「ほぅ、つまり君は彼はもう十分戦ったから、こんな事はせずに休ませてあげるべきだと。そう言いたいのかね?」
そう言って、ハルファーは革張りの椅子から立ち上がると、ゆっくりと私のほうに歩いてくる
「はい」
私は少しも動じることなく、ハルファーの目を真っ直ぐに見つめながら頷く、するとハルファーは深いため息を付きながら頭を抱えると、心底鬱陶しそうに顔を上げ
「良いかね?、セプト・レギオ。……いや、
そう言って、私を忌々しげに睨み付けると、ハルファー咳払いして続きを話しだす
「…ん゛ん゛!、良いかね!?、我々はこの戦争が集結するまでの間に可能な限りの、それも多種多様且つ膨大な量のデータを取る必要があるのだッ!!、その為にも彼には出来るだけ早く戦える状態にまで回復して貰い!、戦ってもらう必要があるのだ!、…データの為にな!?」
「で、ですが…!、それが彼である必要が…!」
「必要がなければこんなことはしない!。中尉は私が何の必要もない負傷兵1人に貴重な薬品と時間を消費する愚か者にでも見えるのかな!?」
「そ、それは……」
凄まじい剣幕で一方的に話し続けるハルファーに、私は思わず後ずさってしまう
「7号試作体!!、大体貴様は私に何時から意見できる程に偉くなったんだ!?、身の程をわきまえたまえ!!」
そう言って、ハルファーは少し厚みのある封筒を押し付けてくる。表側には「精神回復薬に関する取扱説明書」と書かれている
「君にはこの際はっきりと言っておくが、
そう言って、ハルファーは私を指さし、何度も何度も頭を叩いてくる。まるで出来の悪い学生に脳みそはあるのか?、と頭を叩く教師のように…
「しかし彼は違うッ!、彼が隊長として部隊を率いれば、おのずと功績は彼の物となる!!、そうすれば。君が戦果を挙げても彼の手柄に出来る!!。分かるかね?、君らはただの歯車だが、彼は…そう言うなればエンジニアだ!、彼がいるからこそ、君らは我々のために働けるのだ!、それを忘れるなよ!?」
怒鳴り散らすだけ怒鳴り散らしたハルファーは、肩で息をしながら椅子に座り。手を振って外に出るように促してくる。それに私は黙って従い、部屋から出て行った
「…ふん、あそこまで《人間臭くなるか》……やはり、不良品だな」
そう言って、ハルファーは胸ポケットから取り出した鍵を使って一番上の鍵付きの引き出しを開け、一枚の書類を取り出すと、赤色のペンで大きくバツ印を書類の真ん中に付けた。それがどういう意味なのか、俺はかなり後に知った
「精神回復薬は、精神が成熟した状態で尚且つ精神に異常をきたした人間にのみ効果を発揮します。精神が未熟な子どもでは効果がありませんので、飲まさないように」
携帯端末が使用できない士官用の個室に移された俺は、仕方なく院内のコンビニで販売されている小説を読みふけっていた。そんな昼下がり。俺の部屋を誰かが二度ノックした
「どうぞ」
俺が入室を許可すると、セプト中尉が紙袋を持って見舞いに来てくれた。正直嬉しい
「失礼します、お体は大丈夫ですか?」
そう言って、セプト中尉は俺のベットの左側に置かれた椅子に座る
「おかげさまでな、健康そのものだよ」
俺はそう言って起き上がり、その場で胡坐をかく
「それより、ラークとルーキーはどうだ?、もう意識は回復したのか?」
俺がそう聞くと、彼女は嬉しそうな笑みを浮かべ
「はい、お二人はもう意識を回復されています」
そう答えてくれた
「マジかよ!?、じゃあすぐにでも見舞いに行かなくちゃ…って、俺も病人か…」
そう言って、後ろ頭を搔きつつ苦笑する俺にセプト少尉は
「お二人はもう既に退院なさいましたよ?」
と言ってくる。それに俺は
「あぁ、培養槽が使えるからな。よかったよかった…」
そう言った中佐の顔は。まるで今までずっと胸の内に秘めていた苦しみから解放されたかのような、そんな笑顔でした…ですが、とても悲しそうにも見えました。まるで、何かから逃れられない事を理解し、その上で全てを諦めているかのような、そんな顔でした
「それで?、俺は何時復帰できるんだ?、今日はそれも言いに来たんだろう?」
と、打って変わって期待に満ちた目でそう言ってくる中佐に、あそこまで酷い拷問を受けたのに、まだ戦場に帰りたいと思っているのか。と、内心驚きつつ
「その前に何時ものアメを舐めてください」
紙袋からアメを取り出し、袋を開けて中佐に手渡す。アメは本当によくあるタイプで、簡単に言えばドロップの白い奴みたいな感じだ
「これかぁ…・・・・・これもう
そう言った中佐の顔は深刻だった。本気で嫌そうだ
「一口、舐めるだけでいいので…!」
私が強気でそう言うと、中佐は
「…舐めるだけだぞ?」
と言って、一口、本当に嫌そうに、恐る恐るアメを舐める
「どうですか?、甘いですか?」
「…甘くない、何の味もしないぞ、これ」
と、私の質問に答えてくれた
「そうですか?、では今日で最後ですね」
そう言って、彼女は紙袋から書類の入ったファイルを手渡してくる
「…ドム…ジュンゲル?」
ファイルを開けて中身を取り出す、どうやらこれはドムタイプの新型機に関する資料のようだ
「はい、詳しくは追って本土から来られた技術者の方が教えてくださいます。では、私はこれで」
そう言って立ち上がった中尉が敬礼して来るので、俺も
「あぁ、今日はありがとな」
と言って、敬礼で返す。中尉はそのまま敬礼を解いて部屋を出る
「…新型か…良い機体だと良いんだが……」
そう言って、俺は渡された新型機の資料に一通り目を通した跡、隊員の為に身の回りの物の片づけを始めた
ドムの名前を間違えて記入してしまったため、修正しました