今日はライダーさんの来ない日。そして葛木先生とメディアさんの来る日で、リーゼリットとイリヤスフィール・フォン・アインツベルンが来た日。
無論毎周毎周来ていたわけではないのだが、やはりこの日に来る率は高かった。
さてはて、衛宮が来るだろう事は昨日の時点で予想済みだが、来るとしても午後だろう。
午前中は誰が来るのかな、と。
入口に影。
「いらっしゃー……い?」
いつもは店番そのものをライダーさんにまかせっきりにしているオレによる来店コールは中々聞けるものじゃあない。そんなラッキーヴォイスを聞く事が出来たお客さんは誰なのかなー? と入口へ目を向ける。
そこには柳洞寺のイッセーさんがいた。
「何故疑問符を付けるのだ、野場。……無論、俺とてこのような場所にわざわざ足を運ぶつもりは無かったのだがな」
「だよなぁ? 柳洞って古風な口調の癖にそういうもの全然興味ないし。んー……零観さんか葛木先生のお使いか?」
「お、お使い……。否、確かに宗一郎兄の使いであることは事実か……。オホン。それで、野場。例のモノ、とやらを貰いたいのだが」
「……?」
え、なに。
例のモノって何。
「何? わからないのか? ……宗一郎兄は、それで通ずると言ったのだが……」
「例のモノ……例のモノ? レーノモノ?」
「心当たりがあるのか?」
「いや、無いな。そもそもオレ、葛木先生から何か注文受けた覚えないし。……それ、本当に葛木先生の使い? キャスターさんの使いだったりしねぇ?」
それなら十全に心当たりあるんだけど。
昨日約束したし。
「……そのようだな。すまんな野場……。全く、自分で来ればいいものを……」
「いやいや、いーっていーって。まぁ催促しづらいのもわかるからさ。んじゃ、ほい」
そう言って手渡しますは、紙の袋。通称紙袋。
それなりに重い。
「……一応聞くが、中身は?」
「オレの小中学校時代の水着とか、服とかだな」
「……」
勿論スク水、しかも旧スク。
しかし飛鳥きゅんは割と成長の早かった方で、ロリ時代は一瞬で終わってしまったが故にスク水が似合う時期を逃しているのだ……!
三枝に着せたい(欲望)。
「あ、レンタル料はしっかり貰ってるから大丈夫だ。造形の参考にしたいんだと」
「……これを」
「ん?」
「これを、俺に持って帰れと。女児用の水着や服を……」
「だーいじょうぶだって。紙袋開けなきゃ見えないし、そもそも柳洞は男色、それも衛宮一筋で通ってんだから」
「何も大丈夫ではないではないか! というか、俺と衛宮はそんな関係じゃない!」
女児の服を手一杯に持ってゲイ否定を叫ぶ系生徒会長。
うーん新しいっ! 新ジャンル開拓だな。
「失礼するっ! ……次からはキャスターさんに自分で来いと言っておいてくれ」
「クライアントに口出しはできねぇぜ」
「ならば俺が言う!」
そう言って柳洞は全速力で駆けて行った。
ちなみにあの紙袋は10kg以上の物を入れるとすぐに破けてしまうので、柳洞の様な取っ手だけを掴んだ持ち方で走ると、どこかで破けて中身をぶちまけてしまう事だろう。
……嘘だよ。
「いやー……やっぱ弄り甲斐があるなぁ、あいつ」
ちなみにスク水はしっかりカルキの匂いをつけてあります。
使用後、乾かした感はばっちり。そういう頼まれてもいないオプションサービスにも気が回る……フッ、出来る。
まぁキャスターさんは別にそう言う目的じゃないんだろうけどね。
ポッポー、ポッポーという、人によっては古めかしいとさえ表現するだろうウチの時計が10時を告げる。12時にも鳴るが、10時と16時にもなるように設定してあるのだ。設定したのは母さんだが。
母さんが普通7時に起きるべき所を、寝坊したとしても最悪この時間にさえ起きていられればいい、として設定した時間が10時。悲観的なあの人らしいといえばらしいのだが、3時間も二度寝する気だったんだなぁと考えると悲観的なのかどうか怪しい所だったりもする。
