ああ、無情。   作:みあ

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第四話:呪文屋

 あのことは忘れたくとも忘れられない。 

 こうなったら街を出るしかない。 

 だが、そのためには強くならなくては。 

 前回は行きそびれたが、今度こそ俺は魔法を覚える。 

 

 

 あー? この辺か? 

 俺は、オッサンからもらった地図を頼りに、ある建物をさがしていた。 

 その名もズバリ『呪文屋』だ。 

 何でも、勇者コースやら魔法使いコースやらがあって、選んだコースによって習得する呪文の種類が変わるらしい。 

 もちろん、勇者たる俺が選ぶのは勇者コースだ。 

 ただ、『屋』と付くだけあって金が掛かる。 

 が、そこはそれ、王様のコネでなんとかなるそうだ。 

 

 おっ、もしかしてコレか? 

 平屋建てで、ちょっとした道場くらいの大きさだ。 

 デカイ看板が掲げてある。 

 『呪文あります』 『一見さんお断り』 『ただの冷やかしには、当店自慢の氷結呪文が飛びます』『いつもニコニコ現金払い』などなど。脅し文句に見えなくも無い。 

 さすがに入るのを躊躇していたが、意を決して足を踏み入れた。 

 

「いらっしゃいませー、許可証はお持ちですかー?」 

 

 若い、とは言えなくも無い中途半端な年齢の女性が現れた。 

 美人と呼べなくも無い。俺は呼ばないが。 

 

「ああ、これだ」 

 

 道具入れの中から、紙切れを取り出す。 

 誤用を避けるため、王の許可がないといけないのだそうだ。 

  

「まあ! 勇者様でしたか。光栄ですわ。世界を救う手助けが出来るなんて」 

 

 感極まったように、涙を眼に浮かべる。 

 正直、見苦しい。 

 

「ところで、勇者様。私、まだ23才なんですが」 

 

「ああ、そのくらいだろうな」 

  

 思った通り、守備範囲外だ。興味ない。 

 

「ひどいですわ、勇者様」 

 

「ふむ、ところでさっきからどうして俺の心の声に突っ込んでくる?」 

 

「これも魔法の一つですわ」 

 

 そうなのか、魔法とは奥が深いものだ。 

 

 

「こちらが料金表になります」 

 

 料金表になる前は何だったのか、聞きたい気もするが話が進まないのでやめよう。 

 

「ちっ」 舌打ちが聞こえたような気もするが、スルー。 

 

 魔法使いコース――250ゴールド 

 

 僧侶コース――200ゴールド 

 

 勇者コース――20000ゴールド 

 

 待てやコラ、勇者だけ桁が違うぞ。 

 

「お客様は勇者コースですよね? 当然」 

 

「ああ、そうなるな。ところで、料金の方だが……」 

 

「100分の1の値段で受けるようにと言われております」 

 

 意外に手配が早いな、あのオッサン。 

 

「出世払いで頼む」 

 

 200ゴールドなんて大金、持ってるわけが無いだろう。 

 

「困ります! ただでさえ需要の低い勇者コースですのに」 

 

 どうしろと言うのだ。コチラも無い袖は振れない。 

 

「でしたら、仕事の依頼を請けてみられたらどうでしょう?」 

 

「仕事?」 

 

 年増女いわく「23!!」、ダマレ。

 近くに冒険者の酒場なるものがあり、そこで仕事の依頼を請けては報酬をもらうということができるらしい。 

 さっそく、行って見る事にした。 

 

 

 ほう、なかなか良い店だ。 

 内装も悪くない。 

 ただ、客のガラだけが異様に悪い。 

 

「兄さん、初めて見る顔だね。職業はなんだい?」 

 

 化粧のケバイ女が話し掛けてくる。 

 どうやら、彼女が店主らしい。 

 

「勇者だ」 

 

 辺りを沈黙が包み込んだ。 

 そして、屈強な男達が次々と席を立って、外へ出て行く。 

 何故かしら、皆、尻を庇っている様子。 

 痔持ちだろうか? 

 

「あんたが勇者かい。ふーん、惜しいねえ」 

 

「何の話だ?」 

 

 店主はジロジロと俺を見回す。正直、気分が悪い。 

 店に残った者も、コチラを無遠慮に見ているのがわかる。 

 

「あんた、男にしか興味無いって本当かい?」 

 

 ……何故に知っている? 俺の黒歴史を。 

 なるほど、さっきの連中はソレか。 

 正直、今の俺は疲れていた。 

 だから沈黙をもってソレに答えた。 

 

「なら、あんたにピッタリの仕事があるんだ」 

 

 どうやら、悪い方に話が転がったらしい。 

 さすがに訂正しようとしたが、次に続いた言葉に口を止めた。 

 

「前金200ゴールド、成功報酬は800ゴールド。ここで依頼を請けてくれるんなら、前金をすぐに渡すよ」 

 

 またしても、俺は金の力に屈してしまった。 

  

 

 所変わって、ここは呪文屋。 

 俺は、勇者コースを希望した。 

 最初に覚えるのは『ホイミ』、回復呪文だ。 

 これを覚えれば、旅が楽になる。 

 今までは、薬草買う金も無いし、宿屋に泊まる金も無いしで、正にデッドオアアライブだったわけだが、これがあれば少なくとも死ぬまでのサイクルは長くなることだろう。 

  

「アレ?」 

 

 年増女「23!」……訂正しよう。 

 プラス5才女はしきりに首を傾げている。 

 

「私の呼び名に付いてはもう良いわ……」 

 

 そりゃどうも。 

 で、何が問題なんだ? 

 

「私のするようにやってみて」 

 

 あん? こうやって、こうやって、こう。 

  

「ホイミ!」 ホイミ! 

 

 彼女の後に続けて行うが、何も起こらなかった。 

 彼女の手からは白い光が溢れている。 

 

「……アンタ、適性ないわ」 

 

 ぐはっ! これだけ引っ張っといてこのオチかい! 

 

 前金使っちまったから、今更断れねーし、俺はコレに賭けてたんだぞ。 

 どーしてくれる?! 

  

 俺の将来は暗澹たるモノだった。 

 


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