ロクでなし魔術講師と記憶喪失の少女 作:たこやき
教室にたどり着くと、扉には鍵がかかっているのか開かない。
「ロック式の魔術かもですね」
「開けれるの?」
「やってみます」
私は指を口で切ると、血文字で解需の詠唱を唱える。
「終えよ・天鎖・静寂の基底・象理の顎木は此処に開放すべし!」
黒魔儀〈イレイズ〉を唱えると扉のノックは外れ、中に入ることができた。
「システィーナ、ステラ!」
「皆さん、無事ですか!」
教室に私たちが入ってきたことでクラスメイトたちは驚いている。
「ああ。だが、体が拘束されてて、身動きが取れない」
「待っててください。今外しますから」
私は全員の拘束されているマジックテープを外した。
全員が安堵した瞬間、教室の一角から黒い空洞のような物が現れ、そこから短剣を装備した骸骨の群れが現れた。
「コール・ファミリアですね……それも数が多い」
ボーンゴーレムの群れは両手の指を超えるだけの数がいる。
「私たちが逃げようとしたときに発動する仕掛けだったかもしれません」
「ど、どうするんだ!?」
「決まってます。全部倒します」
クラスメイトの皆は後方に下がっていた。教室の机はすべてどかされており、何もない部屋になっていた。
『万象に願う・我が腕に・剛毅なる刃を』
私は『隠す爪』を詠唱すると、地面から細身の剣を出現させた。
「はぁっ!」
骸骨の群れの一体の首元に剣を振りかざすが、剣は強い衝撃音を残しただけで相手を倒すまでにはいたらなかった。
「この連中……硬い!これほど硬いってことは素材は竜の牙か……」
反撃が来る前に私は後方に下がり、体勢を整える。
「あれだと、魔術的なものは通用しない……一発でこの連中をしとめられるものといったら……」
私は自分の中で考えられる最強の魔術をひねり出す。
「イクステンション・レイ。あれしかないか……」
だが、あれを使うにしても、それまでこのボーンゴーレムの群れをどうやって抑える……詠唱しているときに攻撃をされたら意味がない……少しの間だけでいい。あいつらの動きを抑えてくれれば……
そう思っていると、私は一つの考えを思いついた。
「システィさん!」
「な、何?」
私は後方にいるシスティさんに声をかける。
「ゲイル・ブロウを改変することはできますか?」
「できるかもしれないけど……」
「説は3節。効果はできるだけ広範囲で、効果は長めに続くものをお願いします」
「そんな高度なこと……」
「今までの授業をちゃんと理解しているシスティさんならできるはずです!私はシスティさんを信じます!」
優秀なシスティさんならできると思うし、できないとは思いたくない。
「私がこいつらを足止めします。そのうちに作ってください!」
「足止めって……どうやって」
「こうするんです!」
私は剣を地面に置くと、左手をボーンゴーレムのいる方向に向ける。
「光の障壁よ」
座標はボーンゴーレムの群れの中心、サイズはあいつらが納まる程度に設定し、フォース・シールドを張る。
「これも長くはもちません!その間にお願いします!」
「わかった。やってみる!」
ボーンゴーレムの群れはフォース・シールド内に抑え込まれ、ボーンゴーレムたちはシールドを破るために剣でシールドのいたる部分を攻撃を仕掛ける。
「くっ……数が多いときつい」
魔術を連続して使用していることで魔力の消費が激しい。
「なんとか……撃つだけの魔力は残しておかないと」
クラスメイトたちは戦況を見守っている。
「頼みましたよ……システィさん」
優秀なシスティさんならきっと大丈夫。
「うっわ……ボーンゴーレムたちがこっち見てるよ~これ、夜の学校だとしたらかなりホラーだよ~」
ボーンゴーレムたちが剣を振りかざしながら、襲い掛かってくる。夜の学校だとしたらかなりのトラウマものだから。
「できた!ステラ、バリアをといて!」
そんなことを考えていると、システィさんの魔術が完成したらしく、私は待ってましたといわんばかりにバリアを解く。
「拒み続けよ・嵐の壁よ。この下肢に安らぎを!」
