突然告げられた衝撃の事実。
今にして思えば、確かに兆候はあった。
スライムとの命を懸けた死闘の日々(52戦6勝45敗1分け)。
プライドを捨てて手に入れた200ゴールドが無駄になった勇者コース(メラは共通)。
そして、魔法使いにしか装備できないどくばり、さらにそれに980ゴールドも使ったこと。
ん? 途中から金の話に変わったな。
まあいい、これからは魔法使いとして生きよう。
そうすれば、俺の人生も薔薇色だ。
……薔薇色っても、ソッチ系の趣味の事じゃないからな!
街へと帰る道を俺は歩いている。
行きと違うのは、一人の少女を連れている事。
自称「守護者」兼「下僕」のシアちゃんだ。
そして、俺の装備も変わっている。
布の服が、みかわしの服になった。
なんと、シアちゃんがくれたのだ。
「わらわのあるじとして、相応しい格好をしてもらわなければ困る」と言って。
メラを使えるようになったから、スライムなんて目じゃないぜ!
しかも、装備は格段にレベルアップ。
なにしろ、みかわしの服といえば、3000ゴールドもするからな!
スライムがあらわれた。
勇者はメラをとなえた。火の玉が指先からほとばしる。
スライムに6のダメージをあたえた。
スライムを倒した。
「焼きスライムの出来上がりだ」
「うむ、ゼリーのようでうまそうじゃな」
「たいして美味いもんじゃ無かったぞ」
「食ったのか?!」
いや、金が無くてな。
死んで生き返っても、腹が膨れるわけじゃないしな。
スライムのぷりぷりとした身が美味そうに見えてつい。
「生きてる奴を、ガブッと」
何気にひのきの棒よりも攻撃力が高かったのは悲しかったな。
しかも、見事にあたった。
俺の歯形のついたスライムが動きを止めると同時に、俺も意識を失ったからな(冒頭文の1分け)。
うん、あの時のオッサンの言葉ほど、心に響いた物は無かったな。
「さすが、勇者はやることが違うのう」
シアちゃんが、あの時のオッサンと一字一句同じ言葉を投げかけてくる。
「それで、その後どうしたのじゃ?」
「さすがに見かねたのか、衛兵のおっちゃんが金貸してくれた」
あの時は、あのおっちゃんが神様に見えた。
「しかも、20ゴールドだぞ。20ゴールド。出世払いで構わんとか言ってくれて」
あの時は、おっちゃんにすがって、マジ泣きしたな。
「……苦労したんじゃな、あるじ」
アレ? 景色が滲んで見える。
泣いてない、俺は泣いてないぞ。
そうこうしている内に、街が見えてきた。
もうすぐ街に着く、その時、奴があらわれた。
そう、俺のライバル、不倶戴天の敵、スライムベスだ。
だが、俺もあの時の俺とは違う!
「シアちゃんは下がっていろ! アレは、俺が決着を付けなきゃいけない相手だ!」
「イヤ、ふう、……もう何も言うまい」
シアちゃんは激励の言葉をかけようとしたのだろう。
だが、俺たちの間にそんな言葉は意味をなさない。
それに気付いて、言葉をおさめたのだろう。
「さあ、来い! 勝負だ!」
勇者の攻撃。
勇者はメラをとなえた。しかしMPが足りない。
「アレ?」
スライムベスの攻撃。
スライムベスは体当たりを仕掛けてくる。
勇者は、身をかわした。
「さすが、みかわしの服!」
勇者の攻撃。
「ここは、ひのきの棒で!」
スライムベスはかわした。
「やるな! さすがは我がライバル!」
だが、ここで俺は致命的な隙を見せてしまった。
ひのきの棒を振り下ろした体勢のまま、奴の攻撃を受けてしまったのだ。
「やばい! やられる?!」
だが、ここでみかわしの服が驚異的な回避を見せた。
……俺の身体を無視して。
ゴキッ!!
勇者は身をかわした。
しかし、20のダメージを受けた。
勇者は死んでしまった。
「あるじ……、それはどーかと思う」
シアちゃんの悲しそうな声を最後に意識が途絶えた。
「おお、勇者よ! 死んでしまうとは情けない!!」
久しぶりに見たオッサンの顔が、何故か滲んで見えた。