【完結】ふぇいとほろーあたらくしあてきな?   作:劇鼠らてこ

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10月8日 (13)

「ありゃ、キャスターさん?」

 

「……あぁ、骨董品店の」

 

 朝の柳洞寺。

 あまりの()()()()()に痺れを切らして、オレから行動してみようと思い至った矢先、真っ先に浮かんだ候補地がここだった。

 即ち、オレが絶対に行かない場所。

 

 オレを視認すると、キャスターさんはそのローブを脱ぐ。

 美女だ。コルキスのお嬢……じゃなかった、王女メディア。

 これでいて中身は乙女……まぁ熾烈な、という冠が付くけれど。

 

「何か失礼な事を考えていないかしら?」

 

「いえ、美人だなーって」

 

「……あなたの好みは、もっと幼い女の子だったと記憶しているけれど?」

 

「別に美人だな、って思う事に歳は関係ないですよ」

 

 ストライクゾーンと美醜の価値は別物、という事だ。

 あと、幼い子が好きなんじゃなくてあどけない子が好き、という方が正しい。

 

「……それで、なにをしにきたの? まさかとは思うけれど……また?」

 

「はは、やだなぁ。流石に二度はしないですよ……というかこの時間、零観さんいないでしょう?」

 

「ええ……でも、宗一郎様から忠告を受けているわ。『野場はただの一度で諦めるような性格ではない』と」

 

「え、何その高評価怖いんだけど」

 

 なんでオレ葛木先生に目ェ付けられてんの?

 参ったな……ブロッサムさんの事と言い、何かオレの知らない事情が動いているような……そんな感じだ。

 

「……ま、いいわ。折角来たのだし、一つ忠告をしておきたいのだけれど……」

 

「はい?」

 

 なんだろう。

 神代の魔術師からの忠告?

 

「――私は、もっと長く続けていたい。だから、彼を解決に導く、なんてことはやめなさい」

 

 そう、低い声で言った。

 フードはないけれど、真剣な――冷徹な表情で。

 

「……飽きないんですか?」

 

「宗一郎様との幸せな生活に、飽きなんて来るもんですか」

 

 そりゃ、確かに。

 幸せなら――飽きないだろう。

 

「……善処します、とだけ」

 

「それでいいわ。……それと」

 

 キャスターさんは、少しだけ頬を染めて此方を見た。

 

「あなた……私の着せ替え人形になってみる気、無い?」

 

「時給おいくらですか」

 

「1000円」

 

「やります」

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ良い稼ぎだった」

 

 いや本当に。

 可愛い服を着るだけで1時間1000円貰えるとかなんて天国?

 野場家の支出には一切の影響がなく、そして自由に使えるお小遣い感覚とはいえ一気に5000円。また行こう。

 さて、学校をサボっての10月9日であるが、とりあえず新都へ行ってみよう……と、思った矢先。

 

 なんか褐色ぴっちりインナーマッチョメンがいる。

 矢先だけにってか。

 

「……君は」

 

 筋骨隆々、白髪吊り目。

 どことなく衛宮士郎の面影を見せる、偉丈夫。

 

「アーチャーさん」

 

「野場飛鳥君……だったかな?」

 

 アーチャーが、そこにいた。

 あぁ、いたなそういえば。

 冬木大橋だもんな。

 

「覚えていてくださったんですね」

 

「あぁ……まさか、同じ場所で出会おう事になろうとはな?」

 

「あぁ、あの時も冬木大橋でしたね」

 

 半年前。

 オレが例の如くチャリで爆走している時の話だ。

 詳細は省くが、霊体化して魔女に付き従っていたにも拘らずわざわざ実体化してオレの帽子を拾ってくれた……正確に言うと未遠川に落ちそうだった帽子をすんでの所でキャッチしてくれた、という話。全然省いてないね。

 

「ここで何を? 確か今日は学園のある日だったと思うのだが……」

 

「サボりです」

 

「……や、まぁ。私にとやかく言うつもりはないがね」

 

 こうやってのんびりと話しているアーチャーさんだが、果たして何度衛宮士郎の眉間を、腹をぶち抜いているのか。

 流石に十何周目となれば飽いてくるのだが、きっかけは無いモノか。

 

「アーチャーさんは?」

 

「私か? 私は見張りだ。あちらのモノが、こちらに入ってこないようにな」

 

「あー、だからこんなに車通り少ないんですね。少ないっていうか無いっていうか」

 

「……いや、それは関係ないのだが……いやあるのか?」

 

 大いにある。

 役者の中に、車を運転できる者が少ない事が原因だ。

 乗れたとしても役の範疇を越える事が出来ずにいた。

 

「――無論、それももう必要ない事、だがな」

 

 そう、アーチャーさんは腹をさすりながら呟いた。

 ……ん?

