陸上進化。イ級改め、イロハ級   作:あら汁

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御注文は妹でした

 ……鎮守府の騒動から一週間経過。

 俺たちの回りは落ち着きを取り戻した。

 解放されていつも通り海にでて漁業を営み、報告して納品。

 近海の警備をしつつ、以上なしの日々。

 あの大騒ぎが嘘のように穏やかな日々だった。

 あのあと、例の妹だが、鎮守府に回収された。

 嫌がっていたようだが、クソ提督の力添えあり、無事に持っていかれた。

 詳しい事情は知らないけど、鎮守府に被害出したのはアイツだ。

 きっちり責任を取らせるべきだ。そっちは今のところ、音沙汰なし。

 もうひとつの姫さんの知り合いについてだけど……姫さんは全部拒否した。

 話し合いも突っぱねて、言い寄る少女に苛立ってしつこいと怒った。

 一回話してくれた、過去に比較されたっていう艦娘二名。そりゃ、思い出せないのに相手が言い寄れば鬱陶しい。

 しかも姫さんは名前も顔も思い出せない状態。辛うじて異名には反応したぐらいで、後は忘却の彼方。

 記憶がないってのは分からない。でも、姫さんが嫌がるなら俺は姫さんの味方だ。

 最終的に俺に乗っかって、帰ってきた。

 ヴェルさんやマスターは鎮守府から話を聞いているので、言うなと言ってくれた。

 おかげで、まあなんとか日常に戻ってこれた。

 姫さんもだいぶお疲れのようだし、仕事終わりぐらいは趣味に付き合おう。

 無趣味の俺に出来ることは、これぐらいだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 姫さんは、趣味に目覚めた。ヴェルさんの影響で、二次元に。ゲームとか音楽とかアニメとか。

 それだけじゃない。榛名さんの影響で、読書も始めた。

 神通さんの影響で料理を、雷さんの影響で……あれ、雷さんの影響だけ受けてない。

 まあいいや。で、最近レンタルしているDVDでハマったものがある。

 深夜アニメの、鎮守府がテーマになっているコメディアニメ。『ご馳走はウサギですよね?』というアニメだ。

 簡単に言うと、足の早いのが自慢のウサギみたいな駆逐艦の艦娘が主人公で、鎮守府に蔓延るロリコン提督とか戦艦艦娘の魔の手から仲間と共に協力して逃げ切るという日常アニメ。

