試合は終了した。整列が住み,応援席にも挨拶をした。その後、俺の元へ友沢がやってきた。
「負けたよ友沢。完敗だ。」
―初対面にもかかわらず馴れ馴れしい口調で竹下は友沢に話しかける。竹下はどんな人にも優しく、話しやすい。その性格のお陰だろう。キャプテンに推薦されるほど人望はあった。
「...この勝負、こちらが負けてもおかしくなかった。良い勝負をありがとう。」
「なあ、友沢。」
言うべきだろうか。俺は最後の打席で気付いてしまった。
―友沢の肩が、上がっていないことに―
「何だ?」
「お前、肩を壊したんだろう。」
「っ!?」
図星だ。やはり友沢は肩を壊していたんだ。打撃の際に右肩が下がっていたのはやはり肩が壊れていたからだろう。
「―さすがあかつきのキャプテン兼エ―ス、だな。その通りだ。味方ですらも気づかせなかったのに敵のお前が気づくとはな。」
竹下は人一倍異変に気づくのは早かった。それを生かして敵の変化球を読み打ちするのも可能だった。
「じゃあお前...ピッチャ―は...」
「ああ、無理だろうな。」
こんな打撃センスを持っているやつを捨てるのは...ん?打撃?
「友沢!お前守備は出来るのか?」
「ああ、まあな。だが俺はもう...」
「守備が出来るなら俺と共に甲子園を目指そうぜ」
「何?」
「俺が投手でお前は内野手だ。どうだ。これで問題ないだろう。」
「まぁ考えて置く。今日はありがとう竹下。」
竹「ああ、こちらこそ。」
二人はゆっくりと互いのベンチへ向かう、これが中学最後の大会と言うことも忘れているかのような様子だった。
「みんなすまん!」
ベンチへ戻ったあと、竹下はいきなり謝った。
「...仕方ないでやんすよ。相手の方が一枚上手だったんでやんす。」
「竹下君だけのせいじゃない。むしろ竹下君が踏ん張ってくれたのに僕達のせいで...ごめん!」
皆が謝る様子を見ていた監督の神田孝弘が重い口を開いた。
「今回の責任は全て私にある。それだけは絶対だ。だから君達が謝る必要はない。無論、皆責任を感じているだろう。しかしまだ中学生だ。君達が高校で活躍するためのバネだと思いたまえ。」
相変わらずこの監督は良い事を言う。神田監督は部員にかなり好かれていた監督である。困っていたらほっとけない性格はお節介かもしれないがそれでも野球部員にはありがたい存在であったことには間違いないであろう。
「皆今日は疲れただろう。今までお疲れ様であった。今日はこれで解散にしよう。解散!」
監督の合図で部員達は帰宅し始める。あかつきは付属の為、受験勉強をする必要がない。その為、引退後は春まで部活に参加する生徒がほとんどだ。
皆が解散している中、一人の生徒が監督の方へと向かう。それは竹下だった。
「どうした?竹下。」
「監督、自分は皆とは違う高校に進学します。」
キョトンとされる。まあ無理もない。竹下は成績は良いほうだからまさか退学などとは思われていないからだ。
「なぜだ?」
「自分は今日戦った友沢と共に戦いたいそして新たなる事に挑戦したいんです。」
「...決心は固いんだろうな?」
「勿論です。」
即答だった。
実際、友沢は来てくれるとは限らない。万が一の場合は、まあまあ野球が強い学校へ進学するのだろう。
「分かった。お前を手放すのは勿体無いが生徒の希望なら仕方がない。でも野球は必ず続けろよ。」
「はい!ありがとうございました!」
そうして竹下も、グラウンドを後にした。
次の日
竹下は友沢がいるパワフル中学校へと来ていた。勿論友沢と進学の件を決めるために。
「よう友沢。」
「竹下か。進学の事かい?」
「ああ。何処にしようか。」
「覇道高校はどうだろう。最近あんまり野球の成績が良くないらしいからな。」
なるほど、と竹下は思う。
「つまり、二人で優勝させようと言うわけか。」
「そうだ。」
「分かった。友沢、連絡先教えてくれないか?」
「分かった」スッ
「おう、サンキュー」
「じゃあまたな。」
「ああ。」
他愛も無い話をして俺は家に戻った。
こうして俺の物語は始まった。