とある科学の距離操作(オールレンジ):改訂版   作:スズメバチ(2代目)

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転校生の謎を追え-ⅱ

 

 

 

 

美咲香と校門で合流した七惟は、バスに乗り目的地までやってきた。

 

少々待たせていたようだが、その表情を見るに暇を持て余していたようではなさそうだったため、特にそのことには触れなかった。

 

向かったのは第七学区の中でもことさら自分と縁が無さそうな学舎の園である。

 

今回七惟と美咲香の二人を呼び出したのは、意外な人物ではあるが七惟とは何かと接点がある人物。

 

連絡があった際には何か罠があるのではないかと疑ったものだが、指定場所が学舎の園であることから犯罪を起こすにはあまりに不向きな待ち合わせ場所のため、呼びかけに応じた訳である。

 

学舎の園は、学園都市の中でも指折りの警備体制を敷いているのだから。

 

そしてその二人を呼び出した件の人物が今目の前に居る訳だが……。

 

 

 

「それで、こんな所に呼び出して何のようだ」

 

「親切心で呼び出してあげたのにそんな言い方ないんじゃない?」

 

「……暗部であるお前の親切心が働くなんてろくでもないこと言われるに決まってるだろーが」

 

「そんなことこの子の目の前に言う?」

 

「むしろお前は自分を殺そうとした張本人のそっくりを目の前にしてよくそんなことが言えるな」

 

 

 

こちらの言うコト等お構いなし、と言った飄々とした表情でこちらを見やるのは結標淡希、七惟の隣できょとんとした表情で今の会話のドッチボールの意図が掴めず首を傾げるのは七惟美咲香。

 

七惟と美咲香はグループに所属している結標に呼び出され、第七学区学舎の園近隣の如何にもおしゃれな新築喫茶店にやってきた。

 

学舎の園と言えば結標にとっては曰くつきの相手、超電磁砲こと御坂美琴が所属する常盤台のテリトリーであり、もうかの中学は目と鼻の先。

 

何時あの電撃姫が飛び出してきて雷光の槍を投げつけてくるのかひやひやものだが、そんなことはお構いなしと結標はこの場所を指定してきた。

 

結標が在籍しているのは常盤台のライバル的存在である霧が丘だ、学区も18学区と此処からかなり距離がある。

 

何故こんな場所にしたのか問いただしたところ、この学舎の園周辺は警備が厳重らしく並みの暗部組織は近づかない、要するに安全だということだ。

 

七惟自身も、セキュリティレベルが高い場所でなければ呼び掛けには応じないつもりであったため、まぁよしとした。

 

結標は現在もグループという暗部組織に所属している、故に暗部の連中から狙われるリスクが低く落ち着いて話が出来るこの場所を選んだという。

 

だが忘れてはならないのは結標が呼び出した七惟理無こそグループの同僚である一方通行を抹殺しようとした張本人ということなのだが……。

 

 

 

「さて、それじゃあ本題に入るけど」

 

「あぁ、手短にな」

 

「……貴方とその子にとって有益な情報を持ってきたって言うのに随分な言い方ねホント」

 

「むしろ一方通行の奴とつるんでるくせによく俺の前に顔出せたよなお前は。アイツは俺の仲間殺した奴だぞ」

 

 

 

たったこの1回のやり取りで二人の間に緊張が走る。

 

この店の雰囲気には全く合わない、血みどろの話。

 

二人の間に沈黙が流れ、グラスからカランという氷が擦れる音が嫌に響く。

 

暗部抗争が起こったのはまだつい最近ことだ、それはつまり一方通行に名無しの少女を殺されてからまだ日が浅いと言う事。

 

七惟の表情から自分たちに向けられている感情を読み取った結標はため息をつき、これ以上の雑談は悪手だと判断し深追いは止める。

 

 

 

「……互いに色々あったでしょう、あの時のことを蒸し返すと収拾つかなくなるからやめて」

 

「はいはい、さっさとしてくれ」

 

「切り替えが早くて助かるわ。率直に言うと、貴方が一緒にいるその子を始めとした『妹達』が狙われるっていう情報が入ってる」

 

「へぇ……」

 

「行動を起こすと言われている組織はスクールの生き残り、此処まで言えば貴方なら分かるんじゃない」

 

「要するに垣根の仇討か?」

 

「そうね、その可能性が一番高い」

 

「直接あの糞野郎に喧嘩を売ったら勝ち目がないからアイツの能力の補佐をやってるミサカネットワークから潰すってことか」

 

「理解が早いのは流石ね、そういうこと」

 

「んで、今更そんなことしてどうするんだ?アイツらが担いでいた垣根は消えたんだろ?」

 

「消えたけれど死んではいない、何処かで生きている……好機を見計らって息を潜めている、って暗部じゃ言われてるけれど」

 

「……覇権を狙うにはまず障害から消す、って訳か」

 

「えぇ、あくまでまだ噂の段階。でも火の無い所に煙は立たないって言うでしょう。その子が大事で大事でしょうがない貴方からすれば見逃せない情報じゃない」

 

「当の本人は事の大事さが未だにわかってなさそうだがな」

 

 

 

要するに結標の話をさっと纏めるとこういうことか。

 

垣根生存を信じてやまない連中が垣根復権を賭けて一方通行を潰そうとしている。

 

しかし直接喧嘩を売ってもまず勝てない、だから一方通行の演算を担っているミサカネットワークから潰し奴を文字通り木偶の棒にしてから始末すると。

 

