とある科学の距離操作(オールレンジ):改訂版   作:スズメバチ(2代目)

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縮まる『距離』-2

 

 

 

 

 

大覇星祭最終日、午前のプログラム最後の競技。

 

それが『陣取り』決勝だ、今その闘いの火蓋が切って落とされた。

 

審判の空砲が鳴り響き、陣取りに参加している七惟達の学校の生徒と常盤台の生徒が走り出す。

 

だが選手達がスタートしたその瞬間、七惟のすぐ近くにて好機を狙っていた美琴がこちらを見てにやりと口端を吊りあげた。

 

「アンタの能力の補助演算してんのはその子よね!」

 

美琴が得意の電撃能力を使い滝壺を攻撃する、当然気絶するような程度の威力に抑えているだろうが食らえばひとたまりも無い、しかし。

 

「ッやっぱな、そうくるかよ」

 

七惟は読んでいた、この攻撃を。

美琴が電撃を発する前に距離操作を行い発射地点を意図的にずらしたのだ、電撃は滝壺を不自然にそれて後方にいた妨害メンバーに直撃した。

 

「へぇ、やっぱりその子がいなくなっちゃうと相当不味いみたいね?」

 

「さぁな、気まぐれかもしれないだろ?」

 

「ふん、私の思った通りこれは第3位vs第8位の試合に……!」

 

美琴が最後まで言い終わる前に七惟は美琴以外の電撃使いに狙いを定めて攻撃する。

 

「同系統の能力者をサーチするのは結構簡単だから」

 

「って私を無視すんなそこの脱力女!」

 

「はン、悪いが俺はお前とドンパチやるつもりはねぇんだよ。じゃあな!」

 

七惟は美琴の言葉を無視してターゲットを他の選手に移そうとするが。

 

「無視すんなって言ってんでしょこらぁ!」

 

今度は手加減など一切されていない本気の電撃が七惟に向かって放たれる、それをぎりぎりの所でやり過ごすも額には嫌な汗が流れた。

 

「私を無視することが出来るなんて思ってんの?考えが甘いわね」

 

やはり美琴を無視して他の選手を妨害するなど不可能だ、彼女の電撃は一瞬で滝壺を再起不能にしてしまう。

 

しかし何も相手の弱点を見抜いているのが美琴だけということはない。

 

七惟も常盤台で自分と対等に戦える能力者は、超電磁砲の美琴だけだということは事前に調べて分かっていたことなのだ。

 

向こうが滝壺を狙ったように、こちらも対美琴用の最終兵器を使わせてもらう。

 

「そうだな……流石は上条がぎゃーぎゃー喚くだけある」

 

『上条』

 

その言葉に美琴の表情が僅かだが反応した。

 

「アイツがどうかしたの?」

 

「どうかした……?気になるなら本人に聞きやがれ。上条!」

 

七惟の呼びかけに、本来ならば護衛班で味方を能力者の攻撃から守っていたはずの男が妨害班の横から現れた。

 

「えッ……アンタ、護衛班なんじゃ」

 

「七惟の奴が常盤台に勝つにはオリジナルにお前をぶつけるのが一番手っ取り早いとか言ったからな、全員異論無しで俺は妨害班に回ったわけだ」

 

そう、対美琴に最大級の効果を発揮する男上条当麻を使うのだ。

 

上条当麻が出てきたならば、美琴に正常な判断をする能力は9割方奪われていると言っても過言ではない、現に視界にはあの男しかもう入っていないようだ。

 

「ふ、ふん!そうまでして私に罰ゲームさせたいってわけね……!いいわ、正面からその挑戦受けてあげる!」

 

そう言って雷撃の槍を構えた美琴を見て、七惟は滝壺に目配りで合図を送る、そして―――――。

 

「え、え、えッ!?な、なんなのよこれはー!?」

「な、なんだこりゃああ!七惟ー!?」

 

次の瞬間、七惟の距離操作により動きの止まった美琴は上条の頭上に移動した。

 

「わりぃがそいつと一緒におねんねしてな!」

 

「きゃああああ!?」

 

突然の出来事に動けなくなった上条の頭上から容赦なく美琴が落下、激突し二人共々気を失ってしまった。

 

『おぉっと!ダークホース高校のフィールドに対戦校の選手が!これは御坂選手失格です!』

 

「いいの?」

 

「構いやしねぇよ、どうせこの競技じゃ上条も俺と同じで一人じゃ役に立たないからな」

 

気を失った美琴と上条を余所に早速七惟と滝壺は攻撃を開始した。

 

二人の息はやはりぴったりと言ったところか、次々と常盤台中学の生徒達を戦闘不能にしたり、転移させて失格にさせるなど次々と戦力が削られていく。

 

対して常盤台中学も黙ってはおらず、自慢の能力で七惟達の学校の生徒を再起不能に陥れやがて……。

 

『おぉっと、これは!?ダークホースの無名校で立っている選手は5人しかいません!対する常盤台は7人!』

 

いつの間にかどちらが先に全滅するかを競い合う競技になっていた。

 

『立っている旗は互いに0本!残り時間は1分です!こ、これはどうなってしまうのかー!?』

 

確かこの競技で勝つためには最優先事項は旗の数、そして次の評価は残った選手の数だ。

こうなってしまえば流石に分が悪い、すぐさま旗を立てるべく動かなければ負けてしまう。

 

「お、おい七惟!旗立てるから手伝ってくれ!」

 

上級生らしき生徒が七惟に声をかける、しかし七惟まで旗立てに回っては攻撃から守る選手がいなくなる。

 

