【停滞】湖の騎士 異聞録 (旧題偽・湖の騎士伝) 作:春雷海
次回の投稿では必ず本編を更新いたしますので、気ままにお待ちいただけたらと思います。
因みに遅れた理由は今更ながらのFGOの第2特異点~第5特異点を一気に進んだのと、ゲームをしていたからです。
ブリテンを統べた伝説の騎士王、アーサー王。
王として台頭した後、聖剣ではなく聖槍を主武装としブリテンを統治したアーサー王の――いや、これは湖の騎士のIF。
本来ならば辿るはずのない、IFを彼は紡いだ。 王を救うために、人間であらせようとするために。
ランスロットは彼女は王として騎士として、長い年月をかけて振る舞い聖槍の影響を受けた結果、神霊化が進み、聖槍の化身として人間から変質しかけていった。
神へ転じようとするのは彼女の意志。だが、それは何としても防ぎたかった。
長年一緒に過ごした中で見てきた彼女の笑顔を失いたくなかった。王として悩み、1か100かを天秤にしどちらを選択すべきか苦しんできたのは知っている。
確かに神と成れば、両方を救える道を考え成し遂げられるだろう。
だがそれを選択することは、彼女が人間を止めるということ。人ならざる道を歩むことである。
それ故に彼は己が剣を捧げた相手に牙をむいた。 王を救わんとした。恨まれ、憎まれるやり方で、悪役にならんとした。それでも彼女を救うためならばと、彼は喜んでその汚名を被ることを決意した。
(まっ、可愛い王様の為だ、命を掛けますかね)
そして、これは原典で起きる筈だったギネヴィアとの関係を切欠に引き起こされた、円卓の騎士ガウェインとの闘いから代替した歴史となり、それがアーサー王と引きつれた円卓の騎士たちの戦いと変わった。
後に国を崩壊させる一因を作った事から、後世に【裏切りの騎士】として謳われることとなった。
戦場に響き渡る剣戟が響く、それと同時に苦痛の悲鳴や張り上げる声も聞こえてくる。
陣営にいたランスロットは目を開け、自軍が――自分の意に沿って行動し逃げていく部下たちを確認後、駈け出した。
「っ、裏切者のランスロットが出たぞぉ!」
「弓兵隊、矢を引き絞り撃てぇ!」
苦渋に満ちた声で叫ぶ敵軍。彼らから放たれる弓矢や投げ槍を潜り抜けつつ草原を駆け抜けていく。
襲ってくる同僚、嘗ての部下たちに愛剣アロンダイトを振るい、傷つけないように手加減しながら駆ける。戸惑い、嘆き、怒声をその身に受けながら。
そして見えてきた。聖槍を構えし、アーサー王が。感情を全く感じさせない、冷酷無比とまでいえる程の無表情で睨んでいた。
ランスロットはアーサー王の聖槍を破壊するためにアロンダイトを力強く振るった。
* * * * *
聖槍ロンゴミニアドと宝剣アロンダイト。
二つの神造兵装の打ち合いは凄まじかった。
刃と刃がぶつかり合うだけで暴風が吹き荒れ、草木や樹木は焼き荒れる。互いの美貌は火傷を負い、暴風で傷つく。
槍の穂先がランスロットの身体をえぐり、剣の切先がアーサー王の身体を切り裂く。
互いの刃が身体を傷つける中で、アーサー王は……アルトリア・ペンドラゴンは違和感に気づく。
アルトリアの傷は致命傷に満たない浅い傷で、対するランスロットは致命傷に至るほどの傷を負っている。
ランスロットの実力ならば、避けるか槍をいなせるかのどちらも可能だ。喩えそれが神造兵装といえども。
(っふざけるなっ!)
アルトリアは初めて顔を歪めた。
(どうしてあなたは認めてくれないっ! 完全な神になれば、完璧な王となり、全ては救えるっ! それなのにっ!)
次第に限界を感じてきたアルトリアが示した答え――半神の身から完全な神へと変換することで、多くの命を救えると考えて、それを訴えた。
しかし、ランスロットからの答えは否定だった。彼は彼女に半神として生き、悩み苦しみながらも進むべきだと云われた。
彼女はこれまで完璧な王として振る舞い、人々の笑顔を護るために苦渋の決断をしてきた。
だが、人間の王として生きても、救えないことが多々あった。それを騎士や人々に批判され、その都度ランスロットやケイたちに庇われた。
彼女はそれを良しとしなかった。騎士としても王としても、不甲斐ない、完璧な王として国を導けず、手間を掛けさせている自分が憎かった。
それならば神になればいい。
半神で完璧にできないのであれば、完全な神になれば成し遂げることが出来ると捉えて提案した――それなのに。
『アルトリア、それをすれば、お前は今度こそ人間じゃなくなる』
『機械になりきるな、悩みながらやり通せ。可能性を捨てるな――完璧にこだわらなくていいんだ。望まれる王ではなく、お前なりの王になるべきだ』
ランスロットの言葉が脳裏によみがえり響く。
聖槍を強く握りしめる。彼の言葉は確かに正しいことだろう。いつだって彼は支えてきてくれた大切な存在。間違ったことを必ず云ってくれる、兄のような――不思議な安心感を与える存在。
だが、今度ばかりは彼の言葉を聞くわけにはいかない。アルトリアは決意したのだ、必ずやり遂げると。
――本当に?
