とある科学の距離操作(オールレンジ):改訂版   作:スズメバチ(2代目)

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※一部に過激な描写が含まれています。
 
 苦手な方は注意して下さい。




 


Story of dystopia

 

 

 

 

 

少女の最も古い記憶は6歳のものだ。

 

目の前の女性から、『お前はジャピーノだ』と言われた記憶が、最古の記憶である。

 

その時から知りたかった、『ジャピーノ』とはいったい何なのかを。

 

母親に聴いても、そんなことはどうでも良いことだとやんわりと断られ、何時までも経っても知ることは出来なかった。

 

少女は12歳になった、6年の歳月の間に『ジャピーノ』という言葉の意味も知った。

 

『ジャピーノ』の意味は【日本人男性とフィリピン人女性の間に生まれた子供】だそうだ。

 

そのことを知った時に、何故自分は父親が居ないのかも分かった。

 

此処はフィリピンだ、自分の父親や日本にいるから、自分には今父親がいない。

 

日本まで行けば、きっと父親に会える。

 

だから、母親が日本に行くと行った時には大喜びした。

 

汚い船で、何十時間、何百時間と船旅を重ねた。

 

船の中は決して衛生的とは言えず、フィリピンで暮らしていたスラム街よりも酷い物だった。

 

過度のストレスで一緒に乗っていた人が一人死んだ。

 

悪臭を放つために船から死体を放り投げた。

 

空腹に耐えきれず小さな男女が餓死した。

 

身ぐるみを剥がされて、海に投げ込まれた。

 

凄かった。

 

次の日には自分が海に投げ捨てられるんじゃないかと思った。

 

母親はただひたすら『大丈夫だよ』と言っていた。

 

とても大丈夫とは思えなかった。

 

来る日も来る日も、目に見える恐怖と目に見えない恐怖に晒されて明日のことが考えられなくなる。

 

真っ黒な海が、次は自分を飲み込むんじゃないかと、舟を飲み込むんじゃないかと思うと怖い夢しか見なかった。

 

数日後、親子揃って無事に日本の地に足を踏み入れた。

 

一緒に乗っていた人は、半分近くが海に放り投げられた。

 

奇跡だと思う。

 

こんな小さな少女と、やせ細った母親が生き延びられたのは。

 

母親は言う、『今からお父さんを探しましょう』と。

 

『お父さんはトウキョウから北に向かったグンマという場所で働いている』と母親は言った。

 

グンマがどんな場所なのか知らないが、そのグンマと呼ばれる土地まで親子二人は歩く。

 

持っていたお金は日本円に換算して僅か数千円。

 

歩いて、歩いて、歩き続けた。

 

喉が枯れる、足がもつれる、身体が重たい、頭が上がらない。

 

五感が麻痺した、食欲がない、吐き気がした、腕がちぎれそうだ、悪夢ばかり見た。

 

どれだけ歩いたか、どれだけ日が経ったか分からない程時間が経過したその日に、自分達はグンマについた。

 

『グンマ』は『群馬』と書くらしい、父親に一歩近づけた気がした。

 

此処に、父親が居る。お父さんがいる。

 

工場で働いているらしい。

 

日本の工場について少女は詳しかった。

 

何故ならば、少女は若年労働者として、フィリピンに建てられた日系企業の工場で働いていたからだ。

 

少女は母親と共に、多くの工場を尋ねる。

 

慣れない日本語でたくさんの人々と話した。

 

皆良い人たちばかりだった、笑顔でこちらの拙い日本語に付き合ってくれて、親身になって話してくれた。

 

ただ、それでも父親は見つからない。

 

とある人から聞いた、その人はこう言った。

 

『ジャピーノ問題はもう【日本】を離れて、【学園都市】固有の問題なんだ』と。

 

学園都市。

 

そう言えば、少女が働いていた工場も学園都市という文字が至る所に見られた。

 

その話を聴き、二人はトウキョウと学園都市を目指す。

 

二人の精神力は限界にも近かったが、親切な日本の人々が食糧や水を与えてくれ、車にも乗せてくれたため、何とか学園都市に辿りつきそうだった。

 

ただ、辿りついたのは少女一人だった。

 

母親が、消えた。

 

学園都市にあと数キロと迫ったその時、少女達の目の前に中国語を話す男が立ちはだかった。

 

その男は有無を言わずに母親を捉えると、少女を蹴り飛ばし、母親をワンボックスカーに放り投げてその場から去って行った。

 

太陽が暮れ、周りが真っ暗になるまで少女は立ちすくみ動けない。

 

そして自分の現状を理解したその時。

 

少女の精神が崩壊した。

 

少女は死んだ目で学園都市に入りこむ。

 

