ロクでなし魔術講師と記憶喪失の少女   作:たこやき

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私は学校を出ると、ルミアさんが書いてくれた地図の通りにシスティーナさんの家に向かったのだが……

 

「デカイ……」

 

私は家の大きさに圧倒されていた。うちの屋敷もそれなりに大きいが、ここはそれ以上だった。

 

家の大きさに圧倒されつつも、私は用件を済ますために震える手でチャイムを鳴らし、応答した方に自分がシスティーナさんの級友であることを伝えた。

 

家の中から私の対応する人が出てくると、こちらでございますと家の中に案内され、システィーナさんの部屋の場所を教えてもらった。

 

「緊張する……」

 

システィーナさんの部屋の前で私は緊張していた。私の話を聞いて、受け入れてもらえるだろうか……また泣かれたりしないだろうか……そんな不安が頭にあった。

 

「話さなきゃいけないことなんだ……」

 

私は頬を二回叩いて、緊張をほぐすと、部屋を3回ノックした。

 

「……誰?」

 

中からは弱弱しい声が聞こえた。

 

「ステラです。中に入ってもいいですか?」

 

「ちょっと待ってて……」

 

中から元気のない声と共に物音が聞こえた。それから少し経つと、中に入っていいといわれた。

 

「失礼します」

 

私はそういって中に入ると、部屋は綺麗に整頓されており、部屋の真ん中に位置するベットにてシスティーナさんは座っていた。

 

「本当にステラさんなのね……何しにきたのよ」

 

「私の話を聞いてもらおうとおもって」

 

「あの先生と同じことをいうなら無駄よ。私は論破されたりしない」

 

「誰も同じ話をしますとはいってません。私の話はグレンさんとは違いますから」

 

システィーナさんが攻撃的な視線になったことで私はあわてて違う話をしにきたことを伝えた。

 

「クラスの皆にはさっき話してきて、ルミアさんからもシスティーナさんにもちゃんと話したほうがいいといわれたので」

 

「そう……それで何の話なのよ?」

 

「グレンさんがいってましたよね、私のこと。そのことです」

 

「そういえば……いっていたような」

 

私は話をまとめるために頭で会話の流れを考えてから、話し始める。

 

「私は15歳のときまでの記憶が一切ないんです」

 

「何を言っているの?」

 

「驚かれるのも無理はないです。今まで私はそういう振る舞いをしてきませんでしたからね。でも、これは事実です。私は生んでくれた家族の名前や顔もわからない。それまでどう生きてきたのかもわからない」

 

クラスの皆が驚いていたように、システィーナさんも驚いていた。

 

「お世話になっている人に自分の家族が魔術で死んだと聞いたときは怖かった。自分が魔術を扱えることが恐怖でしかなかった」

 

「それでもステラさんは魔術を学んでいる……どうして?」

 

「私の記憶もきっと魔術的なものでなくなった。だったら……魔術を極めることでその記憶を取り戻すことが出来るかもしれないって思うようになったからです」

 

「もしも……取り戻せなかったらどうするのよ」

 

「そのときは……大事なものをまた見つけるだけです。私は家族や記憶といったものを失ったけど、その分大事なものも生まれた。失っても……希望があればまた前に進める。足を止めることなく歩き続けられる」

 

記憶や家族を失ったものから逃げなかった理由は自分の運命から目を背けたくなかったからだけど、希望があったからこの道に進むことが出来た。

 

「システィーナさんが魔術をどれだけ誇りに思っているかは見ればすぐにわかります。それに比べて、私なんて、道端を歩いているありさんです」

 

「ありさんって……」

 

「小さくて、醜くて、一人じゃ何も出来ない小さなありさん。何度も何度も踏みつけられられていくんですよ」

 

「そうね。でもそこからまた立ち上がるんでしょ?」

 

「はい。私は踏みつけられても、立ちます。未来につながるものがある限り、何度でも……」

 

普通ならありは一度踏みつけられたら死んでしまう。

 

今の私はそれくらいの生き物。一人では何も出来ないし、今までも踏みつけられることで失ったものがある。

 

