『MUGEN』大の世界を   作:HI☆GE

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オリ主が介入すると一夏ハーレムが崩壊する?

まずはその幻想を(ry


第一話「始まりの時」

 

 

 『きっと俺は、あの時の決断を、道を後悔していない』

 

 晴天の空の下、ふと思い出した遠い永い(とおい)記憶。

 いや、年月に換算すればそれほど遠くなど無いのだが、それとは別に『永遠に』戻れなくなる選択を俺はした。

 

 ――転生、と言うものをご存知だろうか。

 

 そう、良くライトノベルや神話で見掛ける事も多いだろう単語。

 簡潔に言えば、俺はその転生の道を自ら選択したのだ。

 

 前世では、身近に居れば居る程、殺したくなるくらいに憎かった。

 その笑顔は、その心配そうな顔は、悲しそうな顔は、全てが全てそうやって心配している自分に酔っているだけの、自分勝手な奴等。

 

 それでも残酷な事にも、世間からの周りの評価は著しく高く、全員が『良い人』として広まっていた。

 

 家族はみんな優しくて心の支えになった、友人が話す学校の話や外の世界の話に耳を傾けるのも楽しかった、地域の人達も寄り添ってくれて、これで健康な身体さえあれば他に何も要らなかった……と言うのが世間様から見た俺の立場だった。

 

 実際家族、友人が優しくて心の支えになるなんて事は無かった。

 全てが枷でしか無かった。まやかしでしか無かった。

 

 世間が俺の家族や友人と呼ぶ存在は、全て同情と自己満足でしか動いていなかった。

 所詮はそんなものだ。

 

 家族や友人と旅行、ましてや外に散歩に行く事すら叶わなかった悲劇の主人公。

 まあ一生病院生活だったのに友人に恵まれてただけ、他人から見れば良かったのかも知れないが俺にとっては全てが全て邪魔でしか無かった。

 

 そも家族とは、友人とは何なのであろうか。

 

 優しいだけが、気を遣うだけが家族であり友人なのだろうか。

 俺にはそれが苦痛で苦痛で堪らなかった、まるで腫れ物を扱う様な存在と化していた俺に居場所なんてあるはずが無かった。

 

 客観的に見て恵まれていても、俺はずっとずっと孤独だった。

 

 救いなんてあるはずが無い、そんな人生とも呼べない生きた人形だった俺の唯一の楽しみは限られた時間内でのテレビやパソコンくらいなものであった。

 

 元より心臓や目の病気で無かった事だけが不幸中の幸い……まあ俺にとって『運命』に出逢うまでは些細な事でしかないとも言えたが、そのお陰で後の『運命』を変えるものと出逢えた。

 

 それは『MUGEN』と呼ばれるものだった。

 

 某大手動画投稿サイトで適当にキャラクター名を入力し漁っていた俺に飛び込んで来たのが『MUGEN』だった。

 そしてその名前に惹かれ動画を開いた俺の目に映ったのは、幾百以上ものキャラクターが織り成すバトル。

 知っているタイトルのものから知らないものまで、一キャラクター達が作り上げる試合は俺を魅了していった。

 

 それが、俺の人生の中で最高の時間だった。

 

 ちっぽけなものと笑う人もいるかも知れない。

 たかがゲーム、しかも作る側には立っていないのだから言われても当然だが、俺にとってはつまらない灰色の人生に色を少しではあるが付けてくれた大切な存在。

 

 だがやはりと言うべきか、死期が近付くにつれ動画を見る事さえも叶わない状態へと病状は悪化していた。

 

 苦しい、痛い、辛い、死にたい――俺の人生は、そうまでして生きたい訳じゃない。

 死ねるならもうさっさと死にたいだけなのに、無駄に生き長らえさせる事をする最期まで家族と呼べなかった形だけの家族。

 最後の最期まで本当に有り難迷惑だった。

 

 

 

 もう動くのさえ困難な状態になったある日の夜、俺は自殺を決断した。

 こんな事をしてまで生きていたくなかった、せめて人生の終着点(ピリオド)くらい、自分で決めてしまっても良いじゃないか、それくらいの我が儘を言ったって俺は責められなんてされる筋合はあるはずが無い。

 

 だから静かな、星空が綺麗な真夜中に俺は動かない身体に鞭を打ってまですぐ近くの窓まで這いつくばり、そして必死の思いで身を乗り出した。

 

 ああ、漸く死ねる――そう思った時。

 

「迷える子羊よ」

 

 背後から声がした。

 

 こんな真夜中、誰も来るはずがないこのタイミングで声が聞こえたら普通は心臓が跳び跳ねるくらい驚くだろう。

 だが俺は、不思議とその言葉を待っていたかの如く平然とその声に答えていた。

 

