俺以外の男性IS操縦者が軒並み強いんだが by一夏 作:suryu-
1・2限は授業には割り当てられずに自己紹介やらになっていた様だ。他の時限はちゃんと授業を行う。
ホログラムで表示される黒板に、指示棒を使いながら授業を行うのは山吹先生だ。授業内容はIS。歴史やら何やら云々かんぬんである。面倒なので省略。
俺は事前に配布された真新しい教科書を開きつつ、ノートに板書や要点を書き取っていた。
内容に関しては、辞書並みに分厚い入学前必読本を勉強していれば問題ないものだった。だがその必読本が厄介だった。
専門書であることは分かっていて覚悟を決めていたが、それでもうんざりする様なものだった。辞書片手でないと読めない。そんな内容を1ヶ月で意味まで理解して読破しなければいけなかったのだ。
「……ということで、皆も知っている内容を復習したけど、質問はあるかな?」
山吹先生はそんなことを全体に訊いた。ここで質問が出ればそれはあの必読本にない内容か、あったものを発展させたものだろう。
「ISと一心同体ということは、操縦者とISは彼氏彼女的な関係なんですかー?」
「キャー! いいなぁいいなぁ!!」
「彼氏持ち許すまじ」
これは……俺もよく知らないが、女子校ノリという奴だろうか。
「いいよねぇ彼氏持ち! 私も欲しいッ!!」
クラスメイトの盛り上がりに、山吹先生は悪ノリしていく。そんな中、空気を読めてないのは俺は勿論、もう1人いる。
アンネリーセ・デ・フェルメール。
オランダの代表候補生、らしい。なんだか胡散臭い。
その理由はとても単純だった。肌の色や髪色では”かなり”目立っているが、雰囲気がそれをも跳ね返す薄さを持っている。
というよりも、本当に専用機を持っているのだろうか、という疑問さえ浮かんでくるのだ。
とまぁ、こんな感じだが、この空気を読めていないのは彼女も同じだ。
ノリについていけれてないのだろう。となると、することは一つ。
「あ、こらそこ! 寝るなっ!」
顔を伏せるのだ。ノリについていけないし、俺に寝て欲しくなくばちゃんと授業をして貰いたいものだ。
俺は顔を伏せたまま、意思を主張する。
「俺には女子校的なノリが分かりません。誰か助けてッ!!」
なんだか、『そういえば……』みたいな空気が流れている。皆、どうやら俺の存在を忘れていたらしい。そりゃ、高校生になったから彼氏の1人くらい作りたいだろうに。
……まぁ、頑張ってくれ。
シーンとまではいかないものの、さっきまでの大騒ぎとは違い、静かになった部屋に突然鈍い音が響く。
ゴンッとなった音源の方向に、皆が視線を集中する。もちろん、俺も顔を上げてその音源の方向を見た。
「あう……痛いっ……」
どうやらフェルメールさんが、机に90度の垂直ヘッドスライディングをかましたらしい。
額に手をあてて絶賛悶絶中。
「ふ、フェルメールちゃん? どうした?」
「い、いやぁ、私も女子校? の、ノリというのが分かりませんので……」
つまり、女子校的なノリが分からなかった俺の行動を真似たということらしい。
「な、なるほど……。大丈夫?」
「平気ですっ……」
そう言って顔を上げたフェルメールは、額から手をどかしてそのままノートに手を添えた。何もなかったかのように振る舞っているが、フェルメールの前のクラスメイトの様子がおかしい。
「ぷっ……ぷふふっ! フェルメールさんっ! 額がっ!! 額がぁぁぁ!!」
と言ってからすぐ、そのクラスメイトは笑いだした。
何があったかは分からないが、多分額になにかあるのだろう。その笑いを聞いた、他の前方のクラスメイトもフェルメールの顔を見て笑い出す。中には心配しているのもいたが、五分五分だろう。
「まぁ、若いからすぐ治るよ! ……チッ」
うわ、今この人舌打ちしたよ。
山吹先生は舌打ちをした後、すぐに表情を変える。
「はい、じゃあ授業に戻りまーす」
と言ったものの、残念である。
そのタイミングでチャイムが鳴ってしまったのだ。
「な、ん……だとっ?!」
「はーい、きりーつ。礼っ!!」
そんな山吹先生を放置し、俺はクラス委員の仕事でもある授業の開始と終了の挨拶を強引にやってやった。
「ちょ……まぁいいか。じゃあねー、皆ー。次の授業は私じゃないから、代わりの先生に失礼がないようにねー」