ただまぁ、形見というか思い出というか、オレには必要のない設定とはいえ残しておきたいのだ。
「おーい、来たぞー。野場ー?」
そんな思い出の10時きっかりに、そいつは現れた。
まぁ衛宮なんだが。
衛宮は何やら物騒な物を持って、こういった。
「悪い、遅くなった」
「10時って遅いか? 別に、やってくれるなら何時でも構わないからさ、ありがたい限りだよ。それで、ソレ……櫛? 鍬? それなら出来るって事か?」
衛宮の持っている、ソレ。
まるで鳥の鉤爪のような、牙の様な、ソレ。
オレの記憶が間違っていなければそれは渇きを意味する
毒草を創ったり蔓延させたりするヤーツだった気がする。
まぁ気のせいだろう。
「ああ」
「ん。じゃ、さぁーっと薙いでくれればいい。皮膚自体は毛より硬いから、毛並に添って降ろしてくれ」
「りょーかい」
衛宮はその両の手の武器を、それこそ爪で引っ掻くかのようにして動かし始める。
妙に手慣れた手つきで、5回、10回と繰り返して行く内に、少し毛羽っていた毛皮が本来の美しい毛並を取り戻して行った。
衛宮は衛宮で、「これ……基準にしたらAはありそうな……」とかぶつぶつ呟いているが、良く聞こえなかった。耐久Aもあるんすかこの毛皮。すまない。
繰り返しが20を過ぎた辺り。
「おし、いいぞ。ありがとな、衛宮」
「……本当にこれでいいのか? ただ梳いただけだけど……」
「毛皮の手入れってなそんなもんさ。毛と毛の間に空気を通せば、良い毛皮ならずっと保つんだ。これだけの巨猪、良い毛皮じゃないはずもないしな」
「へえ……」
衛宮は俺の見ていない所でザリチェとタルウィを背中に隠し、消した。
見えていないので多分だけど。
藪を突っついても出てくるのは悪神だけだろう。
「んじゃ報酬だが……」
「え? いいっていいって。流石にこんな事しただけでお礼を貰う程俺は厚顔無恥じゃないぞ」
「お礼しなかったらオレが厚顔無恥だわ。これでもオレは商人なんだぞ? 為された事に対して礼は返すのが基本だよ」
「……そこまでいうんなら」
「うむ。……と言っても何も用意してないからな。何かオレにしてほしい事とか、聞きたい事ないか? なんでもはしないぞ」
「ないのかよ」
なんでもするって言ってないから反応するなよ?
「……んー。じゃあ」
そう前置きして、衛宮は口を開く。
「あの鏡さ……
苦笑するような顔で、
軽薄な口調で、酷薄に笑いながら。
「ん? いいけど……なんで?」
「鏡、嫌いなんだよ」
「……ま、了解。来る予定が確実な日は被せておくよ」
そういえば、あの洋館にも割れた鏡があったなぁ。
割れた鏡と、パズルが。
「んじゃ、そゆことで……じゃあな、野場」
「おー、またなー」
そう言って背を向ける彼の背中は、どこか小さかった。
冬木大橋。
世界最硬の物質で作られているとされるこの橋が跨るのは未遠川という川で、冬木市を東西に二分している。深山町と新都を繋ぐこの橋を渡らなければ双方を行き来できないので渋滞しがち……と言う事は無く、ぶっちゃけ深山町に用がある人は大体バスをつかうので交通の便はスムーズだったりするのだ。
そんな大橋をマウンテンバイクで疾走しているオレ事アスカ・ノバ選手。
後方に迫るはウチのバイトライダー。駆使するはママチャリ。
ふ、ママチャリで出せる最高時速などたかが知れている……貴様がどれほど有名で騎乗スキルに優れていようとも関係ないのだ!!
「フハハハハハハ!! ではなライダーさん! 今日もオレの勝ちだ!!」
「それは違いますね」
「何ィ!?」
存外、近くに感じた声に振り向く。
すると、後方20m程の所までライダーさんが迫ってきているではないか。
どういうことだとそのチャリをよく見て見れば、やはりあの高級品!
