深海の魔法使いはIS世界を駆け回る   作:オキシゲドン

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2話 出会い

目が覚めると、空中に放り出されていた。

 

なんてことは無く、どうやらどこかの倉庫に転生したらしい。

周囲を良く見てみると、マットや跳び箱などといった道具があるのを見るに、どこかの学校の体育倉庫のようなものだと想定する。

肌を突き刺すような寒気に思わず腕を摩りながら「うー」と声が出る。

ウィザード世界を離れた時期と同じ時期に転生したのだとしたら、今は12月半ばといったところか。

自身の恰好は紺色のジーンズに緑のシャツ、上にコートというまぁ普通の恰好だ。

笛木さんとお揃いのそれなりに良い防寒具を着てはいるものの、流石に真冬の深夜の寒さに長時間耐えられるものではないし、いつまでもここにいる訳にもいかない。

暫く活動の拠点となる場所を探さねばならない。

俺の頭より高い位置にあるこの部屋唯一の窓から外を覗いてみると、真っ暗な空とそれなりに高い位置にある月が見える。

 

「とりあえず外に出てみますかね」

 

そう小さく口にしながら、窓から外へ降り立つ。

注意深くあたりを見回しても監視カメラやセンサーの類は設置されていない。

人気が無いのも確認したあと、取りあえず目の前に見えていた大き目の建物を目指す。

手前に森があるものの、森までは遮蔽物が無いので足音を殺しながらも全速力で走る。

途中、本当に学校のような建築物を見かけてこの場所が何処であるのか大体察しながら森に潜む。

取りあえずは誰にも見つからなかったらしい。

 

「そこにいるのは誰だ?」

 

……訂正しよう。

慌てて木の上へ退避し下を恐る恐る覗いてみると、スーツ姿の髪を後ろで纏めた女性と目が合った。

 

「そこか!」

 

その女性は、手刀で木を切り裂く。

……手刀で!?

 

ドン

 

と飛び降りた直後に鈍い音を立てながら倒れる。

 

「……男か」

「えっと……事情を聴いてくれると助かるんだけど」

 

ダメ元でそう頼むと、構えていた手を下して先を促してくる。

 

「良いの?」

「武器は持っていないようだし、なによりここに男がいる理由が知りたいからな」

 

手は下しているものの、張り詰めた雰囲気、つまりは殺気を振りまいている辺り、変な行動を起こした時点でさきほどの手刀が俺を襲うだろう。

 

「気が付いたらここにいたんだ」

「話にならないな」

 

そう言いながらいつの間にか目の前にいて手刀を振り下ろしてくる。

交渉の決裂は半ば予想していたので冷静に手刀を捌いて大きくバックステップをする。

女性の方も一撃で終わらず、バックステップに合わせて前に飛びながら踵落としを仕掛けてくる。

 

ディフェンド・ナウ!

 

右手の指輪をベルトに翳して魔法を発動させる。

水の壁が空中に現れ、踵落としを仕掛けようとしていた女性を弾く。

 

声には出していないが、相当に驚いたのか殺気が一瞬消滅する。

その隙に指輪を付け替え、更にベルトに翳す。

 

チェイン・ナウ!

 

音声に合わせて水の鎖が女性に巻き付いて拘束する。

 

「クッ外れん」

「手荒な真似をしてすいません。でも話がしたかったもので」

 

そう言いながら近づいていく。

 

「はぁ、話とはなんだ」

「先ほどの続きですよ」

 

一つ、俺の頭には考えがあった。

この女性は、俺の考えている通りなら織斑千冬。

原作の主要な登場人物の一人であり、力になってくれるであろう人物。

 

「気づいたらここにいた。という奴か?」

「えぇ、嘘のようですけど事実なんです。あと嘘のような事実がもう一つ」

「なんだ」

「俺、異世界って奴から来たらしいんです」

 

思わずという風に真顔になっている織斑(仮)さん。

今彼女の中では、俺はかなりイタイ奴だと思われているだろう。

 

「証拠に、先ほど見せた力、この世界では見たことないでしょう?」

「あのバカのように新しい現象や機械を発明した……という訳ではないのか」

「あのバカというのが誰かは知りませんけど、この指輪とベルトは僕専用ですよ」

 

暫く考え込んだあと、コレを解除してくれ。と織斑(仮)さんから頼まれたので解除する。

 

「私を拘束しながら話をするだけ、そしてまだ姿を晦ましていない時点でこちらに従う意思はあるのだな?」

「えぇ、身の安全が保障されてるなら拘束や監禁もある程度は許容しますよ」

「……一週間だ」

「え?」

「一週間、私にくれ。なんとかしてみよう」

「なんとか、とは?」

「数年間、身の安全を保障させる方法がある。まぁその間にお前が自分の位置を確立できるかどうかは自己責任だが」

「えっと、じゃあお願いします」

 

いきなりの心変わりに疑う心が無い訳ではないが、このまま姿を晦ましても最悪の場合犯罪者として全世界に指名手配されるだろうし従っておく。

 

「遅れたが、織斑千冬だ」

「深海誠です」

「じゃあな深海、目が覚めたら私かマヤという人物に頼ると良い」

 

織斑の気配がブレたと思ったら、首に強い衝撃が走った。

全く反応出来ないくらいの速度で当身されたらしい。

それ以上考える事が出来ずに意識がシャットアウトされた。

 

____

 

織斑千冬は、目の前で倒れる男を見る。

異世界から来たとか言っていた男だ。

自身の相手をしても一撃で沈まず、反撃をして拘束までしてきた男。

明らかに危険である。

普段の自分であれば気絶させてIS学園側に引き渡していただろうが……

 

(この男は、何かが違った)

 

織斑千冬は、24歳と若い。

だが、彼女の類まれな人生経験から来る勘が、彼に何かを期待していた。

前にこの感覚を味わったのは、遠い昔に篠ノ之束と出会った時だ。

自身の人生、そして世界を大きく変えたあの彼女と同じ存在というのであれば、それはきっと世界にとっても重要な存在であるという事だ。

だから、織斑千冬はこの男を泳がせることにした。

願わくば、彼が彼女によってこの腐ってしまった世の中をもう一度変えてくれると信じて。


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