バイトクビにされたので異世界で勇者のバイトしてくる。 作:ainex
俺はどうしてもあの瞬間を忘れる事が出来ずにいた。口元から見える二本の牙、そして血色の悪い顔色、そしてまるで吸い込まれる様に綺麗な赤色の瞳。あの目に見つめられていると何だか段々と自分が自分じゃ無くなっていくような気がするのだ。
「……まだ昨日のこと引きずってる?」
そう蘭が俺に心配そうに問いかける。
「あぁ、でももう大丈夫だ。心配しなくていいよ」
「……そう、なら良かった」
蘭が俺に微笑む、何故か蘭が笑うと最近ドキッとしてしまうのは何故だろうか?
「……さっきから心の声うるさい」
そう、蘭は読心術のスキルを持っていて人の心を読み取ることが出来…………っておい!?
「お前! また俺の心の声を勝手によんだな! 折角シリアスな気分になってたのに台無しじゃねーか!」
「……平川君にシリアスは似合わない」
おう……さらりと傷つくこと言ってくれるじゃねーか。確かに似合わんけど! 似合わないけど!
「……ちなみに今日の依頼は魔物討伐だからようやく勇者っぽいこと出来るよ」
「え! まじで? ってさっさと読心術オフにせんか!」
この子まじで何考えてるか分かんないんだけど!? でも笑顔は相変わらず可愛い。
「……それはきっと、恋」
「いいから読心術オフにしろ」
はい、俺にシリアスな展開は向いてないようです。勉強になりました。ってな理由で今日のバイト、開始ー
×××××××××
現在俺は魔物討伐のためになんか全体的に白い建物(以後ホワイトハウス)がある町からほど近い森の中にいる。
「んで、今日はテートさんも一緒なんすか?」
「そりゃねぇ? 昨日の事もあるから心配でさ?」
今回の任務は俺と蘭の他にテートさんも同行するようだ、いやー任務中もテートさんの猫耳を見れるとは、このバイト最高!
「あ、猫耳っていえば最近テートさんにゃんとか言わなく無いすか?」
どうしたんだろ? 俺結構気に入ってたのに。
「あーあれね、飽きた」
「そんな理由で!?」
「……平川君、さっきからその女と話すぎ」
「別にいいだろ、お前には関係ない」
俺は素っ気なく蘭にそう言うと二人は何か言いたげな顔で俺を見つめる。
「……むー」
「ゆー君……」
その後何故か俺は女子二人からめっちゃ睨まれました。
「はい、これで五頭目だね」
バタりと倒れていく毛むくじゃらの獣、見た目からしてオーク見たいなものだと推定。尚、俺は戦闘をテートさんと蘭に丸投げしております。やる気ない? いいえ、適材適所ってやつです、言い訳ですね、はい。
「お疲れ様ー、俺の出番無いっすね」
オークを狩り終わった二人を労う為に俺は二人に近づく。
「いやいや、ゆー君がやる気ないだけだよね?」
「何を言いますか、俺は効率的な判断をしただけですとも」
決してやる気がないわけではない!
「……大丈夫、平川君は私が養うから」
「よっしゃ! 働くか! 次の獲物はどいつだ!」
女の子に養われるほどまだ俺は腐っていない!
そんな茶番の後、全く魔物と遭遇せずに森の中を散策しているといきなりテートさんが足を止める。
「何か大きな魔力を感じる、ちょっと二人共、そこで待ってて!」
そう言い残すとテートさんは俺達を置いてどこかへ走り去ってしまった。
「どうしたんだろテートさん、すげぇ焦ってたみたいだけど……」
「……恐らく平川君には感じないと思うけど、この周辺昨日の吸血鬼と同じ匂いがする」
「吸血鬼って、この辺りにいるってことか!? だったらテートさんが危ないじゃないか!」
俺はテートさんを追うために一人で走り出した。そのために蘭が直後に発した言葉を俺は聞き逃してしまった。
「……多分、彼女も……」
×××××××××
それから俺は森の中を走り回った。しかし闇雲に走り回っても見つかるはずもなく結局俺はこの広い森の中で迷子になってしまった。
「これ、やばくね、勢いで飛び出して蘭置いて来ちゃったし、テートさんも見つからんし」
「……私ならここにいる」
「おうわ!? いつからそこに!」
変な叫び声をと共に後ろを振り返るとそこには俺を探し回ってせいか少々呼吸が荒い蘭の姿があった。
「と言うか、お前ってたまにいきなり出て来るよな? その変どうなの?」
蘭は結構いきなり出てくることが多い、例のミノタウロス件がそうだ。俺がミノタウロスの拳に押し潰される直前何処からとも無く蘭が現れたりした事がある。その他に、スライム虐殺事件とか、エトセラ……
コイツ影薄い訳じゃないしな、てか割と存在感ある方だと思うんだが……
「……平川君は私のスキル知ってるでしょ?」
「勿論、あの犯罪臭ぷんぷんする読心術ってスキル……」
「……その他にもう一つある」
「ってあれか、あの胡散臭いドリンク飲んでゲットしたスキル」
記憶に新しいスキルドリンク、あれで手に入った俺のスキルまじで使えないんだよな……
「……そう、暗殺者の心得、このスキルは身体能力の強化と対象の追跡、そして……気配を消す」
「おいおい、何気そのスキル万能じゃねーか、俺のスキルと交換してくれよ」
「……拒否する、それに平川君の騎士の精神(裏)の方が私のスキルより万能だよ?」
何を言うか、俺がこのスキル当ててから一度も使用した事ないんだぞ?