私たちの前方を抜きぬける強風は骸骨の群れの進行を抑えている。
「嵐の壁で敵の進行を抑える。見事です」
「でも……全部は」
「上出来です。あとはお任せください」
私は右ポケットから宝石を取り出し、指ではじき、左手でつかむ。
(其は摂理の円環へと帰還せよ・五素は五素に・象と理を紡ぐ縁は乖離せよ)
私が詠唱を始めると、周りがざわめき始まる。
「これが私の必殺技!すべてを吹き飛ばせ!イクステンション・レイ!」
左拳を中心に高速に回転していたリング状の円法陣が前方に拡大していく。
そして3つ並んだリングの中心を貫くように、発射した巨大な光の衝撃波が前方に突き出している私の左拳から離され、標的のいる場所を一直線に駆け抜けた。
光が晴れると、ボーンゴーレムの群れは存在せず、教室の壁や天井は見事に破壊されていた。
「はぁっ……はぁっ……」
クラスメイトたちは呆然と言う表情で私を見ている。
「きつい……だるい……体が重い」
今のでほとんどの魔力を使い切ったのか、体に力が入らず、後ろのめりに倒れそうになる。
「ステラ、あなた……」
システィさんは倒れそうになる私の体を後方から支える。
「さすがにちょっとしんどいです……」
「マナ欠乏症にはなってないみたいだけど……短時間であれだけ膨大な魔力を使うなんて……」
「あれしかなかったから……しかし、ちょっと無茶をしすぎました……」
体に力が入らない。こりゃ少しやすまないと駄目だ……
システィさんに支えられながら、私は地面に座り込むと、ポケットに入れておいた通信機が鳴っていたから、取り出した。
「お前、今の光はなんだ?あれほど、使うなといったはずだが」
通信の相手はグレンさんのようで、私がイクステンション・レイを使ったことをとがめている。
「ごめんなさい。使うしかなかったんです……」
「また無茶をしやがって……動けるのか?」
「少し休めば何とか……そっちはどうですか?」
自分が思ってる以上に消費が激しいのか、体が重い。
「こっちはテロリストを一人殺した……もう一人は仲間がやったらしい」
「そうですか……私も回復が終われば、そっちに合流します……」
私は立ち上がろうとするが、体に力は入らず、腕はだらんとしている。
「そうか……期待せずにおるわ」
「厳しいですね……いつもですけど」
「厳しくなる理由はわかるだろ」
その理由は自分が一番わかっている。
「わかってます」
「ならいい。クラスの連中は全員無事か?」
「はい。ルミアさんを除いては全員無事です。あとは……ルミアさんを助けに行くだけですね」
「お前は休んでろ。声を聴く限り、疲労困憊だろうし、おまけに魔力不足のお前がいてもしょうがないからな」
「じゃあ、お言葉に甘えます……そろそろ眠くなってきたので」
「また後でな」
「はい。また後です……」
そこで通信は切れた。私は通信機から手を離した。
とりあえず……休んで体力と魔力を回復しなきゃ……それからグレンさんと一緒にルミアさんを助けに行かないと……私は次の行動を考えていると、後ろのめりに体が倒れた。幸いなことに頭は打っていない。
「ステラ!」
「ごめんなさい……そろそろ限界みたいです。少し休んだらまた元気になりますから……」
「俺たちを守るために……」
男子の声がずいぶん近くに聞こえる。皆、私の近くにいるのかな……
「私たちは仲間です……守るのは当たり前……私はクラスにいる全員と一緒に成長したい……だから私はどんなに自分が傷を負っても、皆を守る。そう決めたんです……」
「ごめんなさい。私たちのために……」
「大丈夫です……死ぬわけではないので……ちょっとだけつかれたので、休ませて……そしたら、また元気に……」
「しゃべらないで!今、回復魔法を!」
「私は……大丈夫……皆が無事でよか……った。あとはルミアさんを……助けにいかない……と」
体がだるいということでしゃべるのもだんだんきつくなってきた。
「誰一人かけちゃだめなんです……皆で一緒に……私の夢は皆さんとともにあるん……ですから」
私の意識はそこで限界を向かえ、意識は体の奥に沈んでいった。