龍が如く 夢想~伝説の血統~   作:ユウジン

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第一章 第一部 虎が如く
猛虎


「んむ……」

 

目を閉じていても感じる強い日差しに男は眉を寄せていた。今日は日曜日だ、ゆっくり休みたい……そう心の中で叫ぶ。だがそれでも目を瞑っていても眩しいこの日差しをどうにかしないと寝ていられない……そのためゆっくりと瞳を開け体を起こす。カーテンを閉めるために……だが、

 

「なんや……これ……」

 

男はそう洩らし、ぼんやりとした頭で周りを見渡した。

 

昨晩自分は仕事を終え、久々に友人に呼び出され吐きそうになるほど焼き肉をビールや白飯で食べ、倒れるように自宅のベットで寝たはず……なのにだ。

 

「あかん……昨日は飲みすぎたわ……」

 

ズキズキ痛む頭を抑え、男はため息をつきながら立ち上がり()()()()()()()()()()を見る。

 

「なんや夢でも見とるんかいな……」

 

ボリボリと頭を掻きつつ天を見上げた。腹が立つほど青く、広い空……そんな時、

 

「なんだぁ?お前……」

「ん?」

 

突然声をかけられ視線を下ろすと、そこには髭面のノッポ、ゴブリンみたいな鼻のチビ、そしてデップリとした腹のデブ……の三人組がこっちを品定めするように見ていた。

 

しかしこの三人の服装……初めて見る上に揃って黄色の頭巾を頭に巻いている……何かのファッションか?とそう言うのに全く詳しくない彼は首をかしげた。

 

「ふむ……面白い柄の服だな」

「別に珍しくもないやろ」

 

寧ろ面白いのはそっちだと言わんばかりに彼は言う。まぁ、取り合えずそんなのはいい。

 

「悪いんやけどここどこなんや?東京……にこんな場所なかったはずやし……それともやっぱり夢でも見とるんかな……」

「なにぶつぶついってんだこのデカブツ……」

 

と、ノッポの男が言うと他の二人もうなずく。だが、

 

「まぁいいさ、おいデカブツ。その服脱ぎな」

「なんやと?」

 

チャキ……っと鼻先に突きつけられた銀色の何か……チクリと先が当たり目を細める。

 

初めて見るが、それがなんなのか彼にはすぐにわかった。

 

「剣……か」

「おら、さっさと脱ぎな。血で汚すと価値がさがんだよ」

 

そう凄まれるが彼はため息をつきたくなった。確かに鋭い眼光に加え2m近い体躯に、後ろで束ねられるほどの長髪、しかも筋肉質で声も低く()()威圧感があるため人を恐がらせ、故にこうして絡まれるのは初めてではない。だが夢の中でくらい平和に過ごしたい……と思うのは我が儘か?いやそもそもこれ夢なのだろうか?

 

まぁいい……それよりも、

 

「おい……」

「な、なんだよ……」

 

別ににらんだ訳じゃないのだが角度でそう見えたらしい……だが気にせず彼は続けた。

 

「これは人を傷つけるもんや……分かるな?」

「そ、それがどうした!」

 

彼に目を見られながらも虚勢を張り通せたのは大したものだ。いや、この場合はビビった方が良かったかもしれない……

 

「そう言うもんを誰かに向けるんや……」

 

返り討ちの覚悟……できてるんやろ?

 

「へ?」

 

一瞬ノッポの男は言葉を理解できなかった……そしてその一瞬が男の運命を分けた!

 

「オッシャア!」

「ギャ!」

 

一瞬動きが止まった瞬間ノッポの顔面に男の拳がめり込む……

 

「兄貴!」

 

されると想像すらしていなかった反撃をモロに喰らったノッポは後ろにひっくり返ったのを見たチビが驚愕と同時に腰の小刀を抜こうとする……が、

 

「甘いわ!」

「ゴッ!」

 

メキィ……っとチビの胴体に男の足の裏が叩きつけられる。

 

ただのヤクザキックと言う奴なのだが男の丸太のような太い足のヤクザキックはそれだけで威力を持った武器で、チビを吹っ飛ばすのには十分だった。

 

「な、なにすむぐ!」

 

それを見たデブが男に掴み掛かろうとするがその前にデブの首を掴み持ち上げる……

 

デブが足をバタつかせ抵抗するが男に効果はない。

 

デブは自分の身に起きてることが理解できなかった……自分はずっと周りからもデブだといわれ続けてきた……自分でも理解している。だからこそ目の前の男が自分を片手で持ち上げていることに驚きが隠せない。そして、

 

「喰らえや!」

「ゲホォ!」

 

ドゴン!っと派手な音をたてデブが地面に叩きつけられる息を漏らすとデブもピクピクと白目を向いて気絶した。

 

「ふん……」

 

パンパンと手についた土を払い男はひと息……まさに手慣れたものといった感じである。

 

「ふむ、手助けはいらなかったか……」

「誰や?」

 

すると突然後ろから声をかけられ、男は振り替える。そこには真っ白なこれまた丈の短い着物?に身を包んだ女性……いや、少女といった方がいいだろう。

 

「いや失礼。賊に襲われてるようなのでお助けしようとしたが、どちらが賊なのか判断に少々時間を要した上にあっという間に片付けられてしまいましてな……」

「ほんま失礼なやっちゃ……」

 

