【停滞】湖の騎士 異聞録 (旧題偽・湖の騎士伝)   作:春雷海

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エウリュアレ,鎖プレイと再会・闘いの始まり

「なによそれ! まぎらわしいのよ、あなたたち!」

 

ステンノに似た少女――エウリュアレの怒号がダンジョン内に響き渡る。

地下迷宮を偶然見つけたことと、ここにエウリュアレがいるとは知らなかったことを説明し終えると同時に、彼女の表情は怒り心頭、理不尽とも云える八つ当たりをぶつけられた。

 

六華たちが困惑に捕らわれている中、ランスロットだけは彼女と関わらないようにそっと離れていく。

 

あのエウリュアレはステンノと同じ女神。勝手に中身を審判されて色々言われてしまうのは御免だ。

 

(ああいうタイプはマジであの姉ちゃん以上に厄介だ)

 

思い出すのは、モルガン。言い寄られた挙句に蛇に睨まれた蛙の如くに狙われた。執拗にそして言葉巧みに言い寄られ、狙った獲物は逃さないと云わんばかりに……思い出すだけでも寒気を覚えてしまう。

 

恐らく、今いないステンノと、あのエウリュアレもモルガンと同じタイプで、根掘り葉掘りと余計なことを云ってはこちらを不快にさせるのだろう。絶対に御免被る。

 

必要以上に関わらないことを密かに決意して、ランスロットは拳を強く握り締める――。

 

「へぇ、貴方がランスロット?」

 

「むっ……!?」

 

しかし、決意は虚しく散る。エウリュアレが寄ってきて話しかけてきたのだから。ため息をつくのを我慢しながら彼も話に応じる。

 

「ああ。しかし、女神さまとやらがなぜ俺に?」

 

「なぜも何も、不本意だけどドレイク(あの女)の船に乗るんだから、一応は挨拶をね。 光栄に思いなさいよ」

 

「……は?」

 

どうやらランスロットが離れている内に、エウリュアレとアステリオスが黄金の鹿号に乗車することが決定されたようだ。

 

……反対したいところだが、苦手だからと云って勝手に離れた挙句に話を聞いていない立場であるため、重々承知している。

 

それとマシュから聞いた話によると、アステリオスが張った結界を解かなければこの島から出られないことが判明し、またドレイク自身が決めたことに反論も出来ない――あくまでこちらは客人として扱われているのだ、客人が船長の意見を反するなどありえない。

 

(いや、それでもなぁ)

 

心中ではねちねちと文句を言いながらも決して表には出さないが、納得はしていない。

 

しかし、そんなランスロットを気に留めることなく、エウリュアレを連れてダンジョンから抜け出すために歩きだす六華たち。

 

そんな彼女たちの後ろを追いかける為、トボトボと憂鬱そうに歩み進める――。その後ろ姿は最強を誇る騎士には見られないが、事情が事情なので仕方がない。

 

「う? どう、した、の?」

 

「……いや、何でもない。アステリオスは優しいな……このままカルデアに来ないか?」

 

「うっ、でも、ぼく、エウリュアレ、まもるってやくそく、むり、かも」

 

「そうか、優しいだけでなく、良い男だなおまえは」

 

怪我の為か同じペースで歩いていたアステリオスとの会話で少しばかり心が軽くなるのを感じたランスロットであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

島から脱出し、黄金の鹿号を発進して海を渡り歩いていたその時――。

 

前方に一隻の船が黄金の鹿号に向けて進んでいることを確認が取れ、またその船が掲げている海賊旗を見て、ドレイクが騒ぎ出した。

 

「あー! アイツだ! アタシの船を追い回してた海賊! ここで会ったが百年目だ。水平線の彼方まで吹き飛ばしてやる!」

 

そして、ロマンの通信が入った。

 

『旗の映像が確かなら、それは史上最高の知名度を誇る海賊船だ! 黒髭ことエドワード・ティーチの海賊団……! 戦闘になったら出し惜しみなしの最大火力で臨むんだ。黒髭は、無抵抗の相手は見逃したけど、少しでも抵抗の素振りを見せたら皆殺しにした残虐な海賊だ!』

 

「ありがとう、ドクター! それじゃあまたね」

 

『ちょっ、六華ちゃんっ! 僕の仕事はまだ終わってないからっ!』

 

緊張感が欠ける六華とドクターの掛け合いに、少しばかり心が和むものの、即座に切り替える。

 

興奮気味に叫ぶドレイクに子分たちが宥める最中、ランスロットたちは武器を構え、体制に準備を始める。

エウリュアレは六華と一緒にマシュの背中に隠れて、マリーやジャンヌもマシュ同様に彼女たちを守護するように立ち、ランスロットとパロミデス、マルタ、アステリオスが前方に立って体制を整える。

 

 

 

二つの船がついに横並びになって停まった。

 

 

 

船のデッキには、女海賊が二人に、十字槍を持った男が一人。

 

