【停滞】湖の騎士 異聞録 (旧題偽・湖の騎士伝)   作:春雷海

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今回は春雷海の勝手な解釈とねつ造に設定が入り混じった、世界観の話をしています。
大変に申し訳ございませんが、温かな目で見ていただけたらと思います。


撤退と憂鬱,ランスロットとヘンリー、そして味の感想会,

「さてさて、きょうはこれまでか。 そっちの船はあっけねぇなぁ」

 

ヘンリーの軽口にランスロットは舌打ちをして、マルミアドワーズを鞘に納める。

 

二人の勝負であったら間違いなくこの場はランスロットの勝利だ。

だが、今ここはあの世界ではないし、ヘンリーには部下が、ランスロットには仲間がいる。

 

ヘンリーが呼び出したクラーケンとメガトロン、そしてタラスクの戦争によって、黄金の鹿号に大小の損傷が生まれ、それは黒髭の女王アンの復讐号も同様であった。

 

だが最終的にはアンのマラカット銃と女王アンの復讐号からの攻撃を受けて、激しい損傷を受けた黄金の鹿号から所々に黒煙が上がって撤退を余儀なくしなければならない。

 

個人ではランスロットの勝利、集団ではヘンリー側の勝利――お互い敗北をしているために、納得がいかない。

 

しかし――ここはお互いの意地を張り合う場合ではない。今は預かっている命と己が命が掛かっているのだ、今は引くしかないのだ。

 

 

すると黄金の鹿号が動き出した――よく見れば、アステリオスが船を担いでは泳ぎ出しているのを確認できる。

 

 

そのことに二人は驚くも、互いの敵を見据えて、互いの武器を下して仕舞った。

 

「なあ、ランちゃんよ。 ここは退いといたほうがいいだろ? こっちも無傷ってわけじゃないからよ」

 

「元よりそのつもりだ。 今の俺にはあの子たちがいる、決着よりもそっちを優先させてもらう」

 

「そう言うと思ってくれたぜ。 だからよぉ、ヘクトール! 手を出すんじゃねぇぞ!」

 

「……あれま、バレちまったか。 まっ、船長だけじゃなく、そっちの騎士の兄さんも感ずかれていたから、手を出そうにも出せなかったけどさ」

 

物陰に隠れていた中年男性――ヘクトールの登場に二人は驚愕することなく、互いに背を向ける。

無論ランスロットはヘクトールを警戒し、何時でもマルミアドワーズを抜刀お呼びに投げ飛ばせるように柄に手をかけている。

 

「久々に熱くなれた、またやろうぜ。ランちゃんよ」

 

「抜かせ、次も俺が勝つ」

 

互いの軽口を掛け合った後、ヘンリーは頭をかきつつ船内の扉へ歩き出し、ランスロットは黄金の鹿号に飛び移った。

 

そんな二人をただ見つめる――いや見つめることしかできなかったヘクトールは安どしたように息を吐いた。

 

「おう、ヘクトール。 今回は助けてやるが、次闇討ちする気があるならもう少しうまくやったほうがいいぞぉ。 あれじゃあ、首切られて炎に包まれておジャンだ」

 

「…………微妙なアドバイス、ありがとよ、船長」

 

ヘクトールのダルそうな声にヘンリーは意地悪そうに笑っては「いいってことよ」と答えた。

 

* * * * *

 

船内に入っていったヘンリーの背中を見送ったヘクトールは、適当な手すり(ハンドレール)に寄りかかった。

そして、辟易とした表情を浮かべてはため息をついた――簡単な仕事かと思いきや、まさかのイレギュラーの登場。片方は幻想種の召喚を可能とする船長、もう片方は凄まじい剣術と体術を兼ね備えた化け物。

 

しかもあの二人は互いを見ていながらもヘクトールに対しての意識を決して忘れず、仮に動いたとしたら確実にこちらの首を狙い獲ろうとしていた……。

 

あの二人がいる船に乗船している自分は、いわゆるツんだという状況に近いのではないか。

 

(と思っても、うちの雇い主ときたら……無理難題を押し付けてくれるよ)

 

ヘクトールは依頼内容を思い出しては大きなため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

「へ、ヘクトール、しぃい……たすけて、へるぷみー」

 

「ん? あぁ、大丈夫かい、黒髭せんちょ――うわっ、生臭っ!? ちょっと、近づかないでくれる!?」

 

「ふぐっ! ぶ、部下からの冷たい声に拙者泣きそうっ、でもでも! 怪獣戦争を間近で見たから、そんなこと全然気にしないっ! だって特撮でも見たことないもん、あんな凄まじい光景! 今度またみよっ、あっ、アン氏、メアリー氏! ヘクトール氏に冷たくされた拙者を慰め――」

 

「うるさい近づくな、変態」

 

「……黒髭船長、今メアリーに近づかないほうがいいですわよ。 下半身と上半身がさよならバイバイしますわ」

 

