理想の出会い~THE IDOLM@STER~ 作:まちゅもと
主観ばかりで申し訳ない...。
ふと、街頭の大型モニターを見ると見知った顔が映っていた。
僕は全くその人のことを知らなかったし、その人も全く僕のことを知らないのだろう。
アイドル、如月千早との出会いと僕の初恋の終わりについて少し思い出してみよう。
====回想====
「っしゃいませェー」
僕はコンビニ店員だった。
気だるげな挨拶、誰のためでもなくただ機会作業のように行う声出し作業。
普段は自分を気に求めない相手の買い物にさして興味もなかったのに、なぜか彼女の買っているものが気になった。
「これください」
たったそれだけだったが、とても綺麗な声だと思った。
同時に若く綺麗な女性が物憂げな表情でカロリーメイトとゼリー飲料だけを買っていくことにすこし残念な気持ちになった。
「以上でよろしかったですか?」
普段なら確認しないようなことだったが、自然と口をついて出たことを覚えている。
「ええ」
愛想も素っ気もない。
残念な美人という言葉が浮かんだ。
それからも彼女は定期的にこのコンビニを訪れ、何度も同じような栄養食と、時々サプリメントを購入していった。
代わり映えのしない僕の生活で、この綺麗な女性を目にするのが楽しみであったことには間違いないのだが。
====別の日====
三ヶ月ほど経ち、初めて彼女は誰かと連れ立って買い物に来た。
「ごめんね、千早ちゃん。遅くなっちゃって」
「いいのよ春香、気にしないで」
頭の二つのリボンが笑うと同時に揺れる可愛らしい元気な女の子だった。
僕は彼女が友達といるのを初めて見た。
それに、なんというか、彼女とはすこし毛色の違う、予想外な女の子だったことが印象に残っている。
この日初めて彼女が笑っているのを見たのだったか。
そういえば名前を知ったのもこの日だった。
「えー!千早ちゃんそれだけなの!?もっとちゃんと食べなきゃ体に悪いよ!」
レジ前での会話。
僕はその通りだ、もっと言ってやれと心の中からリボンの子を応援した。
「これでも必要な栄養素は取れているから大丈夫よ」
彼女はもう少し自分に気を回してもいいのではなかろうか。
====別の日====
ここ最近、彼女はあまりうちのコンビニを利用しなくなってきた。
買うものもこれまでの栄養食品などではなく飲み物などで、少しずつ食生活に気をつけるようになったのだなとすこし嬉しく思っている。
なにより驚いたことに、彼女はアイドルであるらしい。
一人暮らしのテレビをつけたときに見知った顔が出ていたのだ。驚きで数分間固まってしまった。
それ以来僕は如月千早の一人のファンとして陰ながら応援している。
僕はその日の週刊誌ではからずも彼女の知られたくない過去を少し知ることができてしまい、彼女を見ることがテレビでもこのコンビニでも出来なくなってしまったのだが。
[凄惨すぎる過去。弟を見殺し]
ゴシップ週刊誌で発表された衝撃的な過去は、彼女の歌を奪った。
僕には彼女の気持ちを推察することもできない。
それが酷く無力で、悔しかった。
====別の日====
[765プロの歌姫復帰する]
あの忌まわしい週刊誌以来、テレビ、新聞、週刊誌を毎日チェックしていた。
「ようやくか...」
彼女が何かを乗り越えたことを知った。
その数日後、彼女が他のアイドルとともにうちのコンビニに訪れた。
「千早さん、戻ってきてくれて本当によかったです〜。うっうー!」
「本当よ。この伊織ちゃんに心配かけてくれちゃって」
「本当にごめんなさい。でももう大丈夫よ」
そうか、もう大丈夫なのか。
本当に、本当によかった。
この日が僕の如月千早と最後に会った日である。
====回想終了====
彼女はおそらく辛い思い出を乗り越えたのだろう。
仲間とともになんとかやって行こうと決意したのだろう。
僕はコンビニのバイトをやめた。
僕は如月千早に失恋した。
もちろん告白なんかしていない。
久しぶりに会った彼女は紛れもなくアイドルだった。
輝いていた。
僕は彼女のファンであることを心に刻んだ。
僕は学校に戻った。
久しぶりの制服姿はなにかくすぐったくて、それでも僕も乗り越えなければいけない何かの前に立ったことを実感できた。
人知れずちーちゃんを応援END
スッキリしないなあと思われた方はすみません。
閲覧ありがとうございました。