要するに七惟の隣に座ってアイスティーのレモンを不思議そうに見つめている美咲香を亡き者にする勢力がいるということだ。

 

殺されるかもしれない当の本人は会話についていっているのかどうかすら怪しいのだが……。

 

 

 

「どうしたのですか、と伺ってみます」

 

「どうしたもこうしたもじゃねぇよ、お前話聞いてたのか?」

 

「ミサカネットワークが狙われている、ということなら」

 

「……」

 

 

 

こういうすっとぼけた顔をして要点はしっかり押さえているあたり流石学園都市第3位と同じ頭脳を持つだけあるな、と感心する。

 

 

 

「それで、お前らグループは何かしないのか?メンバーに頼ってきたんだったら残念なことにもうそんな組織は存在しねーぞ」

 

 

 

七惟が所属していた暗部組織は博士が統率していた『メンバー』という学園都市に忠誠を誓い不穏分子を抹殺する役目を担っていた組織だ。

 

過去形なのは既にその組織は七惟以外全ての構成員が死に絶え下位組織に至るまで件の垣根に根こそぎ消滅させられてしまったからである。

 

 

 

「今のところは特に私達に対しては何も。だってまだ『噂』程度、私達もそんな小さな案件を追っかけられる程暇じゃない」

 

「此処で油売ってる暇はあるのにな」

 

「それとこれとは話が別」

 

「どうだか、一方通行の糞野郎はこの話知ってんのか。あの第3位の小さなクローン連れてたり自分の能力に直結する話でもあるから血眼になってそいつら探し出すだろ」

 

「それこそ一方通行の耳にこんな話が入ったら大変なことになるわ、敵を全滅させるまで動き続けるだろうけれどそれじゃ困るの。優先順位っていうものがあるから、暗部組織には」

 

「それで俺に話をして探って欲しいってことか」

 

「貴方は今暗部組織には所属していないから身軽でしょ?それに絹旗最愛やらある程度暗部組織に精通している友人もいるんだから、隣の子を殺される前に動いていて損はない」

 

「……」

 

「そんな難しい顔しないでも簡単な話じゃない。そのワッフルでも食べて糖分補充すれば少しは柔和な顔が出来ると思うわよ」

 

「お前の思い通りに動くのが癪なだけだ」

 

「貴方は大事なその子を守れて、私達は一方通行が余計な体力を使わずに済む。win-winの関係よ」

 

「お前にとってはな。美咲香、俺の分食べていいぞ」

 

「ありがとうございます、と兄の気持ちが変わる前に素早く頂きます」

 

「はや!……お前少しは遠慮って言葉を」

 

「食べていいと言ったのは兄だと思いますと反論します」

 

「…………」

 

 

 

最近美咲香はどうも自分に対して遠慮というものがない、というか本当にストレートに自分のやりたいことや感じたことをぶつけてくる。

 

最初はそれが物珍しくうれしい気持ちも多少はあったのだがこうもなってくると本当に手のかかる身内だ。

 

 

 

「その子、他の個体みたいにミサカミサカ言わないのね」

 

 

 

そんな七惟と美咲香のやり取りを見ながら頬杖をつきながら興味深そうな視線を結標が向ける。

 

確かに美咲香は他の妹達と違って人一倍感情表現が豊かすぎるような気もするが、そんなに気にするようなことでもないだろうに。

 

 

 

「俺は逆に他の妹達なんて一方通行が連れているチビくらいしか知らねぇからこれが普通だと思ってる」

 

「嘘。学校に入る前に貴方が一生懸命言葉使いを矯正させたんでしょう?」

 

「さぁな、そんなことは覚えてねぇよ」

 

「否定しないところをみると、あたりかしらね?」

 

「好きなように受け取れ」

 

「……ホント、昔のぎらぎらしたオールレンジは何処にいったのかしら。貴方達兄妹みたいね」

 

「実際外面はそうだ」

 

「そう、それなら私の伝えたいことは話した通り、会計は私が済ませておく。貴方超貧乏だし」

 

「うるせぇ」

 

「それと、はいこれ」

 

 

 

席を立ち上がった結標が懐から取り出したのは小さな折り畳んである紙切れだった。

 

……どうもこういうやり取りをすると数か月前に結標に依頼されてレムナント運びを手伝っていたことを思い出す。

 

 

 

「見ておいて」

 

「……こういうのはすぐその場で見る性質だ。じゃないと前みたいにとんでもないのが出てきたりするしな」

 

「信用されてないのね私」

 

 

 

『とんでもないもの』とは、結標の仕事を引き受けた時に敵として現れてきた美琴のことだ。

 

退屈する相手は用意していない、と言っていたが退屈どころか命の危険に晒されたのを用心深い七惟がそう簡単に忘れる訳はない、此処でこういう情報はチェックして依頼主に確認しておかなければろくなことが起こらない。

 

さて猫が出るか蛇が出るか……折り畳んであったメモを広げてみると、そこには。

 

 

 

「出没地域学舎の園周辺、犯行グループは二人との情報有」

 

「そういうこと、此処を集合場所に指定したのは貴方がちゃんと出てきてくれるように安全が担保されている場所であることは勿論、敵が攻め入ってくるリスクは低いけれど敵がこの周辺に潜んでいるってこと。まぁ第3位が常盤台にいるんだからまずはその周囲に居るであろうと推測される妹達を狙うっていうのは馬鹿が思いつきそうな単純な理屈ではあるでしょう?」

 

 

 

 

 

 


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