とある科学の距離操作(オールレンジ):改訂版   作:スズメバチ(2代目)

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Labyrinth of Nightmare-1

 

 

 

 

アイテムとの一方的な話し合いが終わった七惟は帰路についていた。

 

結局七惟は麦野の思惑通りアイテムに入ることになったわけだが、その際に彼女が提示した条件がいくつかった。

 

 

『アンタにはアイテムに入ってもらったけど……まあ、非常勤だと思っていいわ。こっちもアンタが元いた組織とのいざこざなんてご免だしね、水面下ではアイテムに入ったことは隠しておいて欲しい。でもまぁ、必要な時になったら呼ぶから』

 

 

要するに居る時だけ呼ぶから後は適当にやっておけとのことだろう……使いがってのいい奴だと思われているに違いない。

 

そしておそらくだがその『必要な時』というのは遠からずやってくるだろう、スクールとのいざこざが最近アイテムでは絶えないと聞いている。

 

アイテムとスクールが直接戦うことはないのだがその下位組織同士が小競り合いを頻繁に起こしているからだ。

 

いずれは頂上決戦として七惟も打倒垣根のために駆り出されるのだろう……とてもじゃないが遠慮したいところだ。

 

バイクは寮の近くの駅に止めているため、防災センターの近くにあった駅で第七学区行きの列車を七惟は待っていたのだが……。

 

「……3分以上遅れるってのはどういうことだ」

 

いつまで経っても列車はやってこない。

 

学園都市の地下鉄が遅れることは今まで無かったことだ、それに自分以外の客も全く見当たらない。

 

響く音は自分のブーツが生み出すカツ、カツ、といった音だけだ。

 

何か悪い予感がした七惟は駅員の詰め所にかけよってみるが……。

 

「……おい!」

 

駅員は何かを握りしめたままピクリとも動かない、いくら揺さぶっても微動だにしなかった。

 

何処かに殴られた後などは全くなく、外傷は何処にも見当たらないと言うのにこの昏睡っぷりは不自然だ。

 

七惟は駅の外に出て周囲を見渡す、終電の時間だが路線バスも一台も走っていなし、人っ子一人見当たらない。

 

まだ帰宅してぐーすか惰眠を貪る時間としては早すぎる……。

 

何かが、何かがこの街で起こっている……?

 

科学の街で、科学の事象とは相反する何かが……。

 

「魔術……?」

 

ピン、と来て七惟は思わず呟いた

自分の記憶を探ってみるとこの不可思議な現象は、自身と上条を襲ったあの炎の魔術師のパターンと似ているが、違うのは七惟の周囲にまだ駅員が居たということ。

 

となれば魔術師絡みの現象だと考えていいかもしれない、七惟が今まで経験してきた魔術の現象はこの程度の摩訶不思議な世界を作り出すに足る力を持っている。

 

そして今回その影響力は七惟の周辺だけではなく、もっと広範囲に……下手をすれば、この学区丸ごと、いや都市全体を掌握してしまっているのか。

 

七惟が何処かに人はいないか、と周囲を見渡すと一人の子供が身を布で隠して歩いているのが視界に入った。

 

見た目10歳程度の子供がこんな時間帯にうろついているのは、誰も居なくなったことを吟味したとしてもおかしい。

 

「おい!そこのお前!」

 

「……ッ」

 

「何してやがる!」

 

子供はこちらに顔を向ける、するとその子供は少女で見覚えがある顔立ちをしていた。

 

 

 

「あ、貴方は……」

 

「あン……?お前、もしかして」

 

この少女、もしや一方通行と一緒に居たミサカの小さなクローン?

 

「よ、良かったって!ミサカはミサカは貴方に駆け寄ってみる!」

 

少女は纏っていた布をがばっと脱ぎ捨てると、一目散に七惟の足に抱きついてきた。

その肩は小刻みに震えており目じりには涙を浮かべていた。

 

一目で普通ではないと分かる状態だ、自分がアイテムと会っている間に何が起きている……?