もう自分には母親はいない、おそらく中国語の男達に殺されてしまった。

 

後に訊けば、その中国人達は学園都市と敵対する勢力の人々だったらしい。

 

元々東アジアでは日本に対する嫌悪感があったらしく、中国、朝鮮半島はこの頃は学園都市を敵対視していた。

 

父親を探し、学園都市に入りこみ、多くの人々に話を聴く。

 

それでも父親は見つからない。

 

それにこの学園都市は、日本であるというのに群馬の人達と気質が大きく違う。

 

特に大人の男女が非常に冷たい。

 

少女は情報を持っているのは大人だと思い、大人の男女を重点的に尋ねてみたがほとんど一蹴されてしまった。

 

フィリピンを出発して1年以上が経過した、気がついた時には少女は学園都市の工場で働いていた。

 

生きるために、仕方のない選択だった。

 

もう父親を探すのは諦めていた。

 

無理だと悟った。

 

毎日が過酷な労働、今日は何十時間働いたのか、明日は何十時間働くのか、来週は、来月は、来年は……。

 

無限に繰り返される労働の日々、働き、食べて、寝るの繰り返し。

 

テレビで流れているのは大昔の日本のアニメ、金髪の男の人が手から青い光線を放ったり、惑星の名前を持つ金髪少女が戦っている。

 

自分は……何と戦っているのだろう?そもそも、何をやっているのだろう?

 

こんなことをやりにきたんだろうか……?わざわざ日本に来てまで?

 

やがて少女は14歳になった。

 

周りで働いているのは相変わらず自分と同じで異国の人間、東南アジアの人間が大半だった。

 

今日は誰誰が密入国で捕まったらしいという話を聴いた。

 

誰誰というのは、すぐに分かる。

 

工場の新入りが、自分と同じように密入国をして捕まった奴だから。

 

その日の夜、少女は工場長に呼ばれた。

 

少女がこの工場で働き出して1年。

 

昇給の話か?と少女は工場長の部屋へと赴いた。

 

工場長はこう言った。

 

『俺が昇格するために、上司に性接待を行ってくれないか』と。

 

少女は意味が分からずに、とにかく昇給して今の状況が少しでも変わるのならばと頷く。

 

すると数十分後、少女は豪奢な部屋へと連れて行かれた。

 

そこに居たのは工場長より20は年上と思われる男が二人。

 

片言で日本語を話す男、おそらく東アジア人。

 

もう一人は、見た目普通の日本人。

 

有無を言わせず、襲われた。

 

少女の服を男達は強引に脱がし、欲望の限りを尽くそうとした。

 

少女は訳が分からず抵抗するが、所詮14歳の少女。

 

大の大人の男に勝てるわけがなく、成すがままに犯されていく。

 

だが。

 

必死に暴れていた少女の手が、何かを掴みそれを思い切り東アジア人の頭に叩きつけられる。

 

即死だった。

 

打ちどころのせいもあったのか、男はうんともすんとも言わずに息絶えた。

 

日本人の男が、顔を青くする。

 

動かなくなったのをいいことに、少女は工場で使っていたペンチを懐から取り出し、思い切りそれで男の腹を突いた。

 

血が飛び散り、生臭く温かいモノがたくさんついた。

 

腹が抉れて、腸がはみ出た。

 

男の口から血が飛んだ、転がっていた東アジア人の男にそれがかかる。

 

蹲った男の顔を踏みつけて、耳の穴に思い切りペンチを差し込んだ。

 

終わった。

 

数分後、静かになった部屋から少女が一人出てきた。

 

いつも通り風呂に入り、窒素な夕食を済ませて寝床へと向かう。

 

大広間で流れているテレビでは、金髪の男の人がピンク色の化物を青い球でやっつけるところだった。

 

その瞬間、全てが茶番に見えた。

 

全てが憎たらしくなった。

 

学園都市が、日本が、日本人の父親までも、めちゃくちゃにぶち壊したくなった。

 

この目の前に広がる空間全てが、無くなってしまって皆惨たらしく死ねばいいと思った。

 

調理室を漁り、火元を調べ、灯油を持ち出し、ばら撒き、ライターを投げ、火傷をし皮膚が爛れのた打ち回っている外国人の男共を一人一人ナイフで突き刺してやった。

 

『ジャピーノ』とは。

 

父親に捨てられた、日比混血の子供。

 

自分の運命を呪った。

 

耳を劈くばかりの怨嗟で喉が潰れた。

 

群馬の人は、ジャピーノは学園都市の問題だと言っていた。

 

学園都市は科学の長だということに、少女が気づくのはすぐだった。

 

それから5年後。

 

少女は女になり、科学の長である学園都市の街を徘徊している。

 

 

 

 

 


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