 タイトルのそれは主人公をよからぬ事に巻き込もうとする変態どもの決め台詞だった。

 ……気の毒に。実際モデルになってる艦娘さん居るんだろうが、これ見たらどう思うかな。

「ふふふ……」

 静かに笑う姫さんは楽しそう。俺も何だかんだでぶっ通しで見てる。結構面白い。

 毎回あの手このてで主人公を追い詰めるエロ提督。二週に一回ぐらい、ピンチになる主人公。

 時々巻き込まれる艦隊のアイドルというキャラと共に鎮守府を逃げ回るが、行き止まりに追い詰められた。

「ふひ、さあ覚悟は出来たかね、ウサギ君とおまけのアイドルよ。今夜の提督は……激しいですよ?」

 妙に怖いポーズをとるロリコン提督。顔はエロに染まっていた。

 あ、今回はピンチの話だったか。

 今回は提督が変身艤装ロリコーンなるモードを披露して、主人公の自慢の足を追い抜いていたっけ。

 因みに現在、深夜です。姫と共に最新の話を夜更かしして見ております。

 迷惑にならぬように、姫の部屋にテレビを持ち込み、二人してイヤホンとヘッドホン装備で寝間着姿で視聴。

 ピンチになったときのお約束がそろそろ出るぞ。俺のお気に入り。

「ベアーーーーーーーーーーーッ!!」

 ピンチの主人公とアイドルが顔芸を晒して、雄叫びをあげた。

 このアニメのお約束、変な顔と奇声。これが俺のつぼだった。

 笑いをこらえて、悶える。やばい面白い。この女の子と思えない深海棲艦みたいな声。

 二人して抱き合い、絶叫。半泣きだった。にじり寄る変態。

 姫さんのお気に入りはコメディアニメとは思えない迫力のバトルシーンだとか。

 今回はバトルも入ってるのかな。そろそろきそう。

 画面で、変態がいよいよ襲いかかる、その瞬間だった。

「どうも、提督、さん。川内、です」

 闇夜の中から謎の女の子が、いつの間に提督の背後をとって、くないを首筋に当てていた。

 変な自己紹介はデフォらしい。忍者らしい姿のカッコいい人だった。

 途端、

「ヒエーーー!? カワウチ!? カワウチナンデ!?」

 驚いて叫び、振り返る。えと確か、夜に限り主人公がピンチになると助けに入るくの一だったっけ。

 これも姫さんのお気に入りのキャラだといってた。夜戦くの一カワウチだったっか。

 語呂悪いかも。

 それは兎も角、キラキラした目で静かにハイテンションになる姫さんは食い入るみたいに展開に見る。

 激しいバトルが始まった。BGMもさることながらド派手なアクションで数分で鎮守府が瓦礫になっていく。

 ……おい、主人公達逃げ遅れて潰れてるじゃねえか! しかも何か提督に援軍来たぞ。

「バーニング……ラーブッ!!」

 掌を真っ赤に燃やした艦娘が、川内めがけて飛んでいく。

 直撃して爆発する忍者。何が起きたし。あれは戦艦艦娘か。

「提督、ご馳走を独り占めはダメデース!」

 何か榛名さんに似た艦娘が決め台詞言ってるよ。

 姫さんと共に、展開を見守る。

 復活した川内が提督と艦娘相手に奮戦する。

 丁度盛り上がるところで、今回はお仕舞いだった。

 エンディングを見ながら、イヤホンを外す姫さん。

「面白かった」

 満足そうに笑っている。俺も面白かった。野暮なツッコミは無しで。

 次回予告を見て電源を消す。来週も楽しみにしつつ、その日は眠った。

 …………因みに俺たちは鎮守府に御注文していない。間違いない。

 なのに、どうしてこうなった。

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝。

 寝坊した俺たちを迎えたのは。

「お兄ちゃん、お姉ちゃん!! 見てみて、ウサギ捕まえたよ!!」

 一週間ほど離れていた自称妹が、ウサギと称した艦娘さんをお土産に楽園に遊びに来ていました。

「ぴょん……」

 小さな女の子は、目をバッテンにしてぐったりしている。死んではなさそう。

 片手で持ってきたそれを見て、絶句する俺。

「それウサギじゃない。卯月よ」

 腕を組んで、冷静にツッコミを入れる姫さん。青筋が浮かんでいた。

「え、でも山で倒れてたよ? ウサギじゃないのこれ?」

 何で艦娘が山にいるのさ。あとお前もなぜここにいるのさ。

 それは丁度、仕事に海に出るところだった。裏口から出た俺たちを待ち構えていた彼女、レキは無邪気に笑う。

 事情を聴くと、海軍が手を余した為、ここの鎮守府に押し付けられて、所属になったという。

「レキ……海軍を脅したの?」

「ちょっとね。あんまり駄々こねるから、空砲撃ったら大人しく言うこと聞いてくれたよ」

 何してんだお前は。姫さんが呆れたようにため息をついて、聞いた。

「じゃあ楽園に来るの? マスターは知ってる?」

「知ってる知ってる。提督さんが鎮守府で管理できないからお姉ちゃんたちのとこ行けって。独立部隊なのも同じだよ。他の艦娘さんにも伝えてくれたって」

 そう言えば昨日の夜に、マスターが部屋の片付けしとけって言ってたな。

 それにみんな、新しい面子がどうのこうのって言ってた。

 ヴェルさんもやれやれと肩を竦めて、雷さんは面倒見てやるって気合い入れてた。

 榛名さんも神通さんも、住み込みのバイトみたいなもんだって言ってたけど、こいつのことだったんだ。

「お兄ちゃん、お姉ちゃん。これから一緒に住むけど、よろしくね!」

「突然だなおい……」

 まー、いいんだけど。深海棲艦の家族が増えるのは、理解者が増えてくれるってことだし。

 俺は特に異論はない。みんながいいならそれでいい。

「迷惑かけるんじゃないわよ。大人しくしてなさい、いいわね?」

 嫌がるかと思ったが、姫さんは受け入れた。なんか諦めたような顔だった。

 元気一杯のレキは、戦場での残虐さを思わせない可愛い顔で、姫さんに抱きついていた。

 とても、嬉しそうな顔で。姫さんは扱いに困っている様子だった。

 あと……足元で捨てられたウサギ、届けにいこうよ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レキは更に色々な土産を見せてくれた。熊と猫と犬。

「クマ……」

「にゃあ……」

「ぽいぃ……」

 みんな艦娘さんじゃねえか!!

