俺以外の男性IS操縦者が軒並み強いんだが by一夏   作:suryu-

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今回は私suryu-の蓮視点です。詰め込んでありますが楽しんでみてくださると幸いです!


四話 蓮視点

IS -インフィニットストラトス-

世界には467個しかコアがない、スポーツとは名ばかりの戦いをする為の兵器と世の有識者は認める女性専用のそれ。その専用機を持つ事は、企業の信用を得るということでありあらゆる地位と名誉が確立されている。

そんな専用機を新たに持つ人物がいる。それも、今まで考えられる事のなかった男性が、だ。彼はその専用機を渡されるということから、何をしているのかと言うと……

 

「ま、真耶さん……あとどれ位走れば……」

 

「一週間で体力をつけますからね。あと一キロは休憩しつつやりますよ! ほら、姿勢も良くして!」

 

「真耶さんが元代表候補性なんて聞いてない!」

 

ひたすら第三アリーナをランニングである。搭乗者となる事が確定した蓮は、一週間後に勝手に決まってしまった決闘とやらに対応する為にひたすら訓練をしているのだ。

指導者は山田真耶教諭。そう。普段天然ドジのこの人が訓練となった途端、そのイメージをぶち壊された蓮は戦慄を覚えていた。

 

「代表候補性って、こんな……練習してるんだね……っ!」

 

ランニング周回の度に重なる披露のためか息は少し絶え絶えになってしまう。だが。筋肉痛や乳酸が溜まりきらない程度の所で真耶が要所要所の休みをいれるために、否が応でも一日目からかなりの体力が着くことが初心者の蓮でも感じられた。

というかランニング周回をいきなり五キロ程もするなんて。と思わなかった訳でもないのだが、流石は元代表候補性。やはりというか匙加減が上手い。そして漸くノルマも終わり、蓮はその気疲れからかアリーナのグラウンドに倒れ伏した。

 

「ゔぁあ……きっつ……」

 

蓮が絞り出した声を聞いて真耶はゆっくりと近寄りながらスポーツドリンクを手渡す。ゆっくりと一滴一滴吸い込むように飲むそれは、ふだん飲む時と違った美味しさがある。染み渡るとはこの事だと実感する蓮に、真耶は優しく微笑みをかける。

 

「はい、お疲れ様です。それじゃあこの後は休憩したら座学ですよ」

 

「いや、寮の門限過ぎますよ!?」

 

「大丈夫です。織斑先生に許可をとりました」

 

「嘘でしょ!?」

 

だが、その微笑みから出てくるのは死刑宣告にも似たソレで。まさかブリュンヒルデ公認だとは思わなかった。と蓮は内心呟くも許可されてしまったものは仕方ない。故に諦める事にした。

だが、そこで気になることが一つ。

 

「そうなると、何処で寝るんですか?」

 

蓮にとってはこれは大きな問題だった。だが、そんな事は気にすることじゃないと真耶は蓮にとっては考えられない一言を放つ。

 

「あ、私の部屋ですよ」

 

「……Pardon?」

 

「私の部屋ですよ。ええ、私の部屋です。大事な事ですから二度言いました!」

 

「……ぇえ!?」

 

蓮は思わず問いかけ直すが、現実は非情(?)である。まさかの年上天然ドジ童顔巨乳美人との同じ部屋なのだ。おまけに蓮は覚えていないが近所の幼馴染みだったと聞いたことからどうしてこのようなことが起きるのか。と数ヶ月程前の自分に問いかけたかった。所謂、これはなんてゲームなのだろうか。と自問する。

ただ、何時までもそんなことを考えているわけにもいかないことからとにかく動こうとした時、真耶の手が蓮の脚に触れられる。

 

「あ、あの。真耶さん?」

 

「ダメですよ。一度ちゃんと冷やしてマッサージしてから動きますよ」

 

「あ、はい……」

 

確かにその指摘はごもっともな理由であるから、蓮は抵抗しなかった。どこからか冷却スプレーを取り出した真耶は、蓮の脚に当てて冷やした後にゆっくりとマッサージを始める。

マッサージを今までに受けた事はない蓮だが、その行為は疲れた身体にとても心地よい事だと感じた。真耶もその様子を表情で察した為に、少しばかり満足気だ。

 