それでも、私は立ち上がる。どれだけ踏みつけられても、立って歩き続ける。

 

「私、ステラさんのことを誤解してたかも」

 

「え?」

 

「最初はあいつの言いなりに動いてて、前の話もあいつを信じているから話してくれたのだと思ってた。でも違った……ちゃんとステラさんには考えがあって、ちゃんと意思があって、今もこうして自分のことを話してくれてる。本当は話したくないことだって思ってるはずなのに……」

 

「私は皆やシスティーナさんを信じたい。皆と一緒に成長したい。だから……自分の過去なんていくらでも話します」

 

今行動しているのは、グレンさんのためじゃない。あくまで私のためで、私が皆に受け入れてもらうためには自分の秘密を話すしかなかった。

 

「私たち、案外仲良くなれるかもしれないわね」

 

「そうかもしれませんね」

 

「先生もステラさんのように何かあったのかもしれないわね……」

 

「それは本人に聞いてもらったほうがいいと思います。私が話すのも限界があるので」

 

グレンさんのことは私もよくわからない部分がある。だから、私が話すよりも、本人が話したほうがいいと思った。

 

「ステラさんはその……グレン先生のことが好きなの?」

 

「ふぇ?」

 

「だって、普通に考えて好きじゃないと……ここまで尽くせないでしょ?」

 

考えてみればそうだ……今までグレンさんのことは家族として見てきたから……そこまでの認識はなかった。

 

「どうでしょう……好きというよりは大事な人という思いのほうが強いです」

 

「それが好きってことなんじゃないの?」

 

「うーん。よくわからないです……」

 

グレンさんのことは好きか嫌いかで聞かれたら前者だ。ただ……システィーナさんのいう好きの意味は異性としてという意味がこめられている。

 

「ステラさんはメルガリウスの天空城って知ってる?」

 

「名前くらいですね」

 

「昔ね、私のお爺様がよく城の話をしていたの。お爺様が魔術を始めたきっかけは城に足を踏み入れて、全容を見たかったんだって。それが自分の夢だったからって、よく言っていたわ」

 

「おじいさまの夢は叶ったんですか?」

 

システィーナさんは首を横に振った。

 

「結局は夢物語に終わったわ。おじいさまはあきらめてしまったけど、私はいつか立派な魔術師になって、あの城の秘密を解き明かしてみせる。それが私の夢だから」

 

「なんかいいですね。そういうの」

 

自分があきらめてしまった夢を孫が受け継いでくれる。それだけでも、かなり幸せなことだと思うから。

 

「ステラさんは何か夢とかないの?」

 

「私は魔術で人と人をつなげられたらいいなって思ってます」

 

「どういう意味?」

 

「私は魔術でいろんなものを失った。本気で魔術が怖いと感じた。でも……逃げずに自分の運命に立ち向かったからこそ、自分の弱さを克服することが出来たし、こうして皆さんと出会えた。魔術で人を導いていける、人と人をつなげられる。そんな風に私はなりたいです」

 

魔術には残酷な面もある。時には人を傷つけることもある。

 

でも、魔術にはいろんな可能性があり、人を導く力がある、人をつなぐことが出来る。その夢はきっと険しい道のりになるだろうけど、私はそういう魔術師になりたい。人を幸せに出来るようなそんな人間になりたい。

 

「ねぇ……呼び捨てで読んでもいい?なんか親近感が沸いてきた」

 

「いいですよ。私もそう感じてますから」

 

「ふふ。私たち、数日前に知り合ったばかりなのにね」

 

「そうですね。いろんなことがありましたけど、私はシスティさんのことは嫌いじゃないです」

 

「私もステラのことは嫌いじゃないわよ。真面目で優しくて……あいつに利用されていないか心配になるところはあるけど」

 

「それは勘弁したいです……」

 

お互いに笑いあいながら、話している今の時間がとても幸せに感じる。

 

私はこの学園に来て正解だったと思う。一人のまんまだときっとこんな思いをすることはなかったとおもうから。

 

私はこの時間をずっと大事にしたい。皆とグレンさんと一緒にすごす時間。それは私にとって、何よりも大事なものだから。

 

 


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