「あっ、はい。 な、何かあったでござるか?」

 

「別に。黒髭以上にウザくて、デリカシーのかけらもない糞野郎がいたことで、苛ついているだけだよ……ふざけやがってあの野郎」

 

「せ、拙者以上って……どんだけぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黄金の鹿号は無事、近くの島に漂着した。船体も船員も損傷が激しいが、全員生きている。

 

しかし、船底に大穴を空けられて、もう沈没するしかないと誰もが思ったときに、アステリオスだけが諦めなかった。

 

その場で海に飛び込むと、何と黄金の鹿号を担ぎ上げて泳ぎ出して無事に島へ漂着した。彼の奮闘のおかげで、生き延びることができ、反撃するチャンスも船を修繕する事が出来た。

 

「しっかし、あの船もヘンリーとかいう野郎は滅茶苦茶すぎるぜ……」

 

「はい……正直運がいいとしか言いようがありません。 あの幻想種たちやタラスクさんの暴れがなかったら、こちらはもっと被害が出ていた可能性がありえます」

 

「更に言うと、あそこには五人のサーヴァントとあの男がいます。 私たちと同等の実力もあって、しかもあちらは船での戦いが慣れているから、戦略的にも厳しいわ……」

 

パロミデスとジャンヌ、マルタの言葉に全員が頷く。

 

 

敵対するあの船――女王アンの復讐号は様々なイレギュラーがあった。

 

船体の強度、五騎のサーヴァント、海賊王ヘンリーと幻想種。何とか撤退する事が出来たが、また敵対するのかと考えると辟易となってしまうが――。

 

「まぁ、何とかするしかないさね。 とりあえずは船を補修……するまえに。 ランスロット、聞きたいことがある」

 

ドレイクがランスロットを睨みつけながら、豊かな胸を持ち上げるように腕を組んだ――それに「おぉ……」と感銘をあげ、眼福と言わんばかりにドレイクの胸を見るパロミデスは、マルタの鉄拳制裁で沈んだ。

 

「あの野郎、ヘンリーとどういう関係だい? 見たところ、あんたと仲がよさそうだったし……しかもランちゃんって呼ばせるほど――くくっ」

 

ランちゃんという言葉に笑うドレイクに苛立ちを覚えるも、それよりも説明したほうがいいと自制しながらランスロットは語りだした。

 

「……奴とは世界の裏側――時の流れが外れた世界で出会った」

 

『世界の裏側……つまり異世界のようなものかい? だけど君とヘンリーじゃあ、時代も場所も異なっているじゃないか、いったいどうやって出会ったんだい?』

 

「さっきも言ったろう、時の流れが外れた世界だと。あそこに時間という概念がない、だから人間の身体に変化が来ない。 更に言えば特殊な地形に入らなければ、ほぼ永続的に同じ景色や空間が続く世界――譬えあそこで一世紀の時代が異なっても、身体に変化が起きることもないし、寿命も来ることがない。 あそこの世界に入り、同じ地形にいれば出会える……まぁあそこには幻想種が山ほどいるから生きて会えたらの話だがな」

 

ランスロットの口から語られた『世界の裏側』という実態を聞いて、全員が唖然そして慄めいた表情で見つめていた。

 

アーサー王の時代において鮮烈な戦いや戦争に参加し戦い、そして『世界の裏側』でも幻想種を相手にして生き残った騎士――ランスロット。

 

余りにもすさまじく、また現実からかけ離れた世界で全員が言葉を紡げずにいるも、ランスロットはそれに触れることなく語りだした。

 

「偶然同じ地形に入ってから俺たちは意気投合して仲が始まったわけだ……そこでお互いの幻想種の味感想会を始めた」

 

「…………え?」

 

「あいつめ、海の幻想種は旨いと言っていたが、味は余り薄くてな。クラーケンの刺身はコリコリしていたものの、味がなくて旨くも何ともなかった。逆に俺が提供したワイバーンの焼き肉が旨いと言って、飛んでいたワイバーンを一緒にハンティングしたな……あれは楽しかった」

 

何かとんでもないことを語りだしたランスロットに先程までの唖然と慄きはなくなり、戸惑いになっていく。

 

『世界の裏側』について語りだしたと思いきや、なぜいきなり幻想種の味について語りだしているのだろうか。

 

「船に乗ってはシーサーペントも一緒に狩ったことがあったな。 刺身にして食べてみたが、ブヨブヨして不味くてな結局焼いて食べたものの……図体がでかいだけで結局シーサーペント自体が美味くなかったんだろうな、うん。他にはケルピーを食べようとしたが結局逃げられたのは無念だったな……あと」

 

「いい加減に戻ってきなさいっ!?」

 

マルタはスパンと思い切り頭をはたいて、ランスロットを思い出の世界から現実の世界に戻した。

 

 


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