おそらく滝壺に直接的な攻撃手段はないし、滝壺を回したほうが良い。

 

しかし発火能力者によって張られた煙幕により視界は最悪で、滝壺無しでは七惟は能力の発動すらままならないのだ。

 

「大丈夫。なーないは行って」

 

「何言ってんだ滝壺。お前は……」

 

「いいから」

 

「……はン、後でぶっ倒れても知らねえからな俺は」

 

そうして上級生のいる場所へと駆けだそうとした七惟だったが……。

 

 

 

 

 

最後に、ほんの出来心で振りかえって滝壺を一瞥した。

 

 

 

 

 

そのたった数瞬で七惟には分かってしまった、滝壺に向かって放たれた電流が今まさに彼女を仕留めようとしているところを。

 

 

 

それを見て彼は条件反射のように、能力を発動した。

 

 

 

相手の攻撃座標が掴めていないこの場合、彼が滝壺を守るためには彼女の座標をずらすしかない、しかし直線状で七惟と滝壺は結ばれているためこれを避けてしまってはこの電流は自分に直撃するだろう。

 

一瞬の出来事で電流がどれほどの威力かは分からないが、当たったら唯では済むまい。

 

しかし電流攻撃を見て、それが滝壺に向けられたモノだと判断した瞬間には無意識に能力を発動した、滝壺の位置をずらしたらそれが自分に当たることなど考えもせずに。

 

 

 

 

 

そして唸りを上げた電流が自分の体を貫くのを感じたと同時に、彼は意識を手放したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

脇腹あたりの痛みが脳にじりじりと伝わってくる、七惟は神経が訴える悲鳴から目を覚ました。

 

彼が最初に目にしたのは保健室らしき天井だった、見知らぬ天井ではないだけまだマシかもしれない。

 

「ッ……」

 

「七惟、大丈夫か!?」

 

「上条か」

 

七惟が気を取りもどしたことに気付いた上条が、声をかける。

 

身を起こし辺りを見渡してみるとやはり保健室のようで、上条は七惟に付き添ってくれたようだ。

 

「……どんくらい気絶してたんだ俺は」

 

覚醒しない脳では様々な情報がごっちゃになっており、状況を判断出来ない。

 

「30分くらいだな、お前競技中に電流使いの攻撃で気を失ったんだよ」

 

「電流……、ああ。そういや陣取りの決勝だったか」

 

「結果は、まあ……お前を欠いた俺達が勝てるわけも無く、1−0の負けだ」

 

「だろうな……。糞ったれ、あんな加減された電流にやられちまうなんて屈辱だ……」

 

「滝壺を庇ったんだろ?アイツも心配してたしな」

 

「アイツが?俺が倒れようが死のうがぼけぇってしてそうだがな」

 

「外で友人と一緒に待ってるらしいから、呼んで来るよ」

 

「友人……?」

 

滝壺の『友人』というワードに引っかかった七惟だが、上条を止めることはなくそのまま出て行くのを見送った。

 

少ししてから、アイテムでいつも着用しているジャージ姿の滝壺と、そして……。

 

「あ、超元気そうじゃないですか七惟。せっかく財布から色々ぼったくろうと思ってたのに超残念です」

 

「……帰れ、光速よりも早く」

 

「なッ!?せっかくお見舞いに来てあげたというのに!超失礼な奴です!」

 

まさかとは思っていたが、その友人はあの絹旗最愛だった。

 

まあここで麦野やらフレンダが出てくる方が驚きだっため、ある程度予測は出来ていた。

 

「ごめん、なーない」

 

「……んでお前が謝るんだよ」

 

「だって」

 

「俺が勝手にやったことだろ、別に謝られる必要もねぇしな」

 

幾分か、普段よりも元気のないように思える滝壺。

 

いくら彼女が天然系だと言ってもやはり色々と感じるのは普通の人間と一緒なのか。

 

「そうですよ滝壺さん。こんな性悪の七惟に謝るなんて、『謝る』行為に対する冒涜です」

 

「お前は黙ってろ小学生」

 

「怪我しても口の超悪い奴ですね……」

 

絹旗も口ではこんなことを言ってはいるが、どうしてお見舞いなんてモノに来てくれたのだろうか。

 

彼女が七惟の傍にいなければならないのは監視をするためだが、午前〜午後にかけてはその任務は滝壺が負っているため七惟の傍にいる必要などない。

 

「つうか……どうしてお前はお見舞いなんかしてんだ?」

 

「……え?」

 

「お前が俺を見とかないといけないのは監視のためだろーが。でも今は滝壺が俺を見てるから別にいいんじゃねぇのか?まさか柄にもなく俺のことが本当に心配だったとか言うんじゃねぇだろうな、気色悪い」

 

「な、何を言っているんですか、超気持ちが悪い。私が此処に来たのは、家にエロ本の1冊や2冊もなく性欲を持て余している七惟が弱っているのを口実に、滝壺さんに変なことをしないかどうか超見張るためです」

 

絹旗はツンとした態度でその答えを返す、それを見て七惟はやはりコイツはそんな奴なんだろうと思った。

 

このお見舞いも、どうせ時間を持て余して暇だったから仕方なく時間を潰すためにやってきたのであって、こちらのことなどどうでもいいのだ。

 

「なーない」

 

「あン?」

 

「ありがとう」

 

「……何がありがとうなんだか」

 

七惟の問いに滝壺が答えることはなかったが、その顔は笑っているようにも見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな二人のやり取りを、隣で絹旗が無表情で見つめていた。

 

 

 

 

 

 


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