ロクでなし魔術講師と記憶喪失の少女   作:たこやき

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魔術競技祭

アルザーノ帝国学院は賑わいを見せていた、その理由は一週間後に行われる魔術競技祭に向けて、どのクラスも練習に熱が入っているからだ。

 

今年はアリシア七世が来賓し、競技祭で優勝したクラスには、女王陛下直々に勲章を賜る栄誉が与えられる。その栄誉を勝ち取るために、どのクラスも本気で優勝を目指していた。

 

そう……魔術学士二年次二組を除いて。

 

「飛行競技に出たい人、いませんかー?」

 

壇上に立ったシスティさんが教室を見渡して呼びかけるが、誰も反応しない。

 

「じゃあ、変身の種目に出たい人は?」

 

これにも誰もが反応しない。

 

「困ったなぁ……これじゃあ、いつまで経っても競技祭の参加メンバーが決まらない……」

 

「そうですね……一週間後ですし、今日中には決めたいところですが……」

 

システィさんは頭を掻きながら、黒板の前で書記を務めるルミアさんに目配せする。ルミアさんは一つ頷き、穏やかながら意外によく通る声でクラスの生徒達に呼びかけた。

 

「ねぇ、皆。折角グレン先生が私たちの好きなようにやっていいって言ったんだし、思い切って頑張ってみない?去年出れなかった人とかは絶好の機会だよ?」

 

「せっかくのお祭りですし、皆で楽しんだほうがいい思い出になると思いますよ」

 

私とルミアさんが呼びかけるが、それでも、誰も反応しない。皆が遠慮しているように見えた。

 

「……無駄だよ、3人とも」

 

 この膠着状態にうんざりした眼鏡の少年が席を立った。彼の名前はギイブル。このクラスではシスティさんに告ぐ優等生だった。

 

「無駄ってどうしてですか?」

 

「他のクラスは例年通り、クラスの成績上位人で出場者を固めているんだ。最初から負けると分かっていながら誰が出場したがるっていうんだい?」

 

魔術競技祭には参加者の出場条件に付いて特に制約はないし、成績上位陣のみで出場者を固めて、優勝を狙いに行くというのは、決して間違いじゃない。

 

「でも、勝ち負けだけが大切じゃないでしょ?参加することに意義があって……」

 

「本気で言ってるのかい?今回の競技祭には女王陛下が賓客として御来賓なされる。女王陛下の前で無様な様をさらしたくないのさ。足手まといにお情けの出番を与えるよりも、早く君や僕の様な成績優秀陣でメンバーを固める。それがクラスの為でもあるだろ」

 

「それだと出場できない人がいますが、その人たちはどうするんですか?」

 

「彼らには悪いが、僕たちの応援に回ってもらおう。それがクラスのためだ」

 

彼の言い方はまるで戦力外は必要ないといっているようなものだった。

 

ギイブル君の言葉にシスティさんは我慢ができず、怒声を上げようとした、次の瞬間、教室の扉は開き、グレンさんがやってきた。

 

「話は聞かせてもらった!ここは俺、グレン=レーダス大先生に任せろ!」

 

講師用のローブを羽織ったグレンさんが突然現れた。

 

(面倒な人がきた……)

 

クラスの皆の気持ちが一つになった瞬間だった。

 

「白猫、競技種目のリストくれ。ルミアは俺が今からいう名前を競技の横に書いてくれ」

 

グレンさんはリストを見ると、種目ごとに生徒を分けていった。

 

決闘戦ではシスティさん、ギイブル君、そして私の三人が選ばれた。

 

「私……ですか?」

 

「お前に関しては暗号早解きもありだと思ったが、こっちのほうが適任だと思った」

 

本来なら、一番配点の高い決闘戦に、成績上位三名を選ぶのが妥当だが、グレンさんはウインディさんではなく、私を選んだ。

 

「で、でも……私、まともに戦えるかどうかもわかりませんし……」

 

「お前に足りないのは自信だ。この前の戦闘を見ても、お前は強い。だから大丈夫だ」

 

大丈夫といわれても、不安はある。なにせ、クラスで一番点数が高い種目なんだ。

 

「お前らもこいつでいいよな?」

 

グレンさんはクラスの皆に問う。

 

「まぁ……ステラちゃんなら」

 

「この前もすごかったし……出るならこれしかないよな」

 

「納得はいきませんが……ステラさんなら仕方ありませんわね」

 

クラスの皆は私が出ることに意見はないようだった。

 

その後もグレンさんは理由を述べた上で生徒たちを競技に振り分けていった。

 

そして、すべての競技にクラス全員が振り分けられた。

 

「やれやれ……先生、いい加減にしてくださいませんかね?」

 

ギイブル君が反論すべく立ち上がった。

 

「何が全力で勝ちに行く、ですか。そんな編成で勝てるわけないじゃないですか」

 

「ほう?ギイブルということは、俺が考えた以上に勝てる編成ができるのか?よし、言ってみてくれ」

 

「そんなの決まってるじゃないですか!成績上位者だけで全種目を固めるんですよ!それが毎年の恒例で、他の全クラスがやってることじゃないですか!」

 

全クラスがやっていること、それはつまり楽しめない生徒が存在していることだ。

 

(な、なるほど。生徒を使いまわしていいのか……それなら、ステラを別の競技に持ってくることでも使うことができる。白猫とステラ。それに優秀なやつを使いまわせば……)

 

私はグレンさんのほうを見ると、明らかによからぬことを考えていることはすぐにわかった。

 

「何言ってるの、ギイブル!先生が皆の得手不得手を考えてくれた編成にケチをつけるの!皆も、先生がこんなにも考えてくれてるのに、しり込みするなんてそれこそ無様じゃない!」

 

システィさんは皆に強く訴えた。

 

「そうですよ。これが私たちの最高の布陣です。これを崩すなんてありえません!崩したら、それこそ優勝が目指せなくなります」

 

「大体、成績上位者だけに競わせての勝利なんて、なんの意味があるの?先生は全力で勝ちに行く、先生はこのクラスを優勝に導いてやるって言ってくれたわ!それは、皆でやるからこそ意味があるのよ!」

 

せっかくのお祭りだし、皆でやったほうが思い出にもなる。

 

「ですよね、先生!?」

 

「お、おう……そのとおりだ」

 

グレンさんは挙動不審に答えた。

 

クラスの皆もシスティさんの言葉に賛同していき、ギイブル君はクラスの総意だというと、引き下がった。

 

「ま、せっかく先生がたまにやる気出して、一生懸命考えてくれたみたいですから、私達も精一杯、頑張ってあげるわ。期待しててね、先生」

 

「お、おぅ……任せたぞ……」

 

グレンさんは苦笑いを浮かべながら言葉を返す。

 

「なんかかみ合ってないなぁ……」

 

「あはは……うまくいくといいですね」

 

そんな二人を私とルミアさんは苦笑を浮かべながら見ていた。

 


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