とある科学の距離操作(オールレンジ):改訂版   作:スズメバチ(2代目)

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背中合わせの二人-1

 

 

 

 

 

上下艦で上条達の行方を追っていた七惟と天草式は、海に投げ出された上条達を拾い上げ今は陸地に戻ってきている。

 

海から救出されたすぐ後はドタバタしていて、七惟も部屋から出ることが許されなかったため上条と話すことは出来なかった。

 

こちらとしては言いたいことは山ほどあるだけに、陸地に上がり食事をした後ようやく女達からフリ―になった上条を半ば強引に呼びとめた。

 

「上条」

 

「あ、……七惟」

 

上条の表情は冴えない、彼もおそらく気づいているのだろう。

 

七惟がこの騒動に巻き込まれたことにより、今まで自分が何を隠していたのか知られてしまっているということを。

 

「すまねえ、せっかくイタリアまで一緒に来てくれたっていうのに……こんな騒動に巻き込んじまうなんて」

 

「そのことを掘り返しても仕方ねぇ、今はお前が無事で何よりってとこだろ」

 

「……なぁ」

 

「あン?」

 

「天草式の奴らやインデックスから……聞いたのか?」

 

「まぁな。こんだけの騒動がありゃあ嫌でも情報は入ってくる」

 

「……お前を巻き込むつもりは無かったんだ、それに巻き込みたくなかった」

 

傷を痛がるように、上条の表情が苦痛の色へと変わる。

 

「でも結果は同じだな……隠し通せると思ってたけど結局はお前に知られちまった。魔術師のことも、魔術の世界のことも」

 

「巻き込みたくなかったから隠してた、か」

 

「やっぱ……怒ってるか?」

 

「そりゃあ……けどな」

 

七惟は上条のような善人ではない、どんなことがあれ、あれだけのことがあったのに隠し事をしていたのは許せないし、自分自身が話されるに足る存在でなかったことにも。

 

しかし、全く上条の事情を考えないと言うわけではない。

 

上条当麻という人間は誰かが困っているとそれに首を突っ込み、そして何とか助けてあげようというそれは素晴らしい性格の持ち主だ。

 

おせっかいとも取れるが、おそらくインデックスもオルソラもそうやって上条に助けられて今に至るのであろう。

 

そして誰かが傷つくのならせめて自分だけが傷つけば良いと思い、自分は首を突っ込む癖に他の人は事件から遠ざけ傷つけまいとする。

 

今回もそのような上条特有の心の葛藤があったのだろう、七惟を巻き込んでしまうくらいならば自分一人で……と言ったところか。

 

自分には決して真似出来ないような思考回路だ。

 

考えられないくらい聖人君子の頭脳を持っている上条の腹の中など自分には読めない、だが何かを考えているくらいは最低限分かる……だから。

 

「お前の気持ちが汲めないような馬鹿じゃねぇんだ俺は。今回だけだからな、次はねぇぞ?」

 

「七惟……!」

 

「おぃ」

 

七惟は左手を差し出した、その行動にクエスションマークを浮かべる上条。

 

「なんだ……?」

 

「こう言う時は、握手するもんなんじゃないのか」

 

「あ……?はは、そうだな。これからもよろしく頼む七惟」

 

「あぁ」

 

上条はその手をぎゅっと握る、七惟は上条と言う人間をこれまでよりも知り、そして上条は七惟の意外な一面を目の当たりにした。

 

一時は疎遠になりかけた二人の関係だったが、ミサカ19090号の件で相手のことを考えるようになった七惟が歩み寄ることにより、二人は以前よりも親しくなっていったのだ。

 

何より、あんな態度を取っていた自分を旅行に誘ってくれたのだから。

 

自分にとって、これほどのプレゼントはない。

 

「そんなお涙頂戴の日曜洋画劇場のような友情劇はもういい加減終わらせてくれなのよな」

 

「んなッ!?」

 

上条がジト目で建宮を見る。

 

「さっき飯食ってる時に言った通り現状はお前さんたち二人が友情にかまけている程甘くないのよな」

 

「はン、それを何とかするのがお前らなんだろう天草式」

 

「そうは行っても俺達だけじゃあ限界もある。そこで学園都市が誇る元レベル5の力をってわけよ」

 

「女王艦隊に突っ込む作戦ってのはさっきのでいいんじゃねぇのか?」

 

天草式と七惟達は女王艦隊に閉じ込められているシスター・アニェーゼを助けるためこれから敵に総攻撃をしかける。

 

七惟としてはそのシスター・アニェーゼがどういった人物かも分からないし、助ける義理もないのだが、上条が一度助け出すと言ったからには雷が鳴ろうが地割れが起きようが止まることは無いので、仕方なしと言ったところだ。

 

「こっちは天草式+オルソラ嬢、そしてお前さん達だ。内部に潜り込むのはさっき言った通り三人だが、お前さんには甲板で俺達と共に闘ってもらう」

 

「まあそうだろ」

 

「内部の仕掛けは大概が幻想殺しで何とかなる、むしろ全てが魔術みたいなもんだから一種の無双みたいなものなのよな。しかし甲板にいるシスター達は違う、それぞれが高い戦闘力を持っているし前回のような教皇クラスの召喚もない」

 

「それで俺の能力……か」

 

「そうなのよな。お前さんの力は白兵戦では最強クラスの能力よ、そうすりゃこちらにだって勝機がある。甲板におびき寄せたシスター達が我らを倒して内部に入っちゃ、いくら幻想殺しがあっても意味がないってわけなのよ」

 

「そうは言ってもな、俺の能力があの帆船上じゃ正常に起動するかどうかなんざわかりゃしねぇぞ?上条達が連れされる際、俺の演算式に狂いは無かったが能力が誤作動してんだ」

 

もしあの時七惟の力が正しく発動していれば、二人を連れ去られることは無かっただろう。

 

今回天草式が七惟の能力をアテにしているというのならばそれは負けを意味する。

 

「そいつは問題ないのよな。お前さん達が見た船は乗り込まれないよう周囲の人間の五感を弄る魔術が施されていたようだが、今回はそんな魔術をかけあってちゃ、何重にも施されたその妨害魔術が互いに影響しあって暴走しちまう、ってわけでオフになってるわけよ」

 

なるほど……それで七惟の能力というわけか。

 

「お前さんが実戦でどれだけ動けるかはわからないから、こちらも頼りにはしていない」

 

「……へぇ」

 

「だが期待はしてるってわけなのよな。よろしく頼む、オールレンジ」

 

要するに丸投げか、とかげの尻尾と一緒で失敗したら斬ればいい。

 

都合のいいことで。

 

「そっちこそ、な」

 

建宮の含みのある言葉を軽く鼻で笑い、七惟もその案に賛成した。

 

 

 

 

 


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