龍が如く 夢想~伝説の血統~   作:ユウジン

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猛虎と槍

趙雲の突然の申し出に虎近はポカンとしつつも言葉を口にした。

 

「……なんでワイがお前と戦わなあかんねん」

「これは異なことを申される。武人たるもの強き者を見れば戦わずに居れませぬ。違いますかな?」

 

そう言われ虎近は顎に手を添える。彼女の気持ちは分からなくもない。強いやつと戦いたい……そういう衝動は自分もある。だが……

 

「遠慮しとくわ……」

「何故?」

 

趙雲は構えた槍を解くことなく虎近に問う。その問いにたいして虎近は、

 

「ワイは女を殴るのは好かん」

 

そう口にした。喧嘩は嫌いじゃない。だが女を殴ると言うのには抵抗感がある。男尊女卑をするつもりはないが男が女を殴ると言うのはいいことだとは思えない。だがそんな中趙雲は驚いたような表情をした。それからククク……と声を低くして笑う。

 

「なんや?」

「いやはや女子(おなご)を殴るのは好きではない……ですか。今時珍しいですなぁ」

「どういう意味やねん」

「知りたいですかな?ならば……」

 

言わせてみればよろしい……そういった趙雲は突然槍を突き出した!

 

「ぬぅ!」

 

それを虎近は咄嗟に体を捻って躱しながら槍の柄を掴む。

 

「どうですかな?なにもしなければ一方的にやられるだけですぞ?」

「……ったく」

 

ブン!っと虎近は槍を振り払うと趙雲はヒラリと後ろに跳んだ。

 

「大怪我しても知らへんぞ……」

「そちらこそ……」

 

直感的に言葉で言って聞くやつじゃない……そう判断し、言葉を交わしながら虎近は拳を……趙雲は槍を構える。

 

「ウォオオオオオオ!」

 

先に攻撃に転じたのは虎近だ。趙雲との距離を詰めるため走るその様は、速さは無いものの体当たりでもされたらそれだけで大ダメージを受けかねない。

 

だがそれを見ても趙雲は臆することなく槍の突きで迎え撃つ。

 

「ちぃ!」

 

流石に槍に突かれてはたまらないので虎近は横にスウェイで躱しつつ拳を振るう。だが、

 

「遅いですな」

 

ヒラリ……と虎近の拳に乗った趙雲は後に跳んで着地した。それを虎近は間合いを詰めて追う。

 

(やはり見た目通りの腕力中心か……)

 

虎近の一撃は非常に高い威力を持っている。だがその反面遅いのだ。反応速度は中々のものだがいくら威力があってもここまで遅ければそうそう当たることはないだろう。

 

だが逆に言えば拳だからと油断しあの腕力による一撃を受ければ危険だと言うことも趙雲は理解していた。

 

故に回避に重点を置く。それを見て虎近は静かに舌打ちしつつ、

 

「ふん!」

 

渾身のストレート……だがそれを趙雲はクルリと駒のように回って避け、更にその回転を利用して槍の刃がついてる方の反対側……正式には石突きと呼ばれる部分で虎近の腹部を突いた!

 

刃がないと侮るなかれ、石突きでの突きは殺傷力と言う点では劣るが相手の動きを一瞬でも止めるのには役に立つ。

 

石突きで止めた後、そこから刃の方を向け直し相手を仕留める……槍の戦い方では良く見られる方法であり、非常に効果的である。

 

普通の人間なら……だが、

 

「ぬん!」

「なにっ!」

 

石突きによる打突は虎近の動きを止めた……そう思ってしまった趙雲の腕を素早く掴んだ虎近はそのまま力任せにぶん回し地面に向かって降り下ろす。

 

「ウォオリャアアアア!」

「っ!」

 

趙雲の体を襲う浮遊感……一瞬の間に天地は入れ変わり頭上に地面が現れる。

 

「くっ!」

 

咄嗟に趙雲は槍を手放し受け身をとろうと手を伸ばした。そして、

 

「っ!」

 