 

「あの……つかぬ事をお聞きしますが」

 

「なんだね」

 

「衛宮、見かけてません? ちょっと探してて……」

 

 途端、アーチャーさんの顔が厳しい物となる。

 まぁ、今でも嫌いだろうしな。

 

「何故、私が小僧の行方を知っていると思ったんだ?」

 

「とりあえず街に居る知り合い全員に聞いて回ってるだけで、アーチャーさん限定に聞いたわけじゃないスよ」

 

「……成程、私の早とちりか……」

 

「はい?」

 

「いや、なんでもない。それで、あの小僧の話だったな……。あぁ、見た。つい先刻、この橋を()()()新都の方へ行ったようだぞ」

 

「――……」

 

 なるほど。

 なるほど、なるほど。

 

 もうデッドブリッヂは越えていたのか。

 

「一応、もし見かけたらで良いんで……」

 

「あぁ、君が探していたと言っておこう」

 

「ありがとうございます」

 

 衛宮が新都に向かった。

 ならば俺も、新都へ足を運ぶとしよう。

 

「……野場、飛鳥……か」

 

 背後で呟かれたアーチャーさんの言葉は無視して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新都を歩きながら考える。

 脳内討論会。議題は、この8巡の間奴が何をしていたか、について。

 迷っていた……闇雲に欠片を集めていたという可能性は大いにある。というか、大半がそうだと思う。

 何に迷っていたか。

 

「……あぁ、オレの頼み……か」

 

 オレは衛宮に、『次の土曜日』に巨猪の毛皮のブラッシングを頼んだ。ライダーと衛宮は何やらアテがあるようで、快く受け入れてくれたが……。

 

「なるほどね……あの時点じゃまだ、取り戻してなかったって事か……」

 

 エミヤシロウ特有――特異の異能。投影魔術の異端。

 無限に剣を内包した世界を創り出す、魔法一歩手前の大禁呪……だったか。

 あくまでエミヤシロウという殻を被っているに過ぎない彼は、根本の部分でソレを使おう、という気にならない。何故ならあの固有結界はエミヤシロウの起源に付随する物。

 中身の彼とは、文字通り根元が違う。

 

 恐らくなんども投影しようとして、その度に何をしようとしたのか忘れていたのだろう。

 そして彷徨い、新都へ向かい――先程のアーチャーさんに射殺されていた。

 8巡。1巡、4日。8巡で32日。1か月超。

 その間に模索したのだろう、アーチャーさんに勝つ方法を。

 

「些かかかり過ぎに思えるけど……指針が無ければそんなもんか」

 

 さてはて、その間に一体幾人のエミヤシロウが殺されたのやら。

 無論死因はアーチャーさんだけでなく、彼自身やあの女の子にもあるのだろうが……待たされたものだ。

 ってことは、もしかしたら昨日辺りに突破したんじゃないか?

 チカラを取り戻して、令呪を使用して……ようやく衛宮士郎の殻がサマになったというべきか。

 

「……ということは、明日にはちゃんと来るって事じゃん」

 

 全てはまだ推測の域を出ないが。

 こうして新都くんだりまでオレが足を運んで衛宮を探す必要なんて、ないわけである。

 無駄足。骨折り損のくたびれもうけ。クタビレタケ。

 

「……折角だし」

 

 今日は普段しない事をしてみたのだから――最後まで貫いてみよう。

 足は明確な目標に向かって歩き出す。

 

 向う先は――言峰教会。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ? 珍しいですね、お姉さん。ここに何か入用ですか?」

 

「おぉ、金髪の美少年君。いやね、今日は『いつもはしないこと』をしてみようって気分なんだ、オレ。だから普段は絶対に来ないこんな所まで来てみた。金髪君は?」

 

「僕は元からこの辺りを根城にしていますから……しかし、ふむ」

 

 金髪の美少年君はオレの身体を上から下まで、舐めまわすように――観賞するように見る。ショタかわいいショタとはいえ野郎に違いは無い。だが、相手は”かの”英雄王だ。

 よってオレは、この肉体美を見せつける事にした。具体的には胸を張って。

 

「……お姉さんって、たまにバカだって言われません?」

 

「よく!」

 

 たまに、どころではない。

 よく言われます!

 と、そんなバカなやりとりをしているところへ、

 

「ん? お、嬢ちゃんじゃねぇか。どした、こんな所で……って、なんでお前が嬢ちゃんといるんだ?」

 

「あぁ、彼女とはちょっとした知り合いでね……彼女が僕のモノを優しく扱ってくれたから、僕は彼女に代金を支払った、ってだけなんだけどね」

 

「……あー……嬢ちゃん、悪い事は言わねえからよ、ソウイウ事はやめとけ、な? あの店の経営が上手く行ってないのかもしれねぇけど……つか、ヤるなら俺でブフォェ!?」

 

「……確かに話をそういう方向に誘導したのは僕だけど、流石に見境なさ過ぎじゃないかな?」

 

 説明しよう!

