ああ、無情。   作:みあ

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第二話:伝説の武器

 城を出た俺は、しばらく修行を積む事にした。 

 だが、最弱のスライムにすら勝てない俺は悟った。 

 死んでもやり直しなら、死ぬ気でやろうと。  

 そうすれば、いつかは勝つ事もあるさ。 

 ……会心の一撃、とかな。 

 

 

「……おお 勇者よ、死んでしまうとは情けない」 

 

 どうした? 最初の頃の元気が無いな。 

 

「勇者よ、今日はこれで何度目だと……」 

 

「20回程だろう? たいした回数じゃない。 気にするな」 

 

 何度も会ってる内に、何故かタメ口で話すようになった王様と俺。 

 

「せめて、夜中くらいは勘弁してくれんか?」  

 

「それこそ、家があればそこで寝るんだが……」 

 

 俺の言葉にそっぽを向いて、口笛を吹くオッサン。 

  

  

 そう、俺には家が無い。 

 否、今朝はあったのだ。 

 俺は、夕方のことを思い出していた。

  

  

 日も暮れ、続きは明日にでもしようと家路を辿った俺は、信じられない光景を見た。 

  

「……家が無い」 

 

 辺り一面、更地になっていた。 

 とりあえず、そこらのおっさんを捕まえて尋問する。 

 

「ひぃー! 有り金全部置いていくから、命ばかりはお助けをー!」 

 

 ちょっと待て、ちょーっと待て。 

 誰が、追い剥ぎだというんだ。 

 まあ、確かに金はほしいんだが。 

 

 懇切丁寧に問い詰めると、怯えた顔をしながらも教えてくれた。 

 

「今朝早くに、王様の命令で……、その…区画整理とか」 

 

 奴か、奴の仕業か。 

 俺はこの時初めて、他人に対して殺意を抱いた。 

 

「そ、それじゃ、私はこの辺で…」 

 

 おお、ありがとうな、おっさん。 

 精一杯の笑顔を向けると、さらに怯えながら全速力で去っていった。 

 全く、失礼なことだ。 

 

 

 そして、俺は城へと急いだ。 

 すると、見張りの兵士に捕まった。 

 

「怪しい奴め! 覚悟しろ!」 

 

 今にして思えば、思わず逃げようとしたのが間違いだった。 

 見事に槍で一突き。 

 気付いた時には、玉座の間にいた。 

 

「おお! 勇者よ、死んでしまうとは情けない!」 

 

「……あんたんとこの兵士に刺されたんだが」 

 

 わずかの沈黙。 

 

「まあ長い人生、たまにはそんなこともあるじゃろ」 

 

「ねーよ!」 

 

 城の兵士には話を通しとけよ。 

 それはさておき、今はそれよりも大事なことがある。 

 

「俺の家はどうした?」 

 

「あの辺は前々から区画整理の予定があってな。通知は出しておったはずじゃが」 

 

 つーか、俺の家と聞いただけでそこまで話せる時点で、クロだろう。 

 

「だからって、勝手に……」 

 

「立退き料が出ておるぞ」 

 

 その言葉に、俺は屈した。 

 

 

 1000ゴールド。 

 こんな大金、初めて見た。 

 そして、この金で装備を整えることにした。 

 

 城を出る時、見送った兵士の顔が何故か引きつっていたが、気にしない。 

 なんせ、今の俺は最高に気分がいいからだ。 

 そして、その足で閉店間際の武器屋に駆け込んだ。 

 

「どうです? 親父さん。 いい買い物だと思いません?」 

 

 店の親父は、旅の行商人と商談中のようだ。 

 こっそり聞き耳を立ててみる。 

 

「でも、確実性の問題がなあ」 

 

「何をおっしゃいます。 このモンスターを一撃で倒すことのできる武器が、今ならたった1000ゴールドですよ!」 

 

 モンスターを一撃?! 

 

「買った!!」 

 

 思わず、口が出ていた。 

 

「オイオイ、勇者よ。 やめとけ、やめとけ」 

 

 親父は何故か止めに入る。 

 

「こちら、勇者様ですか? いや、お目が高い! 勇者様に使って頂けるなら宣伝効果も抜群! 今なら、大特価980ゴールドでお譲りしますよ!」 

 

 おお! 太っ腹! 

  

 こうして、俺は伝説の武器、どくばりを手に入れた。 

 

 そして、呆れ顔の親父を尻目に、意気揚々とモンスター退治に出発した。 

 

  

 スライムがあらわれた。 

 

 勇者の攻撃、1のダメージを与えた。 

 

 スライムの攻撃、3のダメージ。 

 

 勇者の攻撃、1のダメージを与えた。 

 

 スライムの攻撃、2のダメージ。 

 

 勇者の攻撃、1のダメージを与えた。 

 

 スライムを倒した! 

 

 おお! 初めてスライムに勝った!  

 スライムの死体を調べる。 

 あったあった。 

 3ゴールドを手に入れた。 

 

 この武器スゲー! 

 でも、一撃じゃなかったよな。 

 偽物か? 

 何度も死にながら、この後、何度も試したが一向に効果が表れなかった。 

  

 本当に効くのか、コレ? 

 とりあえず、ポケットにしまおうとした俺は、誤って自分の指に刺してしまった。 

  

「おっと、しまったしま……った?」 

 

 意識が唐突に暗くなる。 

 まさか? これは……。 

 

 

「おお! 勇者よ、死んでしまうとは情けない! ……どうしたのじゃ?」 

 

「気にするな。この世の不条理を噛み締めてるだけだ」 

 

 俺はうずくまったまま、動くことができなかった。 

  

 ……俺の急所って、指先にあったんだなあ。 

  

 現実逃避にも似た思いを抱きながら。 

 


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