『MUGEN』大の世界を 作:HI☆GE
「え、ええと……担任の先生が遅れている様なので、自己紹介をやりましょうか」
つまらん入学式を終え、俺は楽園へとやってきた。
まず飛び込んできたのは見渡す限りの美少女、美少女そして美少女……しかも全員が俺とその隣の一夏に注目していると言う正に絶景、ただフィナには耳をつねられたが致し方無い事として処理しておこう。
隣の一夏が相も変わらずげんなりとしているのはどうにも気に食わないが。
男として美少女にイケメンだの何だのと噂される等、これ以上無い幸福の時だと言うのに、全くコイツと来たら非常に勿体無い事をしているものだ。
「織斑くん、織斑くーん!」
「あ、すいません次俺ですか?」
「そ、そうですそうです! お願いしますね?」
「分かりましたよっと……織斑一夏です、以上!」
「お前はバカか!」
「けげっ、関……千冬姉!?」
清々しいまでの名前以外の全てを省略した自己紹介だった一夏は、まあ残念ながら当然と言うべきか何時の間にやらやって来ていた一夏の最も恐れる姉こと千冬さんにチョップを食らっていた。
それだけで既にかなり痛がっている辺り流石は人類最強としか言えないが、関羽と言いかけた一夏に対して一瞬手に持っている出席簿で叩きかけていたのは流石に戦慄した。
「……まあ、言い直した事は評価するから今日はチョップで止めておいてやるが、これから先学園内で先生と呼ばなかった場合は……分かるな?」
「イ、イエッサー……」
「あ、済まなかったな山田くん、担任の私が遅れたばかりに任せてしまって」
「い、いえいえ……会議なら仕方ないですよ。そ、それじゃあ続けm」
その直後、憧れの千冬先生を目の当たりにした女子生徒達によるちょっとした騒ぎがあったが割愛させてもらう。
さて時間は少し経ち自己紹介も佳境に近付いてきた。
この間に原作通り篠ノ之箒、セシリア・オルコットの一組での存在を確認、まあどちらもこっちとしては面識もあると言う意味でも少しホッとしたが、第一に原作通りのポジションと言う事に一安心。
「ええっと、つ、次は……フィナ・アナスターシさんお願いします」
「はあい。フィナ・アナスターシ、一応イタリアのぉ、代表候補生やってまあす。趣味はファッションでぇす。ち・な・み・に、隣の席の龍仁は私の恋人だからぁ、ちょっかいかけすぎちゃうとお痛しちゃうからねえ~?」
教室がざわつく。フィナが有名人だと言う事もあるが、どうやらやはり俺を狙っていた人がいたのか、かなりショックで頭を抱えている人をチラホラと見掛ける。
が、常識はしっかり弁えてるらしく諦めた素振りを見せた。
うん、そうやって素直に引き下がれる子は俺好感持てるよ、後で話し掛けてあげよう。
フィナが席に着く。暫く経つと山田先生が此方を見てきた……どうやら次は俺らしい。
「どうも、龍仁・アナスターシです。趣味は格闘技、それと可愛い女の子と話す事、まあフィナが言ってた通りフィナとは恋人の関係なので付き合う事は出来ないけれど、話す事くらいは美少女揃いのみんななら大歓迎なんで宜しくな! ああ、後フィナと同じ名字なのはフィナが家の両親の養子だからだ、ちょっとばかし複雑な関係なんだがまあ気にしないでくれ」
「び、美少女って……」
「初めて、初めて言われた……!」
「お母様、私生きてて良かったです!」
「義兄妹で恋愛……薄い本が厚くなるわね……!」
……ふむ、どうにも揃って自分を過小評価若しくは魅力に気付けなかった男がいたが為に自分の魅力を見失っていた女の子が多いらしい。
こんなに美少女揃いなのに非常に勿体無い事だ。
「龍仁ぃ~? ナンパは控えてって私あれほど言ったわよねえ?」
「フッ、これはナンパじゃない……俺の日常だ!」
「……後でお説教」
「ヘイヘイ待ってくれよマイハニー、俺の伴侶は君だけさ。そう気を立てないでくれよ」
「むう……」
ううむ、しかしいくら美少女揃いと浮かれていても彼女の機嫌を損なってしまっては本末転倒である。
だが俺にとってこれは最早日常、可愛い女の子と話したい衝動は俺から切っても切り離せない存在……まあ独占したいとか、他の子を見ちゃ嫌とか分かるんだがね。
俺が一般的に見てクズなのは当たり前だが、それでも俺を好きでいてくれるフィナなんだ、せめて今まで以上に構ってあげる様にしようじゃあないか。
そうと決まれば手始めに今、しちゃいますかね。