なんというか、やっぱり適当な先生なのだろうか。
そんな捨て台詞を置いて、山吹先生は教室から出ていったのだった。
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ーーー
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次の授業は一般科目。一般科目は一般科目だ。何らその辺の高校生とやっていることは変わりないだろう。強いて言えば、難しいことくらいだ。
そんな4限は普通に進んでいき、昼休憩になる。
昼休憩とは言うが、実際はこれで今日の授業は終わり。これからは自由時間。
全寮制のIS学園に下校の文字はない。これから夕食までの時間は、各々好きなように時間を使う。だが、今日に限ってそれはなかった。
入学当日ということもあり、部活動が新入生の勧誘を行うのだ。その辺のシステムはよく知らないが、先ほど部活動紹介が行われた。各部活動の活動内容を口頭もしくは実演して勧誘活動を行う。もちろん、手元には生徒会が制作したパンフレットも配布されている。
それで今は、気になる部活動を見学に行ったり、興味が無ければ自室に戻っても良い時間なのだ。
「部活動かぁ……」
教室に一旦戻り、荷物を鞄に入れながらそんなことを呟く。
「天色くんは部活決めた?」
隣の席の女の子がそれとなく話しかけてくる。
「うーん、変なのじゃなければ良いんだよなぁ」
「そうなんだぁ。……去年までは何をしていたの? 自己紹介の時にはそういうの話さなかったし」
隣の席の女の子は片付け終わった鞄を机に置き、そのまま椅子に座ってこっちを向く。
俺も片付けが終わっていたので、そっちの方を向いた。
「色々。運動部も文化部もやってた」
「へー。例えばどんな?」
自然と話が進んでいく。なんだかこの人、人当たりが良いな。
名前、なんて言ってたっけ。
「バスケとか、柔道」
「文化部は?」
「一般的にありがちな文化部は放送部と家庭科部以外はだいたい」
「へぇー。いっぱい兼部できたんだぁ」
「ん。年毎に部活変えてた。俺自身は別に良かったんだけど、他の部員同士で揉めたりとか、空気が悪くなって居辛くなったから」
思い出した。名前は確か
「垣谷さんは?」
「私? 私はライフル部」
「は?」
何それ。怖っ。こっわ。
「ライフルで撃っちゃうぞー!」
そう言いながら、ライフルを構えるようなポーズを取る。
そんなのに乗ってみたりもする訳だ。両手を挙げて降参ポーズをする。
「ライフル部とは言うけど、実弾は撃たないよ? もちろん空砲も。使うのはトリガーを引いたら赤外線レーザーが照射されるおもちゃ。全然危険はないよ」
「そ、そうなんだ」
「うん。でも、凄い重いよ。それに集中力とか体力とか居るし、もう大変」
そう言って、ライフル部秘話みたいなのを話してくれた。
ライフルを持って走ったり、『ライフルは己のつがいと思えっ!』と言われて合宿中にライフルと寝たり、『10発真ん中に当てなければ帰れません』をしたり……。
聞いててとても新鮮な話だった。
「IS学園にもライフル部はあるみたいだから、そっちに入部しようかなぁって思ってる。天色くんもどう?」
「うーん。新しいのを開拓するのも良いなぁ」
「でしょ? それにIS学園のライフル部が使ってるライフルはとっても良いやつだし、実弾射撃もやらせてもらえるみたいだよ?」
「実弾……。男としてはロマンがあって良いが、それってもはや軍隊では?」
「さぁ? でも、良いと思わない?」
「考えてみる。IS学園って思いの外、色んな部活があるから」
「それもそうだねぇ。まぁ、考えてみてよ。じゃあ私はライフル部に行ってくるから! また明日ねー!!」
そう言って垣谷さんは教室を出ていってしまった。
なんだか急に静かになって寂しく思うが、俺もそろそろ廊下に出よう。教室もほとんど人は残ってないしな。
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ぶらぶらと歩いているが、無茶苦茶話しかけられる。
「陸上部とかどう? 入らない?」
「ボルダリングとか興味ない?」
「アーチェリーとか面白いですよ。やっていきますか?」