「まさか――」
「ドロップハンドルのロードバイク……士郎の
それはもう、積載量とか一切ガン無視の『速く走るためだけ』の自転車。
買い出しなんて全く考えていない(実際手ぶら)、恐らくオレに勝つためだけに用意した物。
く、負けるか!
「ライダーさん……GIANTなんて……いいのか、巨体って意味だぞ!!」
あと15m。
どんだけ冬木大橋長いんだよ、っていうツッコミはいらない。
冬木市において距離と時間はたびたび引き伸ばされる物であるからだ。
「物品に罪はありません」
「都合がいいなぁ!」
あと10m。
「しかし、流石はアスカです。ライダーである私が過去最高性能を誇るジャイアントを漕いでなお、抜ききれないとは」
「差は縮まって来てますけどねぇ!」
体感、オレ達が出している速度は約33km/hだ。
そして、オレの駆るクロスバイクは基本性能25km/hくらいしか出せない。
かなり超過しているにも拘らず壊れない・このスピードが保てるのはチェーン部分のカスタムによるものではあるのだが、フレーム等々は変えていないので先程から悲鳴を上げている。
あと5m。
「では、アスカ。この勝負、私が貰い」
「仕方ない……ギア、
別に腕とか足のポンプで寿命を縮めたりするわけではない。
単純な話。
このクロスバイクにはギアが1から27まで付いていて、オレは今まで1の状態で走っていた……ただそれだけの事である。
ぎゅん、と視界が加速する。
いかに人力での最高時速を誇るロードバイクといえど、恐らくはライダーの暴走を危惧した衛宮の手によって速度の抑えられている代物。
スタミナお化けたるオレが漕ぐギア3のクロスバイクに追いつけるものではない!
「そう来るのは読めていました……こちらも!」
ぎゅん、と加速するライダーさん。
ダニィ!? 衛宮がロックを外したとでもいうのか!?
ま、まずい! スタミナお化けとはいえオレはぶっちゃけ普通の女子高生!
英霊なんかに敵うはずがない!!
「さて、今までの雪辱を晴らさせていただきましょう――」
「くっ……ギアを上げても意味はないか……! なら!」
一度かなり減速する。
当然、追い抜かれるオレ。
「諦めましたか……当然です。騎霊である私に勝とうと言う方が」
「スリップ、ストリィィィィィイイイイイム!!」
「なッ……!?」
巨女であるライダーさんによって空気抵抗を減らしたオレの加速力が、追い抜かした時の空気抵抗と相殺、いや、僅かに加速力が勝ち、素晴らしい速度でライダーさんを抜き去る。ギアは15まで上げた。超絶重いぜ。
「では改めて高笑いさせていただこう――フハハハハハハハ!! 怨むなら、GIANTを怨むのだな!! 何故なら巨体という意味だから!」
精神攻撃は基本。
新都に入った。
今日もオレのちっぽけな虚栄心は守られたのであった。
「あれ? にゃんこさんだ」
「ん? おー、飛鳥ちゃん! 久しぶりだねぇ」
新都での買い物を済ませ、ゆったり帰っていた夕方。
居酒屋コペンハーゲン特有の黒い制服を身にまとったにゃんこさんを発見した。
にゃんこさん。
本名、
もっと正確に言うと名前の読みは
オレも知らされた情報ではないのでにゃんこさんと素直に呼んでいる。
素直?
「……と、衛宮か。あー、なんかアルバイトしてんだっけ?」
「おろ? 何、エミヤん。飛鳥ちゃんと繋がりあったんならそう言ってくれよー。うちと野場骨董品店は密接な繋がりがあるんだから、そっちへの配達も頼めたのにさぁ」
「野場の家に配達って……酒を、ですか?」
「うちから配達するもんで酒以外に何があると」
「にゃんこさん、ほら、オレ一応未成年だから」
飲むけどな!