「私、昔からこういう事をしてみたかったんですよね……ほら、恋人とかって、やるみたいですから」

 

「あぁ、それは分かります……僕も一度されたいとは思ってましたから。……まさかその事を知ってた訳じゃないですよね?」

 

「……さぁ、どうでしょう? 蓮君は覚えてないんですよね?」

 

「今の間は何だろう。僕は何をしてたんだ!?」

 

ただ、思いっきり蓮が不安になってしまったことは仕方ないのかもしれない。主に黒歴史についてなのだが。

 

 

 

 

 

「……で、このPICはISが飛ぶ原理でイメージインターフェースと同時作用して頭の指令を感じ取り思った通りの飛び方をする訳です」

 

「なるほど……凄くわかりやすいな」

 

所変わり真耶の部屋に居る蓮は、今度はISについての講座を受けていた。真耶は普段がドジっ娘という点ばかり浮き上がるのだが、この時の真耶はしっかりと教師をしている。

それを裏付けるかのように蓮はすらすらと講座の内容が頭に入ってきた。真耶は教師としても優秀な事がこれによりはっきり分かる。

 

「因みにイメージインターフェースは武装にも直結します。身体部分についている兵装や所謂第三世代の固有武装。単一能力発動にもこれは含まれます」

 

「おお、なるほど……」

 

「因みに飛ぶ時は進みたい方向に円錐を想像しろと書いてはありますが、それ以外に自分が鳥になることなど色々想像して試行錯誤するのが上達の近道ですよ」

 

そして今座学で行っているのは翌日からあるISの基礎訓練の事。真耶の座学は具体的な説明が多い。これは翌日から活かせると早速蓮はノートに纏めた。

そしてふと、時計を見る。時間は夜の十一時程であった。

 

「あ、こんな時間ですね。そろそろ寝ましょうか。蓮君」

 

「分かりました。真耶さん。それじゃあ僕は床で……」

 

そして蓮はこの後どうなるかを察していたために逃げの一手を取ろうとしたのだが、真耶はそれを見逃さなかった。蓮の腕をがっしりとホールドすると、にこやかに笑みを見せる。

 

「ダメですよ。床でなんて疲れが溜まります……一緒に寝ますよ」

 

「……あ、はい」

 

その大きな大きな果実に腕を挟まれては既に抵抗する事は出来ず、蓮は頷く。すると嬉しそうな真耶が、蓮の手を引いてベッドに連れていく。

 

「それじゃあ寝ましょうね。……ふふ、昔を思い出します」

 

「……確かになんだか初めてな気はしません」

 

「! ……ふふ、そうですか、おやすみなさい」

 

「はい。おやすみなさい……」

 

この状況に何らかの既視感を覚え始めていた蓮は頷きで相手に同意すると、ゆっくり目を閉じる。この状況が状況だから、容易には寝る事は出来ないと考えていたのだがそんなことは無かった。

疲労により眠気が夢の世界へと誘うかのようにゆっくり。ゆっくりと浮遊感が蓮の体を包むと、そこで意識は途絶えた。

 

 

■■■

 

 

随分と懐かしい夢を見ていた。緑。いや、翡翠の色をした髪の近所の優しいお姉さんと、一人の少女。そして自身。その懐かしさが心地よく。そして怖くて。けど、隣に感じる暖かさに、その夜怯えることは無かった。

 

 

■■■

 

 

翌日。筋肉痛は幸いにもなく、朝起きて真耶とランニングをこなし、授業もきっちりとって放課後になった頃。またもや第三アリーナへと出向いていた。すると、そこには昨日は見なかった顔がある。

 

「やっほ〜。れんれん」

 

「あれ、布仏さん?」

 

「今回訓練機のラファールを整備してくれるとの事で、私が頼みました」

 

同室となり、蓮が初日にほぼ裸の状態を見てしまった布仏本音がそこには居た。整備なんて出来るのだろうかと蓮は少しばかり引っかかったが、そこは本音自身が笑って教えてくれた。

 

「ふふ〜。これでも私は整備課だからね〜。大船に乗ったつもりで任せてね〜」

 

「それでは蓮君。ラファールに触れてください」

 

