【停滞】湖の騎士 異聞録 (旧題偽・湖の騎士伝) 作:春雷海
『ランスロット、私は……間違っているのだろうか』
穢れの一つも無い大理石で創られた床と壁で創られ、赤いカーペットが敷かれた玉座の間で、王が騎士に問うていた。
『私はせめて騎士として、パロミデス卿を逝かせたかった。元に戻れるのならばせめて、暗黒に満ちた騎士ではなく、せめて騎士として――それが間違いだったのか?』
王の表情がだんだん曇っていくのに対し、騎士は無表情でただ王の聞き手に廻っていた。
『尽くしてきた騎士を討伐するなど王は正気なのか――それが王として正しい判断なのだ、一度闇に堕ちれば、もう戻れないのだ。戻ることなどできない。何より円卓騎士の裏切りは、民に不安を齎す上に、他の騎士たちにも影響を与えてしまう――何より裏切り=死という騎士たちに植え付けることが出来た……ふふっ、ある意味規律が出来たから僥倖かもしれぬ』
淡々と語っていく王は騎士の顔が見えないように顔を俯かせていく――金髪が王の顔を覆い隠し、表情が見えない。
だが言葉は無機質で何も感じ取れないくらいに冷たいのだから、恐らくその顔は冷酷であろう……そんな王に騎士はついに口を開いた。
『くだらん』
たった一言。あっさりと王の目の前で言い放った。
『……なに?』
王――アーサーことアルトリア・ペンドラゴンは、一瞬なにを云われたのか分からなかったのか聞き返すしかなかった。
くだらない? 王がこのように悩んでいるというのに、目の前にいるだろう騎士はそれだけなのか。
歯を噛み締みつつ、アルトリアが次いで言葉を発せようとする前に、騎士が先に言葉を紡いだ。
『アルトリア、いつまで王の仮面を被っているつもりだ。今、この場にいるのは俺だけしかいない。ケイのような頼りさは俺にはないが、胸を貸せるぞ――今だけは王という仮面を外せ。 俺の胸は既に受け止める器があるのだ。その為にここにいる』
騎士はようやく無表情から和らげな表情となり、 安心させるように柔らかく微笑む。
アルトリアがゆっくりと顔を上げていく――金髪に覆われていた顔から現れたのは目尻に涙が溜まり、今にでも零れ落ちそうな表情だった。
『だから、泣いていい』
『ランスロット……』
騎士――ランスロットが頷くと、アルトリアはようやく涙をこぼし涙声となって語りだした。
『すまない、すまないっ、パロミデスッ! わ、わたしがっ、獣の討伐を命じたせいでっ、貴方をッ、獣の誘惑の罠に受けさせてしまいッ』
アルトリアは玉座から床に崩れ落ち、両膝をついた。ランスロットも彼女に倣うように、片膝をついて彼女と目線を合わせる。
『わ、私は、私はぁ、決して討伐を望んでいなかったっ、でもっ、でもそれしかもう方法がなかったっ! 既に町が犠牲になったっ、あのままっ、放っておけばもう!』
『お前の決断は間違っていない、寧ろ英断だ……それは騎士たちも分かっている。だが、騎士道を重んじる彼らにはそれを受け入れられないのだろう。だから、王に全てを押し付けたかった』
『ううっ、わ、わたしは、そんな騎士たちをっ受け入れられずっにっいた、のですね……』
『……』
アルトリアの頭を優しく叩き撫でているランスロットが考えるは、騎士道精神が強すぎる騎士たちの事。
己がための騎士道――それは結構なことだが、屡、理想を王に押し付けるのは烏滸がましい。
受け止めるのも確かに王の役目だろう。だが、だからと云って王とて人。限界はいずれ訪れる――今回のがまさしくそれである。
このまま王を騎士のはけ口とさせてしまえば、何れアルトリアが先に精神的に参ってしまう。
(一度、話を付けといたほうがいいか? ……だけど、それは押しつけになるかもしれんが、このままじゃアルトリアが潰れる――――しゃあないっ、嫌われる勇気を今こそ持つべきか)
ランスロットはアルトリアが見えないように拳を強く握りしめ、決意を固めた。
迷いや葛藤を抱きながらも騎士たちが望まれる完璧な王として振る舞う、華奢で、支えが必要なこの女性を……。
「夢か……」
カルデアに充てがれた自室の天井を見て、ランスロットは欠伸をする。懐かしき夢だ、あれは確か、パロミデスを討伐しキャメロットに帰城した時のこと。
ランスロットを称える声もあった、しかしそれを大きく上回った声が王の批難。