 

「ミサカはミサカは追われてて……!ミサカの力じゃどうにもならないって!」

 

「追われて……誰にだ?それよりも一緒に居た一方通行の糞野郎はどうしたんだよ」

 

「あ、あの人は私を守るために敵と戦ってるけど、あのままじゃ殺されちゃうかもしれないってミサカはミサカは必死に助けを訴えてみる!」

 

あのゴミクズが……殺される?

 

あれ程の絶対的な力を誇った一方通行が殺されるかもしれないというこの少女の言葉は七惟の脳内に衝撃をもたらす。

 

一方通行は垣根提督と並ぶこの学園都市においては最強の存在だ、垣根も大概だが一方通行はおそらくその上を行くはず。

 

残りのレベル5が束になっても勝てないよなこの二人のうちの一人が命の危機……学園都市が総力を挙げてもこの二人を始末することは困難を極めるし、学園都市の表と裏に多大なる利益を与え続けている二人が、都市側から狙われる理由も思い浮かばない。

 

それならば外部、この街と敵対している勢力である魔術サイドが怪しくなってくる。

 

つい先日自分と上条は科学側の人間なのに魔術側に喧嘩を売り、その結果一つの艦隊を壊滅させてしまったことがある。

 

話によれば国一つ消滅させるに足る力を持つ艦隊だったようで、そんなものを滅ぼしてしまった人間が居るだけでこの都市が狙われる理由は十分だ。

 

「だ、だからあの人を助けてあげて!って!」

 

少女は酷く混乱しておりまともに会話が成り立ちそうにも無い、とにかくあの糞野郎を助けて欲しくて仕方がないらしい。

 

だが七惟からすれば一方通行を助ける気などさらさらない、何処で誰に殺されようが知ったことではないし、死んだ方が世のため人のためになり、自分も気分爽快するとまで思っているのだ。

 

少女も一方通行と自分の仲の悪さは夏休み明けにセブンスミストで知っているだけに、寄りにも寄ってなぜ自分に助けを求めたか理解に苦しむ。

 

それにもし魔術師が学園都市に攻めてきているというのならば七惟もただでは済むまい。

 

七惟は既にローマ正教という巨大な魔術組織に喧嘩を売ってしまった経緯があるため、上条程ではないが狙われる理由は十分にあるのだ。

 

この少女は助けを求める相手を間違えすぎている。

 

今回の件、今までの上条の一連の所業によって魔術サイドと科学サイドの均衡が破れたと考えるのが妥当だろう。

 

報復のために魔術師が科学サイドの頂点に立つ学園都市に攻撃をしてきたと。

 

この現象はどうやって起こしたのか分からないが、上条やインデックスと合流し、身を守るための策を練るべきだ。

 

とにかく少女を落ち着かせなければ行動もままならない、宥めようと普段ならば絶対に発しないような柔らかい声音で話し掛ける。

 

「わりぃがあの糞野郎が歯が立たないレベルの奴が来てんならそれこそ俺が出向いても無意味だ。それよりもお前を安全な場所に連れてったほうがあのゴミクズは喜ぶだろうよ」

 

この少女は一方通行にとって特別な少女のはず、おそらく自分とミサカ19090号のような関係だ。

 

ならば彼女を安全な場所へと導き敵に見つからないように何処かへ隠れさせるのが最善の策だ。

 

忌み嫌う相手のために行動しなければならないというのは、七惟の本心には添いかねるが仕方が無い。

 

少なくとも美琴のクローンと思われる少女に何ら罪はないはずだ、まぁミサカと深く関わっていると思われるため助けようという思いが大部分を占めているが。

 

「一方通行が殺されるかもしれないのに!ミサカはミサカの安全なんてどうでもいいと言ってみる!」

 

「お前はどうでもいいかもしれねぇがな、アイツにとっちゃお前が危険に晒されるほうが頭にくんだろう」

 

