俺以外の男性IS操縦者が軒並み強いんだが by一夏 作:suryu-
それではお楽しみください。
冷や汗をだらだらと流しながら、俺は自らが置かれた状況を整理する。
1つ。あの織斑 一夏とかいう同い年の"お陰"で、せっかく合格した高校を辞退することになったこと。1つ。俺の意思が全く尊重されないまま拘束されて、身体の隅々まで調べられ、行動の制限がされたこと。1つ。現状、胃が痛いこと。
そう。俺は女性しか扱うことができないISが、織斑 一夏にIS適正が発見されたことによる全国調査によって発見された織斑 一夏に続く男性IS適正者なのだ。そして政府の要人保護プログラムかなにか知らないが、以下省略。
IS学園に強制入学させられ、3組に配属になった俺は、クラスメイト(全員女子生徒)に穴が開くほど凝視されているのだ。
「皆、初めまして。私はこのクラスの担任を任された、山吹 ゆきです! よろしくね~」
なんか周囲の人を笑顔にできるような性格をしているな、この人。
そんなことを考えつつ、学園での生活やなんやかんやを一通り説明した山吹先生は、自己紹介に移ろうと言い出した。
俺は自己紹介が嫌いだ。何が嫌いかというと『好きな食べ物は~』とか『趣味は~』とか、わざわざ公言する必要ないだろう。後者はコミュニケーション上必要かもしれないけども。とにかく、俺は自己紹介が嫌いだ。
だが担任がやろうと言い出したのだ。やらざるを得ない。俺は何を言うのかを考える。
皆、出席番号順で自己紹介をしていくが、内容はまちまちだ。
やはり趣味などを言ったり、IS学園入学の意気込みやら、出身中学やらどこから来たとかそんなものだ。一般的な自己紹介。
そして俺の順番が回ってくる。
「次、天色 紅くーん」
呼ばれて立ち上がる。口を開こうとするも、山吹先生に遮られてしまった。
「さぁ、お待ちかね! 男性操縦者3人のうちの1人っ!! いやっふー!!」
心配になってきた。大丈夫か。この担任。
「えぇと、天色 紅です。よろしくお願いします」
「うんうん!」
なんでこの人、他の女子生徒の時よりもがっついているんだろうか。
まぁ、仕方ないと言えば仕方ないことだ。男性操縦者3人のうちの1人が、自分の持つクラスのメンバーになったのなら。
とは言うものの、特段俺に何があるという訳でもないだろうに。その辺に転がっている石ころと同じ気がするが。
「なんとか頑張っていきますのでよろしくお願いします。」
無難だと思う。そう考えながら席に着くが、山吹先生の視線は俺から外れることはなかった。
「それだけ?」
「えぇ……じゃあ……。男性操縦者として特別入学しているので、よければ勉強を教えて下さい」
「うん。じゃあ席に座ってねぇ~」
どうやら及第点だったらしい。俺は椅子に座り、一息吐く。
後は前でも同じだったが、全員の自己紹介を聴いて名前を覚えるくらいはしないとな。
そんなことを考えながら聴いていること、数分後。あることが起きた。
「ほい、次ぃ~。お、代表候補生だねぇ」
「は、はいぃ。オランダから来ました。アンネリーセ・デ・フェルメールですっ……」
どうやらこの自己紹介初の外国人の様だ。
俺はそんな風に思いつつ、話を聴く。
「先ほど先生も仰っていた通り、私は代表候補生ですが、皆さんが思っている程の者でもありません。はい」
薄いブラウンの髪を揺らしながら、フェルメールさんは自己紹介をする。
その様子を見て、ふと思ったことがあった。
なんだか見ていて癒される。そんな風に俺は感じていた。
フェルメールさんが醸し出しているオーラがそうさせているのかもしれない。
そうだろうな。多分。
「本国に居た時から皆から影が薄いと言われていましたが、ここではそんなことを言われないように頑張りますので、よろしくお願いしましゅ」
あ、噛んだ。
「はい。じゃあ次ぃ」
そしてスルーしたよ。この担任。
優しさかもしれないけど、あえて突っ込んであげようよ。
「あうぅ……噛んじゃったっ」
顔赤くしているけど、誰も反応してないじゃないか。
そんな風に過ぎて行った自己紹介の時間はすぐに終わり、休み時間に突入した。
次の時間の準備をするように山吹先生に言われてすぐ、教室を脱出しようかと思っていたが、そんなことは叶わなかった。
俺の席の周りに人だかりが出来ていたのと、出入り口も封鎖されていたのだ。人で。
「ねぇねぇ、天色くんって1組の織斑くんや金澄くんと仲良いの?」
「本当にIS動かせるの? というか、専用機もう持っているんだよね?」
