ロクでなし魔術講師と記憶喪失の少女   作:たこやき

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天の智慧研究会

学園内は休校ということで、静けさが漂っていた。

 

私たちはまず教室に向かった。人質をとるなら、教室にいる人たちを使う可能性が高い。それがグレンさんの推理だった。

 

私たちが教室に向かう途中で聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「グレンさん……今の声」

 

「白猫……だろうな」

 

聞こえてきた声はシスティさんのものだった。声は悲鳴となって聞こえている。

 

「グレンさん。あっちから聞こえます!急ぎましょう」

 

「ああ」

 

私たちは声がする魔術実験室に急いで向かった。

 

「ここか」

 

グレンさんは迷わずドアノブを握り、中に入る。

 

するとそこには、ニット帽の男がシスティさんに馬乗りしながら、制服を脱がしているところだった。

 

「すみません、間違えました」

 

「助けなさいよ!」

 

グレンさんが扉を閉めようとしたので、私はあわてて、扉を押さえる。

 

「あー。やっぱりそうなの?そういう胸糞の悪い展開だったの?てっきり、両者合意の上でやってることだと思ったわ」

 

「んなわけないあるかーッ!?」

 

「なんだお前らは?」

 

「一応この学院で講師をやっているものだが、お前、いくらモテないからってそういうの犯罪だぞ?」

 

「私は学院の生徒ですが……私の友達にそういうことをするのはちょっと早いです。いくら発情したからって駄目なものは駄目です」

 

そういって、近づいていく私たちに、ニット帽の男はイラつき指を向ける。

 

「ダメ!先生逃げて!」

 

「助けろっつったり逃げろっつったりどっちなんだよ」

 

「ステラも私にかまわず、逃げて!」

 

「もう遅せーよ。〝ズドン”!」

 

男が私たちのほうに指を向けるが、魔術は発動しなかった。

 

「はっ?〝ズドン”!〝ズドン”!」

 

男は何度も魔術を発動しようとするが、魔術は一向に発動する気配を見せなかった。

 

「もう魔術は発動しねーよ」

 

グレンさんはポケットから一枚のカードを取り出す。

 

「愚者のアルカナのカード?」

 

「俺はこのカードで変換した魔術式を読み取ることで俺を中心とした一定効果領域内における魔術起動を完全封殺することができる。それが俺の固有魔術、愚者の世界だ」

 

「固有魔術だと!?てめー、その域に達してるっていうのか!?」

 

男は驚き、一歩下がる。私はその間に捕らえられているシスティさんの元に行く。

 

「大丈夫ですか?」

 

「う、うん……ありがとう」

 

私はシスティさんの両手にかけられるマジックロープをはずした。

 

「あいつ……こんなすごい魔術を持っていたのね」

 

「ある意味チートですよね……」

 

まぁ、欠点もあるわけで

 

「まぁ、俺も魔術が使えないけどな」

 

グレンさんは舌を出し、にこやかに笑う。

 

「「は?」」

 

さすがの二人も、その言葉を聞き、口を揃えてそう言う。

 

「いや、だって俺も効果領域内にいるんだからさ」

 

「そ、それって……ステラも?」

 

システィさんに恐る恐る聞かれた。

 

「ごめんなさい……私もです」

 

「もうだめだわ……おしまいよ」

 

システィさんは絶望したのか、泣き出しそうにしている。

 

「まだあきらめるのは早いですよ」

 

「え?」

 

「グレンさんの強さは魔術だけじゃない。魔術にとらわれない強さがあの人にはありますから」

 

「小娘が何を信頼しているのか知らないが、魔術師が自分の魔術まで封じてどうすんだよ!お前、さっさとぶへあっ!?」

 

グレンさんは男が最後の言葉を言い終える間を与えず、そのまま顔面を殴る。男は鼻血を出しながら、後ろによろめく。

 

「て、テメー!」

 

男はグレンさんに掴み掛ろうとするが、グレンさんはそれを躱し、カウンターのように再び顔を殴る。そして、足を引っかけ、バランスを崩すと、そのまま回転させるように投げ飛ばし、壁に叩き付けた。

 

「あー。やっぱりなまってるな~」

 

「ただの運動不足じゃないですか?」

 

「ステラ……そこはほめるべきじゃないのか?」

 

「もっと動きがよかったときを知ってますからね……」

 

一年間何もしてなければ、さすがに体も衰えるか。

 

「帝国式軍隊格闘術だと!?テメー……何者だ!?」

 

「グレン=レーダス。非常勤講師さ」

 

「テメーが!?じゃあ、キャレルの奴はやられたって言うのか!?魔術師でありながら、肉弾戦をするような奴に………!」

 

「そんなに魔術以外で倒されたくないんだったら伝説の超魔術・魔法の鉄拳マジカルパンチでとどめをさしてやるよ。行くぜ!マージーカールー……!」

 

グレンさんは拳を握り、飛び上がる。

 

