【停滞】湖の騎士 異聞録 (旧題偽・湖の騎士伝) 作:春雷海
「Laaaaaaaannnnnnnssssssssuuuuuuuu!」
暗黒騎士・パロミデスは魔剣に黒炎を纏わせ、斬撃と火傷を同時に与えようと刃を振るう。
無論受けるつもりはないランスロットは剣で撫でるように受け流し、柄頭で鎧の腹部を思い切り突いた。
「……理性無くしたせいで、前よりも鈍いな。 この程度の攻撃を受けるお前ではないだろうが」
そう云うと、ランスロットは下段から上段へと斬撃を鎧に振るうも、傷一つ付けられないどころか刃毀れしてしまった。しかし、気落ちすることなくランスロットは更に斬撃を振るう。
唐竹、袈裟斬り、右薙(みぎなぎ)、右斬上、逆風、左斬上、左薙(ひだりなぎ)、逆袈裟、刺突(つき)による乱撃術を全て同時に放った。
パロミデスは五連撃までは反応し魔剣で受け止め反撃しようとするも、受けきれなかった四つの乱撃は鎧に叩きつけらる。だが先ほど同様、鎧は傷すら残らず、遂には鉄の剣が折れてしまった。
「む……」
「LaaaaAAAaaannnnnnsuuuuuuuuuuu!」
それを好機と捉えたのかパロミデスは魔剣を振るい襲うも、折れた剣で身を護ったランスロットは後方に跳躍して避ける。
パロミデスは魔剣を眼前に構えると同時に、怪しく紫色に輝き出す。それが幻影となって生まれ、一本から二本――徐々に本数が増えていき、優に五十を超える幻影の魔剣がランスロットを囲んだ。
これこそが暗黒騎士パロミデスの宝具――
「Gi,guuuaaaaaaaaaaaaaa!」
一振りずつの刃が相手を刺し殺す閃光となる幻影剣たちを、魔剣を振るうことで放たれた。
五十本の幻影魔剣一振りずつが、一筋の閃光となって、その身を壊そうとランスロットに全方位に襲い掛かる。
しかし、それに慌てる様子を見せず、寧ろ冷静な目でランスロットは幻影剣を一瞥する。
彼は前方の幻影魔剣を折れた剣で地面を叩き地面から岩石を飛ばしたことで相打ちとなり掻き消えた。
また、岩石で掻き消せなかった残りの幻影魔剣が襲い掛かってくるも。
「魔皇刃!」
地面に叩きつけたままで振るって衝撃波を出し、続いて二度目の地面に叩きつけて全方位に広がる大きな衝撃波を発生させることで、幻影の魔剣は敢無く消えていく。
「Gu,Gi,Giiiii,Ziiiiiiiiiiiiiiiiiiii!」
己が宝具をたかが剣技のみで制されたことに、理不尽と感じ取ったのか咆哮をあげるパロミデス。魔剣を無造作に振るうと、刀身が蛇の如く蛇行して伸長し超速ともいえる速度で襲い掛かる。
ランスロットは折れた剣で逸らし、弾き、一歩ずつ前に進んでいく。対するパロミデスはそれに進ませないと刃を鞭のように曲げて叩きつける。
迫り来る刃に、ランスロットは薙いで払う。響く刃と刃がぶつかる音。
「Laannnnsssssuuuu!」
しかし、パロミデスは魔剣の刀身を伸縮して元の刀身に変化させて躍り出た。
無論それに気づいていたランスロットは真正面からぶつかる事にしたのだ。ガギンッと鍔迫り合いをする。
「暗黒に堕ちても騎士らしい戦いはするか……槍試合した頃を思い出す」
パロミデス卿は実力は円卓の騎士を10人も打ち破っている程であるが、悪としての活躍が目立っていた。
ランスロットも彼と試合した時は、馬の首を刎ねられたり、違反行為であるにも関わらず人体急所を狙われたりと何度か死にそうな目に合った。
しかし、刃を、飯を、酒を酌み交わせていく内に人なりを知っていき……やがて騎士としての顔つきとなっていった。
あの時は楽しかった……。そして思い出したことがある。
「そういえば、お前に貸した金と干し肉を返してもらっていなかったなっ!」
……遙か過去の事なので忘れていたが、そういえば彼に酒代と摘みであるり創った干し肉を貸していたのだ――その時の分を返してもらわなければ気が済まないっ。
(あの時の干し肉、いい出来だったのにっ! 食べやがって、こいつはあああ!)
