 

 




更新が遅くなってしまいすみません。

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