「パーンチ!」

 

パンチではなく、飛び蹴りを食らわせた。

 

「キックじゃねーか………!」

 

「キックですよね……」

 

男はそう言い残し、そのまま地面に倒れる。

 

「そこら辺がなんとなくマジカル」

 

「意味がわかりません」

 

「説明しよう。マジカルパンチというのはだな……」

 

「あ、そういうのはいいです」

 

私たちは気絶している男性をロープで縛り、動けない状態で拘束した。

 

男性の左腕には短剣に巻かれた蛇が絡み付いている模様があった。

 

学院に来る前に私たちに襲い掛かってきた男性にも、その模様があり、この人たちは天の智慧研究会に所属していることをあらわしていた。

 

私たちはシスティさんから事情を聞き、ルミアさんがもう一人の男性に連れて行かれたこと、教室に人質となっている生徒がいることを聞いた。

 

私が状況を整理して、考えをしていると、グレンさんが連絡のついたセリカさんと話していた。

 

「やっぱり助けはこないですか?」

 

「今の会話を聞いてたらわかるだろ」

 

セリカさんと話を終えた、グレンさんに私は助けが来るかと聞くが、助けはこないということがさっきの会話と話しているときのグレンさんの表情でわかった。

 

私と同じことを思ったのか、システィさんが部屋を出ようとするが、私はシスティさんの腕をつかんだ。

 

「どこにいくつもりですか?」

 

「ルミアを助けに行くの!」

 

「よせ!無駄死にする気か?」

 

「だって!私…悔しくて…」

 

システィさんは涙を流しながら、グレンさんに訴える。

 

「先生の言う通りだった!魔術なんてロクな物じゃなかった!こんなものがあるからルミアが……」

 

訴えているシスティさんの頭をグレンさんは優しく撫でた。

 

「ルミアは真の意味で魔術を人の力にしたい。そのために魔術を深く知りたい。そう言ってたぞ。そのためにもこんなところで死なせらんないよな……」

 

「ルミアさんがそんなことを……」

 

ルミアさんも私と同じだったんだ。

 

「私も魔術で人を導きたい。こんな間違ったやり方じゃなくて、正しいやり方で人の役に立ちたい」

 

「ステラ……お前」

 

「だからこんなところで大事な友達を失うわけにはいきません。私たちの目指す未来のためにも……」

 

私の目指す道のりに友達を失うなんてルートは作らせない。

 

「ここからは二手に分かれませんか?」

 

「俺から離れるなといったはずだが」

 

「そんなことをいってる状況じゃないでしょ。それに私の固有魔術はグレンさんとの相性が悪いです。一緒にいることで生まれるメリットはないです」

 

「しかし……」

 

「大丈夫です。こういうときのために、それなりの鍛錬もこなしてきました。こんなことに使うのは、ほんとはいやだけど、皆を守るためなら……私は戦います」

 

魔術で人を傷つけることはしたくないけど……皆が危険な目にあうくらいなら、私は使う。皆を守るために、テロリストたちを倒す。

 

「ほんと……頑固だよな。ステラ」

 

「褒め言葉として受け取っておきます」

 

「俺が駄目って言っても、動きそうだからな。わかった……それでいこう」

 

私たちの考えはひとつにまとまった。

 

「私は教室にいる皆を助けます。グレンさんはルミアさんの救助をお願いします」

 

「わかった。それと、こいつを持ってけ」

 

「これは?」

 

私はグレンさんから宝石の形をした物を受け取る。

 

「通信機だ。何かあったらこいつで連絡しろ」

 

「了解しました」

 

私は通信機を制服のポケットに入れた。

 

「おい、白猫。お前はステラについてけ」

 

「先生は一人で大丈夫なんですか?」

 

「ステラを一人にしておくほうが危険だ。ステラは誰かが見てないとすぐに無茶をするからな」

 

私の信頼度低くないかな……

 

「もう少し信頼してもよくありません?」

 

「そう思うんだったら、すぐに無茶をする性格をなんとかしろ」

 

「うっ……」

 

私は正論をつかれると、反論ができなかった。

 

「いっておくが、イクスティンクション・レイは撃つなよ」

 

「グレンさんはまともに制御できませんね。私はできますけど」

 

私たちはそれぞれに切り札としてある魔術をセリカさんから教わっていた。

 

「うっせ。あんな魔術を作り出すやつが悪いんだよ」

 

「セリカさんが聞いたら、泣きますよ。弟子が反抗期だ~とかいって」

 

「あいつならありそうだわ……」

 

私たちはお互いに笑顔で軽口をたたく。

 

「無茶はするなよ。ステラ」

 

「グレンさんも死なないでくださいね」

 

私たちはお互いに片腕を合わせる。

 

「システィさん。教室に行きます!ついてきてください」

 

「う、うん!」

 

私たちはクラスメイトが人質にとられている教室に向かった。

 


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