【停滞】湖の騎士 異聞録 (旧題偽・湖の騎士伝)   作:春雷海

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ある意味友情,ダンジョン,対アステリオス

「船が動かなくなった」

 

ドレイクが頭を抱えながら、深刻に告げた。

 

「船そのものに異常はなかった。ただ、船体が何かでがっちり固定されちまっててね。にっちもさっちも行かない。アンタたち、こういうの専門なんだろ?」

 

「たぶん、これは魔術の一種だと思うけど。恐らく結界の……マシュはどう思う?」

 

「はい、先輩の推察通りで、結界がこの島全体に張り巡らせてます。デミサーヴァントである私やサーヴァントの皆さんならば、この程度脱出できるレベルですが、先輩たちや船はそうはいきません」

 

「船を動かすには……その結界ってのを張った奴をぶちのめさなきゃいけないのかい?」

 

「はい、そうなります」

 

「単純だねぇ、でも簡単で助かった――野郎ども! しばらくそこで待機だ! 行儀よくダラダラして、本番に備えときな!」

 

『あいあいさー!』

 

掛け声に海賊たちの答えを聞いて、ドレイクは満足げに頷いて六華たちに獰猛な笑みを浮かべた。

 

「じゃあ一丁、そのヌシとやらをぶっ飛ばしに行こうじゃないか、頼りにしているよ! ……そこのイ●ポ野郎は精々ちびってな!」

 

……やはりと言うか何というか、御約束のようにパロミデスを煽るドレイク。それに憤慨してパロミデスが声を発せようとしたとき――。

 

『いい加減にしろ(しなさい)』

 

ランスロットとマルタの拳骨がパロミデスの頭を殴り、地面に叩き伏せた。

 

「もうドレイクさんも一々ちょっかい掛けないでください」

 

六華が叱りつけると、ドレイクは大声で笑って頭を掻く。

 

「ごめんごめん。でもね六華、ああいうタイプってあたしはどうも面白くって堪らないんだよ。今まで、ああやって突っかかってくる野郎はあいつが初めてでねぇ……大抵は情けない顔をしたり耐えたりとかでつまんない連中ばかりさ。だから、彼奴みたいなのを見るとつい揶揄いたくなっちまう」

 

寂しそうにつまらなさそうに語るも、後半から彼女の表情は楽しげに笑いだす。

 

彼女には異性の友人は余りにいなかったのだろう。男であり部下である海賊たちは上司として船長として接しているため、対等での会話はなかった。だからこそドレイクはパロミデスのような男との会話は新鮮であり、とても楽しいのだろう。

 

パロミデスとの会話上では口喧嘩が多いものの、口喧嘩を終えた後の彼女の表情は満足げな様子が都度見られていた。それは部下たちも気づいており、最近では「またやってるよ」と笑い話にすらなっている。

 

だがそれはそれとして。

 

「楽しいのは構わないのだが、止める側の方にもなってくれ……いい加減に拳が痛くなる」

 

「パロミデスは石頭だから、私も手が痛んでしまうので……あまり控えて貰えればと思うのですが」

 

「何だい軟弱だねぇ、っていうかマルタはさいい加減に猫かぶりは辞めな。 もうバレているんだからさ」

 

「うっ……!」

 

ランスロットとマルタの若干の嘆きをドレイクは斬り捨てた。

 

「まっ、確かにいじめは格好悪いからね……いい加減にやめとくか。 二人に感謝しな、ヘタレ」

 

「っ、こ、この痛みがひいたら覚悟しとけよ……っ!」

 

『だからやめろ(やめなさい)っ!』

 

ランスロットはパロミデスの頭を、マルタはドレイクの頭を思い切り叩き、強制的に二人の口喧嘩を止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗い穴を潜ってすぐ、下に続く階段があった。出口らしき光は下に灯っている。

 

「地下迷宮ってやつかい? いいねえ、海賊の血が滾る!」

 

ドレイクがまず階段を降りて行き、それに続くように六華たちも降りていく。

 

地下へ続く階段を慎重に降りて行った――階段から広い空間に出たのと同時に目に入ったのは石詰めの壁。小さな火を燈した石の柱。似た風景が続くいくつもの分かれ道。

 

「よーし、揃ったね。じゃあ進むとするか。右か左か……直感、左!」

 

ドレイクは軽やかな足取りで、石造りの閉鎖空間など物ともせず進んでいった。

 

「……ねぇ、着いていっていいのかしら?」

 

「ド、ドレイク船長は一流の海賊。その直感も鋭敏でしょう。た、多分……」

 

「迷っている暇はない、今はあいつの海賊としての勘を信じて歩くぞ。 どのみち今の俺たちに道を選ぶ余裕もない……何より迷宮を突破するには、勘も必要だ」

 

マルタとマシュの迷いをバッサリと切り捨てたランスロットは彼女の後を追うように歩き出す。

 

「うふふっ、何だかガリヴァー旅行記の登場人物になった気分ね。 私も行くわ、ヴィヴ・ラ・フランス!」

 

マリーもどこか楽しげにステップを踏んでは二人を追って駈け出した。それに続いて六華も歩き出す、そして未だ進むべきかを迷っているサーヴァントたちに声を掛ける。

 