この間衛宮に使わせた冷蔵庫とはまた別の冷蔵庫に、キンキンに冷やしております故。
「あぁ、そうだったわ。アタシ、どーも飛鳥ちゃんを子供に見れないんよねぇ。うちのと同じくらいお酒詳しいし」
「ネコさんはいつも酒基準ですね……」
「そりゃあもう。それで、ついでだから飛鳥ちゃんも夕食どう? エミヤんも……って、断られたんだっけ」
「オレも今日は遠慮しておくよ。喜多邑茶家のラーメンはあんまし口に合わないんで。ちょっと油多すぎだな、ありゃ」
「わかるぅ~」
不味くは無いんだ。
ただ油の味が口に広がるというか、家風過ぎると言うか。一口目でくどいというか。
まぁ宵の肴としては結構やるんだけどな。ちなみにラーメン一杯250円。安い!
「それで、さっきの話ですけど……ネコさん、その幽霊を見たっていう店員に会えな――」
「あっれー? 誰かと思えばオトコと士郎と野場さんじゃなーい」
その声と呼び名に、一瞬にしてにゃんこさんの口元が引き攣る。
キラリと八重歯が光った。
「やっぱりオトコと士郎だ。どうしたのよこんなところで。まだアルバイトの時間でしょ? コペンハーゲンはもっと奥、工場地帯に臨む僻地のハズよ? 野場さんは……買い物の帰り?」
「はい。トイレットペーパーとか、日用品の買い足しですね」
そう、何度も何度もライダーさんとチャリレースをしているのは、何もレースだけが目的なワケじゃあない。
ちゃんと新都のデパートに買い物に行く予定があってこそのチャリレースなのだ。
決して、英霊に勝ったという虚栄心を埋めるためのレースではない!
「藤村。アンタ、アタシとの約束、忘れてる」
「え? やだなぁ、この前の借金ならちゃんと返したじゃない。忘れてるコトなんて……って、あ」
一応、ちゃんとオト↑コ→って呼んでいるし、大丈夫大丈夫。
オレも昔ノバアスカを縮めてノバーカとか呼ばれてたし。関係ないッスねはーい。
「そっか、いきなりなんで忘れてた。ごめんごめん。まぁいいけどって、いつもの調子で見逃してよ」
「そんなんで流せるかっ! だいたいね、アンタがおかしなコト言い出すからこんな約束になったんでしょうが。エミヤんも飛鳥ちゃんもまだ知らないんだから、余計なコト口にするなってのよ」
「え? うそ、士郎まだ知らないの? 五年も顔合せてるのに? 野場さんに関してはわからないけど、口調からして親密だし……うわー、信じられないなぁ。つーか私もよく黙ってたなぁ」
当の衛宮は疑問符を浮かべて2人の様子を眺めている。
オレは状況に理解があるが、状況を把握できないまま一応受け答えして話が進んでいく。
この3人は密接な関係にあるのだろうが、ウチと居酒屋コペンハーゲンは言ってしまえば酒の配達元と配達先、もしくは飲み仲間程度の仲でしかないので入れないのだ。
2人の女性に言い寄られた(風の)衛宮は「え?」と間抜けた声を出すが、もう遅い。
左をにゃんこさん、右を冬木の虎に挟まれ、掴まれ、ぐぐいのぐいと引っ張られる。
なんだか褒めているような罵っているような喧嘩に、段々と捕獲されたGRAYのような体勢……もとい、綱引きの綱のようになっていく衛宮。
オレは
「ちょ、のば、なに撮って」
「【最新刊発売!】人体の断面図~2人の女性に手を出した男の末路~ 第7号、妖精と呼ばれた男、の表紙写真をな」
「ま、」
なんでさを言う余裕も無いらしい。
「はん、さすがにビール瓶運びとダンベルで十代を過ごした女ね! 参考書に鉛が入ってたってのはホントだったのかしらー!」
「な、根も葉もない噂は全部貴女だったんですねー! わたしの腕力は! 子供の頃からお店の手伝いを! してたからだって! 藤村だけには教えたのにー!」
あ、これそろそろ肩抜けますねぇ。
流石に見逃すのは忍びないので、助けてあげよう。
「あー……ぁー↑ ぁー↑ あー↑ ファン↑ファン↑ファン↓ファン↑ファン↑」
ふ――秘儀・警察サイレンの声真似!!
