【停滞】湖の騎士 異聞録 (旧題偽・湖の騎士伝) 作:春雷海
今年もよろしくお願いします。
1月は中々忙しく投稿できなかったです、申し訳ありませんでした。
確かに。海の上にレイシフトすることはなかった。海に落ちることなく、六華も無事に降りることが出来たし、サーヴァントたちも離れることなく一か所に集まることが出来た。
ドクターによる懸命な配慮をしてくれたのが理解できる……出来るのだが。
「何訳の分からん事をゴチャゴチャ抜かしてんだ? とにもかくにも久々の獲物だ! 奪えぇぇぇ!」
六華たちがレイシフトしてきた場所は航海中の海賊船の甲板だった。
「やはりドクター・ロマンには何らかのお仕置きが必要です!」
『いやーほら、何とかの法則であったじゃない。失敗するって要因は必ず失敗に向かうって。それにいい足があったって考えようよ!?』
「……マルタ、パロミデス。 カルデアに帰ったら、好きにドクターに料理してやれ」
「おっ、久々に円卓騎士恒例『提出期限間を遅れた奴は蹴り』をやるか。 久々だなぁ、おい」
「あら、それ面白そうね…………いえ嘆かわしいですね。 暴力では何も解決しないというのに……ですが、罰は与えなければなりません。 蹴りでは少々はしたないので、杖でもいいかしら?」
『本当にごめんなさいっ! お願いだから許してくださいッ!』
……通信越しであるも、その必死めいた叫びが聞こえた六華とマシュはロマンが土下座する姿を思い浮かんでしまった。
「まぁ! ランスロット卿、パロミデス卿、マルタさん、そんなことをしてはいけないわ!」
『マ、マリー様、ありがとうございま――』
「それよりもドクターロマンのおやつを取り上げましょう! 悪いことをしたら好きなものを取り上げてお説教をするの、そうしたらきっとドクターロマンも反省をしてれるわ!」
『も、申し訳ございませんんんんんっ! それだけは勘弁してくださぁい!』
「……何とも単純ながらも厳しい躾だ」
ロマンにとって菓子の取り上げはどうやら相当堪えるようで泣き叫びながらの謝罪が通信機に響き渡る。
それが煩わしく、六華やマシュにマリーを除いたメンバーは顔を歪めてしまう。
「っもう、甘いものを取り上げられそうになるくらいで、なんでそんなに必死になるのかしら」
「あいつにとっては甘いものを取り上げるということは、地獄に落とされるのと同じということだ」
「……あいつのことはマスターをサポートする優秀な奴だと思ってたんだが、ガキっぽいところもあるんだな」
「人のことを云えるか、
「さぁってと! てめぇらはこのパロミデス様が相手してやるぜぇぇ!」
ランスロットの言葉は最後まで紡がれず、パロミデスが大声を出すことで遮り海賊たちへ走り出し向かっていった。それを睨んで見送るランスロットに興味本位でマルタは聞き出す。
「ちなみにその借りってのは何なの?」
「……金銭関係は勿論、馬の貸し出し、俺が作った干し肉や魚を勝手に取り、しかも最近ではポーカーで負けたくせに支払いは入ってからだと言い出したんだぞ、ありえん」
「……しょうもないわねぇ」
男というのはどうしてこんなくだらないことにムキになるのだろうか。
だがそこが彼の可愛らしい部分かもしれないと、マルタは自分で納得させてそのまま海賊たちと戦うために魔力を練り始めた。
「……」
海賊たちを倒して船を得た六華たちは、海賊たちのボスが在住している海賊島を目指し進んでいた。
甲板で海を眺めているジャンヌは心地よさそうに目を瞑り、潮の香りと波立つ音を聞き惚れている。
「ジャンヌか、どうした?」
「あぁ、ランスロット卿。 いえ、ただ海を感じていただけです……生前に船を乗ることもなければ、私の夢であったことが今叶えられていることが不思議で。 しかも、生前に憧れていた貴方と一緒に」
「そうか……不躾で申し訳ないが、なぜ君は俺のことを知っているんだ?」
今この時に聞くべき話題ではないのは分かっている。
だがカルデアで聞く時間もない――ランスロットはブーディカと食堂を担当し他にもサポートしている時間があるので、中々時間がとれないのだ。だが今ならば話せる余裕がある。ここでしかない。
確かにジャンヌはマリーと同じ国で生まれたために彼のことは知っているだろう。だが彼女は田舎の出で、文字すら読めない者も多く、また博識の者も少なかったはずだ。
それにマリーに聞いたところ、ランスロットに関する書籍や讃えるようになったのはジャンヌが死刑執行後――それまで国のトップが敵国で英雄である本を受け入れることはなかったとのこと。
一体どういうことなのだろうか…………波の音が響く中でジャンヌは口を開いた。
「私の村に一人の女性魔術師が来たのです、そこで語ってくれたのが王の話……そして王の親友である騎士である貴方の話も」
「女魔術師?」
「えぇ、その魔術師はまるで見てきたかのように誇らしげに優しい顔で語ってくれました……いつも最後には涙を流して『早く帰ってこないかな』と」
「……まさか、あいつか?」
思い当たる人物が一人いる。だが
首を傾げる議題であるが、彼女の話はまだ終わっていないのでそちらに集中を向ける。
「魔術師が語ってくれた戦記は私たちの心を燻りました。 特にランスロット卿、貴方が紡いだ物語――黄泉の騎士団で命について学びました」
「マリーも同じことを云っていたな、少々こそばゆいものだ」