 やってきたランサーさんが金髪君から事情を聞いた後、人外の速度でオレに歩み寄って囁きを行った! しかし、その直後ランサーさんの背後で金色の光! ランサーさんは突然吹き飛ばされ、金髪君の手にはピコハン……の、原型みたいなものが!!

 

 すげぇ、ピコハンに原典とかあったんやな!!

 

「あー、ウチの経営は順調も順調だぜ? あとオレ、ショタコンじゃないから。どっちかというとロリコンだから。具体的には三枝が好きだから」

 

 聞こえているか聞こえてないかはわからないが、吹っ飛ばされて○神家状態になったランサーさんに答えておく。野郎を受け入れるとか勘弁!

 しかしその答えに、今度は金髪君が目を光らせた。

 

「三枝……それは、三枝由紀香さんの事かな」

 

「ん? そうだけど……」

 

「うんうん……いいよね、彼女は実に良い」

 

 しみじみと金髪君が頷く。

 知ってはいたが、やはり同好の士。子犬系女子スキー!

 

「あの涙目でこちらを上目遣う健気さは、本当に良いよな」

 

「あの野に咲く花のような雰囲気は、本当に良いよね」

 

 ……。

 

「やめようか。お姉さんと僕は、どうも相容れないみたいだ」

 

「っぽいな。この微妙な齟齬……多分余人から見れば違いすらわからないのだろうが、このまま話し合いになれば戦争に発展しかねん」

 

「戦争ともなれば、僕は手を抜く気はないよ」

 

「オレもだ……が、勝てる気がしないのでやっぱりやめておこう」

 

「賢い選択だね」

 

 いやいや、流石に英雄王さまに喧嘩売る程オレ無謀じゃないから。

 

 っと、もう日が落ちて来たな。

 

「暗くなる前に帰らないと……」

 

「じゃあ、僕が送ってあげようか。そこで伸びているのは使えないだろうし」

 

「頼んでいいか? やっぱり女1人だと不安だからな……」

 

 喧嘩は売らないが、頼み事は出来る。

 っていうか本当に良い子。良い子過ぎてお姉さん怖い。

 

「それじゃ、行こうか。お姉さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大分日が落ちてきたな……」

 

「はい、どうぞ」

 

 ふぁさ、と。

 凄まじく温い布が、オレの肩にかけられた。

 な、なんだコレ……温かすぎる……それでいて暑くない!

 

「10月は寒いだろうからね。毛布の原典……あぁ、いや、高級毛布だよ」

 

 毛布の原典ってそれ毛皮ちゃうんすか。

 というツッコミはいれない。温い。

 

「……なぁ、金髪君」

 

「何、お姉さん」

 

「オレは野場飛鳥っていうんだけど……金髪美少年君の名前、聞いても良いか?」

 

「――……」

 

 一瞬、沈黙の帳が落ちる。

 不敬。雑種。

 高らかに謳い上げる誰かの声が耳朶を打つ。

 いや、幻聴だ。

 

「残念だけど、お姉さんには教えられないかな。でも、お姉さん気付いているよね。僕の正体……どころか、この四日間の全てまで」

 

「ああ……気付いているというか、知ってたな」

 

 嘘はつかない。

 オレのポーカーフェイスも、目の前の金髪君や花の魔術師には効かないのだから。

 

「それは、君が彼にあげたあのボロボロの傘と関係があるのかな?」

 

「知ってるくせに……。あれはまぁ、せめてもの抵抗だよな。オレがどれだけ頑張っても、中心はアイツだ。アイツの近くへ行ける人間は限られているから……せめて、モノだけでも届かせようって」

 

「お姉さんには近くへ行く選択肢もあったんじゃないかな」

 

「あったよ。何度もあった。切っ掛けになり得るモノなんて、それこそ星の数ほどあったんだ。けど、全部蹴ってきた。それはここでも変わらんさ」

 

「……ふふ」

 

 金髪君は笑う。

 その紅玉のような瞳を揺らし、オレに笑いかける。

 

「やっぱりいいね、お姉さん」

 

「……ありがとう、ございます?」

 

 会話が途切れる。 

 野場骨董品店に辿り着いたのは結構遅い時間になってしまっていたが、金髪君のおかげか元から聞こえない息遣いも、元から見えない影も、オレの店の周りには無かった。

 だがまぁ、流石に”かの”存在と長い時間おしゃべりというのは、やはり緊張する。

 帰って布団に着いたオレは、泥のように眠りに就いたのだった。

 


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