余計なことを考えてしまう。考えたくもないのに、気づくと考えてしまっているのだ。
――本当に、貴方はやり遂げたいと思っているのか? ランスロットを敵に廻してでも?
(うるさい!)
頭の中の声に怒鳴って、アルトリアはランスロット目掛けて聖槍で突く。しかし、難なく捌かれ、アロンダイトが唸る。
しかし、アロンダイトの斬撃を冷静に聖槍ではじき返し、ランスロットを貫いた。今度こそ本当にとどめを刺すために、彼の胸元へ渾身の力を込めて。彼の鎧を貫いたのと同時に鮮血が飛び散り、アルトリアの顔に付着する。
(終わった……)
安堵するようにアルトリアは息を吐いた――それと同時に掌から感じる軋む感触に、肉の音が聞こえた為に目を向ける。
そこにはランスロットが聖槍を強く握りしめ、痛みに耐えながらもこちらを見つめていた。
「…………が、はっ、王よ……アルトリアよ」
「っ」
なにを云われるのだろうか。
仮に恨み言だったら逃げることなく、受け入れるつもりだと決意して、彼の瞳から逃げずに見つめると。
「……すこやかに、な……がっ、むり、す、な……っ」
ランスロットから発された言葉は恨み言ではなく、最後までただ王を案じる言葉だけだった。
やがて、聖槍を掴む手が弱まり、力なくランスロットの手が落ちると同時に、聖槍で貫いた彼の肉体の重さが一気に伝わってくる。そしてアロンダイトが地面に転がる音が響く。
「あ……あ、嗚呼」
戦場で、しかも勝利したにも関わらずに彼女の表情は親とはぐれた子供の様に悲し気に揺れる。
今更ながら彼女は自分の頭の中の声をよく聞くべきだったと後悔しだした。
神になりたかった、だがそれは大切なものを蹴り捨ててまでもなりたかったものだったか?
誇らしく、自慢の騎士である彼を失ってまでも――。
(違う、違う違う違うっ!)
アルトリアは必死に否定する。
もっと早く答えに到着すればよかった。そうすれば、悲しく惨めな思いをしなくて済んだのに。
今更答えを辿り着いたところで過去に戻せるわけではない……斃れ重くなっていく彼の死に体を両手に感じながら涙を流す。
周囲に拡がるのは、草原だった荒野に屍の山。これは全て彼女が選んだ道によってできた犠牲。
(あぁ、あぁ……)
半神であるがゆえに神に至ろうとした、アーサー王。
彼女は愚直なまでに人を想い導こうとするために、神となる道を決意した。それが正しいと信じて。
だが、それは彼女の忠臣とも言える存在――ランスロットの手によって阻まれた。それにより、彼女が望み、考えていた道はようやく間違いであることが理解した。
――彼の忠誠心とをアルトリアを想う心、そして遅すぎる答えの到着と彼の死によって。
そして、
「あ、あぁ……あああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
ブリテンの剣が、己の剣がいなくなった事を認識して。アルトリアは慟哭を上げた。
* * * * *
円卓最強騎士の死に、国は揺れた。
そして、ランスロットの死については、国王であるアルトリア・ペンドラゴンの評価を穢さないように、騎士たちが隠蔽した。王の意向を汲みこむことが出来ず、また政治に対する反逆により、彼は裏切りの騎士として謳われた。
その後はアルトリアは半神の身で国に尽くし、時に戦場に赴いて敵を葬ってきた。
だが、そんなアルトリアとブリテンは終わりを告げる。円卓の騎士モードレッドの手によって。
元々彼女はランスロットの汚名に対し反発し、何としても汚名を被せないようにした。だが結局はランスロットは裏切りの騎士となり、その死を利用する円卓の騎士たちとの関係に亀裂が奔った。そして彼に死を与えたアルトリアに対して並々ならぬ憎しみが生まれていた。
狂犬は王と国を憎み、ブリテンを滅ぼした。そして史実通りに崩壊後は、モードレッドもアーサー王に致命傷を与えるも、聖槍に貫かれて息絶える。
アルトリアは半死半生のなかで後悔し、涙を流す。
ランスロットを喪った事で、全てが狂い始めた。己の剣を乏しただけでなく、彼を犠牲にしたにもかかわらず国をも失ってしまった。
彼女は涙を頬に流し、ランスロットを想いながら……彼女は亡くなった。
そして物語は移ろい、舞台は人理を修復する旅へ。 その旅で出会うのは――。
「よぉ、久しぶりじゃねぇか……アーサーァ。またあんたを殺せると思うと、心が滾るぜ!」
「ッモード、レッド……ッ! マスター、御下がりをっ! 彼女は……!」
「テメェのマスターなんぞどうでもいい! オレは貴様を殺すッ、あの人に汚名を重ねた円卓の騎士共もなぁ!」
クラス復讐者:モードレッドとの出会い。そして闘い。
「モードレッド卿ッ、辞めてください!」
「黙りやがれ! あの人の息子でありながら、汚名を晴らさない不逞野郎が! 貴様があの人の息子なんぞ、誰が認めるかぁ!」
モードレッドの力は原典よりも遙かに超え、その旅路を大きく阻む存在として立つ。人理を修復するマスターたちの敵として。
因みに、本来ならばFate/Apocryphaも書く予定でしたが……続かなかったです。
申し訳ない。