これには蓮もなるほどと納得の意を示す。そしてその本音の隣には訓練機のラファールが二機。何故か打鉄もあるが、これから自分と真耶が使うのだなと脳内思考で纏めれば、真耶の指示通りに早速ラファールに触れた。

全国適性検査の時に感じたあのデータが頭に入るような感覚をまた覚えつつも、訓練機のラファールを身に纏う自分に少しばかり違和感を覚える。やはりこれで二度目故に、まだ慣れてないようだ。隣を見ると真耶も既にラファールを纏っていた。その姿は様になっている。

 

「それじゃあ蓮君。まずは歩く事からはじめましょう」

 

「は、はい」

 

自分の足の延長線上であるからか、しっかりとイメージを固めた後に一歩踏み出す。ズシリと音が鳴る。二歩目。これまた、重い音が鳴り響いた。おおよその感覚を掴めた為に次は三歩四歩と続けて歩く。成功だ。

 

「本当に手足に近いんだなぁ……」

 

「そうですね。けど、訓練機ですからまだ専用機と違ってラグはあるかもしれません。ですが、少しだけでも慣れておいた方が損はありません。では、次は走ってみましょう」

 

「はい! ……うぉっ!?」

 

またもや、指示された通りに走ってみる。すると予想外の加速に驚くも、壁には寸前で踏みとどまった。確かにパワードスーツなんだな。と、今更ながらに凄みを感じる。これで訓練機なのだな。と恐れもあるのだが。

 

「ふふ、やっぱり最初は怖いですよね。」

 

「そうですね。いきなり壁に激突するかと思ってました」

 

慣れるのには時間がかからないかもしれないが、蓮は走るだけでもこれなら、飛ぶことは。ましてや戦う事はどれほど大変なのだろうかと想像する。

だが、考えている暇はない。今はこのISという存在に慣れるべきだと真耶の訓練を受けることにした。

 

 

■■■

 

 

ISの訓練にて二日目の事。真耶は今日はライフルを手に持っていた。恐らく、だが武器を扱う事になるのだろう。蓮はそう認識すると、確かにその日を含めなければ残り四日という中で全てを終わらせるには詰めるしかないな。と結論に至り頷く。それ故に武器の把握のために前もって動画を見ておいた。

そんな蓮を見た真耶は、もう理解したのだな。と頭の回転の早さに内心は驚くも、直ぐに何時もの笑みを見せる。

 

「蓮君。今日は出来れば飛行訓練まで出来るようになりたいですが。まずは、その前に武器を扱えるようにしましょう」

 

「分かりました。……あ、今日も布仏さんが整備してくれるんだね」

 

「やっほ〜れんれん。それじゃあ頑張って〜!」

 

今日も本音はラファールのそばに居る。恐らくまた整備をしてくれたのだろうと納得すれば、その助力に蓮は感謝した。

それと同時に、彼はラファールに触り昨日と同じくその身に纏う。やはり、乗った時間が少し長くなったからかISに抵抗がなくなった。訓練機とはいえ感覚に慣れるのは必須と考えていたから、先ずはそれをクリアした事になる。

 

「それでは、武器をイメージして下さい。不知火鳳社が公開している情報にはライフルが有りました。先ずはライフルをイメージして下さい」

 

「分かりました。真耶さん」

 

真耶の具体的な言葉に、蓮はライフルを頭の中に浮かべる。刹那、その手にはライフルが握られていた。

やはり、というかインフィニット・ストラトスという物はイメージにより動くものなんだな。と再認識しつつも、ライフルのロック解除方法を探す。すると真耶が目の前に立った。

 

「ほら、ここをこうするんですよ」

 

「あ、これなんですか……」

 

真耶はライフルのロック解除の手ほどきを蓮にすると、真耶は本音に合図する。本音も分かっていたようで、頷くと、ターゲット……つまり的が射出された。

現れた的を見詰める蓮の肩を、真耶は優しく叩く。そういう意味だ。

 

「それでは蓮君。実際にやってみましょう。発射後弾道予測線の補助等もありますが、兎にも角にもやってみましょう。脇をしっかり閉じてくださいね」

 

「わ、分かりました!」

 

