理想の出会い~THE IDOLM@STER~ 作:まちゅもと
「なあ母さん、なにかすることあるかい?」
「いえもう大丈夫ですよ。お散歩にでも行ってらしたらどうですか?」
つい先日、四十余年務めあげた会社から定年退職した。
老後の余生を楽しみに生きてきたつもりだったが、退職してみれば家事はいつも通り妻がするし、大学にやっとこさ行かせた一人息子は帰ってきやしない。
はっきり言って暇なのだ。
特にこれと言った趣味を持っているわけでもなく、仕事をしては家に帰りというルーティンが崩れてしまった今では何をしていいかもわからない。
再雇用してもらうほど働く事が好きでもなければ暮らし向きもそれなりに裕福であると自負している。
「じゃあちょっと公園にでも言ってくるかな」
「はいはい、いってらっしゃい」
することがないのに公園に行くなんて初めてのことじゃないだろうか。
====公園にて====
家から歩いて10分の公園はそこそこ広く、遊具のある公園ではなく自然公園のような場所だ。
もう私も還暦を過ぎて体力もない。
公園に来るまでに歩き疲れた私は池の辺のベンチに座り込んだ。
「おじさん、大丈夫なの?
すっごく汗かいてるよ」
「あ、ああ、大丈夫だよ。
少し疲れてしまってね」
金色の髪の異人さんのような綺麗な女の子に声をかけられた。
「それは大変なの。
ミキ、ちょっとお茶を買ってきてあげるね」
私は今どき珍しく優しい女の子だなと思った。
犬も歩けば棒に当たる、なんてことわざを思い、少し嬉しく思う。
「はい、おじさん。これあげるね」
「いやいや悪いよ」
若い子に奢ってもらうのはしのびなく、千円札を取り出した。
「いいのいいの。ミキもちょうど喉が乾いていただけなの」
「ミキちゃんていうのかい?ありがとうね。
それにしても公園で何をしているんだい?」
「カモ先生を見てるの」
カモ先生とな。
「ええと、あそこの鴨のことかい?」
「そうなの。カモ先生なの」
不思議な子だ。
「おーい、ミキー!」
真面目そうな眼鏡の男性がミキちゃんを呼んでいる。
「あ、プロデューサー!どうしたの?」
「どうしたもこうしたもないぞ。もう今回の収録の楽屋入りしてないといけない時間だろう」
「あ、ほんとだ!行かないとなの。
おじさんまたね!!」
ミキちゃんはパタパタと、眼鏡の彼は私に頭を下げたあと走ってどこかへ向かった。
====別の日====
私はその後も公園に行くようになった。
毎日ではないが公園をよく利用しているひともいるらしく、何人かとは顔見知りになった。
ミキちゃんもたまに鴨を見に来ているようで、よく喋りよく笑う彼女は人気者だった。
「ミキはね、アイドルなんだよ」
「アイドル?」
「うーん、キラキラなの!」
そりゃ確かにその通りだとも。
そんな会話をしたときは、ミキちゃんがテレビで見かける本当のアイドルだなんて思いもしなかった。
====別の日====
ある時からミキちゃんはあまり公園に来なくなり、来たとしてもサングラスや帽子をかけるようになった。
病気をしたのだろうかと心配していたのだが、全く杞憂であったらしい。
「ミキはいま売れっ子、だからね!
あんまり時間がないの!」
家に帰って母さんがつけているテレビを何の気なしに見上げたとき、ミキちゃんが映っていて腰を抜かした。
「あらお父さんどうされたの?」
「その子を知っているか?」
「ああ、星井美希ちゃんでしょう?
765プロという所のアイドルさんなんですって」
アイドル。キラキラ。確かにその通りだとも。
テレビで見る彼女は一層輝いていた。
====別の日====
765プロオールスターライブ。
「でもびっくりしたな、親父がこういうのに興味があったなんて」
息子と久しぶりに二人で出かけていた。
パンフレットでミキちゃんを探す、やっぱりいつも通りキラキラしている。
私は息子に笑って言ってやった。
「アイドルはキラキラなんだぞ」
アイドルはキラキラEND
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