 しかも落とし穴にハマってるってどういうこっちゃ!?

 どっかで見た顔の子もいるぞ、何した妹ォッ!!

「山で猪追いかけてて、追ってきたあの人達は落とし穴に落ちて気絶したの」

 こいつは……野放図に育った阿呆か! 要するに監視の目が自滅したってことじゃねえか!!

 穴は猪のために掘ったもの。土産が海の幸じゃ味気ないから山の幸にした、と。

 一度近くの山道から入った斜面で、艦娘さん達を発見。気絶していた。

 勝手に鎮守府を抜け出して会いに来た妹を追いかけて、彼女達は全滅。

 そして、鎮守府に持ち帰っているという訳。俺が巨大化して全員乗っけている

「この間の子、転属してきたのかしら。思い出せない過去の絡まれるのは面倒なのに……」

 目を回す犬を思わせる艦娘に向かってため息をつく。

 やっぱ嫌ってるのかなこの人のこと。露骨に顔をしかめるし。

「どうやら、対お姉ちゃん用に連れてこられたみたい。わたしのせいで、二人もあの人達に警戒されているから。ごめんね、余計なことして」

 レキが謝る。成る程、姫さんが反逆したときにぶつけるためか。

 忌避しているのを承知の上で、嫌がらせだろうか。

「レキのことは諦めたわ。予想していたし、敵じゃないだけマシだもの。だけど、彼女達に追い回されるのはちょっと」

 姫さんは悩ましげに言う。嫌い、と言うよりは避けたい、苦手という印象。

 レキがしつこいようなら追い払うと言い出すし、その事だけは姫さんも許した。

 その禁忌改修っていうのは、やはり大変なことだったのだろう。

 後悔はないし、今のままでいいと姫さんは言う。周りがそれに罪悪感を抱いているとかそんなのかなぁ?

「大丈夫、お姉ちゃんはわたしが守るよ。人間だろうと深海棲艦だろうと、艦娘だろうと。新型は伊達じゃないよ」

「ありがと、レキ。その言葉だけで十分よ」

 ガッツポーズをとるレキと、苦笑いする姫さん。

 鎮守府の艦娘さんとはある程度和解したけど、こっちは無理そうだな……。

 姫さんが避けたい事案なら、俺も手助けするし。無理時はさせない。

 歩いて鎮守府に向かい、入り口で警備の人に艦娘さんを引き渡す。

 その時、

「この間はご迷惑おかけしました!」

 ちゃんと、レキは警備の人にも頭を下げて謝った。

 苦い顔をしていた警備さんも、真っ直ぐに謝罪した彼女に、次はないぞと苦言を呈して終わらせてくれた。

 人のよい人たちで良かったなレキ。普通は軍法会議ものだぞ。

 ……こいつの場合は力ずくで突破しそう。大人しく言うことを聞きそうにない。

「お、おのれウツボ……次こそ、うーちゃんが勝つ……ぴょん」

 ウサギが去り際、恨み言を言っていた。ああ、動物で言うならレキはウツボか。

 尾てい骨辺りに一体化した艤装あるもんな、レキ。

 コートまた着てるけど、さっき見せてもらったらリスみたいに丸めて収納していた。

 ……一応、一切性的な意味はないぞ。姫さんに確認してもらって、教えてもらっただけだ。

 俺は見てない。妹の尻尾なんて見てないからな!!

「次もわたしが勝つよ、ウサギ。海にかわってお仕置きするのはわたしだもん」

 振り返って言い切るレキ。何をいってるんだお前は。

 兎に角、今日から配属になったレキと同居生活。早速仕事も手伝ってもらい、大幅に効率が上がった。

 夜には、事情を聞いていたみんなに暴れないって約束して、新しい家族ができた。

 平和になった近海に乗り出す日々が、また帰ってきたのだった。


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