シャドウ千枝戦後の夜。
「ねぇ」
『ん? なにかな?』
横にはファルロスがいる。時間は11時30分。クタクタだしもう眠いし。
「もっと普通の日に来てほしいんだけど」
『いやいや、こういう時に来るのが僕の習慣になっちゃったからね。それとも、僕と話すのは嫌かい?』
「別に嫌ではないけど」
『じゃあいいじゃない』
ファルロスはまた僕のベッドに座る。そこがいつもの位置になったらしい。
『里中千枝、だっけ? 彼女、元気な所が似てるよね』
「ゆかりに……似てる。ファルロス。もしかして、これからもシャドウ戦後にこういう話をしに来るつもり?」
ファルロスは少し不気味な笑みを浮かべた。肯定のようだ。
『僕はいつも君といる。君が体験したことは僕も体験したと同じさ』
「それで、里中とゆかりが似てるって話だよね」
ファルロスは今度は普通に無邪気に笑った。
『うん。元気過ぎるところとか』
「ゆかりはまだ落ち着いている方だと思うけど」
ゆかりと花村のペルソナの属性が同じ話とか、戦闘スタイルの話とかをたくさんした。
「花村はスピードタイプだけどゆかりはガッツリの回復タイプだよね。武器も弓矢だし」
『そうだね。里中さんはどんな武器かな』
「足で蹴るとか? 大体花村を攻撃するときも蹴ってたし」
『確かに、ありえるね』
意外と話しは盛り上がった。
『ねぇ湊』
急にファルロスが真剣な表情になった。
『この世界の人たちを名前で呼ばないのは……何で?』
「別にそこまで仲よくないし」
『順平はすぐに呼んでたじゃないか』
「それは順平がとても馴れ馴れしいから」
僕は話を変えたかったけどファルロスはそれを許さなかった。まるで、「まだ君は彼らと仲間でいられていないと思っているのでは?」と遠回しに訊いているかのよう。
『……僕の言いたいことがわかったみたいだね』
僕の視線に気付いたファルロスはそう言った。僕が思っていたことは当たっていたらしい。
『それで、どうなの? 鳴上悠、花村陽介、里中千枝。後はクマか。彼らのこと、仲間だとちゃんと思っているの? まだ、特別課外活動部の居心地が忘れられない? “鳴上悠が自分と同じ運命を辿るのではないか”……みたいな』
……ファルロスが言ってることは、たぶん大方合ってると思う。もちろん、鳴上たちといるのは“楽しい”。順平たちとは違った“楽しい”が味わえる。
それでも家に帰るとふと思う。「早く元の世界に戻りたい」と。それで焦ってしまう。どうしようもなく感じてしまう。
『だったらこの世界の彼らとも仲よくなればいい』
僕の考えが読めるのかとつっこんでしまいそうだけど、僕は別のことを訊いた。
「順平みたいに他の人もここに来てるの?」
『詳しくは教えられない。て言うか誰なのか詳しく知らないけど、何人かは来てる。でもすぐ出ていく人もいるみたいだ。運よく会えたらいいね』
「……会ってもペルソナの話とかは無理そうだけどね」
ファルロスは笑った。
『今日はここまでだ。次は……』
「天城救出の夜。とか?」
『そう。じゃあ、またね。おやすみ、湊』
彼は消えていった。
「おやすみ。ファルロス」
今は焦っても仕方ない。楽しもう。そうとりあえず思いつつ今日はここで寝ることにした。
ーーランクアップ。「死神:ファルロスコミュ3」