城を出た俺は、しばらく修行を積む事にした。
だが、最弱のスライムにすら勝てない俺は悟った。
死んでもやり直しなら、死ぬ気でやろうと。
そうすれば、いつかは勝つ事もあるさ。
……会心の一撃、とかな。
「……おお 勇者よ、死んでしまうとは情けない」
どうした? 最初の頃の元気が無いな。
「勇者よ、今日はこれで何度目だと……」
「20回程だろう? たいした回数じゃない。 気にするな」
何度も会ってる内に、何故かタメ口で話すようになった王様と俺。
「せめて、夜中くらいは勘弁してくれんか?」
「それこそ、家があればそこで寝るんだが……」
俺の言葉にそっぽを向いて、口笛を吹くオッサン。
そう、俺には家が無い。
否、今朝はあったのだ。
俺は、夕方のことを思い出していた。
日も暮れ、続きは明日にでもしようと家路を辿った俺は、信じられない光景を見た。
「……家が無い」
辺り一面、更地になっていた。
とりあえず、そこらのおっさんを捕まえて尋問する。
「ひぃー! 有り金全部置いていくから、命ばかりはお助けをー!」
ちょっと待て、ちょーっと待て。
誰が、追い剥ぎだというんだ。
まあ、確かに金はほしいんだが。
懇切丁寧に問い詰めると、怯えた顔をしながらも教えてくれた。
「今朝早くに、王様の命令で……、その…区画整理とか」
奴か、奴の仕業か。
俺はこの時初めて、他人に対して殺意を抱いた。
「そ、それじゃ、私はこの辺で…」
おお、ありがとうな、おっさん。
精一杯の笑顔を向けると、さらに怯えながら全速力で去っていった。
全く、失礼なことだ。
そして、俺は城へと急いだ。
すると、見張りの兵士に捕まった。
「怪しい奴め! 覚悟しろ!」
今にして思えば、思わず逃げようとしたのが間違いだった。
見事に槍で一突き。
気付いた時には、玉座の間にいた。
「おお! 勇者よ、死んでしまうとは情けない!」
「……あんたんとこの兵士に刺されたんだが」
わずかの沈黙。
「まあ長い人生、たまにはそんなこともあるじゃろ」
「ねーよ!」
城の兵士には話を通しとけよ。
それはさておき、今はそれよりも大事なことがある。
「俺の家はどうした?」
「あの辺は前々から区画整理の予定があってな。通知は出しておったはずじゃが」
つーか、俺の家と聞いただけでそこまで話せる時点で、クロだろう。
「だからって、勝手に……」
「立退き料が出ておるぞ」
その言葉に、俺は屈した。
1000ゴールド。
こんな大金、初めて見た。
そして、この金で装備を整えることにした。
城を出る時、見送った兵士の顔が何故か引きつっていたが、気にしない。
なんせ、今の俺は最高に気分がいいからだ。
そして、その足で閉店間際の武器屋に駆け込んだ。
「どうです? 親父さん。 いい買い物だと思いません?」
店の親父は、旅の行商人と商談中のようだ。
こっそり聞き耳を立ててみる。
「でも、確実性の問題がなあ」
「何をおっしゃいます。 このモンスターを一撃で倒すことのできる武器が、今ならたった1000ゴールドですよ!」
モンスターを一撃?!
「買った!!」
思わず、口が出ていた。
「オイオイ、勇者よ。 やめとけ、やめとけ」
親父は何故か止めに入る。
「こちら、勇者様ですか? いや、お目が高い! 勇者様に使って頂けるなら宣伝効果も抜群! 今なら、大特価980ゴールドでお譲りしますよ!」
おお! 太っ腹!
こうして、俺は伝説の武器、どくばりを手に入れた。
そして、呆れ顔の親父を尻目に、意気揚々とモンスター退治に出発した。
スライムがあらわれた。
勇者の攻撃、1のダメージを与えた。
スライムの攻撃、3のダメージ。
勇者の攻撃、1のダメージを与えた。
スライムの攻撃、2のダメージ。
勇者の攻撃、1のダメージを与えた。
スライムを倒した!
おお! 初めてスライムに勝った!
スライムの死体を調べる。
あったあった。
3ゴールドを手に入れた。
この武器スゲー!
でも、一撃じゃなかったよな。
偽物か?
何度も死にながら、この後、何度も試したが一向に効果が表れなかった。
本当に効くのか、コレ?
とりあえず、ポケットにしまおうとした俺は、誤って自分の指に刺してしまった。
「おっと、しまったしま……った?」
意識が唐突に暗くなる。
まさか? これは……。
「おお! 勇者よ、死んでしまうとは情けない! ……どうしたのじゃ?」
「気にするな。この世の不条理を噛み締めてるだけだ」
俺はうずくまったまま、動くことができなかった。
……俺の急所って、指先にあったんだなあ。
現実逃避にも似た思いを抱きながら。