【停滞】湖の騎士 異聞録 (旧題偽・湖の騎士伝) 作:春雷海
どちらの物語も進めたいので。
ワイバーンの鱗の加工をアステリオスやドレイク、そして子分たちが張り切って進めてたおかげで、船の補修が完了した。
船底の穴は完全に埋めて水漏れもなし。余った鱗はドレイクの発案で装備。
出航の際、アステリオスが黄金の鹿号を持ち上げて、航行可能な水深地点に降ろした。
このときの怪力無双に、子分も歓声を上げて、アステリオスは照れて頬を赤く染めていた――その時のかわいらしい姿を写真に収めたかったとランスロットは後日語った。
「さぁ出航するよ! 鐘を鳴らしな!」
そして、船がある程度進んだところで、甲板の上で緊急会議を開いてヘンリーとの再戦に向けて彼らは作戦を立てた。
まず、オリオンとアルテミスが、先んじて敵の船に侵入。
英霊オリオンには水の上を歩けるという恩恵がある。また小さなマスコットという見た目で敵に気取られずに近寄れるという強みを活かした人選だ。
そしてオリオンが敵船に乗り込んだら、アルテミスは甲板で陽動。この隙に、オリオンは弾薬庫に忍び入り、導火線に火を点けて離脱するという作戦だ。
――その作戦に全員の意見は了解するも、そこでランスロットが手を上げた。
「俺も一応水の上を歩けるが――俺に任せるという選択はないのか?」
『それはないし、無理(だろ/です/だわ/よ)』
全員一致の否定がその場で響いた。
確かに彼もオリオンと同じ恩恵がある。しかし、残念ながらこの男に隠密行動なんて取れるわけもない。それは六華たち全員が意見を一致した。
「いや、俺だってやればできる。王と敵対した敵の館に潜入しては樽に隠れたことがある、一応は隠密行動は取れる――」
「あっ、やったことはあるんだ」
六華の言葉をため息をつきながら否定するのはパロミデス。
「いや、マスターよ。 あのときは警備がガラガラで、ネズミすら入れるレベルだったんだわ……あんなバレバレの潜入があるかよ。樽に隠れて運ばれていく姿を見て、
「無理無理。 あんたみたいな偉丈夫と派手な戦闘技術を持つ男を、あそこの船員たちが見逃すはずないだろ?」
「しかも、戦闘力はサーヴァント以上。存在感が強すぎて、全く隠れることが出来ないあんたじゃあ、絶対に無理よ」
『あー、ランスロット卿? 僕もドレイク船長と聖女マルタに同意見だ。僕個人として伝説の騎士がコソコソと樽の中で隠れて歩く姿を見たくないよ……』
「ドクターとマルタさんたちの言う通りです。ここは耐えてください」
パロミデスの突込み、ドレイクとマルタに論破され、更にはロマンとマシュのお願いに彼は不貞腐れつつも納得の意を示した。
その姿を見てマシュ――そして彼女の中に宿っている霊基――は心底安堵したように息を吐く。
誰だって見たくはないだろう、尊敬している男が樽の中に隠れてコソコソ歩き回る姿なんて――猫目の風勇者でもないのに。
何はともあれ作戦は無事立てることが出来た。あとは敵船を発見しては再戦をするだけだ。
* * * * *
オリオンとアルテミスの隠密行動及びに作戦は成功した――無事に弾薬庫は爆発したことが視認された。
それを合図に、黄金の鹿号はドレイクが取舵を大きくいっぱいにとり、鱗で強化した衝角で敵船の側面に、抉るように叩きつける!
「略奪開始だ。あたしの可愛い子分たち、一緒に乗り込むよ!」
『オオオオオオオオオオオオオオオッ!』
ドレイクの宣言に船員たちも叫んで、敵船に乗り込んでいった。その後ろを六華たちは追いかけて敵船に乗り込むと――。
「おっと、君たちの相手は――アンがするから。アン、僕はそこにいるデリカシーゼロ
「ちょっ、メアリーッ!? もうっ、夢中になる相手を見つけるといつもああなるのだから……ちょっと嫉妬しちゃいますわ」
「とっとと、消えろッ! このデリカシーゼロ男っ!」
「上等だ、貧乳娘! お前の貧相な身体を真っ二つに斬り落としてやらぁ!」
パロミデスとメアリーが口喧嘩を行いながら荒々しい剣舞を繰り広げ、互いの刃が命を狙いあう。
一方のアンはそんな相方に苦笑しては六華とマシュやマルタ、そしてマリーとジャンヌに銃口を向けて発砲した。
「グゥオオオオオオオオオッ!」
「おっとっ、はは、能無しバーサーカー程度に後れをとるほどおじさんは鈍くねぇぞぉ!」
アステリオスはヘクトールと対峙する――しかしアステリオスの振るう斧は易々と受け流されるか、受け止められるのどちらかになるも。
「喰らいなさいっ!」
「おっと、あぶなっ……ははいいねぇ、久々に高ぶってきたぞ!」
その両方の隙を狙ってエウリュアレの放つ弓矢が襲い掛かる。しかし、ヘクトールはそれを難なくと避けていく。
「デュフフフフフフフッ! BBAの相手は拙者でござるよ!」
「あぁん!? あたしの相手があんたで務まると思ってんのかぃ!?」
「デュフッ、厳しいでござるが――こっちとら黒髭と言われた海賊だっ、いつまでも嘗めてもらっちゃ困るぜ?」
「っ! へぇ、こいつは嘗めて掛かると殺られちまうねぇっ」
黒髭の低くなった声とともに放たれた殺気に、ドレイクは先程のように黒髭を格下に見るのをやめた。
目の前にいる黒髭は間違いなく――強者であることを彼の殺気を感じて分かったからだ。
そして――。
「爆発させるとはやるなぁ、騎士道から外道に落ちたか?」
「……時には過激なやり方も必要だ。それにお前を相手に騎士道では分が悪いからな」
「ははっ、伝説の騎士にそこまで言わせる海賊って俺くらいだよなぁ……っと雑談はこれまでとするか。 いい加減に決着つけようやっ! カモン、クラちゃん!」
「ふんっ、焼きイカにしてやる! 炎牙天衝!」
ヘンリーがクラーケンを召喚したのと同時に、ランスロットはマルミアドワーズを引き抜いては三日月状の炎の斬撃を振るった。
クラーケンは海面を叩きつけて海水をぶちまけるものの、海水はあっけなく蒸発しては塩となるだけ。
しかし斬撃の勢いは弱まり、クラーケンの表面だけを焦がしただけである――その匂いをかいで二人は戦いの手を止めてはクラーケンを見つめて一言。
「……旨そうな、いい匂いだ」
「……あーっ、クラちゃん。 後で触手くれや、焼きイカにしてぇ」
『
緊張感のかけらもない二人を叱るため、声の代わりに勢いよく息を吐いたクラーケンであった。