くっくっく、鼻と喉で和音を出せる技能の2回目のお披露目だぜ!
「ゲッ、サツ!?」
「だ、誰かが通報したんですかー!?」
流石に、と降ろされる衛宮。
頻りに肩を回し、痛みを和らげている。全く、慣れているからって悲鳴の一つもあげないからそこまで行くんだ。
大岡裁きというのなら、痛い痛いと言えという話。
「ん? どしたの士郎。そんな肩をぐりぐり回して……あんたまだ10代でしょ? もう四十肩?」
「わわ、エミヤんもしかしなくても痛かった? ごめんね?」
「はは、は……大丈夫大丈夫……ギリギリ。野場のおかげで助かった」
そう言ってオレに頭を下げる衛宮。
よきにはからえ。
「って、そうだケーサツ! ……は、いないみたいね。っていうか、別に私悪い事してなかったわ」
「わたしも別に怯える事は無かったですね……」
警察のサイレンは、もしや自分が何かをしただろうか、と思わせるためにあんなにけたたましい、そしてわかりやすい音色なのだ。
効果は出ていると言う事だろう。
「あー、そろそろ日も落ちてきたし……帰りません?」
「あ! あ、あらやだ……野場さんがいたの、すっかり忘れてて……」
「おや? なにお淑やかモードに入ってるんですか? 飛鳥ちゃんの前ではいつもそんな感じ……って、あ」
口に手を当てるにゃんこさん。
自分も口調が戻っている事に気付いたらしい。
「ん゛ん゛っ、野場さん、今見た事は……そう、蜃気楼だから!」
「んーん゛っ、飛鳥ちゃん、今見たのは夢。そんで、アタシの名前はネコだから、いつも通りにゃんこさんって呼んでくれよー?」
こちらに
おっと、この流れはオレが次の被害者パッティーンですか。
「藤村先生がお淑やかなのは知ってますし、にゃんこさんがどんな口調でもオレはにゃんこさんって呼ぶんで大丈夫ですよ。改変度で言えばブロッサムさんとかのが圧倒的に大きいし。なぁ、衛宮」
「あー……そう聞くとにゃんこさんって呼び名、そのままだな……」
「ブロッサムさん……もしかして桜ちゃんの事? だめよ、野場さん。桜、なんて良い名前なんだから、ちゃんと呼んであげなきゃ……」
「アンタが言うかアンタが……」
「なによー、オトコは本名でしょー?」
「ぐっ……」
言葉に詰まるにゃんこさん。
オレも音子って良い名前だと思うけどなぁ。
「けど、そろそろ遅くなるのはホントね……今日は解散しましょっか。なんで集まってたんだっけ?」
「藤村がアタシとエミヤんと飛鳥ちゃんで楽しく歓談してたトコに割り込んできたんでしょうが……」
「そだっけ? ま、なんでもいいじゃない。はいはい、士郎もまだバイト終わってないんでしょ? そこは最後までやりなさいよ?」
「あ、じゃあ藤ねぇもトラックのってくか? 野場は自転車みたいだし……」
「え、エミヤん……藤村を乗せる気? 荷台の酒、全部飲まれるんじゃ……」
「さすがにそこまで節操なしじゃないですよ、藤ねぇは。だよな?」
「あったりまえじゃない! 荷台のお酒って、商品でしょ? それに手を出す様な人間に見える? 私が!」
「虎には見える」
うがー! と涙目で虎になる藤村先生。
うんうん、オトコよりタイガーの方が男らしいよね。
「それじゃ、オレはこれで。衛宮、今日は助かった。じゃあなー」
「おう、野場も帰り道気を付けろよー」
「おー」
猫と虎を差し置いて、オレはそそくさと自転車にまたがる。
しょうみ、現時間的にそろそろ怖いのだ。ザリチェとタルウィなんて現物を見た後だと尚更に。
鼻と喉で虎の教えを奏でる。
ほら、このBGMの時なら安全そうじゃん? ランサーさんは死ぬかもしれないけど。
そのまま、何事も無く店に帰ることが出来た。
おやすみなさい。