ドンっと地面に叩きつけられ、ゴクン!っと肩から嫌な音がなる……受け身をし損ねた訳じゃない。寧ろ受け身をしたから肩が外れる程度で済んだ……そう思うしかない。

 

「あ!すまん!」

 

ゴロゴロと転がった趙雲に虎近は近寄ると彼女は肩が無事な方の腕を上に振って降参と意思表示をした。

 

「いやはや参りましたよ……」

 

そう言って趙雲は肩を強引に嵌めた。この程度は既に慣れている。今更肩が外れた程度では騒がない。

 

「つつ……突然失礼した。これはもう病気のようなものでござってな。強いものを見ると戦わずにはおられぬのです」

「別にエエわ……まさかここまでとは思わへんかった。流石趙雲の名を語るだけはある」

「ふふ……語るとは失礼な。この名は母と父から頂戴した名でありますぞ?冴島殿」

 

そう言われ冴島は眉を寄せた。先程もそうだが嘘を言っている様子はない。じゃあ本当にここは三国志の時代で、しかも武将が(少なくとも趙雲は)女の世界なのか?

 

「いやぁ……どこのアニメやねん」

「あにめ?」

 

イヤなんでもないと虎近は首を横に振る。すると、遠くの方から何やら砂塵が見えてきた。

 

「砂塵?」

「おっと。恐らく官軍のものでしょうな」

 

そう言って趙雲は槍を手に立ち上がると他の二人の元へ行く。

 

「待てや。さっきの言葉の意味はどういう意味やねん?」

「そうですな……ですが我らは官軍の世話になる訳にはいきませぬのでな。申し訳ありませんがここで失礼させて頂く。なに、官軍の者に聞けば良い。彼等でも分かりましょう」

 

そう言って趙雲は他の二人と共に止める間もなく走り去ってしまう。

 

「……」

 

あまりに素早い行動にポリ……っと頭を掻く虎近。そうしてる間に官軍と思われる一軍は目の前に来ている。

 

「ま……今度は真名っちゅう奴を呼ばんように気を付けるか……」

 

そう呟き待つ。そして、

 

「止まれ!」

 

馬の足音が轟く中でも響く声……女の声なのはすぐに分かる。と言うことはこの一団を率いてるのは女か?確かに見てみれば先頭に確かに位の高そうな女が三人居た。そして三人の真ん中にいた金髪の少女?と眼が合う。

 

「ふむ、情報とは容姿が随分食い違うけど……」

「ですが華琳様!こやつはどこからどう見ても極悪人でございます!」

「おい……」

 

金髪の少女の呟きに赤い服を着た黒髪の少女の言葉に虎近は眉を寄せた。初対面な相手に随分な扱いである。

 

「落ち着け姉者。他者を見た目で判断するのは失礼だぞ。確かに悪そうな顔をしてるが……」

「青い嬢ちゃん。最後の呟き聞こえとるからな」

 

なんなんやこいつら……と虎近は不満げな表情を浮かべた。確かに全うとは呼べる仕事はしていないし、見た目だって優しげだとは言わない。だがここまでボロクソ言われる謂れはない。

 

すると、真ん中の金髪の少女が再度口を開く。

 

「二人とも。止めなさい」

『っ!』

 

スゥっと眼が細まり、一言そういっただけで二人の少女の背筋が延びる。

 

「私たちはこの辺りに出没した盗賊を探してるの。知らないかしら?」

「黄色の頭巾を頭に巻いた三人組なら見たがそれ以外は知らんな」

問いに虎近が答えるとそれなら情報と一致するわね……と少女は顎に手をやった。

 

「そうね……ならちょっと話を聞きたいから着いてきて貰えるかしら?」

「拒否権ないやろ?」

 

虎近がそういうと少女はニヤリ……と笑う。

「あるわよ?但しその場合力付くで捕まえるけどね」

 

それはあるとは言わへんやろ……そう虎近は心の中で呟いたが、この軍勢相手に反抗しても意味はないと悟り、大人しく着いていったのだった……


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