ロクでなし魔術講師と記憶喪失の少女   作:たこやき

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練習

そして、その日の放課後のこと。私はシスティさんと一緒に決闘戦に向けての練習をしていた。

 

「大いなる風よ!」

 

「大気の壁よ!」

 

システィさんのゲイル・ブロウを私は空気の壁である、エア・スクリーンで防御する。

 

「雷精の紫電よ!」

 

お互いにショック・ボルトを詠唱したが、二つの電撃は真正面にぶつかりあい、消滅した。

 

「くっ……やっぱりステラは詠唱が早い!」

 

「まだまだいきますよ!『風霊の咆哮』!」

 

私は学生用の攻撃魔術であるスタンボールの詠唱をした。スタン・ボールは激しい音と衝撃で相手にダメージを与える魔術だ。

 

「しまっ……」

 

システィさんはスタン・ボールの衝撃を受け、その場で倒れた。私はあわてて、システィさんの元に駆け寄る。

 

「ごめんなさい!大丈夫ですか!?」

 

「このくらいなんてことないわ」

 

私は倒れているシスティさんに手を伸ばして、起き上がらせる。

 

「それにしても、相変わらず、状況判断が的確ね。私が次の行動に出る前に、手を撃ってくるんだもの」

 

「えへへ……私にはこれくらいしかとりえがないので……」

 

「そんなことないわよ。ステラにはとりえがたくさんある。優しいところとか、真面目なところとか……」

 

システィさんは頬をかきながら、私の長所をいってくれた。

 

「ありがとうございます。私、がんばりますから、絶対に優勝しましょう!」

 

「がんばり過ぎないようにね。ステラの場合は」

 

「うっ……ほとほどにがんばります」

 

この前のことがあり、私は無茶をする子というイメージがクラス内に充満していた。

 

私は頑張りすぎないくらいがちょうどいいんだとよく言われている。

 

私たちが話していると、中庭のほうでなにやらもめているようなやりとりがみえた。

 

「グレンさんとハーエイ先生ですね」

 

「ハーレイ先生よ」

 

もめているのは、よくグレンさんにいちゃもんをつけている先生で、グレンさんとなにやら口論となっている。

 

「いってみますか」

 

「そうね」

 

私たちは口論が起きている現場に向かった。

 

「おう、ステラ。練習はもういいのか?」

 

「なんかもめてるみたいだったので……様子を見にきたんです」

 

グレンさんの近くに行くと、ハーレイ先生は私を一瞥する。

 

「ステラ=フィールド。うわさは聞いているぞ。君もあの魔女のお気に入りだそうだな」

 

「えっと……魔女というのはセリカさんのことですよね?」

 

「そうだ。君は相当優秀な生徒だと聞いている」

 

ハーレイ先生は私とグレンさんを見比べる。

 

「え、えっと……何か?」

 

「なるほど。不真面目なグレン=レーダスと違って、君はちゃんと礼儀をわきまえているようだ」

 

「ハーエイ先輩。うちのステラに余計なことをいわないでもらえますかね。こいつは人の言うことをすぐに信じちゃうんで」

 

「ハーレイだ!貴様とは違って、優秀な生徒に声をかけるのことの何が悪い。それに私は悪いことはいっていない。むしろ褒めているつもりだ」

 

皮肉ばかりで褒められている気がまったくしないのは何故だろう……

 

「悪いですけど、優勝は俺らのクラスはもらいますよ。なんたって、今年のうちにはこいつがいますから」

 

グレンさんは私の肩に手を置く。

 

「あ、あの……グレンさん」

 

「ハーエイ先輩のいうとおり、こいつは優秀です。おそらく、先輩のクラスの誰よりも」

 

「ほう……だったら、ステラ=フィールドをエースとして使うわけか?だが、クラス全員を種目に出すんだろ?だったら無駄な駒を使わずに貴様が信頼する、ステラ=フィールドで点数を稼げばいいのではないか?」

 

