「ふん、大したものではないか?。総帥が新たに創設した。例のモルモット部隊とやらは…」
執務室にて部下からの報告を受けたドズルは、渡された資料に一通り目を通したのち、それを無造作にデスクに投げ置くと。やや不満げに、皮肉を込めてそう言った
「確かにめまぐるしい戦果ではあります…ですがあの部隊は
と、部下は確固たる意志を持ってドズルに進言するが、ドズルは僅かに考えるそぶりを見せたのち、部下に対して
「いや、曲がりなりにも兄貴がビグ・ザムと共に送って来た増援だ。蔑ろに扱えばここをしのげても後々不都合があろう。ここはあくまでも普通に対応すべきだ」
と部下の進言をはっきりと却下し、その上で
「…しかしお前の報告の事もある。……よって、あのモルモット部隊には監視としてグリムリーパー隊を監視につかせることにする」
と、部下が納得はいかなくとも、最低限は部下の面子が保たれるよう折衷案を提示する。すると部下は
「ぐ、グリムリーパーを…ですか…?」
と、僅かに声を荒げる。その声には驚きだけではなく。ドズル中将が指揮する宇宙攻撃軍
「お前の報告が確かなら、最悪あの部隊を
そうドズルが聞くと、部下は姿勢を正して首を一度だけ縦に振り
「…いえ。分かりました、直ちに手配します」
と、ドズルの命令に従い、一礼して部屋を出て行く。それを見送り、一人となった執務室で。ドズルは柄にもなく大きなため息を付いて、今自分が座っている皮張りの椅子に体をゆっくりと体を預けると。先ほどの直接会談の中で、兄が言ったあの言葉を思い出していた
「お前には私が持つ部隊の中で最も使えるものを送る。それとビグ・ザムで5個師団程度の戦力にはなる筈だ。…なぁ、ドズル。お前が支えてくれればジオンは勝てる。…頼んだぞ?」
「……」
あの時兄が発した。何時もの兄なら決して口にしないであろう発言、その裏にある真意をずっと考えていた、が、しかし…
「…ふ、分かる訳がないか……」
当たり前だ。兄貴は間違いなく天才だ。俺みたいな石頭の猪武者なんかが知恵を絞って分かる程度の発言などするわけがない
「…だが…俺はこのまま捨て石なぞにはならんからな、兄貴…」
そう言って、ドズルは執務室から見える宇宙へと椅子の向きを帰ると、眼前に広がる宇宙にちりばめられた星々を掴む様に手を伸ばし
「ようやく手に入れたミネバのためにも、なってやるものかよ…」
と、力強くそう宣言したのであった
「中佐…」
見たことも無い少女が俺の名前を読んでいる
「隊長…」
見たことも無い青年が俺の名前を呼んでいる
「中佐…」
見たことも無い男が俺の名前を読んでいる
お前達は…誰だ?
しかし彼らは何も答えてくれない。…でも、なぜだろう…どうしてこんなにも胸が張り裂けそうになるんだろうか…?、心が傷むのだろうか…?
