【停滞】湖の騎士 異聞録 (旧題偽・湖の騎士伝) 作:春雷海
そして更新が遅くなってしまい、申し訳ございません。
PS.
相談なのですが、FGOで配布される★4サーヴァントですが、ネロとマルタを考えております。どっちがいいですかね……ランサーオルタリア(オルタ)は聖晶石(1000万DL)で当てましたので、いいかな(笑)。
あらゆる軍備を整えて、正統ローマ帝国軍は進撃を開始した。連合帝国首都への侵攻
しかし、連合帝国首都まで間近という時になって、敵軍との戦闘が勃発。
更に最悪な出来事は連続して起こる――女王・ブーディカが捕虜となったという報告を受けた。
無論それを見過ごせるわけがないネロは即座に助けるために進軍し、またそれに意気揚々と六華はネロと共に行動することを決めた。
道中、彼女たちは捕虜となった彼女を救いに足を進めている姿にランスロットは呟く。
「六華は少しずつ強くなっているな」
あの時の、不安で泣き出した六華の姿を思い浮かべる。涙と鳴き声を隠せない様子は幼子のようで、親心ながらも護らなければならないと強く感じた。
現在はそれがなく、寧ろ前に進もうとし、また強くなろうとする意志があった。
「えぇ、苦境を乗り越えて彼女は少しずつ強く逞しくなってきていますね」
ジャンヌもそれに同意して、何処か憂い気に見つめる。
「それもあるでしょうけど……実は私たち彼女に聞いたのです。早く強くなりたいと」
マルタの発言にランスロットは顔を顰めてしまう。
いや人理修復という旅に出ているのだから強くなってもらわねば困るのだが、焦って強くなろうとすると逆に大きな怪我につながる可能性が高い……少しばかり注意が必要だろうか。
ランスロットがそう捉えるのを見抜いたのか、パロミデスが「お前が考える程、あの子は焦っちゃいねぇよ」と云った。
「少しずつ強くなって、独り泣き続けているような方を助けたいんだとよ。 ったく、どいつもこいつも……どんだけめんどくさい奴が好きなんだが」
パロミデスの言葉を聞いて、なんて馬鹿なやつがいるんだろうとランスロットは捉えた。
泣き続けても何も変わらない、始まらない。例え体が枯れる程泣いても、誰も助けてくれない。泣く程悲しいなら、自分で立ち上がって歩き続けるしかない。
――己もそうだったように。
「それはとんでもない阿呆がいるもんだな、六華は苦労しそうだ」
苦笑するランスロットに、パロミデスは頭を掻いて大きくため息をついた。
「あーそうかもな。しかも最悪なことに、それをご本人も気づいていないんだから、余計にたち悪いわな」
「? お前がそこまで言うとはな……」
(そいつは余程のバカだな、うん。 六華を泣かせたらぶん殴ってやろ)
そう決意したランスロットは力強くこぶしを握って、その阿呆で馬鹿に思いをはせる。そんな彼を見て、パロミデスは「本当にバカだわ」と呆れたように愁いを帯びた目でもう一度ため息をつく。
マルタとジャンヌはパロミデスの言葉が誰を指しているのか理解したものの、それがどんな想いで馳せているのは分からなかった。
「どこだ、ブーディカ! 返事をしろ! よもやまだ死んではいまい! 分かるぞ、余には分かる。貴様は死なぬ!」
「……それはずいぶんと勝手な物言いじゃないかな――でも安心していいよ。彼女は無事だ。今は彼の魔術ですやすや眠ってる」
「拘束の魔術だ。すやすや眠る、とは違う」
現れたのは二騎のサーヴァント。戦場の只中にあって、その会話は至って和やかだ。だが二騎から放たれる重圧は否応なく感じさせる。その場にいた六華のサーヴァントたちは武具を構え、ランスロットもファルシオンを抜いた。
「両名共に、この砦の将と見た。許す。自らの名をこの皇帝ネロへと告げてみよ」
「名乗らせてくれるのかい? うーん、そうだな。どういうふうに言おうかな。僕は名前が複数あるんだ。悩むね。――よし。僕は、アレキサンダー。正確には、アレキサンダー三世という」