「寮の部屋番号は何?」
他にも色々言われているが、回答しようにも次々と言われるために返答できずにいた。それよりも、回答に困るようなものもあったんだが……。
それはともかくとして、この状況はどうすれば良いのだろうか。
ちなみに織斑とは顔は見たことがないが、金澄 蓮とは入学前から知っている仲だ。
親友とも言って良いだろう。
そんな親友も同じような状況になっていると思われるので、携帯電話で助けを呼ぶことも出来ない。どうしようかと悩んでいるが、結局休み時間は女子たちに囲まれたまま過ごすことになったのだった。
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ーーー
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次の時間は授業をする訳でもなく、クラス内の役員決めを始めた。
山吹先生は黒板に書き出す前に、あることを先に決めようと言いだした。
クラス代表だ。
クラス代表とは、クラスを代表する生徒のこと。言えばそのままだが、様々な役割が充てられており、かなり重要な立ち位置にもなる。
「じゃあ最初にクラス代表を決めようかなぁ」
そんな風に言いながら、山吹先生は俺の顔をジッと見てくる。
どうして俺の顔を見てくるのだろうか。そんな時間が数秒過ぎ、山吹先生はクラス全体に指示を出す。
「立候補も推薦も自由にしてねー。後で選挙やら何やらやるからさ」
また俺の顔を見てきた。
そして、そんなことがどうでも良くなるようなことが起こる。
「はーい! 私、天色くんが良いと思いまーす!」
「私もー!」
「だよねぇー!」
なんで俺を押してくるんだろうか。
ここで声を挙げて、『どうしてだよ』とは言う気にもなれず、そのまま俺は黙って聞いていた。
その後も続々と俺を推す声が挙がったが、一貫して言えることは俺をクラス代表にすることを面白がっているようにしか思えない。
そもそも、クラス代表なんて面倒な役職に着く気等なかった。今後出てくるであろう、楽な役職にしようかと思っていたのに。
多分、山吹先生が『推薦』なんて言うからこんなことになったんだ。
「じゃあ、満場一致で天色くんで決ってーいっ! はい、当選した感想を! 早くっ!」
何やら発言する時間さえも与えられずに、そのまま進行してしまった。
ここで嫌だとか言うと、空気が読めない奴みたいに思われてしまうかもしれない。そんなことを気にしながら、俺は意気込みを言う。
「推薦でクラス代表になった天色 紅です。……程々に頑張って行きますね」
そう言って座ろうとするが、あっと思い、そのまま下げた腰を上げなおして一言。
「どうして俺になったのか、そこのところ詳しく。以上です」
と言うと、チラホラと『男子が居るからさぁ。盛り上げないと』とか言う声が出てきていた。男子だからなのか。男子だからなのか。
そんな周りの言葉に『えー』と返していると、山吹先生から呼ばれる。
「天色くん」
「はい」
「ちょっと」
「はい?」
手招きされて、俺は立ち上がって山吹先生のところへ向かう。
理由は分からないが、この数十分の経験則から言えば面倒なことに違いない。
「はい、これ」
「何ですか、これ」
「このクラスで決定した委員の名簿の作成資料」
「は、はぁ?」
「頑張ってねぇ~」
ぶん投げられたらしい。この仕事を本来、誰がやるのかは知らないが俺は頭を垂れながら席に戻る。こういった仕事は嫌いだ。頼まれるのは嫌ではないが。
「ちょっと、まだ仕事はあるよ」
「仕事って言っちゃったよ、この人。……はいはい、何ですか?」
あ、素が出た。まぁ良いか。出てしまったものは仕方ない。
俺は書類を自分の机に置いた後、山吹先生のところへ戻る。
そして指示を貰った。
「今後の進行は任せたっ! 私はあっちに行く」
そう言って山吹先生は立ち上がり、俺の席に座った。そして手を挙げる。
教壇の上に1人残された俺は、どうして良いのか分からない。そんな俺に向かって、手を挙げてアピールする。これは当てて欲しいということなのだろうか。
「はい。山吹先生」
「はーい。早く進行してくださーい」
イラッと来たが、俺は進行をぎこちなく進めることにした。
「それでは、これからクラス委員を決めていきます」
クラス委員を決めるのは案外早く終わった。というか、ものの10分足らずで終わったのだ。そして35分程時間が余っている。この時間、俺が教壇から降りることはなかった。