そう口にしようとするも。激しい頭痛に襲われ、私は低いうめき声をあげ。頭を抱えて膝から崩れ落ちる
「ぐぅァアアアアアアア!?…ぁ…頭が…割れる…!」
そうやってその場に私がうずくまると。3人はゆっくりと振り返り、歩きはじめる。私は
「ま、待ってくれ!」
慌てて追いかけようとするも、激しい頭痛と胸の痛みに立ち上がることが出来ず、その場に手を付いてしまう。そうしている間にも3人はどんどん私を置いて先に進んで行く
「待ってくれェェェェェ_________―――――――――!!」
体透けるように消え始めた3人に手を伸ばしながらそう叫ぶ。そして気がつくとゲルググのコクピットの中にいた
「………あ…え?」
理解が追いつかず、辺りをきょろきょろと見渡す。すると1人でにコクピットハッチが開き、一人の整備兵がそこから顔をのぞかせながら
「大佐!、またパイロットスーツから着替えもしないでこんな所で寝て…風邪引いちゃいますよ!?」
と、そう私に怒る整備兵を見て、ようやく自分が今の
「ん?…何で泣いてるんですか?」
と聞いて来た。そこで再び気づく、自分の顔が流した涙でぐしゃぐしゃになっている事に、しかも泣きすぎてパイロットスーツの襟とか胸元まで濡れて言う上、あの夢の性で全身ぐっしょりと汗をかいたせいでパイロットスーツの中がサウナ&べちゃべちゃで大変気持ちが悪い。私は苦笑しながら腰のポケットから取り出したハンカチで顔を拭きつつ
「ちょっと…夢を見てたみたいで。…多分そのせいだと思う…」
そう言って、悲しげでありながら、どこか懐かしいような、寂しいような顔をしながら答える。それに対し整備兵は
「そうですか…お引止めしてしまいすみません」
優しげな笑みを浮かべた整備兵hさ、そう言って隣の予備機に向かって飛んで行く。私は
「…あんな奴乗ってたっけ?」
と呟きながら、今度こそ待機室に向かって飛んで行く
あの後待機室でシャワーを浴びた私は、制服に着替えて自室に戻ろうとしたところを招集され、現在はここドズル・ザビのいる執務室に来ていた
「ジオン公国総帥府直轄 国立技術研究所所属 第1MS実験隊、旗艦「ファルシオン」艦長の「ディーラ・ディ・ビスコッティ」大尉であります」
直立不動のまま敬礼するビスコッティ大尉に続いて、私も同じように所属と階級を述べた後に敬礼する
「同じく、第1MS実験隊所属の「ハルファー・フォン・デスピナ」大佐であります」
ドズルは私たち二人の経歴が書かれた書類に目を通しながら、楽にしてくれ。と言って来る。それに
「はっ」
と答えて敬礼をとく、ドズルは一旦書類を机に置くと、その強面とかそんなレベルで済まされない野獣のような顔に、見ているだけでこちらが冷や汗をかいてしまうその高圧的な目が、まるで私の事を見定めているかのように、私とビスコッティ大尉の2人の眼を交互に見つめ、そして…
「…ふん、貴様はともかく、デスピナ大佐、お前は戦士の眼をしているな…」
と、ビスコッティ大尉に対して落胆したかのようなため息を付いたドズル閣下は、私の眼を真っ直ぐに見ながらそう言ってくる、それに私は
「ありがとうございます」
と返す。それにふん、と鼻を鳴らしたドズルは、彼の側で控えていた副官に合図を送る、それを受け、副官はビスコッティ大尉にそこまで厚みの無い茶封筒を渡してくる。それをビスコッティ大尉はしっかりと両手で持って受け取る。そして
「兄貴…総帥からはお前達を好きに使っていいと言われている。近々ここに敵の大部隊が接近中だ。お前達にはサイド4方面の第11ブロックの防衛隊として配属される。…入れ!」
と、一旦話を切ったドズル中尉のしっかりとした声に続いて執務室の扉が開き、顔の左半分にある火傷の痕に左目が義眼、そして首全体を隠してしまうほどのお気差の機械を付けた銀髪の士官が入って来る
「失礼します…」
「第11ブロックの防衛を担う「グリムリーパー隊」の隊長を務める「ヘルムート・ホフマン」大佐だ」
そうドズルに紹介されたホフマン大佐は
「閣下よりご紹介に預かりました、ヘルムート・ホフマン大佐であります」
といって、敬礼する。それに我々も
「ディーラ・ディ・ビスコッティ大尉であります」
「ハルファー・フォン・デスピナ」大佐であります」
と階級と名前程度ではあるが、挨拶をして敬礼する
「貴様ら第1MS実験隊には、このグリムリーパー隊と共に第11ブロックを防衛して貰う。以上だ、下がって良いぞ」
と、ドズルが言うので、私たちはそれに
「はっ、失礼します」
と言って敬礼したのち、回れ右してさっさと執務室を後にする。それを見送ったホフマン大佐は
「よろしいのですか、あのような部隊を要衝に配置して…」
そう質問するホフマンに、ドズルはふん、と鼻を鳴らしつつ、にやりと笑うと
「その為のお前達だ、期待しているぞ」
そう言って、彼はホフマンにも下がる様に手を振る。それに対しホフマンは
「お任せください」
といって敬礼し、そのまま執務室を後にする
これから約4時間半後、連邦軍の艦隊がソロモンの第3戦闘ライン上を突破し、ドズル・ザビ貴下の宇宙攻撃軍との間で戦端が開かれる。後の世にいうソロモン攻略戦の始まりである