ロクでなし魔術講師と記憶喪失の少女   作:たこやき

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私について

その後、私はグレンさんの家にいった。

 

そこで私はグレンさんとグレンさんの育ての親であり私のことも知っているというセリカさんから私のことに関する話を聞いた。

 

私の両親は早くに魔術によって死去しており、一人っ子だった私は身よりもおらず、預けられる形でこの家に住んでいたこと。

 

私はここでさまざまな魔術を勉強しながら、お二人の生活のお世話をしていたこと。

 

私が13歳になったころにグレンさんにプレゼントをしたこと。

 

そして、少し前に私が何も言わずにこの家を出て行ったことを二人は話してくれた。

 

その話を聞いたとき、私は動揺し、すぐにこの話を受け入れることが出来なかった。

 

「私はどうして……」

 

「それは私たちにもわからない。何せ、お前は何も告げずに出て行ったからな」

 

「私に一体何が……」

 

出て行く前の私に特に変わったところはなかったと二人は話していた。

 

それならどうして急に私はこの家を出て行くことを決めたのだろう。

 

失った記憶とあの場所にいたことが何か関係しているのだろうか。

 

過去の自分のことは気になるけど、今はできることをやろう。そうしたら、おのずと自分のことがわかる日が来ると思った。

 

自分に関する記憶は名前しか覚えていなかったが、魔術に関する知識はあった。

 

時より、私はそのことが気になることもあったが、気にすれば、するほど頭の中が混乱したから、いつしかそのことを考えないようになった。

 

それから二年の月日が経過した日のこと。

 

「うん。完璧」

 

私はレンジに入っているクッキーの出来を見ると、カップに紅茶を注ぐ。

 

鏡の前で鮮やかな黄色の色をしている短髪の髪が乱れていないか、確認すると私はセリカさんの部屋を3回ノックした。

 

「お茶が入りました。セリカさん」

 

反応がなかったので、何かあったのだろうかと私が用件を伝えながら部屋に入った。

 

「お願いします。俺は働きたくないです!」

 

そこには何故か土下座しているグレンさんの姿があった。

 

「えっと……どうかしたんですか?グレンさん」

 

「おお。もうティータイムの時間か。今日はどんな紅茶だ?」

 

「はい。今日は疲労回復にきくものです。いろいろとお疲れのようなので」

 

「おお。ステラは気が利くな。ほら、いつまでも床に土下座してないで、ステラにこの現状を説明してやれ」

 

私はカップをセリカさんの机の上におくと、グレンさんのほうを向いた。

 

「働きたくないって……一体どういうことですか?」

 

「俺にアルザーノ帝国魔術学園の非常勤講師として働いてほしいんだと」

 

「それってすごい話じゃないですか。でも……何でグレンさんにそんな話を?」

 

「いい加減、こいつに働いてもらおうと思ってな」

 

ここ一年、グレンさんは部屋に引きこもっている状態で働いてはおらず、一日を家で過ごすという体たらくだった。

 

「お前からもいってやれ。いい加減働いてくださいってな」

 

「純粋なステラがそんなことをいうはずがない!邪道な道にステラを引き込むのはやめろ!」

 

「だったらお前が働ければいいことだろう。そうしたらステラも困ることはない」

 

二人に詰め寄られ、私はどう返事を返せばいいか困ってしまう。

 

「私はグレンさんがしたいようにやるのが一番いいかと……」

 

「ステラ!そんな甘いことを言っているから、こいつがいつまでたっても働かないんだ」

 

「おい……ステラはいいことをいったんだぞ。それを否定することはないだろう」

 

「お前のしたいようにするだと?そうしたらお前は今の生活を続けるだけだろ」

 

二人の話は平行線をたどっており、まとまりそうにない。

 

「とにかく無理だ。俺に誰かを教える資格も権利もない。大体俺は魔術が嫌いなんだ。だから、この話はなかったことに……(其は摂理の円環へ帰還せよ・五素は五素に・像と理を紡ぐ縁は乖離せよ)」

 

グレンさんが反論を言う前にセリカさんが早口で呪文を告げると、グレンさんと私の横を光が通り、それは壁を突き破り、夜空に消えていった。

 

「次は外さん」

 

「ひぃぃぃ!?」

 

こうして、セリカさんの脅しによる(?)説得により、グレンさんはアルザーノ帝国魔術学園の非常勤講師をやることになった。

 

グレンさんはしょんぼりしながら、部屋を出て行くと。

 

「まったくあいつにも困ったものだ……」

 

「あはは……」

 

「ちょうどいい。お前にも話があったんだ」

 

「私にですか?」

 

私は部屋を出て行こうとすると、セリカさんに呼び止められる。

 

「ああ。お前も生徒として学園に通ってもらおうと思ってな」

 

私が学園に通う必要はあるのだろうか。

 

「お前もずっとここで私から魔術を学ぶのも飽きてきただろうと思ってな」

 

「い、いえ……そんなことないです」

 

私はここにすみ始めてから、セリカさんから魔術を学び、それは普段使えるものや基礎的なものまでいろんなものを教わった。

 

「それにここで一人で過ごしているよりも、同世代の友達を作ったほうがいいだろうと思ってな」

 

「友達……」

 

ここでの生活は一人でいる時間のほうが長いから、同世代の子との付き合いはない。

 

「お前は過去にこだわることはせず、新しい未来を見つめ、前に歩み始めた。そのことを私たちは認めているし、間違いだとは思っていない。学園に通うことでお前にとってきっといいことにつながると私は思う。それにお前に関することも見つかるかもしれない」

 

「確かにそうですね」

 

セリカさんの言うことは一理あった。

 

「わかりました。私も学園に通います」

 

「ありがとう。ほんと……素直ないい子に育ってくれて私は嬉しいよ」

 

「私はいい子ですかね?」

 

「いい子だよ。少なくとも、グレンよりは手はかからない。過去のお前も今のお前もな」

 

セリカさんのまなざしはまるで成長している子供を見つめるやさしくて、温かみのある母親のまなざしだった。


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