ロクでなし魔術講師と記憶喪失の少女 作:たこやき
次に私が目を覚ますと、どこかの迷宮にいた。
「ここは……?」
私は確か学校にいたはず……それなのに、どうしてこんなところにいるのだろう。
「やっと起きた……無茶しすぎ」
後方から声がしたから、振り返ってみると。
「ルミア……さん?」
そこにいたのは白い翼を宿しており、ルミアさんにそっくりな少女だった。
「私はあの子とは違うわ」
「で、でも……そっくりですよ?」
「驚くのも無理ないけど……そうね。私の名前はナムル。ルミアじゃないわ」
ルミアさんとそっくりな少女はナムルという名前らしい。
「ステラ、私はあなたを待っていた。やっと会えた……」
「あなたのことは知りません……私は記憶がないので」
「そうね……あなたはそう選んだのだもの」
ナムルさんは私のことを知っている……
「私は一体何をしたんですか?」
「それはあなた自身が知るべきこと。私の口からはいえない」
「知りたければ、自分で調べろ。そういうことですか?」
「そうね。あなたはそういう性格よね」
私は知らないのに、ナムルさんは私のことを知っている。過去に私はこの人と会ったことがあるってことだよね。
「それよりも、私は何でここに?」
「あなたは魔力の使いすぎで倒れたのよ。今は医務室で回復魔法で治療を受けてる」
「皆が……」
はっきりとは覚えてないけど、体がだるいと感じていたのはそのせいか……
「それなら早く戻らないと。まだルミアさんを助けてませんから」
「それなら問題ないわ。あなたの信頼する先生がきっとあの子を助けるわ。あせる必要はないわ。もう少し、私と話しましょ」
グレンさんが向かっているなら、私もいかないと……この人と話している余裕なんてない。
「そんなことをしている時間はありません」
「あせらなくても、大丈夫だといったはず」
「そういう問題じゃないです。私の友達は今も助けを待っている。だったら……私もいかないと……」
「ほんとお人よしよね。自分よりも他人のことを助ける。記憶を失っても変わらないのね……」
過去の私が今の私と同じだった?
「まだ何も思い出せない?」
「あなたは私のことを知っているんですか?」
「ええ。あなたは……のために選ばれたんだもの」
ナムルさんの声の一部はとぎれており、よく聞き取れない。
「記憶を失う前のあなたはそれに気づいていた。だから他の人を巻き込まないように、一人でやった。でも……それは失敗だった。あなたは……を守るために自分を犠牲にした。その結果が記憶の喪失よ」
「私は何をするつもりだったんですか?」
いまだに私の記憶は戻ってこない。記憶の断片すら見つからないという状況だった。
「それは自分で思い出しなさいといいたいけど、いずれあなたに接触してくる組織が教えてくれるかもしれないわね」
「組織?」
「ええ。組織はあなたを必要としている。廃棄皇女と一緒にね」
廃棄皇女……それは一体誰の事を指しているのだろう。
「ねぇ、ステラ……他人の為に頑張ることがそんなに誇らしい?」
「何が言いたいんですか?」
「今のやり方を貫くと、近い将来、死ぬことになるわよ」
今のやり方が原因で私が死ぬ……
「私としたら、ステラには生きていてほしい。だからやり方を変えなさい」
「それは命令ですか?」
「そう。あなたはこれを拒否することはできない」
拒否したら、私が死ぬことになる。そのことは十分に理解できていた。
「やり方は変えません。私が死ぬ未来も絶対にないです」
「そう……あくまでやり方を変えないというわけね」
「これが私ですから」
「そう。じゃあ、警告するわ。あなたはもっと自分を大切にしなさい。自分を犠牲にして、誰かを救うなんて間違ってる」
「あなたに私の何がわかるっていうんですか……」
まるで自分を否定されたような気持ちになり、私は声を荒げた。
「死ぬことになるわよ?」
「そんな未来は絶対に来ません」
「相変わらず強情な子。まぁ、だからこそ、私はあなたを気に入ったんだけどね」
ナムルさんはその言葉を最後に私の前から消えた。次の瞬間、私の周囲が光に包まれ始め、意識が覚醒し始める。
「ここは……」
私が目を覚ますと、白い天井が見えた。薬のにおいもするから、どうやら医務室のようだ。
「やっと起きた!よかった……」
「ルミア……さん?」
近くには私の手を握っているルミアさんの姿があった。
「ここがどこだかわかる?」
「医務室ですよね。私は教室で倒れて……」
「うん。グレン先生が私を助けた後に、ステラが倒れたから、見てあげてくれっていわれたの」
よく見ると、ルミアさんの目には涙がたまっている。
「ステラの馬鹿!」
「へ……?」
「いくら皆を守るからって自分を犠牲にしたら意味がないでしょ!」
「もしかして……教室でのことを……」
「システィから全部聞いた。ステラがかなり無理してたっていうのもね!」
「で、でも……あそこはあれを使うしかなかったので」
「言い訳をしない!」
「はい……すみません」
起きてから、早々に説教される私って……
「皆、ステラのことを心配してた。何もできずにステラ一人だけに背負わせちゃったって思う男子もいる……ステラが周りを助けたいと思うように、皆もステラを助けたいって思ってる」
私は自分が傷を負っても、周りが無事ならそれでいいと思ってた。
でも……私が傷を負うことで悲しんでいる人もいる。
「ステラが傷つくことで悲しむ人もいる。私やシスティやグレン先生だってそう。今だって、ステラが起きないことで心配しているクラスメイトがいる」
「でも……私にはそれしかできないんです」
「それしかできないなんてことはない!ステラが守ろうとする中には自分が入ってない。だからどんなに痛みを伴っても、私たちを守ろうとする。でも……それは間違い。それでステラが死んじゃったらどうするの?」
「ルミアさん……私は」
私は自分を守ることなんてしたことがない。いつも他人のことを考えて、自分のことは後回し。ずっとそうしてきたし、それが正しいことだと思ってた。
「もっと自分を大事にして。私はステラと友達でいたい。ステラのことを知りたい。でも、私たちのせいでステラが死んじゃったら意味がない。だからこれからは自分も守って……」
ルミアさんの言葉で私はようやく自分の間違いに気づいた。
自分を守れない人が他人を守れるわけがない。自分を大切にしない人が他人を守れる資格なんてない。
「ごめんなさい……私は馬鹿です。一人で無茶して、周りに迷惑をかけてしまったようですね……」
「わかってくれた?」
「はい」
私は間違ってた。自分のやり方が正しいと思っていたけど、実は間違いで自分のやり方を通すことで悲しんでいる友達がいる、自分のやり方を貫くことで大事なものを失うところだった。もしかしたら、ナムルさんがいったことはこういうことだったのかもしれない。
「もうこんな無茶はしないって約束しよ」
「約束します。その代わりと言ったらあれですが、ルミアさんも私と約束してもらってもいいですか?」
「何?」
「これから先もずっと……私の友達でいてもらえませんか?」
「もちろんだよ。ステラ」
私たちはそれぞれに約束を交わした、この約束はずっと守っていこう。私はルミアさんと話しながら、そう強く思ったのだった。