「私はロード・エルメロイ二世。縁あって彼の軍師をしている。真っ当な英霊ではない。故に、私の名は忘れてくれて構わん」
「そういうわけにも行かないさ。僕たちは、彼女にとっては敵将なんだ。ね、ローマ皇帝さん」
「無論だ。この期に及んで敵対せぬとも言うつもりか?」
「うん」
まさかの発言にネロや六華、マシュは唖然とした。対するランスロットたちは驚くことはなかったが、武具を構えを止めない。
確かに発言自体には驚愕するだろう。しかし、彼らから重圧は感じるものの、戦意が全くと言っていいほど感じられない。だからといって警戒を解くつもりもない。
「ここで待っていたんだ。きみが来るのを。ちょっと興味が湧いたからね。あれこれとちょっかいをかけたのはそのためだ。きみと話がしたかったんだ。できれば――こうして、戦いの只中で」
「……わからぬ。てんで分からぬ。少なからず、貴様の軍で余の兵は命を落とした! 今なお……それを、ただの話一つが目的だと言うのか、貴様!」
雄叫びが聴こえた。闘気と熱気を肌に感じる距離で、二つの軍勢の兵が衝突している。アレキサンダーは我が意を得たとばかりに微笑む。
「ローマ帝国第5代皇帝、ネロ・クラウディウス。――なぜこうやって戦い続けるんだい? 連なる『皇帝』となることを選べば、無用の争いを生むことなどないだろうに」
歴史的に間違っているのは「連合ローマ帝国」の存在そのもの。それを正すために戦争という手段を取ることである。
しかし、逆に捉えれば皇帝ネロが連合ローマ帝国に恭順していれば、たくさんの兵士が戦って死ぬことはなくてすんだ。歴史上に矛盾が生まれるものの、そうすれば人理破滅はなかったと思われる。
「無用……無用と言ったのか。貴様。この戦いを」
ネロは震える声でアレキサンダーに問う。真紅の長剣の柄を強く握りしめながら。
「言ったよ。ならばどうする?」
「――許さぬ」
ネロは真紅の長剣を力強く地面に突き立てた。
「死から蘇った血縁であろうと、過去の名君であろうと、古代の猛将であろうと、伝説に名高き大王その人であろうとも! この時に皇帝として立つ者は、ネロ・クラウディウスただひとりである! 民に愛され、民を愛することを許され、望まれ、そう在るのはただ独り! ただ一つの王聖だ! ただひとつだからこその輝く星。ただひとりだからこそ、全てを背負う傲慢が赦される!」
ネロが長剣でアレキサンダーに斬りかかった。アレキサンダーは片手剣で斬撃を悠々と受け止める。
「たとえローマの神々全てが降臨せしめて連合へ下れと告げようとも、決して退かぬ! そう信じて踏破するのが我が人生、我が運命! 退かず、君臨し、華々しく栄えてみせよう! 余こそが! まごうことなきローマ!」
「見事! その答えが、どうしても僕は聞きたかった! 合格だ。きみは覇王になるがいい。いいや、皇帝に! きみにはその資格があるだろう。魔王にだってなれるよ、きみは!」
「黙れ、黙れ、黙れえええええええぇぇぇぇっぇ!」
ネロとアレキサンダーは鍔迫り合い、火花が散りあう。
国を一身に背負おうとするネロの姿にランスロットは嘗ての主――アルトリア・アーサー王の姿が脳裏に浮かんだ。
彼女は騎士達が望むような『完璧な王』として振る舞ってきた。しかし、機能に徹するあまり部下の苦悩や国民の限界を察することが出来ず孤独となっていくその姿を、ランスロットは出来る限り支えた。
『王』という宿命を背負いし者は強く逞しく……そして何処となく儚かった。
今のネロはまさにそれだ。『王』の宿命に殉じようとしている。
その姿をランスロットは懐かしく思うも、同時にこれから訪れるだろう彼女の運命がどれ程の苛酷と孤独に苛むのだろうと唇を噛み締めた。
願わくば彼女を支える人材が現れることを祈って、ランスロットはファルシオンを片手にロード・エルメロイに向かって駈け出した。