ロクでなし魔術講師と記憶喪失の少女   作:たこやき

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一ヵ月後

事件から一ヶ月が経過すると、学園は何事もなかったかのとおり、平穏を取り戻していた。

 

「まさか、ルミアが三年前に病死したエルミアナ王女だったとはな」

 

「ほんと……びっくりですよね……」

 

私は学園の屋上でセリカさんとグレンさんと一緒にいた。

 

「おまけに異能者とはな。お陰で事情を知った俺とステラ、白猫は秘密を守るように国から協力要請って名前の脅しを掛けられたよ。面倒なこと押し付けてきやがって」

 

ルミアさんは異能者だった。異能者とは生まれつき、ごくまれに魔術に依らない奇跡の力を生まれながらに体に現れる特殊能力者のことで、ルミアさんは触れた相手の魔力や魔術を自分の意思で何十倍にも増幅できる感応増幅者だ。

 

「私は後から聞きましたけど、国からの要請というよりは脅迫でしたよね。逆らうと、この国にいられなくなるぞっていう」

 

「ほんとそうだよな。だから働きたくないんだよ……」

 

言葉のとおりで要請というよりは脅迫に近いものだった。

 

「帝国では、異能者は悪魔の生まれ変わりとして迫害されている。国としちゃ王女がそんな存在だと色々拙いんだろう。胸くそ悪い話だがな」

 

「大人の事情ってやつですね」

 

「まぁ、そんなことはどーでもいいさ。アイツはアイツだ。今までと何も変わらねーよ」

 

「そうですね。ルミアさんがどんな立場であろうと、ルミアさんは私の友達。それは変わらないです」

 

どんな事情があろうと、ルミアさんが私の友達であることに変わりはない。

 

「しかし、どういう風の吹き回しだ?本当に講師になると言い出すとは思わなかった。その講師用のローブ似合うじゃないか。先月の事件で今度こそ、お前が魔術にかかわることはなくなると思っていたんだが……」

 

事件の後、グレンさんは正式に学園の講師となった。

 

「別に……ただ、この間のヒューイって奴が他人事には思えなくてな。ま、自分の人生の失敗を魔術の所為にするのを止めたのさ。少しだけ、前向きに生きてもいいだろうってな。それに」

 

グレンさんは私を一目見る。

 

「この前みたいにまたこいつが無茶をしないように傍で見守るやつが必要だと思ったんだよ」

 

「この前はごめんなさい……教室を破壊しちゃって……」

 

「そうしなければならない状況だったんだろ?だったら問題ないさ。誰かを守るために力を使うことは決して間違いじゃない」

 

セリカさんは微笑みながら、私の頭をなでる。

 

「それにステラにはいい勉強になったはずだ。人を守るためには、自分を大事にしなければならないということがな」

 

「そうですね。私は自分を大事にします」

 

今回のことで学んだことは決して忘れない。

 

それにしても……あの事件の後、私は夢の中ではナミルさんとは会っていない。過去の私が何をしていたのか、なぜ私が組織に狙われるのか。いろいろと疑問が頭の中を巡っていた。

 

正直に言うと、不安はある。この先の自分のあり方に迷うところもある。

 

「ステラ、どうかしたのか?」

 

「いいえ。何でもありません」

 

不安なことはある。でも、それを言葉にするのはやめよう。いつかきっと本当の自分が見つかる日までは、この悩みは自分の胸の奥にしまっておこう。

 

「あ、ここにいました!探しましたよ!先生」

 

システィさんとルミアさんがやってきた。

 

「やれやれ、うるせーのがきたな」

 

「さっきの授業いいたいことがあるんです!」

 

「あーあ、はいはい」

 

二人はいつものように口論を始める。

 

「ステラ。もう体は大丈夫なの?」

 

「はい、ご心配をおかけしましたが、私はもう大丈夫なので」

 

私はその場で軽くジャンプし、体が万全な状態に戻ったことを伝えた。

 

私は事件の後、数日の間、学校を休んだ。事件の後、数日の間は風邪のような症状が出たことから、私はまともに体を動かすことができなかった。

 

「いいですか!?正式にこの学院の講師になったからには、今まで以上にふさわしい行動が必要になってくるんですからね!大体先生には……」

 

「説教はそこらへんで……今日はあれをしなくていいですか?」

 

「ふぇっ!?」

 

「ふふ。先生、聞いてください。システィったら、先生に助けられたお礼に今、ステラと一緒に……むぐっ」

 

ルミアさんがすべてを言い切る前にシスティさんが口をふさぐ。

 

「なんだって、よりにもよってこいつの前で言おうとするのよ!?」

 

「え~でも、このまま放っておくと、いつまでたっても言い出しそうにないし……」

 

「そうですよ。決して恥ずかしいことではありませんよ」

 

システィさんは私たちの言葉を聞くと、真っ赤になる。

 

「そうだ。今日は勉強としてこの後にケーキを食べに行かない?」

 

「勉強ですか、それは大事です。今後の予習、復習もかねて、ぜひいきましょう」

 

これは方便で決して勉強のために行くわけではない。

 

「くっ……ルミアもステラも……どうせ勉強じゃないでしょ!」

 

「いえいえ、話題のお菓子を食べるという大事な勉強です」

 

「それのどこが勉強なのよ……」

 

「話題を知り、流行に乗っかる。それも大事なことですよ」

 

「それって大事なことなのかしら?」

 

「大事です。空気を読むことは何よりも大事ですよ。システィさん」

 

「空気を読むことって……それって勉強でもなんでもないじゃない!」

 

システィさんが難しい顔をしていると、ルミアさんがシスティさんと私の手を握る。

 

「ほら、早く行こうよ。お店が閉まっちゃう」

 

「きゃっ!そんなに急がなくても、お店は逃げないわよ!」

 

「楽しみです。私は甘いものが大好きなので」

 

私たちはそろって走り出す。その光景をセリカさんとグレンさんがほほえましそうに見ている。

 

「変わったな。ステラは」

 

「ああ。あいつがあんなふうに笑うところは初めて見た」

 

「あいつはこの先……どんな魔術師を目指していくのかな」

 

「皆を導ける魔術師になりたいって前に言ってたぞ」

 

「そうか……あいつなら皆を正しい方向に導いていけるさ」

 

(それに見てみたくなったんだよな。此奴らが、将来何をやってくれるのか。ステラはどんな風に魔術師たちを導いていくのかを……)

 

グレンは成長していく、ステラを見ながら思う。

 

 


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