と、不満げな表情を男が浮かべると少女はカラカラと笑った。その捉え処のない笑みは怒るのも馬鹿らしくなる……そんな不思議な笑みだった。そこに、

 

「星!急に走り出すので驚きましたよ!」

 

走ってきたのは眼鏡をかけた目の前の少女と同じ年くらいの少女……更にその隣には恐らく年下……の金髪のウェーブがかかった髪型の上に変な人形をのせた少女がいた……

 

「全くも~。風達のことも考えてほしいのです」

「すまん」

 

星と呼ばれた少女は素直に頭を下げる。成程、この三人は仲間らしい。すると眼鏡をかけた少女が周りを見渡す。

 

「それで賊はどこに?」

「む?ここに転がって……」

 

と、星と呼ばれた少女と男が地面を見る……そこには三人がいない。どこ行った?と四人が首を振って探す……

 

「デカブツ!覚えてやがれ!」

 

と、遠くで叫ぶノッポ……チビとデブを担いでいる辺り中々体力はあるらしい。

 

「む!待て!」

「待つのはお前や」

 

ヒラヒラと舞う犬の尻尾見たく伸ばした一房の髪を男はつかんで止める。

 

「グェ!」

 

と、潰れた星と呼ばれた少女は蛙のような声を漏らし、キッと男をにらむ。

 

「お主……うら若き乙女の髪を無造作に掴むとは何事だ!」

「すまん……丁度掴みやすそうにヒラヒラしとったから……」

 

そういう問題か!と怒られてしまい男は頭を下げ続けるしかない。するとそれを風と呼ばれていた少女がまぁまぁと宥める。

 

「まぁ星ちゃん。そう怒らずに」

「だが風!」

 

未だ納得がいかぬらしい星に男はどうしたものかと頭をかき、頭を下げた。

 

「まぁあれや……星って言ったか?悪かった。この通りや」

『っ!』

 

急にその場が静まり返り、ん?なんや?と男は下げた頭を上げた……次の瞬間!

 

「っ!」

 

また鼻先にチクリと刺さる物……それがなんなのか見てすぐにわかった。

 

何処から出したのかがすごく気になる代物……一本の槍である。

 

「貴様……髪を引っ張るだけに飽きたらず真名まで呼ぶとは、少々お遊びが過ぎるのではないか?」

「なに?」

 

真名?とはなんだ?と男は首をかしげたが彼女を怒らせるのには十分だったらしい。慌ててもう一度謝罪した。

 

「す、すまん。ほんまに謝るから勘弁してくれや!」

 

そう言って謝る男……それを見て星と呼ばれた少女は槍をひいた。

 

「見た目に反してどこの貴族のおぼっちゃまなのか知らぬが突然真名を呼ぶのは感心しませんぞ」

「そもそも真名ってなんやねん……」

『……は?』

 

やれやれと槍を引いてくれた少女の言葉に男はそう返すと目の前の少女三人はポカンと男を見た。

 

「真名を知らないのですか?」

「知らん」

 

眼鏡の少女に聞かれ、男は頷きを返す。それを見た金髪の少女は口を開いた。

 

「真名とはその人物を示す真の名……その相手の誇りでありそのものなんですよ。だから喩え家族であっても許可なく口にすれば殺されても文句言えないのです」

「……」

 

サァーっと男は血の気が引いていくのを感じた。成程……真名と言うものがどういう物なのかはわかった。確かにそれだけ重要なら怒らせても仕方ないかもしれない……

 

「だがお主の住んでるところに真名は無かったのか?」

「ないな……」

 

ふむ……真名が無いところがあるのかと星……いや、そう言えばじゃあ何て呼べばいいのだ?

 

「一つ聞いてええか?」

「む?ああ、構わぬが?」

「じゃあ真名を許しあっとらん者同士では何て呼べばいいんや?オイとかお前ではないんやろ?」

 

と、男が聞くと少女は確かに名乗っていなかったと思い至った。

 

「姓は趙、名は雲、字は子龍と申す」

 

するとそれに合わせ二人の少女も名乗り出す。

 

「私は戯志才と申します」

「程立と言います~」

「…………」

 

なんですって?と今度は男がポカンと聞く番だった。戯志才……は知らないが他の二人は知ってる。特に趙雲と言う名前は知らない方が難しいだろう。

 

それくらい有名な名前……もしその趙雲が三国志の英雄の趙雲だとしたら……

 

(いやいや、ちょいと落ち着けや自分、タイムスリップなんてありえへん……けど)

 

さっき襲ってきた男たち、更に目の前にいる者達の目……嘘をついてる者の目ではない。

 

だが、寝て起きたらタイムスリップしてました……何て言うのを素直に納得できるかと聞かれると……微妙である。すると、

 

「お主は名を相手に訪ねて自分は名乗らぬのか?」

「あ……」

 

そう趙雲に聞かれ、男は慌てて名乗るべく一息吸った。

 

「ワイは冴島……冴島(さえじま) 虎近(とらちか)や……」

「ふむ、姓は冴、名は島、字は虎近か……」

「ちゃうわ。姓は冴島、名は虎近……字はないんや」

「これは失敬。では冴島殿」

そう言って趙雲は槍をこちらに向け、驚くべき事を言い出した。

 

「突然ですまぬが、一勝負していただけませぬかな?」

「……なんやて?」

 

自分で言うのもなんだが……結構間抜けな声音だったと後でも思う声を出してしまったのだが……それは仕方ないことだろう。


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