初めて手に持つ銃火器は思ったよりかは重い訳ではなく、これもIS故の特徴なのだろうか。と蓮は考える。

ゆっくりと構えれば、発射後この様に飛ぶであろうという弾道予測線が自分のロックサイトに写り、それを目標が動く中で中心に当てられるように移動先の場所に向きを修正。そして、ターゲット目掛けて引き金を引く。

 

-パァン!-

 

弾けるような大きな音とももに、コンマの差でパリンと的の割る音が聞こえる。だが、着弾点は中心から外れていた。

やはり、動くものという事とあくまでも予測線は補助なのだな。と脳内思考の更新をすれば、気を取り直しもう一度中心に当たるよう移動先を狙う。

二発目。またもや銃声が響けば的は割れる。だが、今度は中心からやや右程に当たる。タイミングが少し遅かったのだ。

 

「難しいな……」

 

「いえ。最初でこれくらい出来たのなら上出来ですよ。ちゃんと当たってますから」

 

「れんれん。落ち込んじゃダメだよ〜」

 

二人は優しく微笑むと、蓮に労いの言葉をかける。二人の存在は蓮にとって有難いものだった。

 

そして一時間程射撃の練習をして漸く中心近くに当たるようになってきた所で、真耶はよし。と頷きまたもや本音に合図してターゲットを仕舞う。

 

「では、ここで今日の本題です。飛んでみましょう。まずは浮く事からです!」

 

「はい!」

 

真耶の言葉を受けて飛ぼうと蓮は意気込む。だが、ふと思った。

 

『飛ぶってなんだ?』

 

そもそも、である。人間が飛ぶという概念はインフィニット・ストラトスを扱う女性はまだしも、一般人。さらに男性である蓮が持ち合わせているわけもなく、明らかに焦っていた。

軽く返事はした。したのだが。そもそもどうやって飛べば良いのかと。というか浮かべるのか。等と、ずっと纏まらない思考を続ける蓮に、真耶は苦笑した。

 

「蓮君。教科書には角錐や円錐って書いてありますけど、何をイメージしてもいいんですよ。例えば鳥からマンガやアニメのヒーローでも。最初は慣れなくても後で無意識になりますから」

 

「……何を、イメージしても」

 

今回ばかりは真耶も完全な具体的な説明はすることが出来ず、少しばかり抽象的な考えを示すもそれでも蓮にはないよりかは幾何かはマシだった。

アニメやマンガは非現実的……いや、言ってしまえばISもそうなのだが、その事に気付かず脳内からその選択肢は排除して考える。答えは出ない。

次に鳥。鳥をイメージするも自分の手は翼ではない。スラスターはあるものの、それは翼とは違うのだ。第一に鳥のような飛行をするのならば、細かいターンなどが出来ないしやはり選択肢から却下する。

思考を切り替えるとその次は戦闘機。だが、戦闘機は走って加速してから飛ぶためにやっぱりというものか、論外だった。先ず、敵がその隙を見逃さない。

あとは、自由落下という選択肢を脳内に浮かべる。そういえば国際的な宇宙飛行士の機関は飛行機を操作せず自由落下させることで無重力空間を人工的に作り出すことが出来たとも聞いたことがある。だが、蓮はそれを生憎体感したことがないし、やはり除外。

 

-結果-

 

「……浮かばない。どうやっても、出てこない」

 

どの案も使えず仕舞いで、十分程考えるも何も浮かばずに項垂れる蓮。そんな蓮に真耶はある方法を思いついた。

 

「蓮君。ちょっと失礼しますよ」

 

「……えっ?」

 

何を考えたか、真耶はいきなり蓮を抱える。かと思えば、いつの間にか空へと飛び上がっておりそこには空という名の絶景が広がっていた。

その景色に見惚れる蓮を、真耶はくすりと笑って見ている。蓮は、感嘆の吐息をもらすと、真耶を見た。

 

「風、気持ちいいですね。真耶さん」

 

何気なく蓮が呟いたその一言は、真耶も感じていることから頷く。そして、ここまで連れてきた理由を実行する事にした。

 

「ふふ、そうですよね。それじゃあいきますよ?」

 

「……ゑ?」

 

真耶の言葉に何か蓮は薄ら寒い感覚を得たために、どういう事か聞きなおそうとしたその時だった。ラファールはいきなり加速を始める!

