【停滞】湖の騎士 異聞録 (旧題偽・湖の騎士伝)   作:春雷海

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願い,セイバー,じゃあまたな

何故だ、何故だ何故!?

 

我は騎士のすべてを捨てた、仲間も、部下も、誇りも、心も!

 

それなのに何故追いつけないっ、なぜそんなにも遠いっ!

 

ふざけるなっ、ふざけるなっ、ふざけるなぁあああああああああああああああああ!

 

闇に堕ち、孤独となったことで、強くなった我の剣がっ、なぜお前を貫けないっ、何故届かない!?

 

貴様には守るものがあるっ、仲間がいるっ! 

寄り添いかばい合い、馴れ合うだけの有耶無耶な連中を守っているだけの貴様なんぞにっ!

 

なぜそんなにも強いのだっ!

 

暗黒騎士になったにも、何故届かない!

 

何もかも無くした我よりも何故、何故……貴様はそんなにも強いのだぁあああああああああああああああああああ!

 

「UGUUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」

 

 

* * * * *

 

怒声と慟哭の入り混じった叫びと共に斬撃が振るわれた魔剣を、ランスロットは折れた剣で返しに斬撃を放つ。

お互いの武器が交差すると、魔剣が澄んだ高い音を響かせて粉々に砕け散る。

 

砕かれた魔剣の破片が飛び散り、その中の破片の一つをパロミデスは掴み、ランスロットに突き刺そうとする。

 

ランスロットの剣が先にパロミデスの鎧ごと斬り上げ、血しぶきが起きる。斬撃の勢いでパロミデスは空中に上がり、地面に叩きつけられた。

 

それと同時に、ランスロットが使っていた半分の刀身が鍔元までに皹が入ると魔剣同様に砕け散った。

 

「Laaa……nnn……suuu」

 

「……パロミデス、もう一度言ってやる」

 

ランスロットは倒れたパロミデスを視界に入れ、あの時の――神秘の時代でパロミデスが息を引き取る前に送った言葉をもう一度云った。

 

「お前は本当の力を持っていたんだ……全てを捨てれば強くなっていたかもしれん。 だが守るべきものの顔が見えているお前には闇の力なんて無理だったんだ――お前は円卓の騎士・パロミデスだ。暗黒騎士なんかじゃない」

 

「ッ……la,n,su……uaaaaaaaaaaaaaaaa!」

 

言葉の意味が伝わったのかわからない。

だがパロミデスが泣き叫ぶような声を上げると、上空から金色に輝きつつも黒い波動を纏ったゴブレット――聖杯が降ってきたかと思いきや、彼の頭上に浮遊した。

 

「uuuuu……aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!」

 

パロミデスが縋るように両腕を上げると、黒き波動は消失する聖杯。そこから輝かんばかりの白光が降り注いだ。

それと同時に監獄城から六華たちが飛び出てきた。

 

「っ遅かった!」

 

「ランスロット卿!」 「ランスロットさん!」

 

悔やむように声を上げるジャンヌ、そしてランスロットを案じて声を掛けるマシュと六華。

 

そんな三人の声を他所に、ランスロットはただ白光を浴びるパロミデスの姿を伺っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

我は――いや俺はずっと、お前に憧れていたんだ。

 

だが何時からだろうな。お前の強さに追いつけず、嫉妬になり、それが憎しみに変わったのは。

 

唸る獣を討伐した時よりも前かもしれん……だが都合はいいかもしれんが、今はそれを置いとかせてくれ。

 

お前と決着をつけたい――だがそれは暗黒騎士とではなく、お前と同じ立場の存在として。

 

* * * * *

 

「…………勝負だ、ランスロット」

 

黒闇に染まった蛇を模造した兜と鎧の部位が地面に転がっていた。

その部位の近くに立つのは、黒が掛かった金髪で黒人の厳つい巨体を全身に漆を塗りたくった様な漆黒の肌を持つ男性――パロミデスは云った。それと同時に足元がふらつき、その巨体はよろめいた。

 

「そんなボロボロで大丈夫か?」

 

ランスロットはからかうように口元に笑みを浮かべると、パロミデスは野獣めいた笑みで応える。

 

「抜かせ。 今度こそ、俺が勝ってやるよっ」

 

パロミデスの聖杯の願い――それは暗黒騎士からの解放とランスロットとの再戦。

 

しかし、それはバーサーカーというクラスから解放されること――つまり大幅にステータスは下がっているものの、暗黒騎士から解放されたことで新たなクラスが授けられた。

 

セイバー、剣士の英霊というクラスを。

 

「聖杯よ。 願いをもう一つ言うぜ……普通の鉄の剣だ。宝剣とか聖剣なんざない、至って普通のな」

 

パロミデスがそう云うと、聖杯から魔力が流れ込むと同時に要望通りの二本の鉄の剣が地面に突き刺さる。

 

「あの時の試合みたいだな。違うのは、観客は少ねぇが、名高い英霊たちと人理修復する嬢ちゃんらがいることか」

 

「ふっ、卑怯なことをしてたことも思いだすか?」

 

「おーう……それを云うか、お前。 だったらこっちは、試合始まる前から女に囲まれて、ガレスの嬢ちゃんに怖い目を向けられてたことを語ろうか、この野郎」

 

「……それは俺の悪口か?」

 

「うるせぇ、ただの嫉妬だ! 女にモテてやがった上に、騎士道精神に満ちやがって。 羨ましかったんだよっ、畜生っ!」

 

今から決闘を行うとは思えないくらいの、仲間同士の語り合い――というよりはじゃれ合いに近い。

互いに笑みを浮かべる二人の手には鉄の剣、互いの刀身が煌めいた。

 

「絶対に負けないぜ、俺はよお……今度こそお前を乗り越えてやる!」

 

「ならば俺は……そのお前を斬る――我が剣に敵はないっ!」

(そして、ついでに干し肉の敵も取る!)

 

互いの心情を叫んだと同時に口を閉ざす。

 

二人の決闘を邪魔をするものはこの場にいない……いや邪魔をした瞬間にそのものは、二人の剣で斬り捨てられるだろう。

 

風しか聞こえない、静寂な雰囲気。

 

周囲にいる六華や英霊たちも言葉を紡ぐことなく、ただ観客のように二人の騎士の決闘を見守るのみ。

 

……時間はそれ程経ってはいない。しかし、それでも周囲にいる彼らにとっては長い時間のように感じたその瞬間。

 

 

 

 

         「試合」     「開始っ!」

 

 

 

 

ランスロットが、パロミデスが一言ずつ云ったと同時に。

 

互いの鉄の剣が振るわれた――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ……やっぱりつええな、お前はよ」

 

「……」

 

「さすがは俺の憧れだ……今度はよ、酒で勝負だ。 それだったら、俺が勝つぜ」

 

「…………だったら、今度は六華に召喚されるんだな。 そしたら、幾らでも付き合ってやる」

 

「ははっ、そうだな……そうしてやる、さっ」

 

そう云ってパロミデスは袈裟懸けに斬られた傷を押さえながら、肉体が光る粒子へと変わって、完全に消滅した。

 

 

 

 

「またな、パロミデス」

 

(干し肉もまた食わせてやるからな、ちゃんと来いよ)

 




パロミデスの口調は完全に春雷海のオリジナルです。
これ違うんじゃない? という方がいたら……受け付けますっ!

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