パロミデスを救済することを考える間もなく、即座に且つ淡々とランスロットに討伐を命じた王を騎士たちは批難し責任を押し付けた。
だが、王の判断は正しかったとランスロットは今でも思っている。
当時パロミデスは女子供、老女関係なく無差別に惨殺した挙句に、二つの街を黒炎で焼き払った。
騎士たちが望む救済をしたところで、待っているのは民たちの叫弾と死を望む声だ――。
「やれやれ、パロミデスが珍しく憂いた所為か? 懐かしい夢を見たもんだ」
苦笑しながら上半身を起き上がらせると、腕に軽い痺れが奔った。
目を動かして見ると、右腕の肘から手首までかけて裂傷があった……この傷は力を開放したことで負ったものだ。
マルタの能力で全体の傷は回復してもらえたものの、これだけは完全に回復が出来なかった。
幻想種の加護を受けているこの身でも回復しきれないとなると原因は一つ――アロンダイトだ。
「……使わなかったからって拗ねてここまでするか、お前?」
壁に掛けられているアロンダイトを睨んで、そう言い放つ。
幻想種の加護を超えるほどの傷を与えるのは、この剣しかいないのだ……世話女房立場的であるこいつしか。
たかが剣と侮ってはいけない。これは母親で湖の精霊でもあるヴィヴィアンがランスロットに抱く母として女としての想いも込めて完成され、委ねた聖剣。
そして長き年月を経て、意思を持つようになった――無論、実体化したり喋れるわけではない……簡単な意思表明が出来るだけだ。
しかし、それでも文句は言いたい。
「仕方ないだろう。お前ばかりに頼ってしまえば、武器の扱いが雑になる。 ……それに俺の未熟さもあるが、お前の力は強すぎるんだ。そんな連続して使ってしまえば、世界が終わってしまうだろう」
ランスロットの言い分は正しいものである。確かに開放した時のアロンダイトの力は凄まじい、あの魔神柱をも斬撃のみで倒せる程だ。
更には幻想種の加護もあり、それで乱撃をしてしまえば……世界は確実に終焉を迎えるだろう。
そんな彼の言葉に納得できず反論するが如く、アロンダイトは次第に震え出して床に転がる――ガチャンと転がる音をたてて。
「……悪かった。 もし特異点が見つかったら、今度こそお前を使うから許してくれ」
六華たちは英霊を召喚する部屋に集まっていた。
この部屋に集まったのは当然、特異点で集めた聖晶石を使って新たなサーヴァントを召喚する為である。
何故、カルデアの倉庫に仕舞い、更に使い切った聖昌石があるのか。それは特異点:セプテムにて、サーヴァントたちと戦い勝利してが残していったものを回収したのだ。
回収した個数は全部で十二個、そしてダヴィンチ特製のアイテム――金色に輝く金属製のカード『呼符』を使用することで、合計四人の英霊を召喚することが出来る。
「よしっ、じゃあ一回目――ソイヤッ」
六華の気合いの籠った叫びと共に聖晶石が投げられたことで、召喚システムが作動する。
立ち上った光の柱から現れたのは……。
「あぁやっぱり君たちかぁ! 会えてうれしいよっ!」
叫びと共にムギュッと六華とマシュに抱き付いたのは、セプテムで共に戦った赤毛の女性――ブーディカだった。
温かい抱擁と柔らかい感触に二人は戸惑いながらも、嬉しそうにしている様子が見られた。
しかしまだ聖晶石があり召喚しなければならないため、ブーディカは一度マルタの手によって引き離して、ランスロットたちの近くまで寄せられると同時に。
「ふんっ」
「ぐぉ」
ランスロットの脇腹にブーディカの正拳突きが入り、悲鳴が上がった。膝はつかなかったものの、やはり痛かったのか脇腹を押さえる。
「な、なにをする……っ」
「ふんっ、乙女の敵に攻撃したまでだよ……ちゃんと責任取らせるからね、覚悟しな」
ブーディカの発言を聞いたパロミデスは「あぁ、こりゃ手遅れか」と面白そうにせせら笑う。またそれを聞いたマルタはというと。
「ふふっ」 「おぐっ」
婦女のように笑ったと同時にランスロットの脚を思い切り踏みつけた……彼女自身も分かっている、これは八つ当たりだと。だがそれでもマルタは当たりたかった――この乙女の敵に。
「まっ、モテる男の定めということで、諦めろ」
「だ、大丈夫ですか?」
「……貴様っ」
(笑いやがってこの野郎っ、大体なんで俺がラブコメ主人公の如くにやられてんのっ!?)