「ほら、行こう! ドレイクさんもランスロットさんもそう云っているんだから、大丈夫だよ」

 

六華はそう云って、マシュの手を掴んで「迷わないように一緒に行こう」と歩き出した。

手を繋がれたマシュは驚いたものの、数秒後にははにかんだような笑顔を浮かんで「はい、一緒に行きましょう!」と嬉しそうにして、六華との足踏みを揃えて歩き出した。

 

それに後押しされたか、他のサーヴァントたちもようやく動き出していく。

 

ゴールがどこにあるか分からない迷宮を彼らは歩き進める――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全員、止まりな!」

 

鎖を引きずる重い足音。近づいて、来る。

 

「イヤな予感的中だね。何か来るよ!」

 

「オオオオオオオォォォォォ!!!!」

 

咆哮と共に現れたのは、鋼鉄の牛面を被った大男。しかし、その大男から放たれる気配はジャンヌたちと同じサーヴァント。

 

そして仮面越しにくぐもった声で告げられる無慈悲な宣告。

 

「しね」

 

話し合う余地はなし。と判断した全員がそれぞれの武器を構え、対峙する。

 

牛面のサーヴァントが肉厚の拳を振り下ろした。

 

「オオオオオオオォォォォォ!!!!」

 

「させません!」

 

マシュは盾で拳を真正面で防いだが、重く吹き飛びそうになるも何とか耐え抜いて、押し返すことに成功した。

 

たたら踏む牛面サーヴァントに一気に距離を詰め込んだのはパロミデス。携えていた剣で袈裟懸けで切り裂くのと同時に返す刃で逆袈裟懸けで二連続の斬撃で切り裂く。

 

「グッ…………ゥオオオォォォッ!」

 

「ぐっ……!?」

 

しかし、斬られた牛面サーヴァントは臆することなく、痛みに耐えながら拳を大きく振るってはパロミデスの顔面を捉えて殴り飛ばす。

硬い床に派手に転がり飛び、時折身体から嫌な音が響くのを聞いて六華は即座に頭の回転を震わせて指示を出す。

 

「マルタさん、パロミデスさんを回復させて! それとマリーさんは魅惑の美声を試してみてっ!」

 

「はいっ!」

 

「任せてっ―――♪――♬――♬」

 

マルタが魔力を通して杖を振るうと同時に、パロミデスの頬に出来ていた痣が消えていき、変な方向に曲がっていた腕が骨が砕くような音を響かせながら戻っていく。――パロミデスの悲鳴が若干聞こえるものの、治っていくのだから文句は言えない。

 

そしてマリーは口から紡がれる、人々を惹き付けるような高音が混ざった可愛らしくも美しい歌声が響き渡る。

 

その歌声に牛面サーヴァントは聞き惚れて棒立ちになり、無防備な状態になった隙を狙って、ジャンヌとランスロットが駈け出す。

 

「遅れるなよ」 「勿論です!」

 

ランスロットが引き抜くはマルミアドワーズ。ジャンヌは旗を構える。

 

二人の動きは交差するように駆け、瞬速の突きを繰り出して、牛面サーヴァントを貫いた。

 

「グッ――ウゥグッオオオオオオオオオッ!」

 

炎の魔剣と旗の先端に付けられている切先に貫かれても、そのサーヴァントは倒れることなく、寧ろ二人の武器を掴んで自らの肉体に押し込む。

 

「はっ、好都合さ! 動くんじゃないよっ、二人とも!」

 

ドレイクがそう叫んで牛面のサーヴァントを銃撃。着弾は全て眉間――だが牛面によって防がれた。

 

そこで、敵の牛面に亀裂が入って、真っ二つに割れて床に落ちた。出てきたのは、額から血を流す、その強靭な肉体に合わない程の童顔。

 

「ま、もる……!」

 

「なに……?」

 

「ぼく、が、まもるっ!」

 

――その瞳に、守る意思を湛えた光を見たランスロットはマルミアドワーズを引き抜いて鞘に納めた。

ジャンヌもサーヴァントの瞳にあった意思を捉えたのか、旗を引き抜いていた。

 

「うっ? どう、した……?」

 

「……お前は何を守っている」

 

闘争心の塊が嘘のような、あどけない表情で首を傾げて聞いてくるサーヴァントにランスロットは逆に聞き返す。

 

迷宮の主であろうサーヴァントが懸命に護ろうとする瞳は、嘗ての騎士たちと同じ強いものだった。決して獣ではなかった。

 

斬られて傷だらけになりながら、そうまでして守るモノを知りたかった。

 

「………えうりゅあれ、まもる。 やくそく、まもらなきゃ」

 

「えうりゅあれ?」

 

「お待ちなさいッッ!」

 

甲高い少女の声が迷宮に響き渡った。

 

「わかった、わかったわよ! 私が付いて行けばいいんでしょ!? アステリオスはもう瀕死よ。戦力としては連れて行く価値もないでしょ。さっさと帰りましょうよ、アイツの所へ」

 

「…………うげっ」

 

迷宮の陰から飛び出すように現れた少女の顔を見て、ランスロットは思わず呻いてしまった。

 

それもそのはず。その少女はステンノ――に似た少女であったからだ。

 


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