「嘘つけ、いまだに俺このスキル使ったことないし、詳細も不明だぞ?」
自分のスキルなのに詳細が不明ってくそスキルにも程があると思います、誰このスキル作った人、怒らないから出てきなさい、って何かデジャブ。
そんな俺の言葉を蘭は華麗に無視する。
「……それよりもまずはあの女を探さないと」
「あ、そうだった、それじゃあお前のスキルで追跡頼むぞ?」
蘭の追跡スキルがあればテートさんの場所もすぐ割れるだろう。あぁ、もっと早く蘭に相談すれば良かった。
しかし蘭は都合が悪そうに視線を逸らす。
「……それは無理、あの女私の追跡を跳ね返したから」
「そ、それじゃあどうやって……」
「……心配要らない、これ、見て」
そう言うと蘭は地面を指さす、そこには血の後がありまだ新しい、そしてその血の後はどこかへ続いていた。
「……この血から感じる魔力、多分あの女のもの、これを辿っていけば見つかるはず」
「この血って、テートさん怪我してるってことじゃねーか! 尚更早く見つけないと!」
最悪の場合も考えられる。一刻も早くテートさんを見つけ出さなければ。
「……平川君は心配性、あの女、この程度じゃ死なないから」
「お、おい、それってどう言う……」
意味だ? と言い切る前に蘭は血のあとを辿り始める、俺は若干モヤモヤしながら蘭の後を追うことにした。
そして血の後を辿っていくとその先には洞窟があった。そして血の後は洞窟の奥まで続いているようだった。
「……多分この奥にあの女がいる」
「何で洞窟何かに……」
この洞窟の中にテートさんを焦らせる程の理由があるのか? とてもそうだとは思えないが……
「……どうする? 中に入るかは平川君に任せるけど」
蘭がそんな事を聞いてくる。何を言うか、
「入るに決まってる! テートさんを助けなきゃな!」
俺は洞窟の雰囲気に若干身震いしながらも洞窟の入口の前に立つ。
「……多分入っても助けるどころか、足でまといだと思うけど……」
「余計なお世話じゃい!」
そんなの俺が一番理解してるっての!
洞窟の中に入ると外の気温からは想像出来ないほどひんやりとしていて昨日の嫌な空気とは別の重苦しい雰囲気が俺と蘭に襲いかかって来た。尚、洞窟の中は当然暗闇で、洞窟の中は蘭の魔法で生み出した光のみが光源となっている。
「と言うか洞窟って言ったら魔物って感じだけど今の所一体も遭遇してないぞ?」
普通に魔物との戦闘を仮定して気合いを入れてきたのにな。どうかしたのだろうか?
「……その洞窟=魔物って想像よりダンジョン=魔物の方が正しいと思う。まずここ、普通の魔物は入れないと思う」
「え、それってどう言うこと?」
「……入口に変な結界が貼られていた。多分入れるのは私達勇者と……吸血鬼だけ」
蘭がそう言い終わると目の前には倒れこんでいるテートさんがいた。
「テートさん! どうし、たん……え?」
俺がテートさんの元に駆け寄るとさっきまで蘭の魔法の頼りない光でぼんやりとしか見えなかったテートさんの姿に変化がある事に気がつく。テートさんの容姿は先程とは別のものに変わっていて、口元からは二本の牙が生え、顔色が少し悪い、そして初めてあった時に見た吸い込まれるよな赤色の瞳、その姿は……正真正銘吸血鬼の姿だった。
別に異世界系だからと言ってガチガチにバトル必要は無いと判断しました。まぁ、ギャグなので……
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