【停滞】湖の騎士 異聞録 (旧題偽・湖の騎士伝)   作:春雷海

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前回に書いた代償について考察した結果が今話です。
賛否両論はあると思いますが、よろしくおねがいします。


代償,決意

覚醒(おき)ろ――無毀なる湖光(アロンダイト)

 

その言葉が玉座の間に響くと同時に、ランスロットの全身に膨れ上がった膨大な魔力が一気に爆発した。膨大な魔力の激流は、周囲を押し潰さんと云わんばかりに襲い掛かってくる。

 

「ッ――仮想宝具/人理の礎(ロード・カルデアス)!」

 

「我が旗よ、我が同胞を守りたまえ! 我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)!」

 

ジャンヌとマシュの宝具が展開され、魔力の激流から六華たちを護る。

マシュが展開した光の盾を結界にして護り、ジャンヌの宝具は庇護の力に変換することで受け流す。

 

流された魔力は容赦なく、玉座の間の縦横無尽に暴れ流れ破壊していく。豪華絢爛だった壁や床は一瞬にして瓦礫と化し、崩れていく。

 

「っ!」

 

「なんてっ、力……っ!」

 

無毀なる湖光(アロンダイト)が展開されたことで引き出された魔力。

その魔力は恐ろしく凶暴で、宝具展開によってダメージはないが受け止めるマシュと受け流すジャンヌが苦痛に満ちるほどに強い。

 

オルレアンでファヴニールの攻撃を、一時的とはいえ防いだ時は問題なく冷や汗をかいただけの表情だったこの二人がここまでの表情を浮かべる。

 

それだけで、無毀なる湖光によって展開されたランスロットの魔力がどれ程凄まじいのか理解できるだろう。

魔力の激流が止み終えると、玉座の間は半壊状態に陥り室内としての機能が失われていた。そして魔力によって見えなかった空間が晴れていく。

 

前方にいたのは――紫紺と漆黒の甲冑を纏い、外套を翻し兜を被った騎士の姿。それはパロミデスにとって見慣れた甲冑の姿だ。円卓騎士時代、ランスロットが戦争や異形討伐に赴いた際に纏っていた。

しかし、あの頃と違うのはその甲冑全てが魔力で創られ、また甲冑からは神秘と僅かな神性を感じられる。

 

そして騎士――ランスロットの背後に、付き従うような半透明に映る生物たちの姿もあった。

六華たちはその生物をよく知っている、レイシフト際には対峙し討伐している存在――幻想種だ。

 

付き従う幻想種たちの中には、六華たちが討伐したことがある翼竜(ワイバーン)の姿もあった。

翼竜だけでなく、他の竜種も存在し更には様々な種類――コブラの下半身を持った女性や雷を纏う馬にスライムなど多種多様な種族の幻想種が騎士の背後にいた。

 

「おいおい、冗談だろ。ドラゴンだけじゃなくってナーギーにイクシオンまで……どれだけあいつは狩りまくったんだ」

 

そして、幻想種はランスロットに加護を授けるが如くその身から光の粉を降りだしていた。その粉がランスロットの鎧を顕現させただけでなく、神秘と神性を纏わせているのだろう。

 

ランスロットがアロンダイトを無造作に持ち上げて振るったと同時に、その戦いは終わりを告げた。

 

『たわ……?』

 

六華たちは決して瞬きも目を逸らしてもいない。 それなのに気づけばフラウロスの身体が真っ二つに斬り裂かれていた。更にその身体はバラバラに斬り刻まれた。

 

見えなかった。そして、卓越した能力を持つサーヴァントたちがランスロットが一体何をしたのかも分からなかった。ただ理解できたのは、ランスロットが斬撃を飛ばした事だけだ。

 

「何という方……」

 

「全く、どれだけ規格外なのよ」

 

未知なる、巨大な力を持った怪物を一瞬の間で倒してしまったランスロットに感嘆の声を上げるジャンヌ。

彼の実力を最早呆れる領域までに達したマルタはため息をつきながらも勝利したことに喜びを覚える。

 

マシュと六華はお互いに喜び合い、笑顔を分かち合うと――。

 

「あ……ッぐっあああああっ!」

 

兜越しの苦痛な悲鳴が響いた。見るとランスロットの鎧全体に黒紫色の刻印が浮かぶと脈動するかのように輝き、更には刻印から黒紫の炎が噴き覆ってしまう。一瞬の間、肉と皮が焼ける音と臭いが漂わせると同時に、鎧全部が解除される。

 

鎧から解放された、ランスロットの顔と身体には火傷痕と切り傷が生じて出来ていた。しかも火傷痕は若干煙が上がり、切り傷が深く入る状態であった。

 

「なっ、なんなのだっ、その傷は!?」

 

「っランスロットさん! マルタさん、お願いします!」

 

ネロは驚愕し、六華は即座に自らのサーヴァントに傷を癒すように指示を出す。無論、それに応じてマルタはスキルである奇蹟を使用し、ランスロットの傷を癒していく。

 

「ちょっと、大丈夫なの?」

 

「……心配ない。 様々な幻想種を狩ったことでちょっとした反発が起きただけだ」

 

幻想種を狩り、食したことでランスロットに様々な加護が授かれた。

幻想種が持つ特殊能力をその身に宿すことでランスロットの能力や耐性を大きく向上出来た。

 

通常であったら幻想種の加護もそれに合わせて力の調整され問題ないが、聖剣を開放することで身体能力と魔力の向上そして幻想種の加護が強化される。

 

また幻想種には種類があり、魔獣・幻獣・神獣という順にランクが分けられている。

これまでランスロットが食べてきたのは全てのランク――つまりは分散して食べつくしたことで、また幻想種の異なる能力による加護が反発し合いその身を傷つけるのだ。

 

だからこそランスロットはあまりアロンダイト開放は臨みたくない。

 

(……まっ、今後あんな化け物を相手にするんだからそういうわけにはいかないか。それに俺の実力不足ってところもあるし)

 

マルタの手から温かな光と同時に傷が癒えていくのを感じながら内心苦笑するランスロットであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ここでお別れか、ちょっと寂しいな。 折角出会えたのにさ」

 

王宮入り口にてブーディカは光の微粒子となって輪郭を薄めていく自らの身体を見て、寂しそうに笑った。

今起こっている自らの身体を見て把握し、理解したのだ。戦いは終わったのだと。

 

「まったく私ってばどうして肝心な時に来れないんだろうね、力になればと思えばこれだ……でもあの子がいれば問題ないか」

 

ブーディカの脳裏に浮かんだのはランスロットの姿。戦闘力に関して英霊(サーヴァント)を超えるほどに凄まじいが、家庭に関してはまだ未熟だ、特に料理が。

 

六華(りっか)たちを支えるつもりであるのなら、家庭能力を自分が鍛え促さねばならない。そもそもあんな大雑把では折角の料理の味が雑になるではないか。

 

更には乙女心も分かっていない上にぶっきらぼうな癖に、ここぞとばかりに優しくする彼。

最高の旦那と比べると天と地の差はあるが、仲間を庇う姿や仲間に慕われるその姿は似通い……そして自分を助け出してくれたあの姿に柄にもなく胸をときめいてしまった。

 

「あぁもう! こんな気持ちをさせといて、あいつはもうっ!」

 

あいつはとんでもない乙女の敵だ。

胸をときめかせ想いを寄せている乙女は数知れずにいるだろう、涙を流しただろう。まさかブーディカも自分もそうなるとは思いもしなかった。

 

(私をここまでさせたんだっ、絶対に責任を取らせてやるんだからっ!)

 

そう決意してブーディカは消失した。


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