「ステラはエースじゃない。こいつはジョーカーだ」

 

グレンさんの言葉に私たちのクラスは唖然としていた。

 

「ジョーカーだと!?」

 

「ああ。こいつのことはハー……先輩のクラスもよく知らないはず。ただの転入生。そういう認識ですよね?」

 

「そうだ。私のクラスは誰もステラ=フィールドのことは知らない。あくまで転入生という認識だ」

 

「そうか。やっぱりこいつをジョーカーとして使うことは間違ってなかった」

 

私がジョーカー?どういう意味だろう……

 

その後はシスティさんの介入でその場はなんとか収まった。

 

「あの……グレンさん、私がジョーカーってどういう意味ですか?」

 

「私も聞きたい」

 

システィさんと私はグレンさんに尋ねると。

 

「ハーなんとか先輩のクラスがお前のことを知らないってことは、多分全部のクラスにお前のことは知られてない。あくまで転入生の女子というイメージだ」

 

「それがどうしてジョーカーなんですか?」

 

「お前が出る種目は何だ?」

 

「決闘戦です」

 

「そうだ。その決闘戦で見たことのない生徒が出てきたとしたら相手はどうなる?」

 

「ふつうは戸惑うでしょうね。私もほとんどの生徒は知らないので、同じ条件だとは思いますが……」

 

「お前の場合は複数の戦い方ができるだろ。相手がワンパターンならいくらでも対応ができる」

 

うーん。話が全く読めない……

 

「なるほど。ステラの対応の良さをいかすってことですね」

 

「そうだ。こいつの得意技もどんな戦法を取るのかも相手は知らない。それに加え、お前はいろんな戦い方をできる。ワンパターンではなく、いろんな戦術を組み合わせることで相手に対策の余地を与えず、お前は事前に相手をじっくりとみることができ、対策も立てられる。例え、相手のことを知らなくても、お前ならすぐに対応できる」

 

「ステラのことを信頼した上での戦略ですね」

 

「まぁな。こいつの場合はお前らも知っているとおり、冷静な対応力と高速の詠唱に加え、実力はおりがみつきだし、同じ学年のやつには負けることはないとは思う。ジョーカーっていうのはそういう意味だ。まぁ、お前の場合は切り札っていう意味も込められてるけどな」

 

クラスのこともそうだけど、グレンさんはちゃんと皆を見ているんだ。

 

「ありがとうございます。そこまでいわれたら、私は全力でがんばります」

 

「うん。お前は少し気負いすぎる……もう少しリラックスしろ」

 

「は、はい。当日にはリラックスした状態で……」

 

「ごめん、間違えたわ。何も考えるな。お前になんか言うと、逆にスイッチが入りそうで怖い。当日まで無理にがんばろうとするな。」

 

「あはは……不器用でごめんなさい」

 

私とグレンさんが仲良く話していると、システィさんがなぜか不機嫌になった。

 

「ステラ、練習を続けるわよ。時間はあまりないんだから」

 

「私はもう少しお話したいんですが……」

 

「駄目よ。時間はないんだから。それにステラばっかりずるいし……」

 

「ふぇ?」

 

「な、なんでもない!」

 

私は首をかしげながらも、システィさんの後をついていった。

 

「なんだ?あいつら」

 

「きっと羨ましいんですよ。ステラのことが」

 

「羨ましい?」

 

「ステラは先生に信頼されて、そこまでの役割を与えてもらったことに対して、システィは何も言われていないから」

 

「白猫にも一応期待してるぞ。ステラが駄目だったときはギイブルとあいつがなんとかしてくれるっておもってるから」

 

「それを本人に伝えたらどうですか?」

 

「伝えたら、ステラのことを信頼してないんですか!って怒りそうだからな」

 

「あはは……システィならありえそう」

 

私たちが去った後、グレンさんとルミアさんが話しているのを見て、私はちょっとだけ羨ましくなった。二人のやり取りが仲のいい兄妹にみえていたから。


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