純粋に心配しているジャンヌに対し痛みに堪えている様子を笑うパロミデスを、ランスロットは睨みつける。
そして、ランスロットの事を放って談笑を始めるマルタとブーディカ。
そんな背後の光景など露知らず、六華たちは二回目の召喚に応じようと聖晶石を投げ入れると――。
「まぁ! なんて素晴らしいの――ヴィヴ・ラ・フランス!」
「マリーさんっ!」
次に召喚されたのはフランスで戦ったマリー・アントワネットだった。
彼女は満面の笑みを浮かべて六華たちに抱き付いた……これまたブーディカと同じように収集つかなくなったため、今度はジャンヌが止めに入るも。
「ジャンヌッ! 貴方まで来ていただなんて、とても嬉しいわっ!」
「きゃっ、マ、マリー! 落ち着いて」
マリーが抱き付き、それに戸惑うジャンヌ。
二人の少女が抱き合う姿を見て、パロミデスは一言。
「イイねッ、グッと来るぜッ」
「……そんなのだから、お前は女性にフラれることが多かったんじゃないか?」
ランスロットが先ほどの返しと云わんばかりに言い放つと、パロミデスが「グゥッ!」と崩れ落ちた。
それを見てランスロットは愉悦気味に口元が緩んだ――そんな男たちの醜い争いに冷たい目で見るのはマルタとブーディカだった。
その後、マリーたちが離れ、三回目の召喚を行うも概念礼装である黒鍵と云われる武器――正直誰も使わないためにお蔵入りとなった。
そして最後に、呼符を使っての召喚だ。
「みんな、気合いを込めてね――行っきまぁす!」
「い、いっきまぁす!」
「いっきまぁす!」
六華にノリに合わせて、マシュとマリーが叫ぶ。それを見て苦笑したり、呆れて見ているのは他のサーヴァントたち。
――呼符によって召喚に応じ、また強い光とともに現れたのは一本の剣。
金色に輝く柄、刀身は炎の様に紅く熱く、蠢いている。
その剣は円卓の騎士である二人が知っている――それは王が使用し、後に名誉としてランスロットに与えた剣。
嘗てローマの鍛冶神・ウォルカヌスが鍛えた剣で、大英雄ヘラクレスが使っていた魔剣、マルミアドワーズ。
マルミアドワーズが召喚されて駆け寄る二人の騎士。
「おいおい、お前がいなくなった後に王が使っていた剣が、まさか
「……」
パロミデスの言葉に反応せず、ただ無表情に見つめる。
王に授かった剣がここに召喚されたことはとても喜ばしい、あの時のように共に戦えることも誇りに思う。
だがしかし、だがしかし!
先程から彼の腰で震えまくっているアロンダイトが怖くて仕方ないッ。
(まさか、使うの? うん、どうなの?)という声が今に出も聞こえそうな――無論それはランスロットの幻聴である――愛剣にランスロットが出した答えは。
「嬉しいぞ、マルミアドワーズ……共に戦おう」
(御免。 なるべく使用頻度をお前にするから、許して)
折角召喚された魔剣――しかも名誉を称えるとして与えられた剣を放るのは、流石に胸が痛い。
マルミアドワーズの柄を掴み、引き抜く――剣が喜ぶかのように火の粉が舞った
それを見たアロンダイトは諦めたかのように震えは止まった。
長年付き添っているのだ、主人の答えは既に知っている――だがそれでも反抗として、これくらいの痛みを味わってもらうため……。
「っぅ、許せって」
身体に微量な静電気を与えた。
戦力増加と、世話女房の懐のデカさを現しましたw
感想の書き込みが遅くなってしまい、申し訳ございません。
少しずつ返信をしていきたいと思いますのでよろしくお願いいたします。
また後日に、ランスロット及びにオリジナルサーヴァントであるパロミデスのステータスを記入をしたいと思いますのでよろしくお願いいたします。