コミュ2
5月下旬。
「有里くん、頼みがあるんだけどいいかな?」
「頼み?」
朝、教室の自席でボケーっとしていると隣の席の天城から急に声をかけられた。
「放課後、時間ある?」
僕は少し考える。特に予定はなかったはずだ。問題はない。頷くと天城は少し嬉しそうに「放課後、河川敷で」とだけ言った。
◇◇◇
「問題はない」とか言ったけどさあ。かなりあった、問題。
「天城サン……これはなに?」
「何って、お弁当だよ?」
「いやこれ弁当って言うよりムド……」
「お弁当だよ?」
「ムドオン……」
「お弁当だよ?」
天城さんはこれをお弁当だと言い切るつもりのようだ。だけどこれは明らかにお弁当とは思えないのだが……!
「味見、してくれないかな?」
「鳴上は!? 食べたの?」
鳴上だって天城とのコミュニティがあるはずだ。無下には断れないだろう。
「鳴上くんは食べたよ。……その、その時にはあまり上手には出来なかったけど、あれから練習したの」
もう僕に逃げる道はなくなってしまった。鳴上が食べていないのなら逃げれたかもしれないが、既に食事済みならばダメだ。
「わかった」
僕は弁当を受けとる。中身がグチャグチャなうえに何故か紫色になっていた。中身が「紫キャベツ」とか「紫芋」とかなら「へー」的な感じがいけるのだが、これは……。
「やっぱこれムド……」
「お弁当だよ?」
流石にこれ以上のやり取りは無駄だ。
「いただきます」
僕は一気に中身を口の中にかきこむ。
「……」
天城が心配そうな目で見てきている。
「……珍しい味だね」
僕はこれ以上言えなかった。風花という前例を知っていて、しっかり心の準備して挑んだのが命拾いした感じ。
「有里くん。私ね料理ちゃんと出来るよう練習しているの。また味見……してくれないかな?」
僕は頷く。天城の手作り弁当を食べている、と思っていればきっと全ての男子は耐えられるのだろうか。鳴上は一体どんなリアクションをとったのかも気になるところだ。
ーーランクアップ。「女教皇:天城雪子コミュ2」
◇◇◇
旅館のお使いを頼まれていた天城と一緒にジュネスへとよった。僕もついでに今日の夜ごはんを買おうと思ったのだが……。
「食欲ないから今日はいいや」
「何があった?」
ちょうどバイト中の花村を連れて食品コーナーにいる。天城とはここで別れた。
「珍しいな。普段食欲旺盛なおまえが今日に限ってないなんて」
「不思議なものを食べたからだ」
ムドオン弁当、恐るべし。
それでも何か食べろとうるさい花村に言われて僕は仕方なくおにぎりを二個買って帰った。
「……アレシャドウに食わせたら倒せるんじゃない?」
その後鳴上に訊いたら「不思議な味」とほぼ僕と同じことを言ったらしい。それくらい、本当に不思議だったのだ。