「……何でゲームのキャラクターが此処に居るか、それは置いておくが……こんな真夜中に次元を越えてまで……こんな醜態を晒している人間を見に来るとは……大層暇でも持て余したか――『ゲーニッツ』」

 

 有り得るはずの無い現象、架空の存在を見もせず確定させる。

 確信は無い、ただの直感だったが自然と口がそう動いていた。

 

 振り向くと、そこには金髪で特徴的な修道服を身に纏った外人風の男がうっすらと笑みを浮かべていた。

 やはりそれはMUGENで見たゲーニッツに他ならない存在であった。

 

 そしてゲーニッツは話した、今の自分は魂だけの存在だと。

 曰く神に、弱き者に新たな道を示せと言われた謂わば『神の使い』であると。

 

「……それで、その新たな道ってのは……なんだ」

 

 絞り出す様に、すがる様に問う。

 

 ゲーニッツの笑みが深いものに変わる、まるでその問いを待っていたと言わんばかりに。

 

「新たな世界へ、その壊れた身体、環境全てを無くし記憶を引き継いで転生を行うのです」

 

 新たな世界への転生……つまりは今まで生きてきた世界とは全く違う場所への転生を意味している。

 言い換えればこの見慣れた世界とは金輪際交わる事は無いという意味でもある。

 

 普通の暮らしをしてきた人間であれば悩むだろう。

 不自由なく住んでいた場所から、未知の場所へと記憶を引き継いで転生するなんて怖いに決まっている。

 それこそ人間が暮らすには厳しい世界だったら、そう思うだけで恐怖で身震いするものだろう。

 

 だが俺は、その言葉を聞いて得も言われぬ歓喜に心が溢れていた。

 生きてきた中で一番の、いや唯一の『自分が生きていて良かった』と感じた瞬間だった。

 

 この苦しみから解放され、且つ始めから人生をやり直せるなんて魅力的な言葉に釣られない訳がない。

 これが嘘だったら――そう考えるのは無粋だろう、何せ存在し得ない二次元の住人が目の前にいるのだから。

 

「……やり直したい……もうこんな思いは沢山なんだ……」

 

 壁を隔てる様な言葉使いはもう辞めた、自由に生きたいと言うただそれだけの感情を曝け出す。

 

「それが、私も知らぬ場所だとしても?」

 

「戦場の真っ只中だろうが、異界の生物に襲われてる世界だろうが行ってやるよ……健康な身体とその絶望に対抗出来る手段さえあればどんなに苦しくても生き残ってみせる」

 

 ゲーニッツの質問に答える、最初から腹は括ってある。

 例え過酷な世界でも俺は生きてみせる、寧ろその方が生きている感覚が研ぎ澄まされて心地よいかも知れない。

 

 真っ直ぐな目で伝える。

 ゲーニッツを見やると、俺が答えたのを聞くや否や賛辞の籠った拍手を送ってきた。

 

「素晴らしい、それでこそ生を渇望していると言える。分かりました、私から取って置きを差し上げましょう」

 

 そしてようこそ、未知なる世界へ――その言葉を聞いた瞬間、俺の視界、世界は暗転した。

 

 そして次第にその闇にノイズが掛かり始める、と同時に感じた事の無い快感に襲われる。

 

「これが……これが、誕生の瞬間……!! 古い殻から、淀んだ世界から解き放たれる瞬間なのか……!」

 

「生命の転生、この様な神聖な瞬間を、まさかこの一人間である私が見られる日が来るとは……」

 

 声だけしか聞こえないが、ゲーニッツも少なからずこの現象に神秘を感じている様だ。

 俺はそっとゲーニッツに礼を言う、何せこの転生へと導いてくれた恩人なのだから。

 

「礼には及びません、私とて神の気まぐれによって遣わされただけの身なのですから。私こそ、貴方程の生を渇望していた人物に出逢えて良かった……どうか、貴方に神の御加護があります様に」

 

 その声が聞こえた瞬間、測った様にノイズが大きくなり次第に景色が移ろいで行く。

 

 ああ、誰かに抱かれている感覚がある。

 まだこの世に生を受けものの一分も経っていないのだろう、目が見えないがとても抱かれているのが心地よい。

 これが『愛』なのだろうか、だとしたら俺は――

 

 

 

 

 

「……ん、夢か。久方振りに見たな、転生の瞬間、その時の夢は」

 

 目を開ける、巨木の近くに寝そべっていた俺は身体を伸ばし意識を覚醒させる。

 とても良い夢を見ていた、この世界へと生まれたあの瞬間の夢を。

 

 

 あの生まれて最初に抱かれた時の『愛』、それを感じてからもう15年と数ヶ月。

 俺は何不自由無く暮らしている――女尊男卑の世の中に影響されなければ、だが。

 

 インフィニット・ストラトス――俺が生を受けた世界は、かつて前世でそう呼ばれ絶大な人気を誇ったライトノベルが舞台の世界だった――


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