「それほどあなたが紡いだ物語は素晴らしいということです……それに魔術師だけではないのです」
ジャンヌの含みのある言い方が気になったランスロットが追随しようとしたが、それは生憎と「船が見えたぞぉ!」という海賊の言葉で断念することとなった。
「……この続きは次回までに聞き出すからな」
「はい、その時は是非お茶会を開いてほしいです! マスターとマリーだけ、ずるいです」
「…………簡単なおやつを出すから許してくれ」
「へへへ…… 大海賊であり俺たちの姉御フランシス・ドレイクに掛かればお前たちなんざお仕舞いだ……」
『なんでいちいち三下口調なのかな?』
「お約束という奴じゃねぇの? それこそ、ドクター……あんたが罵られて嘆いて涙目になるのと同じ」
『あぁなるほどね! つまり、ぼくは海賊たちと同じ三下って…………パロミデス君!? 君は僕のことをどう思っているんだい!?』
パロミデスの発言にロマンは叫びながら抗議するも、彼はすでに聞いておらず欠伸をしている姿が。
ロマンはすっかりと落ち込みを見せる中で、ランスロットたちはフランシス・ドレイクという人物について語っていた。
マシュ曰く「世界で初めて生きたまま一周を果たし、当時敵なしのスペイン、無敵艦隊を陥落させた大海賊。世界の海を制覇していた“沈まぬ太陽”スペインを撃破、ドレイクは確かに星を開拓した英雄です。ですが海賊です。これまで遭遇した海賊の生態から推測するに、大食漢で大巨人、樽を片手で掴んで一気飲みするような豪傑に決まっています!」とのこと。
「こりゃまた…………ずいぶん奇天烈なのを連れてきたね」
しかし、現れたのは豪傑でもなければ大巨人でもない、美女であった。
「へえ。でも見所はあるッスよ。アッシらの命を助けたばかりか、憧れの船長に会いたいとか。さっきから船長は偉大な人物だとか、姉御の事をいたく褒めちぎってましたよ。世界一周したとか、スペインの艦隊を潰したとか、巨体の大食漢でラム酒をタルごと一気飲みする豪傑とか。 ……俺らが見てないところで、やりました?」
「なんだいそりゃ!? そこまでの悪事はまだ働いてないよアタシゃ!?」
「まだってことは、やる気なのか」
美女ことドレイクの言葉にランスロットは思わず突っ込みを入れると、
「あんっ!? そりゃ、当たり前だよ色男! アタシら海賊はやりたいことはやることを信条だっ、今こいつが語ったことだってっ、何れはやりたいランキングに入っているんだ! 特に酒一気飲みと世界一周はっ!」
「ほぅ、いや待て。 寧ろそれをやるのがお前たちだけだと……ふざけるな」
ドレイクの言葉が気がかりだったのかランスロットから怒気が溢れる。
それに六華たちが後退り、彼の様子を窺うように視線を向けると、彼の表情に怒りがあった。
ドレイクの言葉に騎士である彼の逆鱗に触れたのだろうかと思いきや。
「世界一周はしょうがないとして、一気飲みは俺が先だ。 それは男も女も関係ない、俺も樽酒一気飲みは憧れていたからな」
まさかの発言に六華たちは地面に倒れ込んだ。
「おっ、中世騎士の真似をしていると思ったら同業者かい!?」
「同業者ではないが、やはり生きている中でも酒樽一気飲みは憧れだ……だがどうしても美味いものと比べて霞んでしまうし何より高かったからな、そこは誰にも譲れ――」
「なに仰っているんですかっ! ランスロット卿!」 「寝言は寝て言いなさいっ!」
阿呆なことを紡ごうとしたランスロットの頭を思い切り拳骨で殴る、マシュとマルタ。
同時攻撃は流石に耐えきれなかったのか若干の悲鳴を上げて膝をついてしまうランスロットだが、それを案じる者は誰もいなかった。
「あんたはなにを云っているのよっ!? 騎士なのに、そんなことを云っていいもんなのっ、というか樽一本は呑み過ぎよ、瓶一本になさいっ!」
「そう云う問題ではありません、マルタさん! ランスロット卿っ、騎士たる者が酒に溺れてはいませんっ!」
「確かに俺は騎士であるが……やはり選ぶとしたら男の夢だろう。 酒樽は、あの頃は高くてな……手を伸ばすのにも勇気がいるもんだった。 それを海賊に先越されては悔しいからな」
「だからといって張り合わないでくださいっ!」
ランスロットに説教をするのはマルタとマシュに任せようと決定した立華たちはドレイクに顔を向ける。
ドレイクは話を中断されてか詰まらなそうにしていた最中、不良騎士であるパロミデスが云ってしまった。
「やりたいランキングねぇ、女が大胆なことをしようとするねぇ」
無論彼には悪気のない言葉だったのだろう、しかしそれがドレイクに引っかかったのか怒声を放った。
「……なんだって? 女がかなえようっていうのが可笑しいって言うのかいっ、久々にカチンと来たね。 来な、そこのヘタレな上に女扱いが下手なインポ野郎……モテなさそうなあんたをあたし自らが鍛えてやる!」
「……………上等だっ、この腐れ婆ぁ! だれが女扱い下手だインポだぁ!? まだまだ現役だゴラァ!」
「はんっ! どうせ股間がボウヤ以下の耐久力がなさそうな癖に何言ってんだぃ! とっととぶっ飛ばしてやるから覚悟しなぁ!」
売り言葉に買い言葉。 突如、パロミデスvsドレイクの闘いが勃発した。
因みに六華たちはというと。
「ねぇねぇ、マスター? あの方が云う、イン――ムグムグぅ」
「お願いですマリー、その言葉をあなたが云わないでください」
「……サイテー」
ジャンヌがマリーの口を閉ざし、六華はパロミデスに侮蔑の目を向けていた。