 

「うぉおおぉお!?」

 

「さぁ、もっと風を感じますよ!」

 

かと思えば今度はバレルロールからインマンメルターン。そして、スプリットSを連続で行うこれはもはや戦闘機並の曲芸飛行だった。

恐怖心はあるもののジェットコースターのような機動を覚えれば楽しく感じる。その時だった。

 

「はい、飛んでください!」

 

「うぇいっ!?」

 

いきなり上空で落とされば機体は急降下を始める。慣性をつけたまま地面へと向かう中、飛べと願うもラファールは飛行する姿を見せない。

そして、地面にぶつかるかと思えば真耶に抱えられて再び上空へ。

 

「ぇ、ぇええ!?」

 

「飛べるまでやりますよ!」

 

また、戦闘機のようなマニューバを繰り返すために少しばかり風を感じ、そして風に乗る事が出来るようになってきた。

 

「うぉおぉおお!」

 

二度目。やはり成功はしない。真耶に抱えられて三度目の空へ。そろそろこの戦闘機のような飛行には少し慣れてきた。先程よりも蓮は風を肌で感じる。風に乗るという感覚が掴めてきた。

 

「さぁ、次行きますよ!」

 

「はい!」

 

三度目。飛ぶことを願いそして風に乗れば目を閉じる。刹那、少しだけ機体は動いた! その感触を感じ取った途端目の前は地面。またもや真耶は蓮を抱えて飛び上がる。

 

「……今、動いた」

 

「ええ、見てましたよ。蓮君」

 

「……次は、いけるかも!」

 

「では、行きますよ!」

 

真耶の声とともに、戦闘機のような飛行が始まる。先程は曲芸と称したものの、戦闘機にとっては基礎技術であるということが本当に末恐ろしいと、この時ばかりは蓮は気づかない。

風を感じるではなく乗るということに切り替えた蓮は、真耶の飛行技術をその身に感じて風の流れに乗ろうと目を閉じ意識を深めれば、極限まで集中してイメージを固める。

 

-そして、その時は来た-

 

「蓮君!」

 

「!」

 

真耶の合図により彼の身体は宙へと投げ出される。蓮は手を広げると、目を閉じたまま背中に翼のある自分を幻視した。そして、その翼をはためかせる!

そのイメージにそったのかラファールのスラスタは細かい微調整をはじめ、蓮のイメージからは誤差はありつつも空へと上昇する。真耶の顔は綻び、蓮は目を開く。

 

「……飛べたッ!」

 

「はい、飛べましたよ!」

 

感動というのはこういう事なのかと、蓮は素直に感じる。スラスターの動きは今は一定となって自分は空にとどまっている事が、嬉しかった。

その蓮の眼前に広がるは広大な空。白い雲も混じりつつ果てが見えないその先へ、蓮は言いようの無い美しさを心に宿す。そしてその空を楽しむために、背中の翼を羽ばたかせる。

 

「……ぉお!」

 

すると思うようにラファールは飛んでくれる。宙返りを意識すると、素直にラファールは応えてくれた。訓練機だとは思えない喜びで、これが専用機になるとどうなるのかとも楽しみをもたらされる。

 

「ふふ、楽しいですか?」

 

「ええ、真耶さん!」

 

「れんれん、やったね〜!」

 

「うん、のほほんさん!」

 

その喜びを共有できる存在がいて、今程感謝した事はないと思う蓮は、その日の訓練は飛び続け、そして楽しそうに笑ったままでいた。

 

 

■■■

 

 

その翌日、である。この数日で慣れたと言っても過言ではないのか、既にお馴染みであるアリーナへと今日も足を向かわせる。

すると、今日は打鉄がそこには置いてある。一体誰が使うのだろうかと思うがいつも通りラファールとともに空へと向かう。すると、思いがけない人物が後から追い抜いてやって来た。

 

「ふむ、飛行もちゃんと出来るようになったのか。流石は山田先生だ。教えが良い」

 

「あ、あはは……」

 

「……はっ?」

 

「どうした、呆けた顔をして」

 

