ロクでなし魔術講師と記憶喪失の少女   作:たこやき

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前日

大会の前日のこと。私たちは放課後の練習を早めに切り上げると、下校していた。

 

「まったく信じられない!明日は本番なのよ!それなのに、今日はつかれたから早めに終わる~ですって!まだまだ確認しておきたかったことがあったのに!」

 

システィさんはいつものようにグレンさんの態度に文句を言っている。

 

「まぁまぁ……明日に疲れを残さないっていう配慮もあると思うので」

 

「そうだよ。それにしても、先生、日に日にやつれていってない?」

 

「そうね。風邪でもひいたのかしら?」

 

事情を知る人間としては風邪でもなんでもないですといえないのが悲しいところである。

 

「でも、グレンさんのおかげでクラスの空気はいいですよね」

 

「珍しくあの先生がやる気になってるからね」

 

「あんな風に真剣な顔で何かに取り組む先生の横顔って、やっぱり格好いいよね?」

 

ルミアさんはうれしそうに笑っている。

 

「……別に?大体、あいつ、普段だらしないんだから、たまにはああして真面目になってくれないと困るわよ」

 

「ふふ、素直じゃないなぁ」

 

「……ど、どういう意味よ?」

 

「時には素直になるのも大事ですよ。素直な自分になることで新しい扉が開かれますから」

 

「そうだよ。システィもステラみたいに素直になればいいのに」

 

「私は充分素直でいるとおもうんだけど………」

 

システィさんもルミアさんもグレンさんのことを好意に思っている。

 

私ももちろん同じ気持ちなんだけど、私の思いと二人の思いは違うのかな………

 

「ステラ、この後って暇?」

 

「一応開いてますが……どうかしましたか?」

 

「今日はうちにこない?」

 

「システィさんの家にですか?でも迷惑なんじゃ……」

 

「そんなことないわよ。ステラのことは一度、お父様とお母様に紹介したいと思ってたから」

 

システィさんのご両親は確か官僚を務めていると、前に聞いた。

 

「で、では……お言葉に甘えます。今日はよろしくお願いしますね」

 

「ふふ。相変わらず真面目なんだから」

 

「そうだね」

 

恐縮している私を見て、システィさんとルミアさんはそれぞれに微笑んでいた。

 

そして私はシスティさんの家にて

 

「今日はお世話になります」

 

「おお。君がステラちゃんか。話は娘からよーく聞いているよ」

 

私はシスティさんの両親に挨拶した。

 

「ほんと、あの子にそっくりね」

 

「あの子って……もしかして私の母ですか?」

 

「ええ。私たちとあなたのお母さんは友人だったの」

 

私の母とシスティさんのご両親が友人同士だった……それなら、何か聞けるかもしれない。

 

「私の母はどんな人でしたか?」

 

「そうね。自分の正義を信念にすべてを悪を滅ぼすために自分を犠牲にしていた人だったわ」

 

「お母さんが正義を……」

 

「君の母上は立派だった。人の鑑として生きていたからな」

 

私の母も、私と同じように人を導くことを目標としていたのかな………もしも、同じ考えだとしたら、私はうれしい。

 

「君は確か記憶がなかったんだな……今まで辛かっただろうに」

 

「そうね。記憶がないってことは自分のことだけじゃない。家族のこともわからないんだもの」

 

システィさんのご両親はきっと優しいかたがたなのだろう。こうして他人である私のことも心配してくれるのだから。

 

「私は大丈夫ですよ。記憶はないですけど、思い出はこれから沢山作れると思うので」

 

「思いはなくならない。君の母上もよく言っていたよ」

 

「私の母も……やっぱり考え方は似てるのかもしれません」

 

それから、皆で一緒に夕食を食べた。皆で話をしながら食べるご飯はとてもおいしく、とても楽しい時間だった。

 

(もしかしたら……私もお父さんとお母さんと一緒にこういう感じで過ごしてたのかな)

 

まだ小さい私が今日あったことをうれしそうに話し、それを両親は微笑みながら聞いてる。そんなやりとりがあったかもしれない。

 

(記憶は戻らない……でも思いは残ってる。私は多分両親のことが大好きだったんだ。そして、今の家族のことも大好きだったんだ)

 

セリカさんとグレンさんと過ごす日々はとても楽しい。いろんなことがあったけど、二人に出会えてよかったと思っている。

 

そして、夕食が終わり、夜が遅いということで、とまらせてもらうことになった。

 

「すみません……ちょっとだけお邪魔するつもりが、お泊りすることになっちゃって」

 

「別にいいわよ。それに夜道を女の子を一人では危険だ!ってお父様がいうんだもの」

 

「うん。私もステラとはいっぱいお話したかったから。とまってくれるのは大歓迎かな」

 

私たちは部屋の真ん中に布団を並び、川の字になって寝ている。

 

中央が私、右がルミアさん、左がシスティさんという形だ。

 

「今日はありがとうございました。楽しかったです」

 

「ふふ。ステラはほんとに謙虚ね。あの先生と一緒に暮らしているとは思えない」

 

「そうですかね?」

 

「そうだよ。もう少しくだけたしゃべりかたでもいいのに」

 

くだけたしゃべりかた……うーん。どうやってすればいいんだろう。

 

「えっと……今日はありがとうね。ルミアさん、システィさん。今日はいっぱい話そうね」

 

敬語を外し、普通に話すが、二人の反応はいまいちだった。

 

「なんかごめん……いつものほうがいいかもしれない」

 

「すごいぎこちないもんね……」

 

「ごめんなさい。こういう会話に慣れてないので……」

 

やってみて思った。私はいつものしゃべりかたのほうがあっていると。

 

「ステラもいってたじゃない。思い出は沢山作れるって。だから徐々に慣れていけばいいのよ」

 

「うん。ステラはステラなりにね」

 

私は二人と出会えてよかった。

 

「これからもよろしくお願いしますね」

 

その日は夜遅くまで二人と話した。気づいたときには私はすでに眠っていた。

 

その日の夜はすごくいい夢を見た。大好きな友達と大好きな家族とずっと一緒にいる。そんな幸せな光景が続いていく暖かい夢だった。


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