「それでもミサカはミサカは引き下がらない!貴方と一方通行が力を合わせれば必ずあの人に勝てると思う!」

 

「どうして俺があんな糞ったれのために戦わなきゃいけねぇんだか、あのゴミクズ野郎が何処でぶっ殺されようが知ったことじゃねぇよ」

 

「そんなことない!ってミサカはミサカは抗議してみる!貴方は19090号を助けた優しい人、だから貴方は嘘をついているとミサカはミサカは言い詰める!」

 

「いい加減にしろ糞餓鬼。俺とアイツは二度も殺し合いをしたんだぞ、んな奴と今更仲良くなんざ出来るわけねぇだろがッ……」

 

七惟が中々納得しない少女に声を荒らげたその時、身体全体に違和感を覚え、身体を強張らせた。

 

「……どうしたのってミサカはミサカは尋ねてみる」

 

「いや……」

 

態度が急変したことに、美琴のクローンが首を傾げる。

 

七惟はその間に、猛烈な吐き気と共に刺すような視線が自分に向けられているのを感じた。

 

周囲を見渡すも誰もいない、しかしこの感覚が嘘ではないのは頭のてっぺんから足の指先までざらつきまとわりつくような感触があるので確かだ。

 

 

 

 

 

「……もっと俺にひっ付け」

 

「えッ……」

 

 

 

 

 

七惟が少女を引きよせたその瞬間だった、何もないところから突然人間の手が飛び出し七惟の手を掴もうとする。

 

 

「ッ!?」

 

 

七惟は咄嗟に身体を後ろに逸らすがそれも遅い、握られたその場所から焼けるような痛みがしたかと思うとまるで自分の身体ではないと思う程身体全体が重くなる。

 

突きだされた手の発生源を見ると、不自然に空間が歪み黒くなっており、そこから人間の手だけが伸びていた。

 

始めから終わりまで全て普通ではない、今起こっていることは明らかに科学の理に反している……!

 

「だ、大丈夫!?ってミサカはミサカは」

 

「逃げろ!コイツらの狙いは一方通行だけじゃねぇ、俺も含まれてんだよ!さっさとどっかに行きやがれ!」

 

「で、でも!」

 

尚も引き下がらない少女に業を煮やした七惟は能力を使い少女を無理やり転移させようとする。

 

「お前に何かあったら俺がどうなるか分かったもんじゃねぇ!生きてたらまた何処かでな!」

 

「ま、待って―――!」

 

「この糞餓鬼が!大概にしろ!」

 

うろたえる少女を七惟の能力の影響範囲の一番遠いところまで転移させる。

 

此処からでは見えないが少なくとも1、2kmは離れているはずだ。

 

これで少なくとも命の危険には晒されないだろうと安堵するのもつかの間、手の発生源である黒い渦が更に肥大化し、やがてそこからは一人の人間のシルエットが浮かびあがった。

 

 

 

 

 

 

「あ、れ、れー?そーんなにあの小さい女の子が大事?小さい少女と禁断の愛!泣けちゃうわぁ!」

 

 

 

 

 

黒い渦から声が聞こえたかと思うと、一人の女がぬっとそこから飛び出してきた。

 

全身の身の毛がよだつ、いったいコイツは…………。

 

 

 

 

 





今後の方針に関してご報告です。

2013/1/22に「にじふぁん」完全閉鎖、データ完全消却ということで今月はかなりのハイペースで更新しました。
しかしにじふぁん時代にも目を通してくださった人は気付いていると思います、まだまだ何十話も残っているということに……。

そのまま改訂を入れず転載、というのも考えたんですが余りに誤字脱字が多いのでやめました、データは私のPCに移管させそれを順次こちらに掲載していきます。

今後の更新ペースは以前に比べ落ちます、おそらく12月くらいの更新速度になると思います。

此処まで距離操作シリーズを読んでくださってありがとうございます、これからもよろしくお願いします。

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