「とっとと戻って来いッ! 円卓一の
借りを返してもらうために、その趣味悪い鎧と暗黒から解放させるため。
鍔迫り合いの中で生まれた暗黒騎士の魔力と魔力をぶつけ合わせて、強烈な広範囲の衝撃波を放った。
不謹慎ながらも、あの魔女に感謝すべきかなとモーツァルトは他人事のように思った。
いや、彼だけではなくこの場にいるサーヴァント全員がそう思った。
加勢しに行こうにもあの剣技の中では邪魔になるだけで、何より見たかったのだ。
暗黒騎士と湖の騎士との対決――それは伝説であり、本でしか語られることがなかった物語。
文字でしか語られることのなかった闘い、堕ちた剣と剣のぶつかりあい。
今それが目の前で繰り広げられていた。
伝説となった二人の騎士の闘い。
湖の騎士:ランスロットの凄まじく超越した剣技、暗黒騎士:パロミデスもそれに負けない剣技を繰り出している。
一種の舞台のように繰り広げられている二人の闘い――それは誰しもが見たかった伝説。
だが、それを語るにはどのような言葉を紡げばいいのか、この場にいるサーヴァントたち全員がわからないのだ。
今できることといえば、この戦いを最後まで見届けることである……しかし誰しもが思った。
この戦いがずっと続けてほしいと、伝説をもっと見たいと。
「とっとと戻って来いッ! 円卓一の
しかし、無情なことに伝説の戦いは終わりかけていた。
「聖杯、回収完了しました」
金に輝くゴブレット、聖杯の真の所有者であるキャスター・ジル・ド・レェを倒すことが出来たジャンヌ、六華、マシュ。
ジル・ド・レェの歪みながらもジャンヌの復活を願い、そして彼女を奪った国への復讐劇……。
間違いではあるものの、ジャンヌという個人に対する強い想い――いや信念というべきか。
敵ながらもそれを貫こうとした姿勢に六華とマシュは脱帽している最中。
ジャンヌは両手を組み己が信念とぶつけた、嘗ての仲間に祈りを捧げていると――。
『っ!? 六華ちゃんっ、今すぐに聖杯から手を離すんだっ!」
「え?」
ロマンからの緊急通信が入り、戸惑いと呆けた声を上げる六華。
マシュとジャンヌがその言葉を聞くと同時に、聖杯へ視界に向けると――黄金に輝いていた聖杯が突如黒き波動を纏った。
「六華、申し訳ありません!」
ジャンヌが謝罪の言葉を述べると同時に旗を大きく振るい、彼女の手に収めていた聖杯を弾き飛ばした。
聖杯が床を大きく弾き転がっていく、やがて勢いが失い止まる。
しかし、聖杯は独りでに動き出し浮き上がった。 それは勢いよく壁を突き破り、城の外へと出ていった。
「ドクター! これは一体!?」
マシュが戸惑いながらも叫ぶと、通信側の向こうにいるロマンが驚愕の表情を浮かべながらも、彼女たちに事情を説明する。
『聖杯の所有者がジル・ド・レェから、バーサーカーに変わっているっ!』
「っそんな! 確かに元来の聖杯戦争では最後に残ったマスターとサーヴァントに願いはかなえられますが、今のサーヴァントたちは主もいないはぐれです!」
『でも実際に起こっているんだっ! それに今、その聖杯を持ったバーサーカーと対峙しているのはっ』
「っランスロット卿!」
ジャンヌとロマンの言い争いを耳に、六華とマシュは足を即座に動かし玉座の間から出ていった。