そして、何故か船長であろう黒い髭を蓄えた男が恍惚に満ちた笑みを浮かべ、右目に眼帯を付けている男に太い鎖で縛り巻き付けられて床に転がされていた。

 

…………何とも言えない空気がこの場で生まれた。

 

「……あー、そこの髭はなんでそうなってんだい?」

 

ドレイクが躊躇いがちに何とか言葉を紡いで、相手側の事情を聴く――だが心底嫌悪感に塗れ、特に黒い髭の男に関しては蔑むような目で睨んでいた。

 

「あぁ? この黒ひげ(へんたい)のことか? 『アンとメアリ―氏に触手プレイ、ハリーハリーッ!』って気色悪く言い寄ったから、ウザくってな。 堪忍の緒が切れてよ、御望み通りのプレイをしてやってんだよ」

 

「それは触手ではなく、鎖プレイというのでは?」

 

「まぁ、そうともいう……ん? おぉ、久々じゃねぇの!?」

 

ランスロットの突っ込みに応えた眼帯の男――ヘンリーが嬉しそうに笑って、鎖を海に投げ捨てた。

 

「ちょっ!? ヘンリー氏ッ、鎖の重みで―――ああああああゲボボッ!?」

 

鎖に巻き付けられた男は無残にそして憐れにも海に沈んでいく……だがそれを誰にも気に留めることなく、眼帯男とランスロットに目を向ける。

 

「よぉっ! あの世界ぶりだな、ランちゃんよ!」

 

「……その呼び方辞めろ、ヘンリー」

 

「ははっ、まさかお互いあそこから出られるとは思わなかったなぁ。 どっちが先にくたばるかっていう賭けはドローってとこか」

 

「ふん、海の幻想種らを配下にしておいてよく云うな」

 

二人の会話が弾むなかで、通信越しでそれを聞いていたロマンが驚愕に満ちた表情で叫んだ。

 

『ヘンリー……まさか海賊王ヘンリー・エイヴリーッ! ムガル皇帝アウラングゼーブのガンズウェイ号を拿捕して莫大な財宝を手に入れたってあのっ!?』

 

「あっ? なんだ、このヘタレ臭満載の小物感が強い声は……俺のことを知っているようだが、それ以上のことは知らないようだな。 まっ、云うのも何だが財宝を手に入れた後は酒池肉林、女子供に囲まれてウッハウハなハーレム人生をかこっていたからなぁ、はははははははっ!」

 

『うっわっ、なんだかちょっとムカつくなこの人……っ!』

 

ヘンリーが気分良く自慢げに語り叫ぶのを耳にしながら、ランスロットは帯に指しているアロンダイトの柄を勢いよく引き抜いた。

 

この男が饒舌の今ならば奇襲をかけて、一気に状況を有利にすることが出来る――。

 

「ッと甘いんだよなぁ、それがよっ!」

 

銃声が鳴り響く。衝突音が鳴り響くと突き刺す音も同時に響いた。

 

ヘンリーが持つフリントロック銃から硝煙が立ち、火薬独特の臭いが全体につく。銃口先はランスロットに向けられており、彼の手にアロンダイトはなかった。

 

アロンダイトは黄金鹿号の床に鍔まで深く突き刺さっている。取りに行こうにも敵を目の前にして背中を魅せる馬鹿はいない。

 

「ははっ、お前さんらしからぬ油断っぷりだな。 俺相手に奇襲出来ると思ったか、鈍っちまったんじゃねぇの?」

 

ヘンリーのフリントロック銃を器用に廻しながら嘲りの笑みを浮かべる。

 

「まっ、そんな甘ったるい環境にいたんだからそうなるのは当然か? しかも雛鳥が二匹もいて面倒見るのが大変そうで……そんな頭と肉体で俺様に勝てるか、勝負しようじゃねぇの!」

 

腰に差したサーベルを引きぬいて突き付けてはヘンリーが叫ぶ。それと同時に海から飛び出してくる二匹の化物。

 

それを見たドレイクたちの子分たちが悲鳴を上げ、またドレイクも悲鳴を押し殺しながらも若干震えながらも睨みつける。

 

それは、海の化け物として、そして伝説上でしかありえない化物(モンスター)たち。

 

 

 

 

 

 

 

「野郎ども! 黒髭が亡くなって心苦しいと思うが、今から戦場だッ! 手前らのやりたいことを今から全部しやがれ! 安心しろ、海に投げ出されたとしても俺の部下であるクラちゃんとメガちゃんが助けてやるっ!」

 

 

 

 

 

 

 

頭足類で海の怪物クラーケンと史上最強鮫メガロドンがいま、人理修復を目指すマスターとランスロットたちの目の前に現れて、戦いが始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「いや―――――! 誰か助けてでござるぅうううううううううう!」

 

……クラーケンの触手に巻きつかれ振り回されている髭の男、通称黒髭ことエドワード・ティーチには誰も触れずにいた。

 


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