「悪かったよフィナ、ほらこっち向いて」
「……何よぉ……んむっ!?」
教室がざわつくと言うよりは、一瞬の静寂に包まれた後黄色い悲鳴に変わる。
大体の想像は付くとは思うが、公然の前でフィナにキスをした……飛びきり情熱的な、イタリア式のな。
「これでみんな、俺とフィナの関係は確たる物だと分かってくれるだろ?」
「な、ななななな、にゃにぉぉ……」
「あー、その。今のはみんなを『本気にさせない為』にやった事だから、本当はフィナのこんな可愛い姿、一夏にさえ隠していたいくらい愛おしい」
「りゅ、龍仁ぃ……」
「フィナ……」
「いや何だよこの茶番」
「私に聞くな……」
「龍仁に彼女が出来たと言うのは本当だったのだな……羨ましいな、私も一夏と……」
「憧れますわね、龍仁さんの様な情熱的でグイグイと引っ張って下さる殿方は」
異性と縁の無い周りの女子は未だ小声で黄色い声を上げていたり他の女の子と盛り上がっているが、一夏と千冬さんは飽きれ果て、小学校四年生以来に顔を見た箒はどこかの幼馴染みに熱い視線を向けそう漏らし、約三年ぶりに顔を見たセシリアは憧れを抱いている様な素振りを見せていた。
一夏と千冬さんに関しては、身内の茶番と言う事で盛大に溜め息を付いている。
全く、溜め息を付かれるとは失礼な話と言うものだ。
「まあ今回ばかりは色々な諸事情と、自己紹介がお前で最後だった事、これ以上やる事が無かった事で不問にしてやるが……今度こう言った事をやらかしたら始末書二十枚とグラウンド百周、宿題十倍だ、分かったな?」
「イ、イエッサー……」
だがこんな風に脅迫染みた事……と言うか完全なる脅迫を言われては反論の一つも言う気になれない。
今回に関しては最初から反論する気は一欠片も無かったがな、何せ公然的にこうした行為をするのは風紀に良くない事くらい、俺だって分かる話だ。
さっきのキスは本当に今日だけの事だ。
もう一度言うがさっきのキスは今日だけだ。
「分かったなら良い。山田くん、生徒に連絡事項等はあるか? 無いなら解散でも大丈夫だが」
「……あ、はい! だ、大丈夫です、連絡事項はありませんので休み時間にしてください!」
休み時間になったと言う事で、さて知り合いに挨拶しに行こうとしたら一夏と共に俺も箒に呼ばれた。
あっちから挨拶してくれるとは、何とも嬉しい事である。
「一夏に龍仁、久し振りだな。元気にしていたか?」
「おう、小学校四年生以来だから六年ぶりか? まあぼちぼちやってるぜ」
「俺は何時でも絶好調だ!」
「一夏、そう言えばお前はまだ剣道は続けてくれているのだったな」
「ああ、朝早い時間に一時間くらいだけどな。お陰でその辺は箒程じゃないが、中々様になってると思うぜ」
「そうか、ならば後で一戦交えよう。一夏の成長も知りたいのでな」
「勿論、良いぜ」
原作では多忙を理由に剣道を辞めざるおえなかった一夏だが、俺が何とかして千冬さんに洗濯と食器洗いを覚えさせ一夏に剣道をする余裕をギリギリ持たせる事に成功。
お陰で一夏はこの時点で原作の比でないくらいの好感を箒から持たれている。
「それと龍仁、まさかお前が彼女を持つとはな……」
「ま、運命の出逢いってやつよ。フィナ程可愛い女の子もいないさ。あ、でも箒も美少女だと思うけどな、そうだよな一夏?」
「え!? あ、ああそうだな、確かに、その、可愛くなった……よな」
「一夏……」
そして俺が一夏に教え込んだ事、それは何より女の子に素直に誉める事と優しくする事だ。
可愛いと思ったら可愛いと言う、優しくする、それだけで女の子は嬉しい気持ちになって好感度が上がる。
特にツンデレだったり気が強かったりで素直になれない女の子に言うと、グンとお近づきになれたりする。
兎に角効力は絶大だった、これなら直ぐにでも箒は落ちそうだな。
「え、ええとだな……そ、そう言う事だからまた後でな!」
「やれやれ、恥ずかしがりおって……取り敢えず箒、これは脈ありとして取っておきな。焦らずにやれば直ぐにでも一夏をものに出来るぜ?」
「なっ……何をっ」
「おっと、それじゃ俺も一旦戻るぜ」
そして仕上げは上手い事アドバイスと発破を掛けておく事。
こうすれば押しの弱い一夏から動かずとも積極的に箒の方から動くだろう、取り敢えず箒の第一段階はクリアだな。
さてお次は……英国の美少女貴族ちゃんの一夏フラグ第一段階を作りますかね。