「文芸部、どうですか? 読み書き両方やってますよ?」
「戦術研究部……。IS戦闘における有効な攻撃方法を、考えてる……」
「ボランティア部だよ! だいたい掃除してるかな?」
なんというか、勧誘が激しい。俺の気の所為ではないはずだ。
だって俺の周りにだけこうして上級生が集まっているんだ。どうしてだよ。他にもそうなりそうな奴に検討はあるが、そっちに是非行って欲しいものだ。
「囲まれても困ります、先輩方」
そう言いつつ、内心移動できずに少しイラッとしていた。
ここまで押しが強いと、悪質なセールスのように思えて仕方ないのだ。おそらく彼女たちにその自覚はないだろうが。
まぁ、こうやってこのまま寮まで行っても仕方ないので、俺はあることをする。
何かを思い出したかのように立ち止まり、少し黙って遠いところを見る。もちろん演技。
「どうしたの?」
何故止まったか分からない、周りの勧誘組を無視して行動を開始。
「あ」
と一言言って、そのまま走り出す。
「ちょっ!!」
「ま、待てー!!」
待てと言われて待つ奴はどうかしているっ! 俺はそのまま全力疾走し、IS学園の中を走り回る。ある程度撒けたら、そのまま寮へと向かった。
何処かに寄り道しようものなら、さっきの繰り返しだからな。
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寮に到着し、俺は割り当てられた私室へと入る。既に荷持は運び込まれているので、特に何かしなければならないことはない。
強いて言えば、荷解きをするくらいだろう。そんなもの、1時間くらいあれば十分だろうな。
それに山吹先生からは『寮室はね、一応2人部屋ではあるけど天色くんだけだからー。寮で1人部屋って贅沢だなぁ! 私と交換しない?』とか言っていたから、1人なんだろうな。俺はてっきり蓮か織斑 一夏と一緒になるか、全員押し込められるかのどっちかだと思っていたんだが、まぁ1人は至高だろう。自由に過ごせる。気を使わなくても良いしな。
蓮だったら気を使わないが。
「さてさて、入ってとっとと荷解きをー」
そんなことを口ずさみながら、俺はカードキーを刺して部屋に入る。
部屋は共通と聞いているが、他の部屋もこうなっていると考えると凄いなIS学園。どれだけ金あるんだよ。
それはともかくとして、部屋の片隅に俺の荷が鎮座している。ダンボール2つ分だ。
本やら漫画やらは置いてきた。衣類とお菓子、ゲーム等などが入っている。他は別にこっちで買えば良いだろうし。文房具とかな。
「ビリっと(封を)破いてタンスにシュート!!」
とか言いつつ、投げる訳ではない。ちゃんと持って入れに行く。雑にも入れない。
まぁ、その辺はしっかりしておかないとな。寮生活とはいえ、一応一人暮らしに該当する訳だし。
一通り荷解きを終え、すぐに使うものだけを自習用テーブルと思われるところに置いておき、鞄もついでにそこに置いておく。
今日復習する必要のあるものはない。なら、別に今から勉強する必要もないだろう。そう思い、俺はそのままベッドに転がった。
ふんわりとしたマットレスに一抹の安心感と共に、掛け布団の柔らかさに幸せになりつつも、ある違和感を持つ。
俺の飛び込んだ布団、なんだか温かいのだ。
そして耳を澄ますと、隣の部屋から物音がしている。隣の部屋というと、洗面所。そして浴室。何か居るのか、と思いつつも俺は『どうせ気の所為』だとか誤魔化す。幽霊とかだったら嫌だし。
とか考えていると、その物音は気にしていなくても聞こえてくる。
そして遂にそれは確信へと変わり、その部屋に誰かがいることを直感で感じ取った。
俺は寝転がっていたベッドに腰掛け、その部屋の出入り口を睨む。そうすると、タイミングを見計らったように扉が開かれた。俺が開いた訳ではない。
「ふんふふ~ん。はぁ~、温まったなぁー」
タオルで髪を梳かしながら、こちらに気づかないそれは歩いてくる。
下着姿で細くて白い四肢が湯気を纏って火照っている。なんというか色っぽい。そして梳かしていたタオルを取ったその時、俺と目があう。
「あ”っ」
「ん”っ?!!」
とっさに逃げれば良かったのに、俺は逃げなかった。馬鹿なのか。馬鹿だな。
タオルを地面に落とした下着姿の少女に、俺は一言。
「顔が、赤いぞ……」