艶のある黒髪。打鉄を纏うは美しき肉体。されど、その肉体は鍛え抜かれたものであり、見るものの目を奪う魅了されるもの。その美しき肉体がしなやかに動けば空気は震える。いや、彼女自身がすでに空気を震わせているのだ。圧倒的な存在感を誇る女性が、そこにはいた。

 

「おり、むら……先生!?」

 

「私がISを使う事が意外そうな顔をしているな……金澄、訓練を手伝うという事だ」

 

その女性とは織斑千冬その人で、世界最強を冠する女性が自分の訓練を手伝う。その事は蓮に衝撃を与えた。

というか、いきなり世界最強と戦うとか初心者に何をさせる気なんだ等と思わなくもないが、きっとこれには千冬なりの思いがあるのだろうという結果に至る。そうでなければ色んな意味で恐れが多いのだ。

 

「織斑先生。それじゃあ……」

 

「ああ、戦闘訓練だ。位置につけ。布仏は何時でも整備出来るように準備しているからな」

 

「は、はい!」

 

対峙するだけでそのプレッシャーに身震いを覚える。が、蓮とて男。戦う前から屈するということは知らなかった。

開始三カウント前。

 

「織斑先生」

 

「なんだ?」

 

二カウント前。

 

「教えてください。世界を」

 

「ふん。小僧が。だが、それでいい」

 

一カウント前。

 

「それではレディー……」

 

「いざ尋常に……」

 

試 合 開 始 !

 

「ゴー!」

 

「勝負!」

 

開始とともに蓮はライフルを出すと即座に弾丸を撃つ。だが、織斑千冬という世界最強はそれをブレードで斬り伏せた。戦闘訓練だというのに千冬の真剣な姿勢は真耶にとって驚きを与える。恐らく、世界を教えてという言葉に触発されたのだろう。

千冬の弾丸を斬り伏せた姿を蓮が見れば驚きしか感じることはないが、千冬は手を抜かない。ブレードを振るえば真空派が斬撃となり斬りかかる!

 

「なっ!」

 

「遅い!」

 

思わず驚きの声を出して回避をした蓮だが、その先に千冬は回り込んだ。訓練機だというのに、とあるテクニックを使った千冬は怒涛の攻めをみせる。まさに世界最強は此処にあった。

 

「っ、なら!」

 

ラファールの武装に何かないかと思えば蓮はナイフを思い出す。そしてそれをライフルに接続するイメージを瞬時に行えば、銃剣となり千冬に一突きをかました。

 

だが。

 

「残念だが、それは残像だ」

 

「!?」

 

目の前に居たはずの千冬は後ろに既に回り込んでいた為に、その突きは空を穿つ。そして、千冬はブレードを軽く振るうと、蓮のシールドエネルギーをゴッソリと持っていった。

 

Shield Energy empty. WIN Chihuyu Orimura!

 

結果。蓮は負けた。圧倒的なその力と実力に翻弄されて、蓮はIS世界の敗北を知ったのだ。

だが、それと同時に胸は高揚を覚えていた。これ程の実力を持っている存在が居るのだ。此処なら嘗て目指したものが手に入るのかもしれない。

その期待がふつふつと高まり闘志は燃え上がる。千冬は何がそれ程蓮を掻き立てるまでの物になっているかは分からないが、それでもその熱き想いに満ちた目を見れば、この少年を育て上げてみよう。そんな気持ちが胸の奥から溢れ出す。故に、其処からの決断は早かった。

 

「どうだ、金澄。これが世界だ。お前はここまで上って来る事が出来るか?」

 

「……織斑先生。僕は訳あって昔から手に届く範囲の物を守れる力が欲しかったんです」

 

千冬の応答に答えた形ではないそれ。だが、千冬はその次に返ってくる言葉を予期していた。きっと、彼はこう言うだろうと。

 

「今見せてもらった世界というビジョンとイメージ。いつかたどり着きたいです。訓練、お願い致します!」

 

「……良いだろう。丁度弟子を取りたかったのでな。お前に叩き込ませてもらう」

 

千冬の何時ものクールな笑みは、この時ばかりは喜色に満ちていた。と後に真耶は語る。

 

かくして、クラス代表候補選までに織斑千冬と金澄蓮。そして山田真耶に布仏本音は訓練を行うのである。

そして、運命の日を迎えるのであった。


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